前世の記憶がよみがえった日、私の全ては詰んだ。 ~公爵家嫡男は、付いてる婚約者に日々迫られる~

ao_narou

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人生が詰んだ日

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 その日、来週に控えたテスト勉強のせいで寝不だった私は、寝起き早々ベットから転げ落ち頭を強打してしまう。痛みに呻く私の頭に、突然、知りえるはずのない光景と記憶が駆け巡った。

 日本と言う国の新宿二丁目にあるゲイタウンと呼ばれる場所で、私は”野薔薇ちゃん”と言うホステスとしてラウンジ花園と言うゲイバーで働いていた。

「……じょ、冗談でしょ! あたしがっ……違う、私が何故ゲイバーなんかで!!」

 受け入れがたい前世の記憶を思い出してしまった。正直、この記憶の全てを無かったことにしたい。………そうだ、無かった事にしよう。

「ライオネル様。お目覚めですか?」
「えぇ、起きているわ――!! っ、起きている。身支度を頼む」
「畏まりました」

 不振顔で見る側付のチェロスに気付かないフリをして、顔を洗い、歯を磨き終えると学園の制服に袖を通す。朝食を摂るため一階の食堂へと赴けば、既に両親が揃って座っていた。「遅くなりました」と謝罪しつつ、自分の席へと付いた。

「気にするな」と言う父は、既に食事を終えたのかナプキンを手に口元を拭う。一方で「あら、今日も素敵ね、ライ」と眩しいほどの笑顔を浮かべた母は、淑女らしく音を立てずに両手に持ったカトラリーを動かしていた。

「父上、母上、おはようございます。母上は今日もお美しいですね」

 自分の母であろうと紳士たるもの褒めるのが基本だ。幼い頃からついている講師にそう教わった。

「うふふ。ありがとう」

 嬉しそうに微笑んだ母に、満足した私は運ばれてきた朝食に手をつける。

「そうだった。ライオネル、お前の婚約者が決まった」

 唐突にそう告げた父に、手を止め視線を向けた。
 婚約者が決まったと言うそのたった一言の言葉が重い。父はただ、私が言った通りに婚約者を選んだだけなのに……。

 私の年齢が十八になった数週間前、父からそろそろ相手を決める時期だと言われた。
 だが、私自身、思う相手もいなければ結婚に関して然程興味も無かった。それでも貴族だから、家のため妻となるべき人を迎えなければならない事は十分に理解している。
 そこで私は、特に気にすることなく父に相手を見繕ってくれるよう頼んだ。
 そう、確かに頼んだ。なのに、いざ婚約者が決まったと言われると、何故か気が落ち込んだ。

「そうですか……」
「相手を聞かぬのか?」
「……ち、父上の決めた相手なら問題ないでしょう?」
「ふむ。そこまで信頼されているとは、父親冥利に尽きるな。だが、お前自身も知るべき事だと父は思うぞ?」
「確かに、そう、ですね。それで、私の相手は?」
「最高の相手だ。これ以上の方は居ない!」

 胸を張り自分が決めた相手を誇る父に、一抹の不安を覚えた。

「それで、相手とは?」
「ふふ。聞いて驚け! なんと、第三殿下だ!」
「………………ぇ?」

 聞こえて来た言葉が理解できず、たっぷりと間を開けて聞き返してみるも、父は再び同じ言葉を吐いた。
 その瞬間、私の人生は詰んだ――。
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