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レイヤー3・薄っぺらいほど破れない3
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呆れながらも、龍生を学校へこさせるには仕事を手早く終わらせなければならない。
クリアケースの中腹、書類が入っている中では最後尾を捲ると、今回の仕事について書かれた用紙がある。
内容の冒頭を見ただけで、私は胸焼けを起こしたみたいなゲンナリとした表情になったわ……。鏡を見なくてもわかるわね。
「ご、ごじゅう、キャラというのは……?」
それよりも気にすべき点は多いのだけれど、私の目的を阻むのはそのノルマに注目した。
注文されているキャラクター数が50体とあるのよ。背景などが不要だとしても、1キャラクターをイラストとして描くのにどれほどの時間がかかるか、片田さんだってわかっているはずなのに。
「数は多いけど、『魔族兵』っていう鎧姿のモンスターだからさ。顔は判子絵で良いから」
「まぞく、へい、ね……。ちょっと髪型や顔のパーツを変えれば良いのね」
「そ。体格の差は縮小とかフォトショとかで何とか誤魔化せるでしょ?」
書類には回りくどい書き方をされているものの、概ね内容については私達が話した通りよ。
スマートフォンか何かで、パソコンの画像を撮影したであろう微妙にぼやけた写真も添付されている。そこにはねじれた日本の角を持ち合わせた兜と、重装甲の人型が映っているのだけれど、傍から聞いている人は何のことだかわからないでしょう。
龍生は、今から半年ほど前におかしな才能を手に入れたのよ。パソコンのダイレクトメールをうっかり開いた時に、その能力を得たって話なのだけれど。
「ベースを龍生が書けば、後は塗りだけでも7割は超えるわね。バイザー? から覗く顔の部分のペン入れまでを私がやるのね」
「そういうこと。フィルター掛けてパーツの色、肌色とか変えれば1つの顔面でじゅっキャラぐらいいけっしょ」
私の言う通り、龍生が現在使っているパソコンで7割以上の人物画を書いた場合に能力を発動できるわ。
直接見なければなまじ信じられない話なのだけれど、別世界のモンスターを変身させてしまえる。今回のように、鎧の中が人でなくとも人型を入れ込むことも。単純にマスコットのような動物にしてしまうこともできるし、完全な人外を人間のようにすることさえもね。
先ほどもアダルトビデオのような物を見ていたけれど、あれは別世界の商人さんの視点を借りて覗き込んでると思って頂戴。
あそこで映っていた女性も、もとあと言えば龍生が書き換えたヴァンパイアというモンスターよ。元の見た目は、コウモリ怪人みたいなのを想像するとわかりやすいわね。
作品によりけりなのかもしれないけれど、あちらの世界でも1体で国1つをひっくり返せるぐらいって話。
「なぁ、俺の『Re:チェンジ』があれば宝石も金も手に入る。学校なんて必要か?」
経緯を思い出している私に、龍生はまたしてもいらぬ話を蒸し返してきた。
確かに、彼が自称する能力『Re:チェンジ』を用いれば、あちらの世界の商人さんから金銀財宝を得られるわ。彼のパソコンが壊れるまでに何十回と取引可能。こちらの世界で物品の暴落でも起きない限りは、仕事で一生遊んで暮らせるぐらいの稼ぎは望めるでしょうね。
なら、わざわざ勉強してあくせくと働く将来を考えたいとは思わない。
「それは……」
個人的な理由を除けば、龍生の抱く感情論を否定できる言葉がなかった。
特に、キャラデザイン補佐という片棒を担いでいる状況では何を言っても無駄。
「ないだろ?」
念押しされて、私は沈黙を保つことしかできなかった。
なので黙って書類の束に目を落とし、整理をするしかない。きっと龍生は、勝ち誇った顔でふんぞり返っているわね。
「さぁって、仕事、仕事」
「あ……」
コタツ机に戻ろうとする彼との話は打ち切られた。かと思えば、私は書類の中から1枚の下書きを見つけた。
4ヶ月ほど前、始めて私が『Re:チェンジ』に関わる仕事を手伝った。その際に、私が描いた絵の下書きがこんなところに残されていたの。
正直、直視出来ない黒歴史だわ。
なにせキャラデザインの補佐をいきなり頼まれて、何をどう描けば良いのかわからなかった。だから、私自身をモデルにモンスターの擬人化を描いたのよ。
「ずいぶんと懐かしい物を」
「っ! み、見ないで頂戴よ!」
まだ座って居なかった龍生が、後から覗き込んできた。私は恥ずかしくて、慌てて用紙を小柄な体で隠した。
あぁ、もうッ! 羞恥心で暖房いらずだわ!
部屋に入った時に黒いケープコートは脱いだものの、灰色のフラネルのシャツもいらなくなった。
「捨てても良かったのに……」
「単に、忘れてただけ、だろ」
私が恥ずかしい思い出を残されたことに文句を言うと、龍生は他意はないと顔を逸してしまった。
そこで私は、さっきの言い負かされた仕返しと別の意味を持って、言葉を紡ぐ。
「ねぇ、これで変化したモンスターも、どうなったのか見たのでしょう?」
「……」
私の問いに答えこそなかったものの、沈黙を肯定として捉えたわ。
クリアケースの中腹、書類が入っている中では最後尾を捲ると、今回の仕事について書かれた用紙がある。
内容の冒頭を見ただけで、私は胸焼けを起こしたみたいなゲンナリとした表情になったわ……。鏡を見なくてもわかるわね。
「ご、ごじゅう、キャラというのは……?」
それよりも気にすべき点は多いのだけれど、私の目的を阻むのはそのノルマに注目した。
注文されているキャラクター数が50体とあるのよ。背景などが不要だとしても、1キャラクターをイラストとして描くのにどれほどの時間がかかるか、片田さんだってわかっているはずなのに。
「数は多いけど、『魔族兵』っていう鎧姿のモンスターだからさ。顔は判子絵で良いから」
「まぞく、へい、ね……。ちょっと髪型や顔のパーツを変えれば良いのね」
「そ。体格の差は縮小とかフォトショとかで何とか誤魔化せるでしょ?」
書類には回りくどい書き方をされているものの、概ね内容については私達が話した通りよ。
スマートフォンか何かで、パソコンの画像を撮影したであろう微妙にぼやけた写真も添付されている。そこにはねじれた日本の角を持ち合わせた兜と、重装甲の人型が映っているのだけれど、傍から聞いている人は何のことだかわからないでしょう。
龍生は、今から半年ほど前におかしな才能を手に入れたのよ。パソコンのダイレクトメールをうっかり開いた時に、その能力を得たって話なのだけれど。
「ベースを龍生が書けば、後は塗りだけでも7割は超えるわね。バイザー? から覗く顔の部分のペン入れまでを私がやるのね」
「そういうこと。フィルター掛けてパーツの色、肌色とか変えれば1つの顔面でじゅっキャラぐらいいけっしょ」
私の言う通り、龍生が現在使っているパソコンで7割以上の人物画を書いた場合に能力を発動できるわ。
直接見なければなまじ信じられない話なのだけれど、別世界のモンスターを変身させてしまえる。今回のように、鎧の中が人でなくとも人型を入れ込むことも。単純にマスコットのような動物にしてしまうこともできるし、完全な人外を人間のようにすることさえもね。
先ほどもアダルトビデオのような物を見ていたけれど、あれは別世界の商人さんの視点を借りて覗き込んでると思って頂戴。
あそこで映っていた女性も、もとあと言えば龍生が書き換えたヴァンパイアというモンスターよ。元の見た目は、コウモリ怪人みたいなのを想像するとわかりやすいわね。
作品によりけりなのかもしれないけれど、あちらの世界でも1体で国1つをひっくり返せるぐらいって話。
「なぁ、俺の『Re:チェンジ』があれば宝石も金も手に入る。学校なんて必要か?」
経緯を思い出している私に、龍生はまたしてもいらぬ話を蒸し返してきた。
確かに、彼が自称する能力『Re:チェンジ』を用いれば、あちらの世界の商人さんから金銀財宝を得られるわ。彼のパソコンが壊れるまでに何十回と取引可能。こちらの世界で物品の暴落でも起きない限りは、仕事で一生遊んで暮らせるぐらいの稼ぎは望めるでしょうね。
なら、わざわざ勉強してあくせくと働く将来を考えたいとは思わない。
「それは……」
個人的な理由を除けば、龍生の抱く感情論を否定できる言葉がなかった。
特に、キャラデザイン補佐という片棒を担いでいる状況では何を言っても無駄。
「ないだろ?」
念押しされて、私は沈黙を保つことしかできなかった。
なので黙って書類の束に目を落とし、整理をするしかない。きっと龍生は、勝ち誇った顔でふんぞり返っているわね。
「さぁって、仕事、仕事」
「あ……」
コタツ机に戻ろうとする彼との話は打ち切られた。かと思えば、私は書類の中から1枚の下書きを見つけた。
4ヶ月ほど前、始めて私が『Re:チェンジ』に関わる仕事を手伝った。その際に、私が描いた絵の下書きがこんなところに残されていたの。
正直、直視出来ない黒歴史だわ。
なにせキャラデザインの補佐をいきなり頼まれて、何をどう描けば良いのかわからなかった。だから、私自身をモデルにモンスターの擬人化を描いたのよ。
「ずいぶんと懐かしい物を」
「っ! み、見ないで頂戴よ!」
まだ座って居なかった龍生が、後から覗き込んできた。私は恥ずかしくて、慌てて用紙を小柄な体で隠した。
あぁ、もうッ! 羞恥心で暖房いらずだわ!
部屋に入った時に黒いケープコートは脱いだものの、灰色のフラネルのシャツもいらなくなった。
「捨てても良かったのに……」
「単に、忘れてただけ、だろ」
私が恥ずかしい思い出を残されたことに文句を言うと、龍生は他意はないと顔を逸してしまった。
そこで私は、さっきの言い負かされた仕返しと別の意味を持って、言葉を紡ぐ。
「ねぇ、これで変化したモンスターも、どうなったのか見たのでしょう?」
「……」
私の問いに答えこそなかったものの、沈黙を肯定として捉えたわ。
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