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虫 派遣先に入って来た後輩が怖い
第4話 ※
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一瞬で決断して、麻生は唇を合わせてきた。かすかに触れ合わせてから、私を見つめる。抱き込んで、覆うように、包むように。唇を唇が滑り、柔らかく温かい舌がうごめいて、唇をなぞり、口腔に入り込む。
息が苦しい。二人の唇の隙間から、熱い呼気がもれて、そしてまた塞がれる。
「あ、……ぅ、」
彼女の柔らかさは、エロティックだった。体の表面を、くすぐったい光の泡がさっと走る。
「うう、ぅう、……ぁは……」
自分の声がその動きにあわせて漏れているのが聞こえる。これは……誰がどう聞いても、あえいでいる声だ。私は混乱して、首を振って逃れようとした。
麻生は逃がさなかった。唇が離れてもついてきて、もう一度、いや、何度も、何度も唇をあわせてきた。ケーキの生クリームでもなめるみたいに。
いいかげん体が溶け、足ががくがくしてきたころ、麻生は唇を離すと、ほとんどもう決めてしまったとでもいうように、私が着てしまったさっきの上着を脱がせた。息が切れていた。私は抵抗する気をなくしていた。力が抜けて、床にぺたんと座り込んでしまった。
「泣いてるんですか?」
麻生は困ったように言った。
「どうして? 怖かったから?」
強引なときは強引に押し通すくせに、こういうときは、動きをとめて、泣いている子供の話でも聞くように、真摯に、怯えさせないように聞く。麻生は私の外見ではなく、心そのものを見ているかのような、直接的な見つめ方をする人間だった。それでも、何か不埒なことを考えているのは間違いなかった。一瞬ベットのほうへチラリと目をやった。
「び……っくりして、足がちょっと」
「ここじゃ寒いから、そっちへ行きましょ?」
麻生はさっきまですごいことをしていたくせに、急に少女のようにかわいらしい口調で言った。
続きをするつもりなの?
麻生を見上げると、彼女は、私の機嫌をとるかのようににっこりと笑った。
なんて無理やりな笑顔。
「足がくがくだし」
麻生は私をベットにひっぱった。よたよたと私の熱を帯びた体はそこに倒れこんだ。私は起き上がろうとするのを忘れて、ぼうっと麻生を見上げていた。
麻生がだんだんと近づいてくる。ぼんやりと、頭の横につかれた肘を見て、乗っかられているな、と考えた。
起きなくては……これじゃまったく同意してるみたいだ。でも、起きようとすると、麻生は私の肩を押して、起き上がらせなかった。じっと深い目で見つめながら、私を腕の中に閉じ込めた。麻生は私の髪を梳きながら前髪を上げて、覗き込んできた。
「児嶋さん、わかっていましたよね?」
ベットの中で、私の頭を抱くように抱え、間近でこっちを見つめながら、麻生は言った。
「なに……?」
「私の気持ち、少しはわかっていましたよね?」
「……」
私の答えが遅かったからか、しばらく待って、麻生は私のほっぺたをぷにぷにとつついた。つついて、そこに口付けた。肩を包むように触り、手がすべり、腰や背中を撫ぜている。
「あ……」
唇にチュッチュと口付けをはじめた。私のタートルネックのセーターの首を引っ張り、こちらを見上げる。
麻生の手が私に触れるたびに自分の体が異常に反応することに、わけがわからなくなりながら、答えた。
「わからなかった」
「……うそつきですよね」
嘘だった。
麻生は、仕事中も、喫茶店にいたときも、しぐさや、声で、ずっと表し続けていた。行動でも表し続けていた。毎日毎日私を待って。
彼からの電話番号を渡しておきながら、連絡する暇を与えようとしなかった。もしかしたら、連絡先の紙をなくしたのも、麻生の仕業かもしれなかった。
髪をなでるときの指からは、官能の光がこぼれていた。
「やっぱり帰ります」
「……だめです」
恐ろしく意志的な声音。麻生は私の頭を抱くように抱え込みながら、撫でた。翳っているせいか、まばたきが皮膚で感じられる距離のせいか、麻生の目は深い青みがかかってみえる。近い――深い、吸い込まれそうなほど深い瞳で見つめられていると、動けなくなる。
「あまり抵抗してないけど、怖がってますよね? いま、そのまま帰したとして、」
かぼそく震えているのに、いやに情の強い声が耳をくすぐる。
「もう終わりですよね?」
黒々と光って見下ろしてくる、麻生の瞳。半ばやけくそな光を帯びていた。
「そんなことしない」
「いやだ」
麻生は言った。
私は何秒間か麻生をみつめた。一ヶ月ほど一緒にいただけなのに、麻生はもう私の行動パターンがある程度読めるようだった。
私が体を揺らして逃げようとすると、麻生は体全体を使って押さえた。押さえるというよりしがみつくといったほうが正しいかもしれない。私たちはベットの上で転げまわった。麻生があごをつかんでくる。私がするりと抜けて逃げる。麻生が私の両手首をつかまえた。逃げた先の壁に頭が押し付けられた。
「……はっぅ」
どちらから漏れた声だかわからない。二人とも軽く息を切らせていた。重なりあった服同士が擦れてめくれ、麻生の体温が伝わってくる。脚が絡む――。私が麻生の手の甲に爪をたてると、麻生は指で器用に私の手を丸め込んで握らせ、その上から指をからませて強く握ってきた。自分の爪が手のひらに当たって痛い。
唇を重ねてくる。深く合わせ、深く舌を入れてくる。あまりに奥に入れられて、私はもがいた。麻生は左手で、壁で擦れている私の頭を守るように覆った。
麻生のキスは、私の抵抗力を削ぐだけの威力があった。プルンとしてなめらかで、唇どうしが擦れ合うとぞくぞくと背骨が痺れた。
しばらく口腔内を犯してから、麻生は許してくれた。タートルの首もとから唇をすべらせ、首筋に舌を這わせはじめる。体が跳ねた。跳ねたその胸元を、指が撫ぜる。
「う……あ……」
急に、このまま行くと止められずにそっちになだれこむだろう、そうなったらああなってこうなって……、という予想が私の頭で進行していった。
「待って、……待って!」
麻生は待たなかった。顎から頬から、集中砲火のようにキスを浴びせてくる。まるで行為の真っ最中でもあるかのように苦しそうな呼吸をしている。
混乱していた。どうして私は強く突き放してしまわないのだろう? じわりと熱くなってくる、これはなんだろう? どうなってしまうだろう? 麻生とは? 突き放したら? 受け入れたら……? そう考える暇もなく、久しぶりに感じる人間の体温に、感情が高まってくる。体の高まりだけでなく、感情までうねって、何がなんだかわからなくなってくる。
怖い。泣いてしまいそうだ。
「待って……」
麻生は私を見た。目が合った。が、目がうっすらと赤みを帯びて、もう何かのモードが切り替わってしまったかのように見えた。この目つきには覚えがある。人が欲情したときの目――。
多分、本気でやめようと思えば、女である麻生はやめられるはずだった。やめる意志がなかったのだろう。こちらの目を見はしたけれども、麻生は手を止めなかった。
服のすそから手が入り込んできて、じかにわき腹に触れた。急に頬が熱くなった。
「だめ、こ、ここまでにして」
「じっとしてて」
その目が、こう言っていた。やめませんよ、見ればわかるでしょう? わかってくださいね。わからなくてもそのうちわかります。
「お願い、麻生さん、お願い」
麻生は聞かなかった。
どうして強引なの、こんなに?
昨日の、髪を撫でてくれていた優しい麻生とは別人のようだ。体は小さいのに、意外と力がある。男女ほど力の差が歴然とはしていないものの、腕立て伏せもできず、腕相撲でも勝ったことのない私の力を扱うことは、麻生には、できた。
「やだってばぁ!」
私が騒いだので、麻生はびくっとした。びくっとして、手をとめて、こちらを見た。
「…………」
私の目を見ながら、しばらく何事か考えている。それからぎゅっとしがみついてきた。
「しようよ」
直接的な言葉。
「……だ、だめだよ」
「児嶋さん、キスに反応してるじゃないですか!」
してない、と、言うことができなかった。
「ここで放しても、児嶋さんは……もう離れていくだけじゃないですか……」
泣きたいのはこっちなのに、麻生のほうが焦ったような声をしている。
「だって、だってこんなの、」
麻生が見つめてくる。
「レイプですか?」
「そ、……そうだよ」
「じゃあ、そういうことで」
……は!?
私は思わず目を見開いてしまった。耳を疑うような応答だったように思うんですけど!?
「麻生さんてば……」
この言葉でもう私の「言葉で説得しよう」という気持ちは萎えてしまった。
「お願い、シャワー、せめてシャワー浴びさせて……」
「私が入るのはいいんだけど、児嶋さんが入るのはもったいないんですよね」
「へ?」
「いいにおいがするから。いつもよりも、もっと」
カッと顔が火照った。
「昨日シャワー浴びてないせいですかね?それとも、……」
麻生はちょっと言うのをためらった。何を言いたいのかわかった。全力で押し返して振り払おうと横を向いたが、麻生が両手首を捕まえて開いてベットに押し付けた。
「濡れてるんじゃありません?」
私は泣きそうだった。
「ちがいます、ちがう!」
そんなこと言われたくない。女の子にそんなこと言われると、よけい恥ずかしい。どうしていいかわからない。やばい。本当に涙が出てきた。
「ちがいます?」
麻生は口元は笑っていないのに、興味津々で私を見ている。
この子は違う。純粋な目つきの出待ちの少女などではない。絶対に!
麻生は、いとしくてたまらないといった感じで私のこめかみに唇をおしあてた。おしあてられたそこがくすぐったくて、くらくらする。私の胸を揉みあげると、親指で敏感になった先端にかすかに触れた。
体がびくッと跳ねたが、かろうじて声は出さないですんだ。
もう一度、麻生が触れる。私の目を見ながら。両方の胸の突起をゆっくり、親指でなぞるように触れる。至近距離で私をじっと見ている。 麻生の視線で、いやらしく反応しているのを隠し切れていないでいることが自分でもわかった。
見つめあっているとよけいにその時間が長く感じられる。
「ん……っ、」
駄目だ。声が出ている。息も乱れている。ゆっくりした指の動きと、麻生の視線に耐えられなくなって、私は顔をそむけた。
「あ、……んぅ……っく」
髪で顔がかくれる。それを麻生はかきあげ、私の顔をわざと見えるようにした。
「い……やだ、麻生さん、見ないで……!」
「見てないから」
そう言って、じっと視線を向けてくる。
そむけたその首筋に、麻生が口付けた。
「ん……」
元彼の、ただ揉むだけだった愛撫とはまったく違っていた。どうすると気持ちがいいのか、知り尽くしていて、なおかつ、私の反応をみて調節しているようなふしがあった。
指が、服の上から胸の突起をつまんだ。
「……ぅ、ぁは!」
「児嶋さん、すごくエロい顔してる。かわいい」
耳たぶに口付け、甘噛みしながら、麻生は両方の突起を服の上から、じっくり、時々はじくようにして責め続ける。
「あっ、……やっあ、あっ、あっ……」
もう駄目だった。女性からは触れられたことのないそこが、熱くなり、じゅんと濡れるのが自分でわかる。下着をさわられたら、ばれてしまうくらいになっている。
「あ、だめ、」
待って! ちょっと待って!
頭にサッと光が走る。
「ん……!」
麻生がじっと見ている。意外そうな顔をしている。
「児嶋さん、胸だけで今、少しイッてました?」
ああ……ばれてる。頬が熱くなり、私はどこを見ていいかわからなくなる。麻生が妙に嬉しそうに目を輝かすものだから、麻生を押し返す。その両手の指先を麻生は握って、押し倒し返してきた。
馬鹿! 馬鹿!
「イってないよ……」
涙が出てきた。声がふにゃふにゃだ。顔をそむけると、麻生がその顔を正面に引き戻して口付けしてきた。この子は本当にキスがうまい。溶けるような、甘い口付けの仕方をする。泣きが入っているせいか、喉の奥が少ししょっぱい。
キスをしながら、スカートの中に麻生の指が入り込んできて、下着に指をひっかけておろそうとした。
「ちょっと、麻生さん、……ぅ……」
口を塞がれた。
パンティの中に麻生は手を入れてきて、指がそこをぬるっと撫でた。
「んぅぅぅう! んーーー」
私はもがいた。恥ずかしいったら! 恥ずかしい!
ぬるっ、ぬるっ、と上下に擦っている。
いやだ! もう無理!
「イってないって?」
私の頭を抱え込んで、唇を離した麻生は私の目をみつめてきた。
「これも、濡れてないとか言います?」
ぬるっ。ぬるっ。麻生はゆっくりと時間をかけてなぞっている。
穴があったら入りたい気分だった。麻生の指をどけたくて仕方がないのだが、麻生が押さえているからそれもできない。
「ぁあ、あ、……! ……んやぁあ、」
麻生がじっと見ている。
(イッてないって?)
(これも、濡れてないとか言います?)
嫌だ! ぜったいもう嫌だ! もう見られたくない、恥ずかしい。
でも、麻生は私から目を離さない。体だけは我慢ができないほど、高められていく。麻生の体を叩いたが、麻生は全く意に介さなかった。
「……やだぁ! やだって! 麻生さん!」
もう無理だ。
「ぅく、……ひっく、うっ……ぅあぁ!」
声を噛み殺して、よけいに変な声になりながら、私の背は何度も反り返った。
思わず、麻生の体にしがみついたのを覚えている。麻生の体は意外としっとりしていた。
息が苦しい。二人の唇の隙間から、熱い呼気がもれて、そしてまた塞がれる。
「あ、……ぅ、」
彼女の柔らかさは、エロティックだった。体の表面を、くすぐったい光の泡がさっと走る。
「うう、ぅう、……ぁは……」
自分の声がその動きにあわせて漏れているのが聞こえる。これは……誰がどう聞いても、あえいでいる声だ。私は混乱して、首を振って逃れようとした。
麻生は逃がさなかった。唇が離れてもついてきて、もう一度、いや、何度も、何度も唇をあわせてきた。ケーキの生クリームでもなめるみたいに。
いいかげん体が溶け、足ががくがくしてきたころ、麻生は唇を離すと、ほとんどもう決めてしまったとでもいうように、私が着てしまったさっきの上着を脱がせた。息が切れていた。私は抵抗する気をなくしていた。力が抜けて、床にぺたんと座り込んでしまった。
「泣いてるんですか?」
麻生は困ったように言った。
「どうして? 怖かったから?」
強引なときは強引に押し通すくせに、こういうときは、動きをとめて、泣いている子供の話でも聞くように、真摯に、怯えさせないように聞く。麻生は私の外見ではなく、心そのものを見ているかのような、直接的な見つめ方をする人間だった。それでも、何か不埒なことを考えているのは間違いなかった。一瞬ベットのほうへチラリと目をやった。
「び……っくりして、足がちょっと」
「ここじゃ寒いから、そっちへ行きましょ?」
麻生はさっきまですごいことをしていたくせに、急に少女のようにかわいらしい口調で言った。
続きをするつもりなの?
麻生を見上げると、彼女は、私の機嫌をとるかのようににっこりと笑った。
なんて無理やりな笑顔。
「足がくがくだし」
麻生は私をベットにひっぱった。よたよたと私の熱を帯びた体はそこに倒れこんだ。私は起き上がろうとするのを忘れて、ぼうっと麻生を見上げていた。
麻生がだんだんと近づいてくる。ぼんやりと、頭の横につかれた肘を見て、乗っかられているな、と考えた。
起きなくては……これじゃまったく同意してるみたいだ。でも、起きようとすると、麻生は私の肩を押して、起き上がらせなかった。じっと深い目で見つめながら、私を腕の中に閉じ込めた。麻生は私の髪を梳きながら前髪を上げて、覗き込んできた。
「児嶋さん、わかっていましたよね?」
ベットの中で、私の頭を抱くように抱え、間近でこっちを見つめながら、麻生は言った。
「なに……?」
「私の気持ち、少しはわかっていましたよね?」
「……」
私の答えが遅かったからか、しばらく待って、麻生は私のほっぺたをぷにぷにとつついた。つついて、そこに口付けた。肩を包むように触り、手がすべり、腰や背中を撫ぜている。
「あ……」
唇にチュッチュと口付けをはじめた。私のタートルネックのセーターの首を引っ張り、こちらを見上げる。
麻生の手が私に触れるたびに自分の体が異常に反応することに、わけがわからなくなりながら、答えた。
「わからなかった」
「……うそつきですよね」
嘘だった。
麻生は、仕事中も、喫茶店にいたときも、しぐさや、声で、ずっと表し続けていた。行動でも表し続けていた。毎日毎日私を待って。
彼からの電話番号を渡しておきながら、連絡する暇を与えようとしなかった。もしかしたら、連絡先の紙をなくしたのも、麻生の仕業かもしれなかった。
髪をなでるときの指からは、官能の光がこぼれていた。
「やっぱり帰ります」
「……だめです」
恐ろしく意志的な声音。麻生は私の頭を抱くように抱え込みながら、撫でた。翳っているせいか、まばたきが皮膚で感じられる距離のせいか、麻生の目は深い青みがかかってみえる。近い――深い、吸い込まれそうなほど深い瞳で見つめられていると、動けなくなる。
「あまり抵抗してないけど、怖がってますよね? いま、そのまま帰したとして、」
かぼそく震えているのに、いやに情の強い声が耳をくすぐる。
「もう終わりですよね?」
黒々と光って見下ろしてくる、麻生の瞳。半ばやけくそな光を帯びていた。
「そんなことしない」
「いやだ」
麻生は言った。
私は何秒間か麻生をみつめた。一ヶ月ほど一緒にいただけなのに、麻生はもう私の行動パターンがある程度読めるようだった。
私が体を揺らして逃げようとすると、麻生は体全体を使って押さえた。押さえるというよりしがみつくといったほうが正しいかもしれない。私たちはベットの上で転げまわった。麻生があごをつかんでくる。私がするりと抜けて逃げる。麻生が私の両手首をつかまえた。逃げた先の壁に頭が押し付けられた。
「……はっぅ」
どちらから漏れた声だかわからない。二人とも軽く息を切らせていた。重なりあった服同士が擦れてめくれ、麻生の体温が伝わってくる。脚が絡む――。私が麻生の手の甲に爪をたてると、麻生は指で器用に私の手を丸め込んで握らせ、その上から指をからませて強く握ってきた。自分の爪が手のひらに当たって痛い。
唇を重ねてくる。深く合わせ、深く舌を入れてくる。あまりに奥に入れられて、私はもがいた。麻生は左手で、壁で擦れている私の頭を守るように覆った。
麻生のキスは、私の抵抗力を削ぐだけの威力があった。プルンとしてなめらかで、唇どうしが擦れ合うとぞくぞくと背骨が痺れた。
しばらく口腔内を犯してから、麻生は許してくれた。タートルの首もとから唇をすべらせ、首筋に舌を這わせはじめる。体が跳ねた。跳ねたその胸元を、指が撫ぜる。
「う……あ……」
急に、このまま行くと止められずにそっちになだれこむだろう、そうなったらああなってこうなって……、という予想が私の頭で進行していった。
「待って、……待って!」
麻生は待たなかった。顎から頬から、集中砲火のようにキスを浴びせてくる。まるで行為の真っ最中でもあるかのように苦しそうな呼吸をしている。
混乱していた。どうして私は強く突き放してしまわないのだろう? じわりと熱くなってくる、これはなんだろう? どうなってしまうだろう? 麻生とは? 突き放したら? 受け入れたら……? そう考える暇もなく、久しぶりに感じる人間の体温に、感情が高まってくる。体の高まりだけでなく、感情までうねって、何がなんだかわからなくなってくる。
怖い。泣いてしまいそうだ。
「待って……」
麻生は私を見た。目が合った。が、目がうっすらと赤みを帯びて、もう何かのモードが切り替わってしまったかのように見えた。この目つきには覚えがある。人が欲情したときの目――。
多分、本気でやめようと思えば、女である麻生はやめられるはずだった。やめる意志がなかったのだろう。こちらの目を見はしたけれども、麻生は手を止めなかった。
服のすそから手が入り込んできて、じかにわき腹に触れた。急に頬が熱くなった。
「だめ、こ、ここまでにして」
「じっとしてて」
その目が、こう言っていた。やめませんよ、見ればわかるでしょう? わかってくださいね。わからなくてもそのうちわかります。
「お願い、麻生さん、お願い」
麻生は聞かなかった。
どうして強引なの、こんなに?
昨日の、髪を撫でてくれていた優しい麻生とは別人のようだ。体は小さいのに、意外と力がある。男女ほど力の差が歴然とはしていないものの、腕立て伏せもできず、腕相撲でも勝ったことのない私の力を扱うことは、麻生には、できた。
「やだってばぁ!」
私が騒いだので、麻生はびくっとした。びくっとして、手をとめて、こちらを見た。
「…………」
私の目を見ながら、しばらく何事か考えている。それからぎゅっとしがみついてきた。
「しようよ」
直接的な言葉。
「……だ、だめだよ」
「児嶋さん、キスに反応してるじゃないですか!」
してない、と、言うことができなかった。
「ここで放しても、児嶋さんは……もう離れていくだけじゃないですか……」
泣きたいのはこっちなのに、麻生のほうが焦ったような声をしている。
「だって、だってこんなの、」
麻生が見つめてくる。
「レイプですか?」
「そ、……そうだよ」
「じゃあ、そういうことで」
……は!?
私は思わず目を見開いてしまった。耳を疑うような応答だったように思うんですけど!?
「麻生さんてば……」
この言葉でもう私の「言葉で説得しよう」という気持ちは萎えてしまった。
「お願い、シャワー、せめてシャワー浴びさせて……」
「私が入るのはいいんだけど、児嶋さんが入るのはもったいないんですよね」
「へ?」
「いいにおいがするから。いつもよりも、もっと」
カッと顔が火照った。
「昨日シャワー浴びてないせいですかね?それとも、……」
麻生はちょっと言うのをためらった。何を言いたいのかわかった。全力で押し返して振り払おうと横を向いたが、麻生が両手首を捕まえて開いてベットに押し付けた。
「濡れてるんじゃありません?」
私は泣きそうだった。
「ちがいます、ちがう!」
そんなこと言われたくない。女の子にそんなこと言われると、よけい恥ずかしい。どうしていいかわからない。やばい。本当に涙が出てきた。
「ちがいます?」
麻生は口元は笑っていないのに、興味津々で私を見ている。
この子は違う。純粋な目つきの出待ちの少女などではない。絶対に!
麻生は、いとしくてたまらないといった感じで私のこめかみに唇をおしあてた。おしあてられたそこがくすぐったくて、くらくらする。私の胸を揉みあげると、親指で敏感になった先端にかすかに触れた。
体がびくッと跳ねたが、かろうじて声は出さないですんだ。
もう一度、麻生が触れる。私の目を見ながら。両方の胸の突起をゆっくり、親指でなぞるように触れる。至近距離で私をじっと見ている。 麻生の視線で、いやらしく反応しているのを隠し切れていないでいることが自分でもわかった。
見つめあっているとよけいにその時間が長く感じられる。
「ん……っ、」
駄目だ。声が出ている。息も乱れている。ゆっくりした指の動きと、麻生の視線に耐えられなくなって、私は顔をそむけた。
「あ、……んぅ……っく」
髪で顔がかくれる。それを麻生はかきあげ、私の顔をわざと見えるようにした。
「い……やだ、麻生さん、見ないで……!」
「見てないから」
そう言って、じっと視線を向けてくる。
そむけたその首筋に、麻生が口付けた。
「ん……」
元彼の、ただ揉むだけだった愛撫とはまったく違っていた。どうすると気持ちがいいのか、知り尽くしていて、なおかつ、私の反応をみて調節しているようなふしがあった。
指が、服の上から胸の突起をつまんだ。
「……ぅ、ぁは!」
「児嶋さん、すごくエロい顔してる。かわいい」
耳たぶに口付け、甘噛みしながら、麻生は両方の突起を服の上から、じっくり、時々はじくようにして責め続ける。
「あっ、……やっあ、あっ、あっ……」
もう駄目だった。女性からは触れられたことのないそこが、熱くなり、じゅんと濡れるのが自分でわかる。下着をさわられたら、ばれてしまうくらいになっている。
「あ、だめ、」
待って! ちょっと待って!
頭にサッと光が走る。
「ん……!」
麻生がじっと見ている。意外そうな顔をしている。
「児嶋さん、胸だけで今、少しイッてました?」
ああ……ばれてる。頬が熱くなり、私はどこを見ていいかわからなくなる。麻生が妙に嬉しそうに目を輝かすものだから、麻生を押し返す。その両手の指先を麻生は握って、押し倒し返してきた。
馬鹿! 馬鹿!
「イってないよ……」
涙が出てきた。声がふにゃふにゃだ。顔をそむけると、麻生がその顔を正面に引き戻して口付けしてきた。この子は本当にキスがうまい。溶けるような、甘い口付けの仕方をする。泣きが入っているせいか、喉の奥が少ししょっぱい。
キスをしながら、スカートの中に麻生の指が入り込んできて、下着に指をひっかけておろそうとした。
「ちょっと、麻生さん、……ぅ……」
口を塞がれた。
パンティの中に麻生は手を入れてきて、指がそこをぬるっと撫でた。
「んぅぅぅう! んーーー」
私はもがいた。恥ずかしいったら! 恥ずかしい!
ぬるっ、ぬるっ、と上下に擦っている。
いやだ! もう無理!
「イってないって?」
私の頭を抱え込んで、唇を離した麻生は私の目をみつめてきた。
「これも、濡れてないとか言います?」
ぬるっ。ぬるっ。麻生はゆっくりと時間をかけてなぞっている。
穴があったら入りたい気分だった。麻生の指をどけたくて仕方がないのだが、麻生が押さえているからそれもできない。
「ぁあ、あ、……! ……んやぁあ、」
麻生がじっと見ている。
(イッてないって?)
(これも、濡れてないとか言います?)
嫌だ! ぜったいもう嫌だ! もう見られたくない、恥ずかしい。
でも、麻生は私から目を離さない。体だけは我慢ができないほど、高められていく。麻生の体を叩いたが、麻生は全く意に介さなかった。
「……やだぁ! やだって! 麻生さん!」
もう無理だ。
「ぅく、……ひっく、うっ……ぅあぁ!」
声を噛み殺して、よけいに変な声になりながら、私の背は何度も反り返った。
思わず、麻生の体にしがみついたのを覚えている。麻生の体は意外としっとりしていた。
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