前世の記憶がよみがえった日、私の全ては詰んだ。 ~公爵家嫡男は、付いてる婚約者に日々迫られる~

ao_narou

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舞踏会④

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 私が声をかけるよりも早く、下の妹レクシアが気付いたようで「お兄様?」と声をかけて来る。それに答え片手を挙げた途端、上の妹ミュリアルが殿下へと駆け寄った。

「いや~ん。お肌モチモチですわ~」

「もう、お姉さまズルいですわ! わたくしもお話しがしたいです!」

「あ、ありがとう~?」

 妹たちは私の婚約者が男だと知っているはずだ。なのに、こんなにスムーズにフレンドリーな会話に入れるとは、私よりもはるかに社交性に優れているのかもしれない。
 と、そんなことに関心している場合ではない、そう思いなおした私は、挨拶をするべく妹たちを促した。

「お初におめにかかりますわ。わたくし、ライオネルお兄様の妹でミュリアル・ヴィ・ルクセルドですわ。王女殿下とは同い年になります。どうぞ、これから姉妹として仲良くしてくださいませ」

 カーテシーを披露したミュリアルが殿下に挨拶をする。続いてとばかりに、レクシアが挨拶を始めた。

「同じく、お初におめにかかります。わたくしは、二人の妹にあたりますレクシアでございます。王女殿下より二つ下になりますの。どうぞ、可愛がってくださいませ」

 レクシアの可愛がってくださいませと言う言葉に含みを感じる。カーテシーから顔を上げた彼女にジト目を向ければ無言のまま視線を逸らされた。
 妹の含みに、これは注意するべき事だと思った私は、頭のメモにレクシア注意と書き足した。

「ふふっ。初めまして、二人とも凄く可愛いね~。僕、ラー君と結婚したらこんな可愛い妹が出来るんだね~。嬉しい! 二人とも仲良くしてね」

 二人の手を握り喜ぶ殿下に、妹たちも直ぐに打ち解ける――元から打ち解けていた気もするが……殿下は気にしていないようだし、私も気にするのを止めよう。
 
「よう。ライオネル」

 聞き知った声に名を呼ばれ、そちらを向いた。
 片手を挙げた学友――センティンス・バークレズの姿に、私は調べるべき事を思い出し駆け寄る。

「久しぶりだな、センティンス」

「あぁ、本当に」

 握手を交わしながらセンティンスと挨拶を交わす。殿下の方をチラリと見れば妹たちのグループに入り楽しく話しているようだ。
 少しなら妹たちに任せても問題ないだろう。

「センティンス、お前に手紙を出そうと思っていたんだ。確か、お前の父上は騎士団の団長だったよな?」

「おぉ、そうだが、何かあったのか?」

「あぁ、是非お前に……」

 声は潜めていたものの婚約を発表したばかりの私たちには常に注目が集まりやすく、聞き耳を立てられている可能性が高い。そのため、人が多いこんな場所で六年前の事件について話す事はできないと躊躇った。

 そんな私の言動に目を細めたセンティンスは「明日の昼、いつもの場所でいいか?」と、聞き直す。
 明日と言うセンティンスの言葉に脳内で明日の予定を振り返る。殿下と会う予定はないし、特に急ぎの用事もないため問題はない。

「あぁ、それで頼む」

 私の答えに真面目な顔で頷いたセンティンスは、不意に纏う空気を変化させ「まさか、真面目だけが取り柄のお前が王女様を射止めるとはなぁ~」と、お道化た。
 聞き耳を立てていた周囲の貴族たちが、私とセンティンスの会話にスッと去っていく。
 その背中を見ながら私たちは、二人揃って苦笑いを浮かべた、

 その後、センティンスと雑談と言う名の社交的会話を交わし、殿下の元へ戻る。見るからに頬を膨らませぶー垂れる殿下の表情に、何事かと首を傾げ妹たちへ視線を向けた。

「お兄様、わたくしたちを見られても困りますわ」

「そうですわ! もとはと言えば、お兄様がエル様を放っておいたのが原因ですもの」

 目が合った瞬間、二人の妹に同時に困り顔をされてしまう。
 殿下を放っておいたとは……どういうことだ? 私が、センティンスと話していたのは僅か数分のことであり、そんなに長く殿下から離れていたわけではない。

「むぅぅ」

「えっと……ど、どうしたんだ?」

 怒りの理由を思いつけず、殿下にその理由を尋ねようと視線を合わせる。だが、殿下はプイっとそっぽを向き答える気がないようだ。
 さて、どうしたものか……? 王女殿下と言う身分の婚約者を、このまま放置する事は流石に周囲の耳目があるため出来ない。あの令嬢もいた事だしな。

 必死に考えを巡らせ、いい方法を思いつく。が、この方法は己の羞恥心と自尊心? ――男にこれをやるのかと言う心の葛藤を及ぼすものだった。

 自分を殺してでもやるしかない。羞恥がなんだ! 男がなんだ! 今殿下の見た目は令嬢だ。いける、私は出来る! 

 負けそうになる心を奮い立たせ、どこぞのホストの如く跪き、エルタンの右手を取ると指で気に触れるかどうかのキスを落とす。そして、懇願するように「エルタン。理由を教えてくれないか?」と彼の瞳を見つめた。

「ラー君がっ、か、か、かっこいいぃぃぃ!」

 ブスくれた表情から一転、カーっと頬を染めた殿下が最初に発した言葉がこれだった。やりすぎてしまったか、とは思いつつも今更後に引けない私は気を持ち直す。

「それで、エルタンはどうして、あんな顔をしていたんだ? 私に不服があるなら是非その思いを私にぶつけて欲しいな」

 出来る限り引きつらないよう表情に気を付けながらエルタンを見上げた――。
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