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悪友のそれはもはや伝統芸能
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「オヤジさん、相変わらずお前を見る目」
「ま、仕方ないさ。役立つ目の上の瘤みたいなものだからねぇ」
野口家、その子息である瑛太の部屋の中で、ベッドに寝転びながら石動 峇清は言った。自分の立場を理解しているため、瑛太はあっけらかんと答えた。
週末には、たまにこうして寮を抜け出して駄弁るのである。
「イッシ~のことを睨んだのは許せないけど」
「同性愛者の息子の友達が遊びに来て、疑う気持ちはわかる」
「そんな関係じゃないのにね。小学生からの友達の顔ぐらい覚えてて欲しいよ」
彼とは悪友だが、同時に親友でもあった。そして、そうは言っても気持ち自体には峇清も気づいていた。
ふざけた名前で呼ぶのもその現れなのだろうが、全てに気づいているほど峇清も人間はできていない。宝石の如き碧眼が見つめるのは、いつも親友の表層ばかりだった。
「野口の作った薬で悪戯して、なんども一緒に叱られたから、ねっ」
ベッドの上で本を読んでいるのも飽きてきて、峇清は立ち上がると室内を見渡した。机の上に、無造作に置かれた炊飯器のようなものを持ち上げてみる。
しかし、それは峇清の予想を遥かに上回って重いものだった。15キロほどだが、細腕にとっては意外な荷重となるもので。
「あッ!」
手から滑り落ちた機械は床に落ちて、容易く2つ分離されてしまった。
「い、イッシ~大丈夫!?」
「だ、大丈夫だけど。いや、ごめん……」
「まぁ、足とかに落とさなくて良かったよ。骨ぐらいは折れることあるから……良かった」
直ぐ様反応を見せた瑛太は、まず峇清の安否を気遣った。首に手を回すのは過ぎたスキンシップだが、謝罪も素直に受け入れた。
峇清も、瑛太が帰国子女ということもあって昔からそういったスキンシップが過剰なのも知っていて、少し抵抗を見せつつも大人しくしておく。なぜか、嫌いではないからだ。
「とりあえず離してってば/// で、高いんだよね? 夏休み、バイトして返すから」
急ぎ欲しいものもなく、夏休みは気ままに過ごせるかと思っていたらこれだ。
後二週間かそこらで、程よいアルバイトが見つかるかは怪しいところだった。それを考えてか、瑛太が提案を出してくる。
「時間もないし、イッシ~の体力じゃろくなバイトできないでしょ? ここは1つ、ボクからの仕事を引き受けてみない?」
「うっ……。そりゃ、力仕事じゃないほうが助かるけど」
峇清は身体能力について指摘され言葉に詰まった。性格の悪さやズケズケと物を言うところはたまに苛立ちを覚える。とはいえ、峇清を気遣ってのことなので文句も言えない。
苦言とはえてして聞きづてならないものである。
「それで、どういうバイトなの……?」
「薬の治験って奴。ウチの会社が作った薬のこと知ってるでしょ?」
「えぇっと。あ~、性同一性障害がどうとかいう?」
薬品については天才的とも言える悪友からの、治験という内容に良い予感はしなかった。
瑛太の父親が社長を務める野口製薬は、性同一性障害の緩和を薬によってなし得た会社として有名になった。性ホルモンの分泌を抑制するとか増幅するとかという話だが、峇清には良くわからない。
「あれのベース自体はボクが作ったんだけど。別の使い道を模索しててね」
「勝手に治験とか大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。バレなきゃ」
当然の不安をぶつけてみるも、それを気にするようなら瑛太とは悪友はやっていなかった。
怪しいものの、余程無茶をさせるようなことは無いはずだ。峇清は、瑛太のことを信じて引き受けることにした。それが間違いだったのだと知るのは、すぐ後のことである。
「わかった。責任はとるよ」
「わぁーい。じゃあ、早速だけどこれを飲んでよ」
「もうか……」
気が早すぎる瑛太にやや引き気味になりつつ、引き出しの中から現れたプラスチックの金魚を受け取った。
無色透明の液体で、さらに無臭。
「一応、安静にしないと良いデータが取れないから、寝転がってリラックスした状態で飲んでね」
そう言ってベッドを勧められるものだから、峇清は大人しくそこに寝転がることにした。
金魚から薬をチュッと絞り出して飲み干して、効果が現れるまではそうして安静にしてみる。もしかしたら見た目にわからない効能なのかも知れないので、瑛太の指示を待つしかない。
それは思ったよりも早く訪れたようで、峇清の体が大きく跳ねたかと思えば苦しみもがき始める。
「ッ! な、なに、これッ……! くるし、痛い、いたいー! ど、どく!?」
「落ち着いて。一時的なものだから、死ぬようなことはないよ」
峇清の暴れる体を押さえつけて、瑛太は問題はないとなだめようとした。
十秒ほど体の痛みとその変化は続いたものの、次第に落ち着いていく。完全に収まった頃には、峇清は慣れない感覚と体力の消耗で疲弊しておりうつ伏せに倒れていた。
「こりぇ……なに?」
峇清も自身に訪れた出来事を理解しているようだが、流石に現実的には認めがたいものだった。なにせ、突っ伏している上半身を大きな胸部が持ち上げているのである。
「ま、仕方ないさ。役立つ目の上の瘤みたいなものだからねぇ」
野口家、その子息である瑛太の部屋の中で、ベッドに寝転びながら石動 峇清は言った。自分の立場を理解しているため、瑛太はあっけらかんと答えた。
週末には、たまにこうして寮を抜け出して駄弁るのである。
「イッシ~のことを睨んだのは許せないけど」
「同性愛者の息子の友達が遊びに来て、疑う気持ちはわかる」
「そんな関係じゃないのにね。小学生からの友達の顔ぐらい覚えてて欲しいよ」
彼とは悪友だが、同時に親友でもあった。そして、そうは言っても気持ち自体には峇清も気づいていた。
ふざけた名前で呼ぶのもその現れなのだろうが、全てに気づいているほど峇清も人間はできていない。宝石の如き碧眼が見つめるのは、いつも親友の表層ばかりだった。
「野口の作った薬で悪戯して、なんども一緒に叱られたから、ねっ」
ベッドの上で本を読んでいるのも飽きてきて、峇清は立ち上がると室内を見渡した。机の上に、無造作に置かれた炊飯器のようなものを持ち上げてみる。
しかし、それは峇清の予想を遥かに上回って重いものだった。15キロほどだが、細腕にとっては意外な荷重となるもので。
「あッ!」
手から滑り落ちた機械は床に落ちて、容易く2つ分離されてしまった。
「い、イッシ~大丈夫!?」
「だ、大丈夫だけど。いや、ごめん……」
「まぁ、足とかに落とさなくて良かったよ。骨ぐらいは折れることあるから……良かった」
直ぐ様反応を見せた瑛太は、まず峇清の安否を気遣った。首に手を回すのは過ぎたスキンシップだが、謝罪も素直に受け入れた。
峇清も、瑛太が帰国子女ということもあって昔からそういったスキンシップが過剰なのも知っていて、少し抵抗を見せつつも大人しくしておく。なぜか、嫌いではないからだ。
「とりあえず離してってば/// で、高いんだよね? 夏休み、バイトして返すから」
急ぎ欲しいものもなく、夏休みは気ままに過ごせるかと思っていたらこれだ。
後二週間かそこらで、程よいアルバイトが見つかるかは怪しいところだった。それを考えてか、瑛太が提案を出してくる。
「時間もないし、イッシ~の体力じゃろくなバイトできないでしょ? ここは1つ、ボクからの仕事を引き受けてみない?」
「うっ……。そりゃ、力仕事じゃないほうが助かるけど」
峇清は身体能力について指摘され言葉に詰まった。性格の悪さやズケズケと物を言うところはたまに苛立ちを覚える。とはいえ、峇清を気遣ってのことなので文句も言えない。
苦言とはえてして聞きづてならないものである。
「それで、どういうバイトなの……?」
「薬の治験って奴。ウチの会社が作った薬のこと知ってるでしょ?」
「えぇっと。あ~、性同一性障害がどうとかいう?」
薬品については天才的とも言える悪友からの、治験という内容に良い予感はしなかった。
瑛太の父親が社長を務める野口製薬は、性同一性障害の緩和を薬によってなし得た会社として有名になった。性ホルモンの分泌を抑制するとか増幅するとかという話だが、峇清には良くわからない。
「あれのベース自体はボクが作ったんだけど。別の使い道を模索しててね」
「勝手に治験とか大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。バレなきゃ」
当然の不安をぶつけてみるも、それを気にするようなら瑛太とは悪友はやっていなかった。
怪しいものの、余程無茶をさせるようなことは無いはずだ。峇清は、瑛太のことを信じて引き受けることにした。それが間違いだったのだと知るのは、すぐ後のことである。
「わかった。責任はとるよ」
「わぁーい。じゃあ、早速だけどこれを飲んでよ」
「もうか……」
気が早すぎる瑛太にやや引き気味になりつつ、引き出しの中から現れたプラスチックの金魚を受け取った。
無色透明の液体で、さらに無臭。
「一応、安静にしないと良いデータが取れないから、寝転がってリラックスした状態で飲んでね」
そう言ってベッドを勧められるものだから、峇清は大人しくそこに寝転がることにした。
金魚から薬をチュッと絞り出して飲み干して、効果が現れるまではそうして安静にしてみる。もしかしたら見た目にわからない効能なのかも知れないので、瑛太の指示を待つしかない。
それは思ったよりも早く訪れたようで、峇清の体が大きく跳ねたかと思えば苦しみもがき始める。
「ッ! な、なに、これッ……! くるし、痛い、いたいー! ど、どく!?」
「落ち着いて。一時的なものだから、死ぬようなことはないよ」
峇清の暴れる体を押さえつけて、瑛太は問題はないとなだめようとした。
十秒ほど体の痛みとその変化は続いたものの、次第に落ち着いていく。完全に収まった頃には、峇清は慣れない感覚と体力の消耗で疲弊しておりうつ伏せに倒れていた。
「こりぇ……なに?」
峇清も自身に訪れた出来事を理解しているようだが、流石に現実的には認めがたいものだった。なにせ、突っ伏している上半身を大きな胸部が持ち上げているのである。
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