1 / 18
人生が詰んだ日
しおりを挟む
その日、来週に控えたテスト勉強のせいで寝不だった私は、寝起き早々ベットから転げ落ち頭を強打してしまう。痛みに呻く私の頭に、突然、知りえるはずのない光景と記憶が駆け巡った。
日本と言う国の新宿二丁目にあるゲイタウンと呼ばれる場所で、私は”野薔薇ちゃん”と言うホステスとしてラウンジ花園と言うゲイバーで働いていた。
「……じょ、冗談でしょ! あたしがっ……違う、私が何故ゲイバーなんかで!!」
受け入れがたい前世の記憶を思い出してしまった。正直、この記憶の全てを無かったことにしたい。………そうだ、無かった事にしよう。
「ライオネル様。お目覚めですか?」
「えぇ、起きているわ――!! っ、起きている。身支度を頼む」
「畏まりました」
不振顔で見る側付のチェロスに気付かないフリをして、顔を洗い、歯を磨き終えると学園の制服に袖を通す。朝食を摂るため一階の食堂へと赴けば、既に両親が揃って座っていた。「遅くなりました」と謝罪しつつ、自分の席へと付いた。
「気にするな」と言う父は、既に食事を終えたのかナプキンを手に口元を拭う。一方で「あら、今日も素敵ね、ライ」と眩しいほどの笑顔を浮かべた母は、淑女らしく音を立てずに両手に持ったカトラリーを動かしていた。
「父上、母上、おはようございます。母上は今日もお美しいですね」
自分の母であろうと紳士たるもの褒めるのが基本だ。幼い頃からついている講師にそう教わった。
「うふふ。ありがとう」
嬉しそうに微笑んだ母に、満足した私は運ばれてきた朝食に手をつける。
「そうだった。ライオネル、お前の婚約者が決まった」
唐突にそう告げた父に、手を止め視線を向けた。
婚約者が決まったと言うそのたった一言の言葉が重い。父はただ、私が言った通りに婚約者を選んだだけなのに……。
私の年齢が十八になった数週間前、父からそろそろ相手を決める時期だと言われた。
だが、私自身、思う相手もいなければ結婚に関して然程興味も無かった。それでも貴族だから、家のため妻となるべき人を迎えなければならない事は十分に理解している。
そこで私は、特に気にすることなく父に相手を見繕ってくれるよう頼んだ。
そう、確かに頼んだ。なのに、いざ婚約者が決まったと言われると、何故か気が落ち込んだ。
「そうですか……」
「相手を聞かぬのか?」
「……ち、父上の決めた相手なら問題ないでしょう?」
「ふむ。そこまで信頼されているとは、父親冥利に尽きるな。だが、お前自身も知るべき事だと父は思うぞ?」
「確かに、そう、ですね。それで、私の相手は?」
「最高の相手だ。これ以上の方は居ない!」
胸を張り自分が決めた相手を誇る父に、一抹の不安を覚えた。
「それで、相手とは?」
「ふふ。聞いて驚け! なんと、第三王子エルタルト殿下だ!」
「………………ぇ?」
聞こえて来た言葉が理解できず、たっぷりと間を開けて聞き返してみるも、父は再び同じ言葉を吐いた。
その瞬間、私の人生は詰んだ――。
日本と言う国の新宿二丁目にあるゲイタウンと呼ばれる場所で、私は”野薔薇ちゃん”と言うホステスとしてラウンジ花園と言うゲイバーで働いていた。
「……じょ、冗談でしょ! あたしがっ……違う、私が何故ゲイバーなんかで!!」
受け入れがたい前世の記憶を思い出してしまった。正直、この記憶の全てを無かったことにしたい。………そうだ、無かった事にしよう。
「ライオネル様。お目覚めですか?」
「えぇ、起きているわ――!! っ、起きている。身支度を頼む」
「畏まりました」
不振顔で見る側付のチェロスに気付かないフリをして、顔を洗い、歯を磨き終えると学園の制服に袖を通す。朝食を摂るため一階の食堂へと赴けば、既に両親が揃って座っていた。「遅くなりました」と謝罪しつつ、自分の席へと付いた。
「気にするな」と言う父は、既に食事を終えたのかナプキンを手に口元を拭う。一方で「あら、今日も素敵ね、ライ」と眩しいほどの笑顔を浮かべた母は、淑女らしく音を立てずに両手に持ったカトラリーを動かしていた。
「父上、母上、おはようございます。母上は今日もお美しいですね」
自分の母であろうと紳士たるもの褒めるのが基本だ。幼い頃からついている講師にそう教わった。
「うふふ。ありがとう」
嬉しそうに微笑んだ母に、満足した私は運ばれてきた朝食に手をつける。
「そうだった。ライオネル、お前の婚約者が決まった」
唐突にそう告げた父に、手を止め視線を向けた。
婚約者が決まったと言うそのたった一言の言葉が重い。父はただ、私が言った通りに婚約者を選んだだけなのに……。
私の年齢が十八になった数週間前、父からそろそろ相手を決める時期だと言われた。
だが、私自身、思う相手もいなければ結婚に関して然程興味も無かった。それでも貴族だから、家のため妻となるべき人を迎えなければならない事は十分に理解している。
そこで私は、特に気にすることなく父に相手を見繕ってくれるよう頼んだ。
そう、確かに頼んだ。なのに、いざ婚約者が決まったと言われると、何故か気が落ち込んだ。
「そうですか……」
「相手を聞かぬのか?」
「……ち、父上の決めた相手なら問題ないでしょう?」
「ふむ。そこまで信頼されているとは、父親冥利に尽きるな。だが、お前自身も知るべき事だと父は思うぞ?」
「確かに、そう、ですね。それで、私の相手は?」
「最高の相手だ。これ以上の方は居ない!」
胸を張り自分が決めた相手を誇る父に、一抹の不安を覚えた。
「それで、相手とは?」
「ふふ。聞いて驚け! なんと、第三王子エルタルト殿下だ!」
「………………ぇ?」
聞こえて来た言葉が理解できず、たっぷりと間を開けて聞き返してみるも、父は再び同じ言葉を吐いた。
その瞬間、私の人生は詰んだ――。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿


勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる