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十二歳編

フェリス王国編――おかずクレープ

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 気持ちを改めたアリスは、心配をかけた皆へ謝った。
 家族たちはアリスを撫でたり、抱きしめたりして許してくれた。

 無事夜ご飯を食べたアリスはふと気になり、あとどれぐらいで王都に着くのかジェイクに聞く。

「あと、五日もあればつくだろう」
「そうなんだ」
「ここからは、魔獣も盗賊も出難いから心配しなくていいぞ」

 意外と王都は、直ぐだった。
 初めての旅行であるアリスのために、かなりゆっくりとした旅程で進んでいるらしい。
 そのことをアリスが心の中で感謝していると、クレイが思い出したように教えてくれた。
 ここからは危険も少なくなると聞いてアリスは、どこかホッとした。

 翌日、早朝には野営地を出発した。
 王都まで、残り四日。
 道が綺麗に整備され、揺れがほどんどなくなった。
 それと同時に、窓から見える景色が開けた平原になる。
 往来を行き交う馬車も多くなり、馬車はゆっくりと進む。

 アンジェシカに呼ばれたアリスは、隣に座る。
 そっと見えないように手渡されたブレスレットを見て、アリスはフィンの誕生日が明日であることを思い出した。

 フィンにぃの誕生日は、豪華にお祝いしよう!
 と、立ち上がったアリスは、日ごろお世話になっているフィンにため豪華な食事を用意することにした。

 さっそく寝室に入り、眠そうなユーランとフーマをベットに置いて神の台所へ移動する。
 
「キッチンさん、よろしくね!」

 入るなりキッチンに挨拶をしてフィンの好きな料理を、アリスは真剣に考える。

 フィンにぃは、何が好きかな? 好き嫌いはなさそうだけど……あぁ、クレープは物凄い量、食べてたかも。
 クレープか……だったら、中身を色々変えておかずクレープにしようかな!
 ケーキは、甘すぎるのは苦手みたいだからベイクドチーズケーキにしよう。
 
 作る物が決まったアリスは、キッチンにクレープを二一〇枚焼いて冷やすよう頼む。
 枚数が多くとも、優秀なキッチンは数秒で作り上げる。

 ドーンとアリスの目の前に、重ねておかれたクレープ。
 それを一旦、ストレージにしまったアリスは中の具材を作り始めた。

 一つ目の具材は、ソーセージとハッシュドポテトのフレッシュトマトソース味。
 材料は、腸詰、ジャガイモ、片栗粉、塩、コショウ、ブラックペッパー、顆粒コンソメ、トマト、玉ねぎ、にんにく、パセリ、オリーブオイル、リーフレタス、スライスしたカマンベールチーズ。
 
 まずはハッシュドポテト作りから。
 ジャガイモの皮を剥き、柔らかくなるまで電子レンジもしくは湯銭で加熱。
 この作業は、キッチンさんのお願いしておく。

 それが終わったら、ジャガイモをフォークで潰して、片栗粉、塩、コショウ、顆粒コンソメを入れて混ぜる。
 味見は大事だから、ここで一度味見。
 少し濃い方が私の好みだから、濃い目に……。

 味が決まったら形を腸詰に合わせて細長くして、油で両面がきつね色になるまで揚げる。

「おぉ! 流石はキッチンさん。いい色合い」

 次は、腸詰をオーブンに入れて、皮に焦げ目がつくまで焼く。
 その間に、種を取り除いた角切りトマト、みじん切りの玉ねぎ、刻んだパセリの葉、オリーブオイル、塩、ブラックペッパーを混ぜてソースの味を調える。

「うん! 美味しい!」

 腸詰が焼きあがったらクレープ生地を七〇枚取り出して、ちぎったリーフレタス、カマンベールチーズ、腸詰、ハッシュドポテト、フレッシュトマトソースをかけてひたすら巻く。
 アリスの場合一つだけ自分で作って、あとはキッチンさんに丸投げする。

「ふぉー。良い感じ!!」

 出来上がったクレープを魔法の鞄に直し込み、アリスは二つ目の具材調理に取り掛かる。
 二つ目はシーマカレルマヨ――鯖マヨとハムのクレープ。
 材料は、塩抜きを済ませたシーマカレル、マヨネーズ、塩、コショウ、レタス、トマト、キュウリ、ハム。

 シーマカレルを酒を振りかけて焼く。
 焼けたら、骨を抜いてフレーク状に解す。
 フレークができたら、マヨネーズ、塩、コショウで味を調える。

 キュウリはイボを包丁で軽く、削いで落としたら三等分に切り、皮をつけたまま千切りに。
 水気は拭き取っておく。
 トマトは種を取り除いて、スライス。
 レタスは、千切り。ハムは薄めにスライスしておく。

 材料が揃ったら、クレープ生地を七〇枚取り出して、レタス、ハム、キュウリ、トマト、シーマカレルの順で乗せて、あとはひたすら巻く。
 一個だけつくったアリスは、キッチンさんに丸投げする。

 三つ目は、ワイバーンと玉ねぎのバター醤油ガーリック風味炒めとスクランブルエッグのクレープ。
 材料は、ワイバーンの肉、玉ねぎ、にんにく、鷹の爪少々、しょうゆ、小麦粉、コカトリスの卵、リーフレタス。

 まず、牛肉の代わりにワイバーンの肉塊を出す。
 大きさは、厚さ一センチ、長さ一〇センチ程度に切る。
 キッチンさんが……。
 出来たら、塩、ブラックペッパーを振りかけ、小麦粉を軽くまぶす。
 玉ねぎはくし切りに。

 フライパンにバターとオリーブオイルを入れ、溶け始めたらにんにくのスライスを追加。
 にんにくの香りが立ってきたら、種を抜いて刻んだ鷹の爪を入れる。
 そして、玉ねぎを入れしんなりしてきたら、ワイバーンの肉を入れて焼く。
 肉が煮えたら、火を止めて醤油とバターを入れる。
 余熱で軽く混ぜたらバットに上げて冷やしておく。

 次にスクランブルエッグだ。
 味付けは、塩、コショウ、砂糖少々。
 少し甘めにするのがアリスの好みだ。

 フライパンにオリーブオイルを入れ、温まったら溶いた卵を流しいれる。
 後は、適当に混ぜ、固まったらバットに入れて冷やす。

 後は、他の二個と同じくクレープ生地、リーフレタス、ワイバーンと玉ねぎのガーリックバター醤油炒め、スクランブルエッグの順で乗せて巻けば、出来上がりだ。

「ふぅ~出来た……。後は、ユーランとフーマ用の果物を用意して……ベイクドチーズケーキを作らないと」

 ユーランとフーマ用は、マンゴーとシャインマスカットを出して貰った。
 マンゴーはいつも通り、切れ目を入れて皿へ。
 シャインマスカットは、房から外して横の方に乗せた。

「さて、やりますかー」

 気合を入れ直したアリスは、キッチンに小麦粉、シュガーパウダー、無塩バター、牛乳を用意して貰う。
 これから作るのは、ベイクドチーズケーキに、使うビスケットだ。

 冷えたままの無塩バターを一センチ程度の角切りに切り分ける。
 ボールに薄力粉、シュガーパウダー、切ったバターを入れ手で混ぜる。
 ある程度解れたら、冷えた牛乳を入れてそぼろ状になったら一つに纏めていく。

「キッチンさん。オープンを一六〇度で温めて、この生地を一時間後にスキップお願いします」

 キッチンに頼んで寝かせが終わった生地を二ミリほどまで伸ばし、適当な大きさ——四センチ×四センチの四角に切ってもらう。
 切った生地にフォークで穴をあけ、一五分オーブンで焼けば出来上がりだ。

「クリームチーズ、生クリーム、卵、グラニュー糖、振るった薄力粉、レモン汁の準備をお願いします」

 キッチンに材料の準備を頼んだアリスは、底付きのチーズケーキの型を探す。
 三〇センチの型を見つけたところで、粗熱が取れたビスケットをクッキングシートを引いた型に入れ、細かく砕く。

 力のないアリスは、これもキッチンさんに頼んだ。
 無事、底にぎっしりビスケットが引かれたのを確認したアリスは、次の作業にとりかかる。

 クリームチーズをほんの少し温め、六等分に分ける。
 卵、グラニュー糖、小麦粉、レモン汁をボールに入れ、だまが無くなるまで綺麗に混ぜる。
 混ざったらボールにクリームチーズ、生クリームを数回に分けて入れ更に混ぜていく。
 
 ヘラで掬い、だまが無い事、とろりと落ちるぐらいになったらビスケットが動かないよう慎重に流し込む。
 
「キッチンさん、オーブンを一七〇度にして、五〇分焼いて下さい」

 生地を入れた型が消え、きつね色になったベイクドチーズケーキが現れる。

「出来上がりだー!」

 無事すべてが終わったアリスは、満足した顔で台所を後にした。
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