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舞踏会②
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「らぁーーーーーくぅーーーん!!」
殿下の声に顔を向ければ、扉から淡いブルーのドレスを纏った可愛らしいご令嬢が走り寄る。後二歩の所で立ち止まった彼女は、クルリと一回転してみせると「似合うぅ~?」と殿下の声で聴いて来た。
「あ、もしかして、エルタン?」
「そぉだよぅぅ!」
淡いブルーのドレスは、ドレープをたっぷりと。胸元や腕には、同じ色合いのレースがびっしりと。そして、髪は軽く結い上げられて、私の瞳の色のリボンで纏められていた。
ぶっちゃけ、似合いすぎて怖い。このまま本当に、女になってしまうのではないかと疑うほど、似合いすぎている。まさかとは思うが、一生女装する訳じゃないよな?
「それで、似合う~?」
「そうだな。似合うとは思うが、声と見た目の違和感がヤバイ」
「やばい~って何~?」
つい、本音を駄々洩れさせた私に殿下は、首を傾げる。
ヤバイと言う言葉は、日本時代の言葉であり、この国この世界では一切使われていない。ヤラカシタ感満載の私は、取り急ぎどうにか会話を流す方向で話題を提供するため頭をフル回転させた。
そうしている内に、王族の入場時間になったのか侍従が部屋を訪れる。
「国王陛下、並びに王妃陛下、そして、殿下方とご婚約者の皆様はどうぞ、続きの間へご移動ください」
「わかった。ところで、エグゼルドの方は準備が整っているのだろうな?」
「はい。先ほど、ご婚約者様ならびにエグゼルド殿下も続きの間へと向かわれました」
「ならばよい」
侍従と軽く会話を交わした国王陛下が王妃陛下を伴い立ち上がる。それに合わせ、室内にいた、エールシャ第二王子と婚約者の――リーグランド伯爵家の令嬢ミルヴィナが続いた。最後に私と女装した殿下が続き、王城を歩く。
涼やかな夜の風がふわりと廊下を吹き抜ける。見上げた空には、青い月が昇り星々が瞬いていた。
「今日は、涼しいね~。僕、スカートって始めてだけど、すーすーするよぅ~」
せっかくの良い夜なのに、殿下のこの一言で風情が全て吹っ飛ぶ。
「エルタン……そういうことは出来るだけ人前で言わないように。素性を隠すためにも、大事な事だろう?」
「うん~そうだねぇ~。わかったぁ~」
ビシッと指を突き出し殿下に伝えれば、意外にも素直な返事が返ってくる。それに軽く驚くもいい傾向だと考えた。
これから殿下は、学園で過ごす事になる。しかも女装したままだ。いずれ、犯人が捕まり婚姻を済ませれば、元の姿に戻るだろうが……それまでは、何としてでも女性だと周囲に思わせなければならない。果たして私に、殿下をサポートする事ができだろうか? 不安だ……。
続きの間へ到着した私たちは、再び侍従に呼ばれるまで扉の向こうのざわめきを聞きつつ紅茶を飲んだ。
既に到着していた王太子殿下は、柔らかな笑みが似合うイケメンで知的な印象を受ける。婚約者となった五大公爵家の一つ、マウトーレ公爵家の令嬢フィスターニ嬢と良く似合っていると思えた。
ただし、王太子殿下は二人の出会いから、恋に至った理由。そして、婚約までを永遠に話し続けるほど、恋バナを好む方であったらしく。侍従に呼ばれるまでの間、私が生贄にされた。
二人の事を要約すれば、学園で知り合ったらしい二人は人知れず逢瀬を重ね。思い合った恋人同士であり恋愛結婚をするそうだ。と二行で纏まるほどの事だ!
なのに、王太子と来たら……永遠と一時間近くも語り続け、その挙句、最後には私を無視して婚約者とイチャコラし始める始末。
もう、マジでいい加減にして欲しい。せめて、せめて、誰か一人でもまともな王族はいないものだろうか?
私が王太子殿下を相手にしている間、私の婚約者である殿下の頬がずっとぷっくりと膨らみっぱなしです。正直なところどうしたらいいのかわからない現在――舞踏会場の王族用の席の一角で、真面目な――まともな陛下の挨拶を聞いている。
今回の舞踏会に招待された貴族はほぼ全員参加しているそうで、規模的に八百人~千人ほどがいるよと聞いた。
有難い陛下のお言葉を無視するようで申し訳ないと思いながら、壇上から会場内を見回した私はこの場にいるはずのない令嬢を見かけ眉間に皺を寄せた。
確か彼女は現在謹慎中のはずだ。どうしてここにいる。また殿下に何かするつもりなのだろうか? こういう場合、やはり殿下の身を優先させて警備の騎士に伝えておくべきだろう。
そう思考が纏まりかけた刹那、陛下の声が私と殿下――王女の名を告げた。
「王太子の婚約と共に、今回、もう一人。我が娘、エルシアが良き婚約者に恵まれた。その相手は、ライオネル・ヴィ・ルクセルドである。さぁ、二人ともこちらへ来て皆に挨拶を――」
陛下の手招きに頷き、殿下と共に前へ出る。
「この度、わたくしエルシア・フォン・アーツブルグスの成人をもって、こちらのライオネル・ヴィ・ルクセルド様と婚約させて頂きましたことをここにご報告させて頂きます」
「ライオネル・ヴィ・ルクセルドでございます。エルシア・フォン・アーツブルグス様との婚約をここにご報告いたします」
この国では観衆の前で互いに名を名乗り合い、婚約を報告する。そうすることで、二人が――殿下と私が婚約者である事が周知され、認められる。
無事口上も終わり、陛下の「今宵は、大いに楽しみ、二組の婚約を祝って欲しい」と言う乾杯の音頭で舞踏会は幕を開けた――。
殿下の声に顔を向ければ、扉から淡いブルーのドレスを纏った可愛らしいご令嬢が走り寄る。後二歩の所で立ち止まった彼女は、クルリと一回転してみせると「似合うぅ~?」と殿下の声で聴いて来た。
「あ、もしかして、エルタン?」
「そぉだよぅぅ!」
淡いブルーのドレスは、ドレープをたっぷりと。胸元や腕には、同じ色合いのレースがびっしりと。そして、髪は軽く結い上げられて、私の瞳の色のリボンで纏められていた。
ぶっちゃけ、似合いすぎて怖い。このまま本当に、女になってしまうのではないかと疑うほど、似合いすぎている。まさかとは思うが、一生女装する訳じゃないよな?
「それで、似合う~?」
「そうだな。似合うとは思うが、声と見た目の違和感がヤバイ」
「やばい~って何~?」
つい、本音を駄々洩れさせた私に殿下は、首を傾げる。
ヤバイと言う言葉は、日本時代の言葉であり、この国この世界では一切使われていない。ヤラカシタ感満載の私は、取り急ぎどうにか会話を流す方向で話題を提供するため頭をフル回転させた。
そうしている内に、王族の入場時間になったのか侍従が部屋を訪れる。
「国王陛下、並びに王妃陛下、そして、殿下方とご婚約者の皆様はどうぞ、続きの間へご移動ください」
「わかった。ところで、エグゼルドの方は準備が整っているのだろうな?」
「はい。先ほど、ご婚約者様ならびにエグゼルド殿下も続きの間へと向かわれました」
「ならばよい」
侍従と軽く会話を交わした国王陛下が王妃陛下を伴い立ち上がる。それに合わせ、室内にいた、エールシャ第二王子と婚約者の――リーグランド伯爵家の令嬢ミルヴィナが続いた。最後に私と女装した殿下が続き、王城を歩く。
涼やかな夜の風がふわりと廊下を吹き抜ける。見上げた空には、青い月が昇り星々が瞬いていた。
「今日は、涼しいね~。僕、スカートって始めてだけど、すーすーするよぅ~」
せっかくの良い夜なのに、殿下のこの一言で風情が全て吹っ飛ぶ。
「エルタン……そういうことは出来るだけ人前で言わないように。素性を隠すためにも、大事な事だろう?」
「うん~そうだねぇ~。わかったぁ~」
ビシッと指を突き出し殿下に伝えれば、意外にも素直な返事が返ってくる。それに軽く驚くもいい傾向だと考えた。
これから殿下は、学園で過ごす事になる。しかも女装したままだ。いずれ、犯人が捕まり婚姻を済ませれば、元の姿に戻るだろうが……それまでは、何としてでも女性だと周囲に思わせなければならない。果たして私に、殿下をサポートする事ができだろうか? 不安だ……。
続きの間へ到着した私たちは、再び侍従に呼ばれるまで扉の向こうのざわめきを聞きつつ紅茶を飲んだ。
既に到着していた王太子殿下は、柔らかな笑みが似合うイケメンで知的な印象を受ける。婚約者となった五大公爵家の一つ、マウトーレ公爵家の令嬢フィスターニ嬢と良く似合っていると思えた。
ただし、王太子殿下は二人の出会いから、恋に至った理由。そして、婚約までを永遠に話し続けるほど、恋バナを好む方であったらしく。侍従に呼ばれるまでの間、私が生贄にされた。
二人の事を要約すれば、学園で知り合ったらしい二人は人知れず逢瀬を重ね。思い合った恋人同士であり恋愛結婚をするそうだ。と二行で纏まるほどの事だ!
なのに、王太子と来たら……永遠と一時間近くも語り続け、その挙句、最後には私を無視して婚約者とイチャコラし始める始末。
もう、マジでいい加減にして欲しい。せめて、せめて、誰か一人でもまともな王族はいないものだろうか?
私が王太子殿下を相手にしている間、私の婚約者である殿下の頬がずっとぷっくりと膨らみっぱなしです。正直なところどうしたらいいのかわからない現在――舞踏会場の王族用の席の一角で、真面目な――まともな陛下の挨拶を聞いている。
今回の舞踏会に招待された貴族はほぼ全員参加しているそうで、規模的に八百人~千人ほどがいるよと聞いた。
有難い陛下のお言葉を無視するようで申し訳ないと思いながら、壇上から会場内を見回した私はこの場にいるはずのない令嬢を見かけ眉間に皺を寄せた。
確か彼女は現在謹慎中のはずだ。どうしてここにいる。また殿下に何かするつもりなのだろうか? こういう場合、やはり殿下の身を優先させて警備の騎士に伝えておくべきだろう。
そう思考が纏まりかけた刹那、陛下の声が私と殿下――王女の名を告げた。
「王太子の婚約と共に、今回、もう一人。我が娘、エルシアが良き婚約者に恵まれた。その相手は、ライオネル・ヴィ・ルクセルドである。さぁ、二人ともこちらへ来て皆に挨拶を――」
陛下の手招きに頷き、殿下と共に前へ出る。
「この度、わたくしエルシア・フォン・アーツブルグスの成人をもって、こちらのライオネル・ヴィ・ルクセルド様と婚約させて頂きましたことをここにご報告させて頂きます」
「ライオネル・ヴィ・ルクセルドでございます。エルシア・フォン・アーツブルグス様との婚約をここにご報告いたします」
この国では観衆の前で互いに名を名乗り合い、婚約を報告する。そうすることで、二人が――殿下と私が婚約者である事が周知され、認められる。
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