8 / 53
虫 派遣先に入って来た後輩が怖い
第8話
しおりを挟む
隆史とのデート2回目。
よりを戻してはいないのだが、話があるからと言われて出向く。
二人でよく行ったバーに連れ出され、しこたま飲んだ。こうしていると、付き合っていた頃と何も変わらないように思える。この後、どちらかの家になだれ込んだりホテルへ行ったりしないことだけが違いだ。それでも、ちょっとした相手の言葉に違和感を持つことは増えているんだと思う。
公園をぶらぶら歩きながら、隆史は手をポケットに入れたり出したりしている。落ち着かないときはいつもこうだ。
手をつなごうとしてくるのを、私は冗談のように振り払った。酔いすぎたのかもしれない。隆史が急に弱ったように見えたからかもしれない。急にイライラとした気持ちが湧き出してきて、さっきまでの態度とどうつなげていいのかわからなくなってくる。
「未来さぁ」
「なぁに」
「どうしたら許してくれるのよ」
隆史も飲んでいる。いつもなら考えられないような大きな声で、参った、というような声を出す。
昔は、よく二人で飲んでは馬鹿さわぎもしたものだった。
酔っ払って二人で公園の大きな木のまわりを、歌いながらぐるぐる廻った……バカップルそのものだ。あのときは、こんな空気になることがあるなんて、予想もしなかった。
プライドの高い隆史は普段はかっこつけているくせに、飲むと妙に情けなく、少年のようになる男だった。気前が良くなって「いいよぉ、いいよぉ? じゃんじゃんいって」と人に酒を勧め、そそのかす。
年をとったらたぶん、よく居酒屋にいる典型的なオヤジだ。
「ちょっと連絡しなかったことが、そんなに嫌だった? 疑われたことが、そんなに嫌だったの?」
そんなことじゃない。
許すも何もない。
私は、あなたが浮気していたことも、みんな知っていたんだよ。私だけが別れたつもりでいたの? しばらく連絡をしなかったのは、もう一人の相手に飽きていなかっただけのことでしょう。
そうじゃないなら、どうして何ヶ月も連絡してこないのか、わからない。都合が良すぎる。
でもそんなことは、教えてやらない。
せめてもの復讐に、何も知らせずに、何も許さずに。
私の心は、閉ざされていた。中途半端に会って、もっともっと好きにさせて、いたぶって復讐したいという冷たい思いが、腹の中で渦巻いている。私はいつからこんな人間になったんだろう?
ぜったいに許してなんかやらない。
ぜったいによりなんか戻してやらない。
でも、絶対に放してやらない……。
私は隆史に会いたかったのだろうか? もう一度付き合うわけにはいかないことがわかっていて、……この攻撃的な気分は、その裏返しなのだろうか。
自分でもよくわからない衝動が、私を酔った様な気分にさせる。
隆史にしなだれかかりたい。抱きつきたい。噛み付いてしまいたい。こっぴどく振ってしまいたい。
そんな感情をおくびにもださずに、私は隆史に微笑みかけた。
「未来?」
「私が怒ってると思ってるの?」
「うん」
「どうして?」
「なんか、怒ってる」
隆史は心底情けなさそうな表情をしている。
「未来、俺のこと、まだ好き?」
「…………」
目をそらして、それからもう一度振り向いて。
私は隆史の頬にキスをした。
ホッとしたような隆史の表情。
私はあなたがだいっきらいだ。
よりを戻してはいないのだが、話があるからと言われて出向く。
二人でよく行ったバーに連れ出され、しこたま飲んだ。こうしていると、付き合っていた頃と何も変わらないように思える。この後、どちらかの家になだれ込んだりホテルへ行ったりしないことだけが違いだ。それでも、ちょっとした相手の言葉に違和感を持つことは増えているんだと思う。
公園をぶらぶら歩きながら、隆史は手をポケットに入れたり出したりしている。落ち着かないときはいつもこうだ。
手をつなごうとしてくるのを、私は冗談のように振り払った。酔いすぎたのかもしれない。隆史が急に弱ったように見えたからかもしれない。急にイライラとした気持ちが湧き出してきて、さっきまでの態度とどうつなげていいのかわからなくなってくる。
「未来さぁ」
「なぁに」
「どうしたら許してくれるのよ」
隆史も飲んでいる。いつもなら考えられないような大きな声で、参った、というような声を出す。
昔は、よく二人で飲んでは馬鹿さわぎもしたものだった。
酔っ払って二人で公園の大きな木のまわりを、歌いながらぐるぐる廻った……バカップルそのものだ。あのときは、こんな空気になることがあるなんて、予想もしなかった。
プライドの高い隆史は普段はかっこつけているくせに、飲むと妙に情けなく、少年のようになる男だった。気前が良くなって「いいよぉ、いいよぉ? じゃんじゃんいって」と人に酒を勧め、そそのかす。
年をとったらたぶん、よく居酒屋にいる典型的なオヤジだ。
「ちょっと連絡しなかったことが、そんなに嫌だった? 疑われたことが、そんなに嫌だったの?」
そんなことじゃない。
許すも何もない。
私は、あなたが浮気していたことも、みんな知っていたんだよ。私だけが別れたつもりでいたの? しばらく連絡をしなかったのは、もう一人の相手に飽きていなかっただけのことでしょう。
そうじゃないなら、どうして何ヶ月も連絡してこないのか、わからない。都合が良すぎる。
でもそんなことは、教えてやらない。
せめてもの復讐に、何も知らせずに、何も許さずに。
私の心は、閉ざされていた。中途半端に会って、もっともっと好きにさせて、いたぶって復讐したいという冷たい思いが、腹の中で渦巻いている。私はいつからこんな人間になったんだろう?
ぜったいに許してなんかやらない。
ぜったいによりなんか戻してやらない。
でも、絶対に放してやらない……。
私は隆史に会いたかったのだろうか? もう一度付き合うわけにはいかないことがわかっていて、……この攻撃的な気分は、その裏返しなのだろうか。
自分でもよくわからない衝動が、私を酔った様な気分にさせる。
隆史にしなだれかかりたい。抱きつきたい。噛み付いてしまいたい。こっぴどく振ってしまいたい。
そんな感情をおくびにもださずに、私は隆史に微笑みかけた。
「未来?」
「私が怒ってると思ってるの?」
「うん」
「どうして?」
「なんか、怒ってる」
隆史は心底情けなさそうな表情をしている。
「未来、俺のこと、まだ好き?」
「…………」
目をそらして、それからもう一度振り向いて。
私は隆史の頬にキスをした。
ホッとしたような隆史の表情。
私はあなたがだいっきらいだ。
11
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説


〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる