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十二歳編

王都編――誘拐未遂事件⑤

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 書類を検分し始めて三〇分ほど経った頃、ガルーシドが伯爵邸を訪れた。
 何故来たのかと問うたジェイクにガルーシドは、不機嫌な様子で答える。
 
「仕方ないだろう。アリスが……」
「アリスが?」
「あぁ、お前たちが隠し部屋を見つけたと精霊様から聞いたアリスが、自分も行くと言い出して……」

 その場にいた全員が「あぁ、そういう事か」と、納得した。
 ガルーシドが来た理由、それはただ単にジェイクたちを心配したアリスについてきただけなのだ。
 
「それで? 見つかったのか?」
「あぁ、あるぞ。あそこに……」

 ジェイクが指さす場所に詰みあがる書類を見たガルーシドは、まさか、ここまで大量にあるとは思わなかったのか頭を抱える。
 
「仕方ない。ちょっと呼んでくる。あぁ、そうだったアリスはフェルティナと一緒に、馬車で待たせているから心配するな!」

 大きく息を吐き出したガルーシドは、諦めたように戻っていく。
 そのガルーシドを追いかけフィンが「アリスの所にいるよ」と言うと足早に部屋を出て行った。
 
「父さん、見つけた。これだ。これで、あの王妃キツネを追い込める」
「どれ?」

 手を伸ばしたジェイクにゼスが、ある書類を渡す。
 厳重に保管されていたのか、染み一つない綺麗な紙には王妃の署名と専用の印が押されている。
 内容は、奴隷売買で得た利益の一割を王妃に渡す代償として、奴隷として販売できる子供の情報や証拠を抹消する事。
 更には、王妃の姉が嫁いだと言うニュース大陸にあるガゼスティン帝国へ、特別に販路を持たせることが四枚に渡り書いてあった。
 
「まったく、あの王妃キツネ。いったい何がしたいんだ?」
「さぁ? 高貴な方の考える事なんて、平民にはわかりませんよ」
「確かに……」
「父さん!! これ、見て」

 眉根を寄せたゼスが新たな紙を一枚ジェイクに渡す。
 そこに書かれていたのは、アリスの肖像画と白金貨四〇枚、ランクSと言うふざけた内容だった。
 
 可愛い私の孫娘が、たった白金貨四〇枚だと?
 一千枚積まれたとて売るはずがなかろうが、バカ者どもが!!
 許せん。この事、きっちり片付けさせて貰う。
 
 怒りに任せて、ジェイクはその紙を握りつぶす。

「ゼス、このまま王宮に向かうぞ」
「はい」
「そうだ。忘れないうちに、あいつらを……」
「あの二人なら既に馬車に積んだよ」
「そうか。わかった」

 タイミングよく答えたクレイの声に答えたジェイクとゼスは、紙の束をマジックバックに仕舞うと足早に馬車に向かった。
 二人が馬車に着くと既にクレイとフィンがそれぞれの馬車の御者台に乗り込み、準備万端だ。

 と、そこにガルーシドが騎士を連れ戻ってくる。

「ガル、あとは任せた。我らは王宮へ行ってくる」
「待て、俺も行く。 お前たちは、二階奥にある部屋の全てを確保してから城へ戻れ!」
「「「「はっ」」」」

 馬車にガルーシドが乗り込むと馬車は出発した――。
 
 馬車は四〇分かけ、王宮へ着いた。
 その間、ジェイクとガルーシド、ゼスは念入りに持ってきた書類を確認し相談していた。

 既に日は暮れている。王城にはほとんど人はおらず、ガルーシドの指示で馬車は王族が住まう建物へと回される。
 玄関にたどり着き馬車を降りた四人を見つけたアリスは、ぷぅと頬を膨らませ駆け寄った。

「おじいちゃん! パパ、フィンにぃ、クレイにぃ。皆無事でよかった! もう、心配したんだから!」
「すまなかったな。アリス、具合はどうだ?」
「もう、平気だよ。おじいちゃんたちは怪我してない?」

 ついさっきまでふくれっ面をしたアリスだったが、四人が心配でしょんぼりと眉尻を下げる。
 それに笑みを浮かべた四人は、大丈夫だと言う様にそれぞれ手でアリスの頭を撫でた。
 
 ガルーシドが、近衛兵に向け国王に極秘で会いたいと小声で伝える。
 すると、既に国王から聞かされていたのか? すんなりと建物へ入ることができた。

 二階に登り、国王の自室がすぐそこと言う時だった。
 曲がり角の向こうから、戸惑ったような初老の女性の声が聞こえる。
 
「あらあら、何かありましたの?」
「これは、王大后陛下! お珍しいですね。こちらへいらっしゃるとは……」

 答えたのはこれまた初老の男性の声だ。
 二人の会話が、続いているのを耳にしながら近衛兵に促されたジェイクたちは足を進めた。
 角を曲がり、男女の姿が視界に入る。
 
「あら、あなたは……アリスちゃん?」
「あ、ユリアさんだー! お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ちょ、アリス? え? ユリアさん?」

 アリスと手をつないでいたフェルティナが慌てて、アリスを追いかけるが既にアリスはユリアの目の前に立っていた。
 
「アリスちゃん。お茶会への招待状ありがとう」
「ううん。私がユリアさんに会いたかったから! 来てくれるって聞いたけど、本当ですか?」
「えぇ、勿論よ。伺わせていただくわね」
「わーい!」

 思わぬところでユリアに会えたアリスは、気づいていなかった。
 ユリアが、先の王妃であり現国王の実の母、ユリシアーズ・ジェネット・フォン・フェリスであることを――。
 ちなみにだが、王大后の名はユリシアーズが名前。
 ジェネットが結婚前の姓。
 フォンは、称号の姓。
 フェリスは、結婚相手の姓だ。
 
「あの、王大后陛下、こちらのお嬢様は?」
「おほほ、秘密のお友達よ」

 アリスの頭を撫でながら、ユリアは楽し気に微笑む。
 そんな彼女にこの国の騎士であり、騎士団長でもあるガルーシドは騎士の礼をとった。

「王大后陛下、お久しぶりでございます。覚えておいででございましょうか?」
「えぇ、覚えていますとも。ガルーシド・ジャン・ブリジット。アリスはあなたのお孫さんだったのね」
「はい。私の可愛い孫娘で、この通り美しく、可憐で、目に入れても居たくないほど――」
 
 アリスに対するガルーシドの称賛を遮り、国王が扉を開くと会話に入る。
 
「ガル……いつまでも部屋に来ないと思えば……。母上と一緒だったのか……まったく、話しは中でしましょう。母上もどうぞ」
「あらあら、コンラートごめんなさいね。」

 こうして、ジェイクを始めとした面々は、漸く国王の自室へ入ることになった――。
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