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二人の在り方

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 センティンスとの約束もあり慌ただしく殿下の元を訪れた。が、私の姿を見た殿下が抱きついて来る。それを受け止め、予定があると言いかけたところでの小さく殿下の腹の虫が鳴り朝食の席へ着いた。
 先に食事を始めていたらしい両親は殿下の女装姿を見ても、何も思うところがなかったらしく楽し気に妹たちや殿下と会話をしていた。

 楽しく談笑していたのは私が今日は、学友センティンスと会う予定があると話し、共に居れないと謝り伝えるまで。
 私が断りの言葉を伝えた途端、殿下はムっと唇を吐き出し「やだ」と一言。矢だと言われたところで、既に約束しているためどうにもできず……なんとか、納得させようと言葉の限り伝えたが、ダメで。最終的に、自分も一緒に行くと言い出した。

 そして現在、私はぶー垂れた殿下と二人馬車に揺られている。頬を膨らませたまま何を言っても返事をしない殿下は未だお怒り中。それをとりなそうと思っていた私も次第に無言になり、車内の居心地は最悪だ。

 ただ、センティンスに会って殿下の事を聞こうと思っただけなのに、どうしてこうなった? 
 婚約者を持つと言う事は自分の自由すらも犠牲にする必要があるのだろうか? それが、相手を思うが故の行動であっても……。

「はぁ~」

 思わず飛び出した大きな溜息に、殿下の肩がピクっと跳ねる。それを目の端に捉えたものの、どうせ無視されるのだからと窓の外へと視線を投げた。

「ぐずっ、ずっ……ひっく」

 耳に届いた擬音に音が鳴りそうなほどの勢いで目線を殿下に向けた私は、殿下の上目遣い&涙に「ど、どうした?!」と驚きの声をあげた。

「だ、だってぇ……ラー君、僕の事嫌いになったぁ~」
「はぁ?」

「なぜだ?」と続け要した声に被せるように、殿下の涙声が「だって、僕の事無視したぁ~!」と再び泣き出した。
 殿下の様子に慌てながら、冷静な自分がツッコミを入れる。
 いやいや、無視していたのは殿下だろう! 私は精一杯自分なりに話題を振ったし、話しかけたはずだろ? なのに何故私が責められているのだ!
 再び吐き出しそうになった溜息を呑み込み、泣きじゃくる殿下に視線を向ける。

「嫌ってなどいない。ただ、友人と会うのに殿下の許可がいるのは、おかしいとは思う」

「うっ、だ、だって……」

 子供のように言い訳をする殿下を見つめ、その声に耳を傾ける。

「だって、僕にはラー君しかいないんだもん。ラー君だけなんだもん」

 しょぼくれた様に俯く殿下が、私しかいないのだと消え入りそうな声音で訴える。その姿はまるで、親を亡くした子犬のようで……私は、思わずその頭を撫でてしまう。
 柔らかな殿下の髪の毛が、予想外に触り心地良く。グリグリと撫でまわしまった。

 狙ったわけではないが、殿下も撫でられるのが嬉しかったらしく機嫌が上向きに変わっている。そう感じた私は、殿下の眼を見ながらお願いするように伝えた。

「私は、エルタンを置いてどこかに行ったりはしない。だから、少しだけ友人との時間は作らせて欲しい」

 敢えて問う事をしない選択をした。それにはきちんとした理由がある。
 私たちはまだ若く、これから先も死ぬまで何重年と一緒にいる事になるのだ。だからこそ、ここで私が折れていてはまた、また同じことを繰り返すことになるだろう。そうなればお互いに長く共に居ることは出来ない。

「本当に? 本当に僕の事、置いて行ったりしない?」

 何度も何度も本当に? と聞いて来る殿下に私は何度も頷いた。
 殿下はセクシュアルである。セクシュアルの特徴は、同性を愛する事、そして、自分の伴侶に依存する事だと父は言っていた。こんかいのそれも、セクシュアルが故の行動だろうと分かっていても、互いに歩み寄りは必要である。

 ま、今更、嫌だと拒否しようがもうすでに家同士の契約は結ばれてしまっているんだがな……。私が殿下を妻に迎えると言う契約のおかげか、それとも王家が絶対に逃がさないと言う意味合いでか、我が公爵家には王家から莫大な資産と鉱山資源を有する土地が、婚約時点で送られている。
 確実に後者だろうとは思うが、受け取った物が大きすぎて、持て余しているのも又事実なんだが……。家督を継いでいない私には今の所関係ないとしておこう。見なければない物と同じだ。父上に頑張って貰うしかない。

 思考を打ち切るようにコンコンと馬車の扉がが叩かれた。殿下を撫で続けていた手を離し、返事をすれば御者の男が扉を開ける。センティンスとの待ち合わせは、私たちの隠れ家としても使っている廃屋だ。
 見慣れたそれは、元宿屋で王都の建物の中では古く、所々壁がはがれ煉瓦がむき出しになっている。窓などは、仲間同士でお金を出し合い補修をしているが流石に壁の補修までは出来ていない。

「殿下、足元に気を付けて」

 馬車を降り荒れた地面を歩く殿下に手を差し出す。そこかしこに雑草が生えており、本来ならば殿下を連れてくるような場所ではないが仕方ない。
 歩き出す直前に、御者へ帰りの時刻を伝え馬車を戻す。
 物珍しそうな殿下の視線を追って、元宿屋を見上げた。

「ここで待ち合わせなの~?」

「そうです。さぁ、行きましょう」

 何かを期待しているかのような笑顔を向ける殿下に答え、宿屋の中へ進む。一階部分は正面に受付があり、その横が階段だ。階段横に設置された扉を抜ければ、食堂のような酒場と併設されている。
 センティンスは、その食堂の丸テーブルに座り私を待っていてくれた――。
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