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十二歳編

フェリス王国編――フィンの誕生日会

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 翌日、暇な時間を利用してアリスは、ワイバーンの肉塊を使ったローストビーフを作った。
 ソースは、赤ワイン、醤油、バター、砂糖を使った甘めのソースを添えてみた。
 もし、余れば明日の朝ごはんに回すつもりだ。

 ジェイクたちの協力の元、アリスはこっそりフィンの誕生日会の準備を進める。

 馬車のリビングに色とりどりのリボン――端切れを縫い合わせた紐状の布を飾りを飾り付け。
 中央には端切れで「जन्मदिन मुबारक होHAPPY BIRTHDAY フィン」と、刺繍した大きな白い布と飾った。

 テーブルクロスを敷いたテーブルの中央に、デーンとベイクドチーズケーキと箱庭に咲いていた花を飾る。
 開いた場所には所せましと三種のクレープを果物や葉物を飾り付けた皿を置いた。
 ワイバーンの肉塊ローストビーフは、各皿に盛りつけて用意してある。
 
 人数分の可愛らしい赤のランチョンマットには、皿、ワイン用のグラス、カトラリーを並べた。

『わぁ~アリス、綺麗! 果物もいっぱいだね~』
『フーマ、コレ好キ』
『うふふ。綺麗でしょ~。フーマまだ食べちゃダメよ。あと少しだけ待ってね!』
『フーマ、イイ子。待ツ』

 フーマはつぶらな瞳で、完熟した真っ赤な苺を見つめている。
 待つと言う言葉の通り、目の前でお座りしているフーマの愛らしい姿にアリスの心臓を鷲掴みされた。
 ペタっと両足を投げ出したように座る彼フーマをアリスは、ぎゅうぎゅうと抱きる。

『もう~。フーマ凄く可愛い!!』
『フーマ、可愛イ? アリス、好キ?』
『うん! フーマもユーランも大好きだよ!』

 可愛いもふもふたちを撫でまわしたアリスは満足して、馬車の方へ移動する。
 フィンは、今ゼスと共に外で御者をしていて、中にいるのはアンジェシカ、ジェイク、クレイ、フェルティナだ。
 
「あら、アリス準備出来たのね?」
「うん! みんな中に入って~」

 フェルティナの言葉にうなずいたアリスは、馬車側で待機していたみんなをリビングへ招き入れる。
 
「あら~、可愛いわねぇ!」
「まぁまぁ、素敵ね~」
「ほぉ~、これはフィンが喜びそうだな」
「おぉー。すげぇ美味そう!!」

 リビングに入った途端、アンジェシカ、フェルティナ、ジェイク、クレイの順で感想を漏らす。
 褒められたと理解したアリスは嬉しくなり、もじもじと照れた。
 
 日が沈み、野営地に馬車を止めたゼスが馬の世話をフィンに頼み先に戻る。
 家族みんなで、フィンが戻るのを今か今かと待っていると、カチャっと音を立てリビングの扉が開いた。
 タイミングを合わせ、家族みんなで声を合わせてお祝いの言葉を送る。

「「「「「「フィン(にぃ)誕生日、おめでとう!!」」」」」」

「うわっ」と、フィンは驚いた声を出した。
 かと、思えば心臓の上に手を置いたまま、部屋を見回している。
 フィンの視線が一点を見たまま動かなくなった。

 嬉しくなかったかな? と、心配になったアリスは、そっとフィンに近づきその袖を引く。
 フィンの瞳がアリスを写す。
 次の瞬間、フィンの美しい顔がくしゃりと崩れた。

「アリス、が、用意してくれたのかな?」
「うん。嬉しくなかった?」

 ふるふると否定するように頭を振ったフィンは、膝をつきアリスをぎゅっと抱きしめた。

「こんな、素敵な誕生日は初めてだよ」
「フィンにぃ、いつもありがとう。私の大切なお兄ちゃん、いつまでも優しいお兄ちゃんでいてね」
「あぁ、アリスに恥じない兄でいるよ!」

 素直な気持ちをフィンに伝えたアリスは、フィンの背中を数回叩き、その身体を離す。
 順番待ちをしていたようにフィンの側にいたゼスとフェルティナが、フィンを抱きしめる。

「フィン、私たちの大切な子。あなたが私たちの元へ来てくれて、私は本当に幸せよ」
「母さん……私も二人の元へ生まれてこれて、幸せだよ」

 フィンを抱きしめたフェルティナは、感動のあまり瞳が潤んでいた。
 そんなフェルティナを今一度抱きしめたフィンは少し照れたように頬を染めて、ゼスに向き合う。
 
「僕も同じ気持ちだ。フィン、お前が幸せであるよう願ってる」
「父さん、ありがとう」

 幸せだと言わんばかりの笑顔を浮かべたフィンをゼスが、一度だけきつく抱きしめた。
 フィンが身体を離すとそれを待っていたと言うようにフェルティナからは、マントが。
 ゼスからは、魔法が付与されているらしい鞄が送られた。

「ありがとう」と再びお礼を言ったフィンの元にクレイが、歩み寄る。
 
「クレイ」
「まぁ、俺はそう言うの苦手だから……これな」

 明らかに照れた顔をしたクレイが、見られるのを嫌がりそっぽを向いたままフィンへ黒い皮手袋を差し出す。
 苦笑いを浮かべ受け取ったフィンは、大切そうにクレイから送られた手袋を指で撫でた。

「さぁ、パーティーを始めようか」
「えぇ、そうですね」

 手を叩いたジェイクにアンジェシカが答え、家族たちがテーブルを囲む。
 いつものようにルールシュカへ糧を得られた感謝の祈りを終えれば、パーティーの始まりだ。
 
 赤ワインをアリスが自分の以外に注ぐ。
 アリスのグラスには、クレイが葡萄のジュースを入れてくれる。

「フィンの四三歳を祝って!」
「「「「「「乾杯~♪」」」」」」

 グラスが良い音を立て、打ち鳴らされた。
 葡萄ジュースを一口飲んだアリスは、瑞々しい巨峰の甘みを感じて頬を緩める。
 そんなアリスの隣では、幸せそうな笑顔を浮かべたフィンが大口を開けておかずクレープを頬張っていた。
 
 かさっと鳴った音にアリスは、プレゼントの存在を思い出す。
 急いでスカートの隠しポケットから、プレゼントの入った袋を取り出した。

「フィンにぃ」
「ん?」
「はい! プレゼント」
「ふごぼっ、ふぁりあど」

 アリスが差し出したプレゼントに手を出しかけたフィンは、急いで手を拭く。
 だが、お礼を言おうとして口いっぱいにクレープが入っていることにらしい。
 慌てて咀嚼すると改めて「ありがとう」と言って受け取ってくれた。

 フィンが、プレゼントの入った袋を開ける。
 その手には、アリスが作ったあのブレスレットが握られていた。
 
「かっこいいね!」
「気に入ってくれた?」
「うん。凄くいいね。大事にするよ」

 さっそく腕につけてくれようとするフィンをアリスは手伝う。
 カチッとブレスレットが止まり、フィンが嬉しそうな表情でブレスレットのはまった左手を目の前にあげた。

「綺麗だ……」

 眼を眇め、照明の灯りに照らされた深紅とはちみつ色の石を見つめるフィンがぽつりと零す。

「フィン、似合ってるわ」
「あぁ、フィンによく似合ってる」

 アンジェシカとジェイクが同時にフィンのブレスレットを褒める。
 腕を降ろし、指先でゆっくり石を撫でたフィンは「大切にするよ」と、改めてアリスに告げると本当に幸せそうに微笑んだ。

 その日、フィンの誕生日を祝う宴が、夜遅くまで続けられた――。 
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