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十二歳編

フェリス王国編――ナンロール①

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 アリスが台所へ戻るとアニー、エリ、ティクスの三人が材料を用意して待っていた。

「お待たせ。じゃぁ、早速始めようね」

 瞳を輝かせ、今か今かと待っていた三人に改めて伝えれば、三人はキャッキャと喜んだ。
 まずはナン作り。
 小麦粉、オリーブオイル、塩、水、計量カップ、大きいスプーンを用意する。

「ボウルに小麦粉を入れてね。あぁ、そのままじゃだめだよ? これに小麦粉を入れて、指で軽く表面をならして三杯分入れてね!」

 自分でも作業をしながら、三人にやって見せる。
 計量カップは、予備を含めて一〇個。
 一人一つずつ渡してあるため、それぞれが同時に作業できている。

 アニーは流石と言うか、そつなく三杯を入れ終えた。
 エリは、少し手間取っている様子。だが、それに気づいたアニーがきちんと教えている。
 ティクスは、無言で慎重に一杯ずつ入れている。
 そこまで慎重にならなくても……と、アリスとしては思うが何も言わない。

「みんな出来たね。そしたらお水を、このカップの線の所まで入れてね」

 アリスが表面につけた傷の部分を示せば、三人は迷うことなく水をカップに入れた。
 それを見たアリスは、小麦粉の入ったボウルに水を流し込む。
 すると三人も、同じように流し込んだ。

「次は、スプーンで四杯、オリーブオイルをボウルに入れて」

 オリーブオイルの入った壷の中にスプーンを沈め、掬う。
 一杯、二杯……と四回繰り返す。

 入れ終わったアリスが三人を見れば、アニーは既に終えていた。
 エリは、身長のせいで掬いにくいらしく、何度も何度もやり直している。
 ティクスは、肩が凝りそうなほど慎重にプルプルしながらオリーブオイルを入れていた。

 三人がオリーブオイルを入れ終わったところで、一つまみの塩をボウルに入れる。
 見様見真似で三人が塩を入れた。

「じゃぁ、ここからは練る作業だよ! 利き手の指先を広げて、折る。そしたらわしゃわしゃって撫でる感じで、全体を混ぜる」

 口で説明するよりは見せた方が早いと考えたアリスは、実際にやって見せる。
 すると三人も同じように混ぜ始めた。

「はじめは手に粉がくっつくけど、綺麗に混ざってきたらべたべたしないから根気よく混ぜてね。もし全体がまとまっても手に着くようなら、少しだけ小麦粉を入れて」

 手にくっついていただまが取れたのを見計らい、アリスは全体的に捏ねるようにして混ぜる。
 それを見たアニーが、率先して同じ動作を繰り返す。
 エリもいい感じで混ざっている。

「エリちゃん。全体的に捏ねてみて」

 ティクスはと思ってみれば、手にべったりと粉が付いていた。
 一時作業を中断したアリスは、ティクスのボウルを覗き込み小麦粉を軽く上からまぶす。

「ティクスくん。混ぜて~」

 しばらく生地と格闘していた三人が、しっかりと丸まった生地を作り上げる。
 次の工程で漸く生地作りが最後だと、考えたアリスは作業台にうっすらと小麦粉を打ち、ボウルから生地を取り出した。

「小麦粉を薄ーく作業台に振ってね。これは、生地が作業台にくっつかないようにするためだから、多すぎちゃダメよ」
「「「はい!」」」
「そうしたら、三〇回ぐらい、伸ばしては畳んでを繰り返す」

 作業台の上に置いた生地を手に持ったアリスは、縦に生地を伸ばし、四つ折りにする。
 次は横に生地を伸ばし、また四つ折り。
 それを繰り返してみせれば、三人も同じように生地を伸ばし始めた。

 出来上がった生地を転がし、細長い棒にしたアリスは、来る限り均等になるよう一二個に切り分けた。
 切り分けた一つ、一つを丸める。

「こうして丸めると、あとが楽ちんだからね」

 一二個の丸い生地が出来たら、一つだけ手に取り掌でまずは押しつぶす。
 と、ここで麺棒を作るのをすっかり忘れていたことに気付いたアリスは、あとで絶対作ろうと頭の片隅にメモする。

 仕方なく潰れた生地の上にボウルを置いたアリスは、どうにかこうにかその丸みで伸ばしていった。
 生地が二〇センチほどの丸になったら、ボウルを外して後は焼くだけ。

「これぐらいの大きさになったら、粉を振るって次のを伸ばす。出来たのは上に重ねていくの」
「やってみるわ」
「うん!」
「ぼ、ぼくも頑張る」

 最後が一番難しい。けれど、これができるようにならないと屋台の夢が潰えてしまう。
 それを避けたいアリスは、熱心に三人へ指導した。

「じゃぁ、焼いてみよう!」

 各一二枚ずつ、合計四八枚のナンを作り上げたアリスたちは、それを仕上げるため火元へ移動する。

 アリスが魔法の鞄から取り出したのは、持ち手の部分は木でできており、その横の部分が網目になった長方形の平たい鉄板と蓋。
 それからお好み焼きでよく使うヘラとトングだ。

 これは、アリスが神のキッチンから拝借して、ゼスが偶々持っていた鉄をお願い攻撃で奪い。
 神の宝飾箱で、形をコピーしてくっつけた独自の調理器具だ。

「これで全部を焼いていくことになるから、火傷には注意してね?」

 同時に頷いた三人にほっこりしながら、アリスはコンロ二つに火をつけた。

「この網目の所には、お肉を薄く切ったのか、腸詰を乗せておくの。まずはやってみるから見て覚えてね!」
「わかったわ!」
「私、できるかな?」
「や、やって、みる」

 薄切りのオーク肉と湯がいた腸詰を魔法の鞄から取り出したアリスは、鉄板の網目に並べるようにして置いた。
 ナンを焼く鉄板には、オリーブオイルを全体に馴染ませるように薄くひく。
 鉄板が温まったところで、ナンを六枚並べる。

「ナンは、火の通りが遅いからこうして、水を少しだけ周りに落として蓋をするの」

 じゅわ~と、水分が熱により飛ばされる音が鳴る。
 真剣な六個の瞳に見つめられながら、アリスは音が消えると同時に蓋を取りナンをひっくり返した。
 少し焦げ目のついたナンは、もっちりとしている。

「こうして、ひっくり返したらあとは裏面が焼けるのを待つ。腸詰や肉はやけたら、塩、コショウを振ってひっくり返す。全体が焼けたら隅に置いておいてね」
「わかったわ!」

 アニーの返事しか聞こえなかったアリスが不思議に思って横を見れば、エリは腸詰に、ティクスは勉強用の小さな黒板に夢中だった。
 その様子にくすりと笑ったアリスは、ナンをひっくり返して裏面の焼け具合を見る。

「よし、ナンはいい感じだね。両面がこんな感じで焼けたら、こうして皿に取り出しておくの。さぁ、一人ずつやってみようね。まずは、アニーちゃんから」

 アリスに名指しされたアニーが緊張しながら、鉄板にオリーブオイルを引いていた。
 ナンを乗せ、水を垂らしたアニーは蓋を乗せる。
 アリスの手順と全く同じように、アニーは動きナンを焼き上げた。
 物覚えいいな~と、感心しながらアニーを見ていたアリスはナンロールのタレづくりをアニーに任せようと決める。
 
「じゃぁ、次はエリちゃんね」

 アニーと場所を変わりエリが鉄板の前に立つ。
 恐る恐ると言った手つきでオリーブオイルを流したエリは、これまたおどおどした様子でナンを鉄板に並べた。
 水を流す際、エリは少し焦ったのか多く入れてしまう。
 
「あわわ!」
「大丈夫だよ。こういう時は、このヘラを使って、水をぺいって避けてあげればいいだけだから!」

 手を出すつもりはなかったアリスだが、勝手に身体が動いてしまった。
 申し訳なく思いながらエリを見れば、ほっとした表情を浮かべ蓋をおいていた。
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