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FILE1.痴漢幽霊騒動

その1‐1

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 天気は快晴。前日の雨で不快指数は100%だろう。
 日が照らすのは、どこにでもある住宅地のどこにでもある自宅兼用の事務所。入り口に『阿藤探偵事務所』の看板が飾られていることを除けば特筆するところのない家屋だ。
 着崩したサマースーツに身を包んだ大柄な男性が、買い物袋を抱えて中に入っていった。フォーマルな見た目でこそないのが、余計にインフォーマルに見えてしまう生活感である。鍵を出し入れする間も、筋骨は大荷物を軽々と支える。

「帰ったぜー」

 自宅と変わらない勝手知ったる態度で帰宅を告げた。見た目こそ威圧感を少しばかり与えるものの、どこか愛嬌のある間延びした声音である。
 その彼こそが阿藤あとう 零士れいじである。職業は私立探偵。

「お帰りなさい、零士君」

 女性の声が、少々の飾りがあるだけの廊下に返ってきた。
 買い物の荷を玄関先に置き、ハンカチを使って黒髪から夏の暑さを拭い取った。日に焼けた健康的な肌から玉のような汗を消すと、再び荷物を抱えて廊下を進む。

「帰りが待ち遠しくて、もう……」

 扉を開くと、リビングと仕事場が併設された部屋で少女が待っていた。先の声の主で、日本人離れした鮮やかな亜麻色の髪をした二十歳はたちになるかならないかといったくらいの美少女である。
 そんな10人に9人がすれ違いざまに振り返りそうな少女が、上気した面持ちとはだけた様相で待っている。というのに、一切意に介さず零士は荷物を漁った。

「ほい、これ頼まれてたグレープ・・・・のアイス」
「待ってました! って、クレープ・・・・のアイス言うたやないかい!」
「あ痛っ!」

 零士は、聞き間違えた注文を少女から叩き返される。何故か関西弁で、まるで怒りを表すかのように亜麻色のポニーテールをブンッと揺らし。

「しかもブドウの方じゃなくてグレープフルーツなのもポイント高いですよ……」
「もっと溜めたら何が貰えるのか?」
「ありません!」
「そうか。じゃ、こいつもいらないか」
「食べますってば!」
「どっちなんだい双葉ふたばちゃん」

 文句ばかりの少女――双葉・エルサリーヌに、零士はやれやれと首を傾げてみせた。他の荷物を台所に運び冷蔵庫にしまうと、冷たいお茶だけ持って戻ってくる。
 整理整頓されているようでどことなく無作為な室内。2人は向かい合わせに座った。

「ひま、ですね」
「あぁ。行儀が悪いぞ」

 寝転がってやや酸っぱそうにアイスを舐める双葉を、零士は一瞥いちべつして注意した。
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