おれとばあちゃん

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 岐阜駅に着いたときにはすでに陽は落ちきっていた。外に出ると記憶の中にあった田舎な風景とは違う、ちょっとお洒落で人がたくさんいて賑わう風景がそこにあった。
 スマホで地図を確認すると、今自分がいる場所は名鉄岐阜駅というところで、おばあちゃん家に行くにはJRの岐阜駅を抜けて更に南下しなければならないことが判明した。おれは長いエスカレーターを降り、仕事終わりのサラリーマンで賑わう飲み屋街を抜けていく。
 岐阜駅から南に真っ直ぐ伸びる道をひたすら歩き、何度か細い路地に入ってようやく懐かしい木造の家に辿り着く。玄関に付いている表札にはおじいちゃんの名前が書かれていて、ガラガラと音を立てて引き戸を開ける。
「おばあちゃーん」
 家の中に向かって叫ぶと中からすでに寝間着を着用したおばあちゃんがとことこ出迎えてくれた。
「遅かったねえ、私いつもならもうとっくに寝てる時間だよ」
「おばあちゃんいつも何時に寝てるの」
「7時か8時には布団の中にいるよ」
「早すぎる」
「ご飯食べるやろ、準備するから、荷物そこに置いときなさい」
「うん」
 自分の家とは違う、年季の入った家のにおい。広い玄関の中にはおばあちゃんの靴が2足とクロックスだけが並び、隅に使い古された原付が置いてある。
 廊下を進んだ突き当たりが台所兼食卓になっていて、テーブルの上には煮物とお浸しが準備されていた。
「ご飯とお味噌汁よそうから先に手洗ってきなさい」
 そう言ってガスコンロに火を点けたおばあちゃんを尻目に、おれは指示通り今歩いてきた廊下を引き返して洗面台で手を洗う。
「いただきます」
 煮物なんて食べるの久しぶりだなと思いながら箸でつつく。柔らかく煮込まれたカボチャが美味しい。
「あんた、急にどうしたの」
 その言葉でそういえばおばあちゃんには電話でいきなり家に泊めてとだけしか伝えていなかったことを思い出した。
「いや、別にどうもないんだけど、とりあえず大学休学して海外旅行に行こうかなって。親父に相談したらお金は出さないから自分で稼げって言われたから明日からバイト探して、貯金できたらどっか遊びに行くつもり」
「休学したの。せっかく入った大学を」
「うん、大学に問い合わせたら最長で二年間は休学できるらしいから、ゆっくりしようかなって」
「そりゃまあ大層なことで」
 お茶碗の中のご飯を食べ終わるとおばあちゃんが手を出してきた。空になった茶碗を渡すと二杯目がよそわれる。
「急に来るっていうから、今日慌ててお布団洗濯しといたよ」
「ありがと」
「もっと早めに連絡してくれればちゃんと用意しておくのに」
「いいよ適当で」
「ご飯食べたらお風呂入りなさい。パジャマはあるの」
「うん、スウェットある」
「そう。じゃあ私はもう寝るからね。バスタオルはそこにあるし、着替えは洗濯機の横にあるカゴの中に入れといてね」
 よっこいしょ、と声を出しながら立ち上がってよちよち歩きながら食間を出て行くおばあちゃんに、おやすみ、と声を掛けておれは残った味噌汁を胃に流し込んだ。
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