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レイヤー0-1・形は無いのに重い
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正月の三が日、お婆ちゃんの好意でいつもの4人が出揃っていた。
皆、各々の過ごし方があるとは思うのだけれど、大家であるお婆ちゃんの勧めは断れないみたい。たぶん、私に対する気遣いなのだと思う。現に、ご近所の子ども達とコマ遊びをしに行ってしまったわ。
年寄りの冷や水にならないと良いわね。
「ウメさんも強引だよねぇ。駆け込みで一作書ききったから寝正月にしたかったのに」
「ま、美味しいお酒と料理があるんだから文句を言ってもね」
良い大人はお猪口を傾け、昔懐かしいお節料理や雑煮に舌鼓。
龍生も日本酒ぐらいなら飲めるのだけれど、私より少し強いぐらいだからたまに徳利を受け取るだけ。私と言えば、礼儀として一杯だけ頂いた後は、代わりにアルコール度数3%の缶酎ハイで楽しんでいるわ。
ほろ酔い気分の男女が4人、何も起こらないはずがなく!
「流石にお腹に積んでくるし、他の肴はないかな?」
最初に言い出したのは片田さんだった。
出ているお腹の割に、あまり食べないのは単純に体質ってことなのかしら。まぁ、私達もそろそろお腹いっぱいなのよね。
「何を肴にするんで?」
「一年の抱負とかですか?」
二ノ宮さんと私が訊ねたけれど、そこまで考えてなかったみたい。
「うーん、それだとありきたりだからね。それに、この4人だと大体わかってるでしょ?」
「確かに」
片田さんの答えに龍生が声を上げ、私達もその通りだと頷いてみせた。では、一体何を話題にするのかを皆で話し合う。
ただうんうーんと唸っているだけなのだけれど、3人寄れば文殊の知恵とも言うわ。4人もいるなら良い案が出ると信じてる。
「笑えそうな話」
「大喜利というわけにも行かないっしょ」
「各々、被らずに話せそうな話題じゃないとですよねぇ」
「あー、今だからこそ話せる暴露話なんでどうでしょう?」
口々に出てくる情報を統合していった。
馬鹿げたことを面白おかしくとか、ちょっとした悪さ自慢くらいは正月の場だから許されると思って、私は何気なく提案したわ。
「あ、それ良いねぇ。良いねぇ」
「1つぐらい、汚点というか隠し事ぐらいあるからこの場を借りて懺悔も良いかもね」
「まぁ、うーん、良いんじゃないか?」
龍生だけはなんともはっきりしない返事をしたわ。まさか、話せることがないなんていうのかしら?
私だって、大学の課題で同じゼミの人から案を盗用したこともあるのよ。ちょっと参考にしたってくらいの話よ。ほんとに!
適当にクジを引いて、順番に話をしていったわ。
まず二ノ宮さんは、インターネット上の小説投稿サイトに上げた小説に一部盗作があったことを認めたわ。
爆笑を生むほどでもなかったものの、そこそこに苦笑を生み出した。私も続く盗用問題も合わせて、少しはお酒の肴になったわ。
次は片田さんなのだけれど、奥さんと別れた原因に浮気の疑惑があったことを話してくれた。それも、疑惑だけで事実ではなかったということらしい。
仕事の問題だけじゃなかったのね……。
「と、まぁ、僕もお金さえ渡しておけば良いって考えだったのが悪いんだろうけど」
「それは、なんとも、大変でしたね。やり直したいとか、再婚とかは考えないんですか?」
流石に指で指して笑えるような話ではなかったのだけれど、私と龍生のこれからを考えると参考になった。
だから、踏み込んだこととは思ったものの訊ねてみた。
「もうこの歳だからね。そんな気はないし、今の気楽な性格も気に入ってるから」
片田さんはそう答えて笑った。
本人が納得して、自分なりに生きていこうとしているなら私達が何かを言うべきではないわね。
「じゃあ、最後は龍生だ」
クジで4番目を引いた龍生に、二ノ宮さんの言葉で私達の視線が向いた。
他の皆の話を聞いている間も、パッとした反応をしなかったからやっぱり内容を決めあぐねていたのかと思った。のだけれど、どうやら話すか否かを悩んでいたみたい。
「こんな話をして良いのか。良いものじゃないんでしょうけど」
あ、これは結構な懺悔だわ。
重たい暴露になることをわかった上で、好奇心に負けて私は沈黙をもって先を促した。後の2人も興味津々のようだけれど、誰が勧めたわけでもないという悪しき日本人のやり方をとった。
誰が許可したかを曖昧にするつもりね。
「気持ちの良い話でもないし、俺のマジな罪を告白するものですから」
「……」「……」「……」
きっと、前置きがあっても止めなかったのはお酒の所為もあったのよ。
そして、時効さえ迎えていない本当の犯罪に関わった話に食いついた私達は、色々と飢えてたんでしょうね。クリスマスの1件以来、何もなかったから。
「今年の夏、仕事の合間に一人旅に出たのは知ってるはずだけど」
ポツポツと龍生は語り始めた。そんなこともあったと思い出せる程度で、詳しく土産話を聞いていないわね。
「その時、立ち寄った町……いや、村というか集落での話」
まるで怪談でも語るかのような切り出し方ね。区切り方もらしいわ。もしかして、私達を憚ろうとしているのかもしれないわね。
ここからは、龍生の語った内容を私なりに噛み砕いてまとめさせて貰うわ。
皆、各々の過ごし方があるとは思うのだけれど、大家であるお婆ちゃんの勧めは断れないみたい。たぶん、私に対する気遣いなのだと思う。現に、ご近所の子ども達とコマ遊びをしに行ってしまったわ。
年寄りの冷や水にならないと良いわね。
「ウメさんも強引だよねぇ。駆け込みで一作書ききったから寝正月にしたかったのに」
「ま、美味しいお酒と料理があるんだから文句を言ってもね」
良い大人はお猪口を傾け、昔懐かしいお節料理や雑煮に舌鼓。
龍生も日本酒ぐらいなら飲めるのだけれど、私より少し強いぐらいだからたまに徳利を受け取るだけ。私と言えば、礼儀として一杯だけ頂いた後は、代わりにアルコール度数3%の缶酎ハイで楽しんでいるわ。
ほろ酔い気分の男女が4人、何も起こらないはずがなく!
「流石にお腹に積んでくるし、他の肴はないかな?」
最初に言い出したのは片田さんだった。
出ているお腹の割に、あまり食べないのは単純に体質ってことなのかしら。まぁ、私達もそろそろお腹いっぱいなのよね。
「何を肴にするんで?」
「一年の抱負とかですか?」
二ノ宮さんと私が訊ねたけれど、そこまで考えてなかったみたい。
「うーん、それだとありきたりだからね。それに、この4人だと大体わかってるでしょ?」
「確かに」
片田さんの答えに龍生が声を上げ、私達もその通りだと頷いてみせた。では、一体何を話題にするのかを皆で話し合う。
ただうんうーんと唸っているだけなのだけれど、3人寄れば文殊の知恵とも言うわ。4人もいるなら良い案が出ると信じてる。
「笑えそうな話」
「大喜利というわけにも行かないっしょ」
「各々、被らずに話せそうな話題じゃないとですよねぇ」
「あー、今だからこそ話せる暴露話なんでどうでしょう?」
口々に出てくる情報を統合していった。
馬鹿げたことを面白おかしくとか、ちょっとした悪さ自慢くらいは正月の場だから許されると思って、私は何気なく提案したわ。
「あ、それ良いねぇ。良いねぇ」
「1つぐらい、汚点というか隠し事ぐらいあるからこの場を借りて懺悔も良いかもね」
「まぁ、うーん、良いんじゃないか?」
龍生だけはなんともはっきりしない返事をしたわ。まさか、話せることがないなんていうのかしら?
私だって、大学の課題で同じゼミの人から案を盗用したこともあるのよ。ちょっと参考にしたってくらいの話よ。ほんとに!
適当にクジを引いて、順番に話をしていったわ。
まず二ノ宮さんは、インターネット上の小説投稿サイトに上げた小説に一部盗作があったことを認めたわ。
爆笑を生むほどでもなかったものの、そこそこに苦笑を生み出した。私も続く盗用問題も合わせて、少しはお酒の肴になったわ。
次は片田さんなのだけれど、奥さんと別れた原因に浮気の疑惑があったことを話してくれた。それも、疑惑だけで事実ではなかったということらしい。
仕事の問題だけじゃなかったのね……。
「と、まぁ、僕もお金さえ渡しておけば良いって考えだったのが悪いんだろうけど」
「それは、なんとも、大変でしたね。やり直したいとか、再婚とかは考えないんですか?」
流石に指で指して笑えるような話ではなかったのだけれど、私と龍生のこれからを考えると参考になった。
だから、踏み込んだこととは思ったものの訊ねてみた。
「もうこの歳だからね。そんな気はないし、今の気楽な性格も気に入ってるから」
片田さんはそう答えて笑った。
本人が納得して、自分なりに生きていこうとしているなら私達が何かを言うべきではないわね。
「じゃあ、最後は龍生だ」
クジで4番目を引いた龍生に、二ノ宮さんの言葉で私達の視線が向いた。
他の皆の話を聞いている間も、パッとした反応をしなかったからやっぱり内容を決めあぐねていたのかと思った。のだけれど、どうやら話すか否かを悩んでいたみたい。
「こんな話をして良いのか。良いものじゃないんでしょうけど」
あ、これは結構な懺悔だわ。
重たい暴露になることをわかった上で、好奇心に負けて私は沈黙をもって先を促した。後の2人も興味津々のようだけれど、誰が勧めたわけでもないという悪しき日本人のやり方をとった。
誰が許可したかを曖昧にするつもりね。
「気持ちの良い話でもないし、俺のマジな罪を告白するものですから」
「……」「……」「……」
きっと、前置きがあっても止めなかったのはお酒の所為もあったのよ。
そして、時効さえ迎えていない本当の犯罪に関わった話に食いついた私達は、色々と飢えてたんでしょうね。クリスマスの1件以来、何もなかったから。
「今年の夏、仕事の合間に一人旅に出たのは知ってるはずだけど」
ポツポツと龍生は語り始めた。そんなこともあったと思い出せる程度で、詳しく土産話を聞いていないわね。
「その時、立ち寄った町……いや、村というか集落での話」
まるで怪談でも語るかのような切り出し方ね。区切り方もらしいわ。もしかして、私達を憚ろうとしているのかもしれないわね。
ここからは、龍生の語った内容を私なりに噛み砕いてまとめさせて貰うわ。
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