7 / 103
十二歳編
溺愛家族の会議
しおりを挟む
アリス一二歳の誕生日を控えた、初夏の深夜。
アリスが夢の世界に旅立ったのを見計らい、インシェス家の面々は真剣な面持ちでリビングへ集まった。
「みなも分かっているだろうが……。七日後、アリスが一二歳の誕生日を迎える。一二歳と言えば、この世界の女神の前で、洗礼を受けなければならい歳だ」
一度言葉を切ったジェイクは、至極真面目な顔で家族たちを見回した。
誰もが真剣な様子で、ジェイクの言葉を待っている。
「我々は、アリスを連れて街へ行く。だが、アリスは女神の愛し子だ。しかも、爺の欲目から見てもその美貌は、誰もが振り返るほどだ!」
ジェイクの発言を否定する者はいない。
全員が、大きく頷き「その通りだ」と同意を示す。
「アリスが、街でよからぬ輩に目をつけられ、攫われる可能性がある。だからこそ、みなの知恵を借りたい。アリスの洗礼先をどの街にするのか」
使命感を感じさせる声音で、たっぷりと溜めにためた孫バカジェイクが漸く議題を告げた。
それに答えるように頷いたのは、同じくアリス馬鹿の家族である。
ただアリスが、洗礼を受けに行く。
それだけの事なのにジェイクを始めとした家族たちは、王族以上の警護をしようと画策していた。
ジェイクを始めとして、ゼスもフェルティナも冒険者ランクはA。アンジェシカ、フィン、クレイのランクはBである。
更に、ジェイクには剣狂――剣|狂いと言う意味合い、ゼスには魔狂――魔法狂いと言う意味合いの二つ名を持っている。
二つ名を聞けば、王族ですらタジタジになると言われているほど有名であるにも拘らず、家族たちはアリスのため本気で話し合い始めた。
インシェス家の面々が危惧するように、幼いアリスの見目は確かに麗しい。
アンジェシカと同じ甘栗色の髪は、光を受け金にも見える。肌の色は白く、もちもちとした頬は血色良く朱色に染まっている。
高くも低くもない鼻、仄かにピンク色をした唇はぽってりとしており、見る者すべてを魅了する造形美を持っている。
そして、幼女特有の大きな本紫の瞳は、この世界で女神に愛された子の印だ。
「私はメルディンがオススメよ。アリスは綺麗なお花が好きだから、きっと喜ぶと思うわ」
「メルディンと言えば、南の国ディンの王都か」
「えぇ、そうよ」
手をあげたアンジェシカのオススメは、真魔の森を中心として真下に当たる小さな南国ディンの王都メルディンだ。
メルディンか……確かに悪くはない。
輝く海に浮かぶ白い街並みは、沢山の花々が咲き美しい。きっとアリスに似合うだろうとジェイクは街並みを思い浮かべながら考えた。
「メルディンは、確かに街並みは綺麗だと思うけどさー、あそこの王侯貴族は、かなりめんどくさいよ?」
嫌そうな顔で告げるクレイの言う通り、美しい街並みはオススメ出来る。だが、見目の美しい者を強制的に妻にするような馬鹿がいたなとジェイクは思い出す。
「……却下だな」
ジェイクが却下すると直ぐに、ゼスが次の候補をあげる。
「ハンズはどうかな? 近いし、冒険者も多いから、不埒ものも少ない」
「ハンズと言えば、隣の国だな」
ゼスのオススメは、真魔の森の直ぐ右にあるヒーリスク王国所属の街ハンズだ。
ゼスの言う通り、確かにハンズには多くの冒険者が集まる。理由はハンズの側に、三つのダンジョンがあるためだ。
ダンジョンに危険がないとは言えないが……冒険者が多ければ、その分安心でき……と考えていたジェイクの思考を遮るようにフィンが言葉を挟んだ。
「不埒ものは少ないけど、冒険者も結構ヤバいの多いから……そこにアリスを連れて行くのはちょっと……」
フィンの意見にゼス以外の家族が、何度も頷き同意する。
「アリスがケガでも追ったら……街事消せばいいじゃないか!」
不服そうに物騒なことを言い出したゼスに対して、ジェイクはそっと却下を告げた。
「じゃぁ、マリアードはどう? あそこは海が綺麗だし、アリスも喜ぶんじゃないかしら?」
フェルティナがオススメするのは、真魔の森から三つほど右下にある海運国家ノルディアの港街マリアードだ。
マリアードと言えば、魚介が豊富に取れる。料理を得意とするマリアが、キャッキャと喜びそうだとジェイクも同意しかける
だが、しかしと思い直した。
マリアードは異国から日々、船が入港する貿易の拠点の街だ。気性の荒い船乗りが多く、他国の商人が跋扈している。そんな街にアリスを連れて行けば、可愛いアリスが良からぬ外国商人に目を付けられ連れ去られる可能性も高い……無しだ!
「マリアードはダメだ。異国の者たちが可愛いアリスに何をするかわからん!」
「確かに!!」
「アリスが可愛すぎるから、諦めよう」
口々にジェイクの意見に同意する家族たちは、何も気づいていない。
二つ名持ちのAランク冒険者に手を出すほど、愚かな者は少ないと……。
「俺は、リルルリアがいい。きっとアリスは驚いて、凄く可愛い顔で喜ぶと思うんだ!」
「クレイに同じく、私もリルルリアがいいと思います」
クレイとフィンがオススメする街は、チェロルと言う国にあるリルルリアだ。
リルルリアの場所は、たしか……真魔の森の上隣だったか? あの街を見れば確かにアリスは、驚き歓喜するだろう。それにあの街の名物は、果物だ。アリスもきっと喜ぶ。更には街の特徴故に、攫いようがない。ふむ、いい案だ!
思案を巡らせたジェイクは、アンジェシカ、ゼス、フェルティナへ視線を向ける。
「確かに、リルルリアでしたら問題はありませんわね」
「あの街なら、人も穏やかだし、美味しい物もあるしいいと思うよ」
「私も賛成です!」
アンジェシカ、ゼス、フェルティナは、それぞれ賛成する。
そうしてアリスの洗礼先は、本人の知らないところでリルルリアに決定した。
アリスが夢の世界に旅立ったのを見計らい、インシェス家の面々は真剣な面持ちでリビングへ集まった。
「みなも分かっているだろうが……。七日後、アリスが一二歳の誕生日を迎える。一二歳と言えば、この世界の女神の前で、洗礼を受けなければならい歳だ」
一度言葉を切ったジェイクは、至極真面目な顔で家族たちを見回した。
誰もが真剣な様子で、ジェイクの言葉を待っている。
「我々は、アリスを連れて街へ行く。だが、アリスは女神の愛し子だ。しかも、爺の欲目から見てもその美貌は、誰もが振り返るほどだ!」
ジェイクの発言を否定する者はいない。
全員が、大きく頷き「その通りだ」と同意を示す。
「アリスが、街でよからぬ輩に目をつけられ、攫われる可能性がある。だからこそ、みなの知恵を借りたい。アリスの洗礼先をどの街にするのか」
使命感を感じさせる声音で、たっぷりと溜めにためた孫バカジェイクが漸く議題を告げた。
それに答えるように頷いたのは、同じくアリス馬鹿の家族である。
ただアリスが、洗礼を受けに行く。
それだけの事なのにジェイクを始めとした家族たちは、王族以上の警護をしようと画策していた。
ジェイクを始めとして、ゼスもフェルティナも冒険者ランクはA。アンジェシカ、フィン、クレイのランクはBである。
更に、ジェイクには剣狂――剣|狂いと言う意味合い、ゼスには魔狂――魔法狂いと言う意味合いの二つ名を持っている。
二つ名を聞けば、王族ですらタジタジになると言われているほど有名であるにも拘らず、家族たちはアリスのため本気で話し合い始めた。
インシェス家の面々が危惧するように、幼いアリスの見目は確かに麗しい。
アンジェシカと同じ甘栗色の髪は、光を受け金にも見える。肌の色は白く、もちもちとした頬は血色良く朱色に染まっている。
高くも低くもない鼻、仄かにピンク色をした唇はぽってりとしており、見る者すべてを魅了する造形美を持っている。
そして、幼女特有の大きな本紫の瞳は、この世界で女神に愛された子の印だ。
「私はメルディンがオススメよ。アリスは綺麗なお花が好きだから、きっと喜ぶと思うわ」
「メルディンと言えば、南の国ディンの王都か」
「えぇ、そうよ」
手をあげたアンジェシカのオススメは、真魔の森を中心として真下に当たる小さな南国ディンの王都メルディンだ。
メルディンか……確かに悪くはない。
輝く海に浮かぶ白い街並みは、沢山の花々が咲き美しい。きっとアリスに似合うだろうとジェイクは街並みを思い浮かべながら考えた。
「メルディンは、確かに街並みは綺麗だと思うけどさー、あそこの王侯貴族は、かなりめんどくさいよ?」
嫌そうな顔で告げるクレイの言う通り、美しい街並みはオススメ出来る。だが、見目の美しい者を強制的に妻にするような馬鹿がいたなとジェイクは思い出す。
「……却下だな」
ジェイクが却下すると直ぐに、ゼスが次の候補をあげる。
「ハンズはどうかな? 近いし、冒険者も多いから、不埒ものも少ない」
「ハンズと言えば、隣の国だな」
ゼスのオススメは、真魔の森の直ぐ右にあるヒーリスク王国所属の街ハンズだ。
ゼスの言う通り、確かにハンズには多くの冒険者が集まる。理由はハンズの側に、三つのダンジョンがあるためだ。
ダンジョンに危険がないとは言えないが……冒険者が多ければ、その分安心でき……と考えていたジェイクの思考を遮るようにフィンが言葉を挟んだ。
「不埒ものは少ないけど、冒険者も結構ヤバいの多いから……そこにアリスを連れて行くのはちょっと……」
フィンの意見にゼス以外の家族が、何度も頷き同意する。
「アリスがケガでも追ったら……街事消せばいいじゃないか!」
不服そうに物騒なことを言い出したゼスに対して、ジェイクはそっと却下を告げた。
「じゃぁ、マリアードはどう? あそこは海が綺麗だし、アリスも喜ぶんじゃないかしら?」
フェルティナがオススメするのは、真魔の森から三つほど右下にある海運国家ノルディアの港街マリアードだ。
マリアードと言えば、魚介が豊富に取れる。料理を得意とするマリアが、キャッキャと喜びそうだとジェイクも同意しかける
だが、しかしと思い直した。
マリアードは異国から日々、船が入港する貿易の拠点の街だ。気性の荒い船乗りが多く、他国の商人が跋扈している。そんな街にアリスを連れて行けば、可愛いアリスが良からぬ外国商人に目を付けられ連れ去られる可能性も高い……無しだ!
「マリアードはダメだ。異国の者たちが可愛いアリスに何をするかわからん!」
「確かに!!」
「アリスが可愛すぎるから、諦めよう」
口々にジェイクの意見に同意する家族たちは、何も気づいていない。
二つ名持ちのAランク冒険者に手を出すほど、愚かな者は少ないと……。
「俺は、リルルリアがいい。きっとアリスは驚いて、凄く可愛い顔で喜ぶと思うんだ!」
「クレイに同じく、私もリルルリアがいいと思います」
クレイとフィンがオススメする街は、チェロルと言う国にあるリルルリアだ。
リルルリアの場所は、たしか……真魔の森の上隣だったか? あの街を見れば確かにアリスは、驚き歓喜するだろう。それにあの街の名物は、果物だ。アリスもきっと喜ぶ。更には街の特徴故に、攫いようがない。ふむ、いい案だ!
思案を巡らせたジェイクは、アンジェシカ、ゼス、フェルティナへ視線を向ける。
「確かに、リルルリアでしたら問題はありませんわね」
「あの街なら、人も穏やかだし、美味しい物もあるしいいと思うよ」
「私も賛成です!」
アンジェシカ、ゼス、フェルティナは、それぞれ賛成する。
そうしてアリスの洗礼先は、本人の知らないところでリルルリアに決定した。
0
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる