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十二歳編

フェリス王国編――シーマ・カレル定食

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 鞄を作ると決めたアリスは、さっそくとばかりに並べられた皮の手触りを確かめる。

 二〇個近くある皮の中から、アリスが気に入った物は全部で三つ。
 ブラックディアの皮、グレートグリズリーの皮、スモールアリゲーターの皮だ。

 ブラックディアの皮は、手触りが抜群で柔らかめ。
 グレートグリズリーの皮は、手触りはざらついているが、硬めで形がとりやすい。
 そして、スモールアリゲーターの皮は、滑らかな手触りで、防水機能が魅力的。

 さてどれにしようと悩んでいたアリスは、隣に立つジェイクに気付かないまま悩み続けた。
 真剣にアリスが悩んでいる間に、孫バカのジェイクはこともなげに三つの皮を買ってしまう。
 それにアリスが気づいたのは、ジェイクが支払いをした後だった。

「お、おじいちゃん!!」
「ん? 嫌だったか?」
「嫌じゃない。嫌じゃないけど、いいの? 皮一枚銀貨三枚だよ?!」
「ハハハ、銀貨三枚程度大した金額じゃないから心配するな」
「ありがとう! 良い物が出来たらおじいちゃんにもあげるね」
「あぁ、楽しみにしておくことにしよう」
 
 ジェイクと約束したアリスは、ジェイクから受け取った皮をストレージにしまう。
 クレイはと思い探せば、店員に代金を支払っていた。
 良い物が買えたらしいクレイもホクホク顔だ。
 良い買い物が出来た、アリスたちは漸く宿へと戻ることにした。
 
 宿に戻ったアリスは、早速神の台所へ移動した。
 アンガツの苗木も植えたいところだが、既に日が沈みかけているため夕飯を優先する。

「キッチンさん! 夜ご飯つくるからよろしくね」
 
 まずは、買ったシーマ・カレルを樽ごと作業台へ出す。
 それが終わったら次に、ミノタウロスのお肉を。

 そして、キッチンに三日分の時間を使って塩抜きをお願いする。
 その間に、アリスはお米を仕込む。

 今日の夕飯は、シーマ・カレルの味噌定食だ。
 メインは勿論、シーマ・カレルの味噌煮。
 小鉢は、ほうれん草の胡麻和え、ミノタウロスの肉とゴボウの炒め物。
 味噌汁は、ナスと薄揚げにする。

「塩抜きが終わったら、水気を拭いてトレーにいれて。半分は薄く塩をして、塩焼きでお願いします。それから、ほうれん草を一〇個分洗って湯がいて欲しい。ほうれん草を湯がき終わったら、巻きすで水気を切って」
 
 お米を洗い終わったアリスは、焼きあがった塩焼きをひとまずストレージに直し込んだ。
 湯がきあがったほうれん草は、アリスが仕上げる。

 巻きすの跡が残るほうれん草を、まな板の上に置き五センチ間隔で切る。
 小さなアリスの身体では、切ると言う作業だけでもかなり体力を持っていかれた。

 全て切れたらボールに入れ、顆粒和風だし、醤油、みりん、すりごまを加えて軽く和える。
 これで、一つ目の小鉢ほうれん草の胡麻和えが出来上がる。
 ボールごとストレージに直したアリスは、次の指示をキッチンに出す。

「ゴボウは洗って厚さ五センチで斜めに切って。ミノタウロスのお肉は薄切りにして、細切りにして欲しい。寸胴鍋を二つ出して一つにはお水を、もう一つはとりあえずそのままで!」

 肉とゴボウが用意され、コンロに二つの寸胴鍋が並ぶ。
 水が入った方の寸胴を見ながら、アリスは大根を洗い皮をむいた状態で適当に切り分けでもらった一本分と薄揚げはそのまま二〇枚出して貰う。
 大根を小さな体をフルに使って、短冊切りに切っていく。
 薄揚げは五枚同時で、横半分に切り後は一センチ間隔でざくざくと。
 
「大根はこんな感じで切って、切り終わったらお水の入った寸胴に入れて火をつけて煮て下さい。薄揚げは、味噌を入れた後にいれるからそのままで!」 

 次の工程を考えながらキッチンに指示を出していたアリスは、あっと言う声をあげて炊飯器のスイッチを押した。
 味噌汁用の大根が煮え透明になったのを確認したアリスは、次の指示をだす。

「深いフライパンを中火でかけて下さい。あと、生姜を出して薄切りに! 味噌汁は、この間の分量で味噌を入れてね」

 フライパンにまずは油を入れ、回すようにしてなじませる。
 次にモゥモゥの細切り肉を入れ、菜箸でかき回すようにして火を通す。
 火が通ったら、切ったゴボウを入れて炒め合わせる。
 ゴボウが十分に肉の油を纏ったら、酒をふりかけ、水入れる。
 そして、煮立つまで待つ。

 煮立つ間にアリスはふーふーと息を吹きかけ、味噌汁を味見する。
 
「おぉ! 流石キッチンさん!! 一回できっちりお味噌汁の味ができてるよー!」

 出来るキッチンを褒めたアリスは、味噌汁の中にどば、どばと薄揚げを入れた。
 後はこのまま一分間火を通せば出来上がりだ。

 味噌汁の仕上げが終わり、次に二つ目の小鉢をしあげにかかる。
 煮立ったフライパンに砂糖、みりんを入れ、ふたをして弱火で約一〇分。
 その後、醤油を加え、水気が無くなればゴボウと牛肉の甘辛炒めの出来上がりだ。

 最後にメインの味噌煮に取り掛かる。
 まずは、鍋に水、醤油、みりん、酒、砂糖、味噌、生姜を入れて煮立たせる。
 入れた調味料がぐつぐつしてきたら、魚を入れる。
 今回は塩漬けなので既に臭みが抜けているため湯霜ゆしもはしない。
 魚を入れたら、蓋をして一〇分煮込む。
 タレがとろりとしたら出来上がりだ。

「キッチンさん、みかんとブドウを一つずつください」

 作業台に出てきたみかんと巨峰をシステムに直したアリスは、最後の最後でおひつに炊き立てのお米をいれる。
 そうして、すべての準備が済んだアリスは、キッチンにお礼を言うと草原の兎亭のリビングへ戻った。

「お、おかえりアリス。今日はどんなご飯かな?」
『アリス、遅い~~! ボク待ちくたびれたー!』
「ただいまー」
『ユーランごめんね。直ぐにご飯にするね!』

 リビングにアリスが戻ると全員が集合していた。
 窓を見れば既に外は暗くなっている。
 
「じゃぁ、フィンにぃとママ手伝ってね」

 二人に皿を出して貰い、ご飯とお味噌汁をついでもらう。
 その間にアリスは、小鉢を準備して、シーマ・カレルの味噌煮込みを皿にのせた。
 味噌のいい香りがリビングに漂うと、誰かのお腹がぐぅ~と響く。

 それを皆で笑い。ご飯の用意が終わるといつも通りルールシュカ様へ祈りを捧げた。
 初めての魚料理だからとアリスは緊張気味に、フォークを伸ばす家族を見守る。

「これは……さっき買った塩漬けか?」
「うん。塩抜きは済んでるから食べてみて?」
「うまぁ! これうまぁ!」

 ジェイクに問われ答えていたアリスの横で、シーマ・カレルの味噌煮を食べたクレイが語彙力を再び失っていた。
 それに呆れつつアリスは他の家族の様子を伺う。

「ほう。これは何とも脂がのって旨いな」
「えぇ、そうですね。お肉もいいですけど私はこちらの方が好みだわ」
「臭みが全くないな。この甘辛い味付けが、ご飯を進ませる」
「そうね。これって、このスープにも使われている味噌ってやつじゃないかしら?」
「うん。多分そうだよ。同じものなのに全然違って、凄く面白いね」

 おおむね好評のようだと安心したアリスは、漸く食事に手を伸ばした。
 アリスの隣では実体化したユーランが、巨峰と格闘していた。
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