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舞踏会⑤
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長い沈黙を破り、殿下が漸く口にしたそのお言葉に私は心底脱力した。
まさか、そんなことで……そう言いそうになりながら、なんとか立ち上がる。
「だって、寂しかったんだもん~」
あれか? 大事な事だから二回言いました的なやつか? わかった。私が悪かった。だから、とりあえずその顔はやめろ? 勘違いしちゃうだろ! 私がっ!!
大混乱な頭の中で、前世の自分と今世の自分が混ざり合い良くわからない状態に陥った私はどうにかこうにか平静を保った。
瞳を潤ませた殿下に対し、取り繕った真面目な表情で謝る。
方法はもう、それしかない……私に猶予など残されていないのだから。
「それは、すまなかった。どうか許して欲しい。一言、エルタンに伝えてから行くべきだったと反省している」
と、口にしながら頭の中では未だ、盛大に前世の魔法使いである私がヤバイ、マジでこの子ヤバイわーと言い続けていた。
何故このタイミングなのかはわからない。どうして、もっと違う時に出来てきてくれなかったのか……本当にタイミングが悪い。
「そうだわ。エル様! こんな時こそおねだりですわよ!」
天使の如き笑顔を浮かべた妹が、悪魔の如く殿下に囁く。私の妹は決して私の味方ではなかったようだ。
おねだりと言う言葉に、私は以前のキス要求を思い出す。まさか、人前では言わないだろうと思いつつ痛みが出るほど早くなる鼓動に、眩暈を覚えた。
「あ! うん。えっとね~。あのね~。ラー君に、お願いがあるんだ~」
モジモジと指先を顔の前で絡めて遊ぶ殿下が、チラチラと上目遣いに私を見やりお願いと言う残酷な命令を言葉にしようとする。
身分、性別、その他の関係を踏まえた上で、どう考えても拒否権はない。
「おおおおお、お願い? わ、わっわわわ、わたしで出来る事ならいい、いいいんだが」
余りの恐ろしさにカミカミになりながら、エルタンを見る。
頬を染め、何を命令するつもりなのか……その言葉を聞くのが恐ろしい。
「えっとね~。あのね~。学園に行くときに毎日一緒に登校したいなって思って~」
「へ?」
「だから~、登下校を一緒にしたいってお願いしてるんだよぅ~」
私の耳はついに、幻聴が聞こえるほどにおかしくなってしまったのだろうか? あの下ネタ満載でいつでも食うぞと言わんばかりだった殿下が、まさか、学園の登下校をお願いしてくるとは! 一体何があったんだ?!
ハッと思い当たった妹たちに視線を向けた。妹たちは、良くいったと言わんばかりに何度もうなずいている。これは、私の好みを熟知している妹たちによる殿下のための「殿下を私の好みの御令嬢化しましょう作戦」的なものが発動したのではないだろうか。
見つめる殿下の視線が頬に突き刺さりいい加減答えなければと思いつつ目を眇め妹たちを見ればグッと親指を立てられた。
何がグッドなんだ。妹たちよ……。
「ラー君。い、いや、だった?」
「嫌なんてとんでもない。エルタンが望むなら、登下校は勿論の事、昼休みも一緒に昼食を摂りましょう!」
わ、私は何を言っているんだー。お前は自分で自分を苦しめているだけじゃないか……。見た目が令嬢であろうとも、中身は男だと分かっているだろう? 甘いぞ、甘すぎるぞ、ライオネル!!
魔法使いが頭の中でツッコミを入れて来るが全てスルーする。仕方ないではないか、我が学園は貴族が多く通うのだ。それ故に、昼休みは婚約者と昼食をとるものが多い。そんな中、婚約を発表したばかりの私と殿下が別々に昼食を摂るなどかんがえられんだろうが!
私が自分で自分に言い訳をしていると殿下が「ほ、本当? いいの~? 嬉しい!」と言いながら、一歩半の距離を詰めて来た。そして「ラー君、大好き」と言いながらギュッと腰に抱きついてくる。盛られた胸が、胸に当たりドキドキと胸が高鳴った。
「まぁ」「あらぁ~」と妹たちは実に楽しそうな声をあげ、私たち二人に微笑ましい腐った眼を向けて来る。周囲のご令嬢たちは実に暖かな目で私たちを見守っていた。
そんな中、殺意にも似た何かを感じた私はハッと顔を上げる。気付かれないよう殿下の耳元に顔を寄せ、視線を巡らせた。
そのついでに「エルタン。人前だから、ほどほどに」と、小さな声で囁く。
――見つけた。やはり彼女か。
左斜め後ろから、件の令嬢メリシアが、指の爪を噛みこちらをい殺さんばかりに私たちを睨みつけていた。
前日の殿下の私室無断訪問の件で、まだ謹慎中のはずの彼女がどうやってこの場にいるのか謎だ。それよりもあの眼の意味はなんだ? 彼女は殿下に恋情を抱いているのではないのか? それにしては、殿下諸共と言う感じがするな。彼女と殿下の過去か……これもまた調べてみる必要がありそうだ。
それよりも、気になるのは彼女がここに居る状況だ。謹慎を言い渡された彼女が、堂々と城の舞踏会にこんなに簡単に入り込めることに感嘆するべきなのか、呆れるべきなのか……うーむ。
「ラー君。どうしたの~?」
彼女の目的について考えていたはずが、別の方向に思考がいっていた私に殿下の声が呼びかける。その声に思考を切り殿下の方へと意識を向けた。
まさか、そんなことで……そう言いそうになりながら、なんとか立ち上がる。
「だって、寂しかったんだもん~」
あれか? 大事な事だから二回言いました的なやつか? わかった。私が悪かった。だから、とりあえずその顔はやめろ? 勘違いしちゃうだろ! 私がっ!!
大混乱な頭の中で、前世の自分と今世の自分が混ざり合い良くわからない状態に陥った私はどうにかこうにか平静を保った。
瞳を潤ませた殿下に対し、取り繕った真面目な表情で謝る。
方法はもう、それしかない……私に猶予など残されていないのだから。
「それは、すまなかった。どうか許して欲しい。一言、エルタンに伝えてから行くべきだったと反省している」
と、口にしながら頭の中では未だ、盛大に前世の魔法使いである私がヤバイ、マジでこの子ヤバイわーと言い続けていた。
何故このタイミングなのかはわからない。どうして、もっと違う時に出来てきてくれなかったのか……本当にタイミングが悪い。
「そうだわ。エル様! こんな時こそおねだりですわよ!」
天使の如き笑顔を浮かべた妹が、悪魔の如く殿下に囁く。私の妹は決して私の味方ではなかったようだ。
おねだりと言う言葉に、私は以前のキス要求を思い出す。まさか、人前では言わないだろうと思いつつ痛みが出るほど早くなる鼓動に、眩暈を覚えた。
「あ! うん。えっとね~。あのね~。ラー君に、お願いがあるんだ~」
モジモジと指先を顔の前で絡めて遊ぶ殿下が、チラチラと上目遣いに私を見やりお願いと言う残酷な命令を言葉にしようとする。
身分、性別、その他の関係を踏まえた上で、どう考えても拒否権はない。
「おおおおお、お願い? わ、わっわわわ、わたしで出来る事ならいい、いいいんだが」
余りの恐ろしさにカミカミになりながら、エルタンを見る。
頬を染め、何を命令するつもりなのか……その言葉を聞くのが恐ろしい。
「えっとね~。あのね~。学園に行くときに毎日一緒に登校したいなって思って~」
「へ?」
「だから~、登下校を一緒にしたいってお願いしてるんだよぅ~」
私の耳はついに、幻聴が聞こえるほどにおかしくなってしまったのだろうか? あの下ネタ満載でいつでも食うぞと言わんばかりだった殿下が、まさか、学園の登下校をお願いしてくるとは! 一体何があったんだ?!
ハッと思い当たった妹たちに視線を向けた。妹たちは、良くいったと言わんばかりに何度もうなずいている。これは、私の好みを熟知している妹たちによる殿下のための「殿下を私の好みの御令嬢化しましょう作戦」的なものが発動したのではないだろうか。
見つめる殿下の視線が頬に突き刺さりいい加減答えなければと思いつつ目を眇め妹たちを見ればグッと親指を立てられた。
何がグッドなんだ。妹たちよ……。
「ラー君。い、いや、だった?」
「嫌なんてとんでもない。エルタンが望むなら、登下校は勿論の事、昼休みも一緒に昼食を摂りましょう!」
わ、私は何を言っているんだー。お前は自分で自分を苦しめているだけじゃないか……。見た目が令嬢であろうとも、中身は男だと分かっているだろう? 甘いぞ、甘すぎるぞ、ライオネル!!
魔法使いが頭の中でツッコミを入れて来るが全てスルーする。仕方ないではないか、我が学園は貴族が多く通うのだ。それ故に、昼休みは婚約者と昼食をとるものが多い。そんな中、婚約を発表したばかりの私と殿下が別々に昼食を摂るなどかんがえられんだろうが!
私が自分で自分に言い訳をしていると殿下が「ほ、本当? いいの~? 嬉しい!」と言いながら、一歩半の距離を詰めて来た。そして「ラー君、大好き」と言いながらギュッと腰に抱きついてくる。盛られた胸が、胸に当たりドキドキと胸が高鳴った。
「まぁ」「あらぁ~」と妹たちは実に楽しそうな声をあげ、私たち二人に微笑ましい腐った眼を向けて来る。周囲のご令嬢たちは実に暖かな目で私たちを見守っていた。
そんな中、殺意にも似た何かを感じた私はハッと顔を上げる。気付かれないよう殿下の耳元に顔を寄せ、視線を巡らせた。
そのついでに「エルタン。人前だから、ほどほどに」と、小さな声で囁く。
――見つけた。やはり彼女か。
左斜め後ろから、件の令嬢メリシアが、指の爪を噛みこちらをい殺さんばかりに私たちを睨みつけていた。
前日の殿下の私室無断訪問の件で、まだ謹慎中のはずの彼女がどうやってこの場にいるのか謎だ。それよりもあの眼の意味はなんだ? 彼女は殿下に恋情を抱いているのではないのか? それにしては、殿下諸共と言う感じがするな。彼女と殿下の過去か……これもまた調べてみる必要がありそうだ。
それよりも、気になるのは彼女がここに居る状況だ。謹慎を言い渡された彼女が、堂々と城の舞踏会にこんなに簡単に入り込めることに感嘆するべきなのか、呆れるべきなのか……うーむ。
「ラー君。どうしたの~?」
彼女の目的について考えていたはずが、別の方向に思考がいっていた私に殿下の声が呼びかける。その声に思考を切り殿下の方へと意識を向けた。
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