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エアロビクスでボンキュ……ボォォォン!
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球技がやりたい球技がやりたいやりたいやりたい。
選択制の体育の申込用紙を前にして、あたしは頭を抱えていた。
隣の机を覗き込む。凛が書き終えるところだった。相変わらず選ぶのが早い。ちゃんと考えているんだろうか?
凛はあたしをちらっと見ると、
「なににした? まゆっち」
と聞いてきた。
やりたいのは球技だ。が、凛は球技の類を選ぶつもりはないと言った。凛と一緒に体育できるなら、球技にこだわらなくてもいい。
しかし……。そんな不純な動機でやりたかった球技を捨てるなんて。凛が知ったらどう思う?
凛は、周りに惑わされずに、自分のしたいことをする。部活を選ぶときも、クラスに他に入る子がいるか確かめることなく、さっさと演劇部に入った。学年に誰もいなくてもそうしただろう。「部活がなかったら、自分で立ち上げてでも、ひとりでもやる」と言っていたぐらいだ。
そんな凛にくっついているために、体育の授業を選ぶなんて。凛はそれを知っても「うん? いんじゃない?」と言いそうだが、自分のやりたいことがないツマラナイ人間、考え方が合わない、くらいは内心思うのではないか。金魚の糞みたいだ、あたしは。
自発的に凛をおっかけているわけだから、やりたくてやってる、と言いたいところだ。だけど、さすがに追いかける対象がヒトとなると、本人には言わないほうがいい。今のあたしには、凛との平和な関係を保つためにも、凛以上の演技力が必要なのだ。
「やりたいこといっぱいあって、困るんだよね。凛はなににした?」
凛は用紙を見せ、にししと笑った。
「エアロビクスでボンキュボーン!」
屈託のない動機に力が抜けた。
ボンキュッボンっていつの言葉だ? というか……。
あたしは彼女をつい足のつま先から頭のてっぺんまで見てしまう。
キュッはともかくとして、ボンのほうには限界があると思うけど。なんせ、凛の身体には、「山」とか「丘」と呼べるような膨らみがほぼ無い。締まった足首、ばねのように躍動するしなやかな身体。一切の無駄なものを削ぎ落したといったほうがいいシンプルさ。言っていい? これ。一年間必死にエアロビして、キュキュキュにしかならなくっても、納得できるのだろうか?
「なんか、失礼な視線を感じるよ!」
凛が唇を尖らせる。
「キュがあるから、凛は。ね」
適当なフォローを返す。
見るからに柔らかそうな体じゃなくても、凛がくっついてきたら、あたしはきっと柔らかいと感じる。溶けそうになる自分の身体と脳を、どうやって保つかに意識を使わなくてはならなくなるだろう。
「まゆっちは、なににする?」
「迷ってて」
金魚の糞あつかいされたくない。
だが、待て。いっときのくだらない理由で、逃していいのか。
正直、興味がない。エアロビには、なんの興味もない!
でも、エアロビを選んだら、ダンスしている凛を目の前で見たり、場合によっては体操着よりも体の線のはっきりわかる服を着ている凛を、上下左右鏡張りの部屋で眺めたり、できるのではないか。
やばい鼻血噴きそう!
さては、爆発だな? ボンキュボンのボンは。キュがキュン死のキュで、ボンは鼻血を噴出する爆発音だな!?
「エアロビもいいしな」
あたしは、なんでもなさそうに言った。
「どれと迷ってんの」
「エアロビとエアロビとエアロビで迷ってて!」
「全部エアロビだし!」
突っ込まれたボーン! もうおしまいだボーン!
「まゆっち、エアロビ、そんなに気になってたの?」
鼻血吹いてもう爆発したい。あたしもボンキュボーンしたい!
とどまれ。冷静になれ。自分でわかる。様子がオカシイぞ。金魚の糞っぽさやストーカーっぽさを出してはいけない。こらえろ。腹に力を入れて、冷静を装うのだ。腹筋を使え。
「ボンキュ……みたいなのは、あたしはど~~でもいいんだけど、」
キュキュキュでこんなに輝く人を目の前にしているのだ。ボンキュボンなど興味ない。凛以外、心からどうでもいい。
「筋肉、筋肉をつけたいなって!」
「そこそこついてるけど、上を目指すの?」
凛があたしの二の腕をつついた。つつかれた場所からくすぐったさが広がった。
「腹筋をつけないと。鼻血……噴かないようにしないと」
「鼻血?」
「鼻筋も鍛えたいし。どうしようかなって」
「鼻筋?」
凛は立ち上がると、あたしの顔を覗き込んだ。血液が、ドクドクと音を立てて全身を回り始める。
凛の指先が、あたしの鼻を押す。
「押し返してみて」
凛の瞳が近い。じっと見つめられて、全身が筋肉となったようにぎゅうっと心臓をつかんだ。
キュ……ボォォォン!
なにかを噴き出す代わりに、あたしは頭を振って、凛を振り払った。そして、勢いのまま申込用紙のエアロビのチェック欄にチェックをし、選んだ理由の欄に「要・筋肉」と書いた。
選択制の体育の申込用紙を前にして、あたしは頭を抱えていた。
隣の机を覗き込む。凛が書き終えるところだった。相変わらず選ぶのが早い。ちゃんと考えているんだろうか?
凛はあたしをちらっと見ると、
「なににした? まゆっち」
と聞いてきた。
やりたいのは球技だ。が、凛は球技の類を選ぶつもりはないと言った。凛と一緒に体育できるなら、球技にこだわらなくてもいい。
しかし……。そんな不純な動機でやりたかった球技を捨てるなんて。凛が知ったらどう思う?
凛は、周りに惑わされずに、自分のしたいことをする。部活を選ぶときも、クラスに他に入る子がいるか確かめることなく、さっさと演劇部に入った。学年に誰もいなくてもそうしただろう。「部活がなかったら、自分で立ち上げてでも、ひとりでもやる」と言っていたぐらいだ。
そんな凛にくっついているために、体育の授業を選ぶなんて。凛はそれを知っても「うん? いんじゃない?」と言いそうだが、自分のやりたいことがないツマラナイ人間、考え方が合わない、くらいは内心思うのではないか。金魚の糞みたいだ、あたしは。
自発的に凛をおっかけているわけだから、やりたくてやってる、と言いたいところだ。だけど、さすがに追いかける対象がヒトとなると、本人には言わないほうがいい。今のあたしには、凛との平和な関係を保つためにも、凛以上の演技力が必要なのだ。
「やりたいこといっぱいあって、困るんだよね。凛はなににした?」
凛は用紙を見せ、にししと笑った。
「エアロビクスでボンキュボーン!」
屈託のない動機に力が抜けた。
ボンキュッボンっていつの言葉だ? というか……。
あたしは彼女をつい足のつま先から頭のてっぺんまで見てしまう。
キュッはともかくとして、ボンのほうには限界があると思うけど。なんせ、凛の身体には、「山」とか「丘」と呼べるような膨らみがほぼ無い。締まった足首、ばねのように躍動するしなやかな身体。一切の無駄なものを削ぎ落したといったほうがいいシンプルさ。言っていい? これ。一年間必死にエアロビして、キュキュキュにしかならなくっても、納得できるのだろうか?
「なんか、失礼な視線を感じるよ!」
凛が唇を尖らせる。
「キュがあるから、凛は。ね」
適当なフォローを返す。
見るからに柔らかそうな体じゃなくても、凛がくっついてきたら、あたしはきっと柔らかいと感じる。溶けそうになる自分の身体と脳を、どうやって保つかに意識を使わなくてはならなくなるだろう。
「まゆっちは、なににする?」
「迷ってて」
金魚の糞あつかいされたくない。
だが、待て。いっときのくだらない理由で、逃していいのか。
正直、興味がない。エアロビには、なんの興味もない!
でも、エアロビを選んだら、ダンスしている凛を目の前で見たり、場合によっては体操着よりも体の線のはっきりわかる服を着ている凛を、上下左右鏡張りの部屋で眺めたり、できるのではないか。
やばい鼻血噴きそう!
さては、爆発だな? ボンキュボンのボンは。キュがキュン死のキュで、ボンは鼻血を噴出する爆発音だな!?
「エアロビもいいしな」
あたしは、なんでもなさそうに言った。
「どれと迷ってんの」
「エアロビとエアロビとエアロビで迷ってて!」
「全部エアロビだし!」
突っ込まれたボーン! もうおしまいだボーン!
「まゆっち、エアロビ、そんなに気になってたの?」
鼻血吹いてもう爆発したい。あたしもボンキュボーンしたい!
とどまれ。冷静になれ。自分でわかる。様子がオカシイぞ。金魚の糞っぽさやストーカーっぽさを出してはいけない。こらえろ。腹に力を入れて、冷静を装うのだ。腹筋を使え。
「ボンキュ……みたいなのは、あたしはど~~でもいいんだけど、」
キュキュキュでこんなに輝く人を目の前にしているのだ。ボンキュボンなど興味ない。凛以外、心からどうでもいい。
「筋肉、筋肉をつけたいなって!」
「そこそこついてるけど、上を目指すの?」
凛があたしの二の腕をつついた。つつかれた場所からくすぐったさが広がった。
「腹筋をつけないと。鼻血……噴かないようにしないと」
「鼻血?」
「鼻筋も鍛えたいし。どうしようかなって」
「鼻筋?」
凛は立ち上がると、あたしの顔を覗き込んだ。血液が、ドクドクと音を立てて全身を回り始める。
凛の指先が、あたしの鼻を押す。
「押し返してみて」
凛の瞳が近い。じっと見つめられて、全身が筋肉となったようにぎゅうっと心臓をつかんだ。
キュ……ボォォォン!
なにかを噴き出す代わりに、あたしは頭を振って、凛を振り払った。そして、勢いのまま申込用紙のエアロビのチェック欄にチェックをし、選んだ理由の欄に「要・筋肉」と書いた。
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