おれとばあちゃん

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 夕食で使われた食器を台所の流しに置いて水に浸しお風呂に入った。幼少期の記憶ではステンレス製だった風呂場も今では綺麗にリフォームされていて、昔はよく風呂場で虫を見かけて怖かったがそんな心配はもうしなくてよさそうだった。
 髪を乾かしてから二階に上がっておばあちゃんが用意してくれた布団に潜り込む。羽毛布団は柔らかくて軽くて、入った瞬間におれの身体を包み込んでくれ一瞬にして眠りに落ちた。
 窓から差し込む日差しが眩しくて目が覚めた。スズメの鳴き声がやけに近くに感じる。壁に掛けてある時計を見ると7時を過ぎたところだった。
「おはよう」
 瞼を擦りながら階段を降りていくと、割烹着を着たおばあちゃんが食間のテーブルで新聞を読んでいた。紫色のグラデーションが入った眼鏡をかけて。
「ご飯食べるやろ」
「うん」
「準備するから歯磨いてきんさい」
「うん」
 洗面台で歯を磨いているとお味噌汁の香りが漂ってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがと。いただきます」
 ご飯と味噌汁、焼き鮭と海苔、漬物が並んでいる食卓は純日本の生活をさせられている気がして少し笑えてきた。
「今日はどうするの」
「んー、とりあえずアルバイト探そうかな」
「たくさん働いてたくさん稼いでください」
「岐阜駅近くでなんかあるかな。やっぱり名古屋まで出た方がいいかな」
「あんた、自転車使う?」
「あると嬉しいかも」
「家にもう使ってないやつあるから、タイヤだけ修理しとこかしら」
「お願いします」
「私今日お父さんのとこ行ってくるから、これ家の鍵ね」
 おばあちゃんは戸棚から鍵を出してこちらに渡した。
 お父さん、というのはおれのおじいちゃんのことだ。お父さんのとこ、というのはつまり、おじいちゃんが入院している病院、ということだろう。
 おじいちゃんはおれがまだ小学生低学年の頃、ある日突然脳梗塞になり右半身が不随になった。おばあちゃん曰く、ある日、ご飯が出来たのでおじいちゃんを呼んだがなかなか来てくれる気配がなく、居間にいるおじいちゃんを見に行ったときにはすでに動かなくなっていたそうだ。
「おじいちゃんのところ行くならおれも付いていこかな」
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