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レイヤー21・四足す四は1
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私達は現在、分岐点に立たされていた。
人生とかの懸かった選択ではないのだけれど、仕事を失う可能性は0ではないわ。
「片田さん、どうします?」
一番の犠牲者である龍生が、ディレクター担当の片田さんに問いかけた。
『Re:チェンジ』の能力が使える龍生こそが主導しなければならないのでしょうけれど、お金の管理をしているのが営業マン片田さんなのよね。そしてやはり、ノウハウを持っている人に任せたいと思うのが心情というものだわ。
二ノ宮さんもディレクターに任せるスタンスの様子。
「今日まで、納期1日前なんていうギリギリまで調べた結果ですからねぇ。送り込んだスパイからの情報でしょう?」
「そうだね。事実が語られた以上、疑わしきは罰せずというわけにもいかない」
恰幅の良い体を大きく沈めて、片田さんは少し辛そうに答えた。
奥さんと離婚した後、お金を稼ぐことだけが生きがいになった中年には辛い選択なんでしょうね。今日まで愛嬌と言葉を用いて逃げてきた相手側の契約違反から、顔を背けるべきではないと理解しているはず。
「このまま契約を履行すれば、向こうの世界は戦争になります」
私の意見としては、利益よりも自分達の矜持を優先したいと思った。元々それほど報酬は受け取っていなかったのもあるけれど、そうしないと二度と筆が持てないと思ったの。
自分達の描いた絵が原因で多くの命が失われるなら、数万や数十万のお金などいらない。これは、龍生や二ノ宮さんも同じ意見で固まった。
ちなみに、スパイの正体はアリホとリフール、そして最初の頃に龍生が描いた小さな女の子よ。
「理保の姉妹は形の上では虐げられていたし、リィーカは偵察兵としての技量を高くしてあります。まず、間違いはないはず」
「確実に、向こうの国王様は魔族兵を他国に向けるよ」
さらに龍生や二ノ宮さんのフォローが入る。
姉妹の陵辱がほとんど仕込みで、女の子リィーカちゃんに龍生が秘密の設定を加えていたのは、少し驚いたというか感心したわ。
「うん……少し考えさせてくれ。商人さんとだけなら、今後の付き合いもなんとかできるんだけど」
流石の片田さんも、ここは慎重に結論を出したい様子ね。
なにせ、国王という1つの大きな組織が商売に関わっていたのでは安易に断るわけにもいかないわ。二度とこちらとの仕事を打ち切る……どころか、商人さん自身が処罰されてしまうでしょう。
私達が無事なら良いというのも少し違う。
「わかりました」
「……」
「あー、クリスマスイブに暇ができるなんて」
三者三様の反応を見せて、私達はその日は解散することになった。
本当ならば明日の納期まで残りの絵を完成させるため缶詰の予定だったのだけれど、二ノ宮さんの言う通り時間が空いてしまった。現在が24日の昼を過ぎた頃で、正しくはイブでも何でもないのだけれど。
私はどうしものかと思案する。
「どうしようかしら」
「ま、僕は部屋で動画の続きでも」
フヘヘといやらしい冗談を言って、二ノ宮さんは自分の部屋へといそいそと帰って行った。いえ、私の姉妹を映したエッチな映像が残っている可能性はあるわ。
クリスマスパーティーをするという雰囲気でもなければ、お婆ちゃんは正月の準備の方が大事のようだし。昼食はチョココロネと牛乳というシンプルさだったから、夕飯くらいは奮発しても良いかもしれない。
「夕飯の買い物でも行こうかしら」
急で悪いとは言え誰か友達を遊びに誘うの…………はそもそも居ないので無理だわ。
片田さんも部屋に戻ってしまい、手持ち無沙汰になった私も龍生の部屋を出ようとする。別に、いつもみたいに挑発しているとかフリではないのよ?
「暇なら出かけようぜ」
「へ?」
予想だにしていなかった誘いに、私らしくもない間抜けな声が出てしまったわ。
考えてみれば、ほとんど強制わいせつ罪から始まった体の関係に、情にほだされるまま龍生の好きを受け止める形になったのよね。えっと、冬休みに入ってからは一度も体を重ねてないのは、彼もそういう意識があったからなんでしょうね。
「予約とかもしてないから、今日は大したところには入れないかもしれないけど」
「……えっと、まぁ、龍生の精一杯でも私は満足できるわよ。きっと?」
彼の言う通りクリスマス前の人混みに押し戻されそうだけれど、私も強がりで対応した。
「そうか! じゃあ、準備するから待ってくれ」
龍生はそう言うと、小さなタンスの中から服を探し始めた。
嘘ッ。あの龍生が身だしなみに気を使おうって言うの!? ホワイトクリスマスにでもなるんじゃないかしら?
いえ、問題はそこじゃないわね。
「わ、私だって準備ぐらいあるわよ……!」
いくら私のファッションセンスが地味で古臭いと言っても、人と出かけるための一張羅くらい持っている。えっと、それが、えっと。
「で、でで、デートッに着ていける服がないみたいなこと言わないで頂戴……!」
改めてこれからしようとしていることが、順番違いの逢瀬だと考えると顔が熱くなってきたわ。
いえ、身だしなみだけではなくてお婆ちゃんへの連絡とか、帰宅時間の相談だとか。そういうものも必要でしょう?
人生とかの懸かった選択ではないのだけれど、仕事を失う可能性は0ではないわ。
「片田さん、どうします?」
一番の犠牲者である龍生が、ディレクター担当の片田さんに問いかけた。
『Re:チェンジ』の能力が使える龍生こそが主導しなければならないのでしょうけれど、お金の管理をしているのが営業マン片田さんなのよね。そしてやはり、ノウハウを持っている人に任せたいと思うのが心情というものだわ。
二ノ宮さんもディレクターに任せるスタンスの様子。
「今日まで、納期1日前なんていうギリギリまで調べた結果ですからねぇ。送り込んだスパイからの情報でしょう?」
「そうだね。事実が語られた以上、疑わしきは罰せずというわけにもいかない」
恰幅の良い体を大きく沈めて、片田さんは少し辛そうに答えた。
奥さんと離婚した後、お金を稼ぐことだけが生きがいになった中年には辛い選択なんでしょうね。今日まで愛嬌と言葉を用いて逃げてきた相手側の契約違反から、顔を背けるべきではないと理解しているはず。
「このまま契約を履行すれば、向こうの世界は戦争になります」
私の意見としては、利益よりも自分達の矜持を優先したいと思った。元々それほど報酬は受け取っていなかったのもあるけれど、そうしないと二度と筆が持てないと思ったの。
自分達の描いた絵が原因で多くの命が失われるなら、数万や数十万のお金などいらない。これは、龍生や二ノ宮さんも同じ意見で固まった。
ちなみに、スパイの正体はアリホとリフール、そして最初の頃に龍生が描いた小さな女の子よ。
「理保の姉妹は形の上では虐げられていたし、リィーカは偵察兵としての技量を高くしてあります。まず、間違いはないはず」
「確実に、向こうの国王様は魔族兵を他国に向けるよ」
さらに龍生や二ノ宮さんのフォローが入る。
姉妹の陵辱がほとんど仕込みで、女の子リィーカちゃんに龍生が秘密の設定を加えていたのは、少し驚いたというか感心したわ。
「うん……少し考えさせてくれ。商人さんとだけなら、今後の付き合いもなんとかできるんだけど」
流石の片田さんも、ここは慎重に結論を出したい様子ね。
なにせ、国王という1つの大きな組織が商売に関わっていたのでは安易に断るわけにもいかないわ。二度とこちらとの仕事を打ち切る……どころか、商人さん自身が処罰されてしまうでしょう。
私達が無事なら良いというのも少し違う。
「わかりました」
「……」
「あー、クリスマスイブに暇ができるなんて」
三者三様の反応を見せて、私達はその日は解散することになった。
本当ならば明日の納期まで残りの絵を完成させるため缶詰の予定だったのだけれど、二ノ宮さんの言う通り時間が空いてしまった。現在が24日の昼を過ぎた頃で、正しくはイブでも何でもないのだけれど。
私はどうしものかと思案する。
「どうしようかしら」
「ま、僕は部屋で動画の続きでも」
フヘヘといやらしい冗談を言って、二ノ宮さんは自分の部屋へといそいそと帰って行った。いえ、私の姉妹を映したエッチな映像が残っている可能性はあるわ。
クリスマスパーティーをするという雰囲気でもなければ、お婆ちゃんは正月の準備の方が大事のようだし。昼食はチョココロネと牛乳というシンプルさだったから、夕飯くらいは奮発しても良いかもしれない。
「夕飯の買い物でも行こうかしら」
急で悪いとは言え誰か友達を遊びに誘うの…………はそもそも居ないので無理だわ。
片田さんも部屋に戻ってしまい、手持ち無沙汰になった私も龍生の部屋を出ようとする。別に、いつもみたいに挑発しているとかフリではないのよ?
「暇なら出かけようぜ」
「へ?」
予想だにしていなかった誘いに、私らしくもない間抜けな声が出てしまったわ。
考えてみれば、ほとんど強制わいせつ罪から始まった体の関係に、情にほだされるまま龍生の好きを受け止める形になったのよね。えっと、冬休みに入ってからは一度も体を重ねてないのは、彼もそういう意識があったからなんでしょうね。
「予約とかもしてないから、今日は大したところには入れないかもしれないけど」
「……えっと、まぁ、龍生の精一杯でも私は満足できるわよ。きっと?」
彼の言う通りクリスマス前の人混みに押し戻されそうだけれど、私も強がりで対応した。
「そうか! じゃあ、準備するから待ってくれ」
龍生はそう言うと、小さなタンスの中から服を探し始めた。
嘘ッ。あの龍生が身だしなみに気を使おうって言うの!? ホワイトクリスマスにでもなるんじゃないかしら?
いえ、問題はそこじゃないわね。
「わ、私だって準備ぐらいあるわよ……!」
いくら私のファッションセンスが地味で古臭いと言っても、人と出かけるための一張羅くらい持っている。えっと、それが、えっと。
「で、でで、デートッに着ていける服がないみたいなこと言わないで頂戴……!」
改めてこれからしようとしていることが、順番違いの逢瀬だと考えると顔が熱くなってきたわ。
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