10 / 10
第9話
しおりを挟む
さっきのスキル封じの能力を持つ青年か、余程の特殊な効果がなければ、まず突破できない守りだ。それをあっさりと貫いて、消滅させたのだから信じ難いことだろう。
「何も起こってないわ。そう、何も起こってないが起こったのよ」
「なんのことだ……?」
ヒロインは答えた。けれど、ガリッドがそれを理解することなどない。
キミィは彼女のスキルを確認していたので、それが【正直者殺しの模倣犯】だとわかっていた。相手に任意のスキルを付与することができる。そして、既に倒れているとは言えこの場には不幸体質の青年が居た。
キミィのことではない。
まさか、不幸体質により一時的スキルが発動しないようになるなどとは思わなだろう。
「来ます! 回避を!」
戦場が硬直したかに思えた瞬間、魔法少女がヒロイン達に叫んだ。敵前衛が居なくなった今、畳み掛けたいところだがヒロイン達は物陰へと身を隠した。
ガリッドのファミリアで、電撃使いの少女が中距離からの攻撃を開始したのだ。単純な放電攻撃なのが救いか。
『まったく。手を焼かせるんじゃないわよ』
ファミリアの声はAIによって喋っているものだが、仲間へのダメージに対して怒りを滲ませていた。やはり、作り物とは言え感情めいたものがあるのだろう。少なくともキミィはそう感じた。
電撃が消え去った後、ガリッドのファミリア達は体勢を建て直している。
「畜生! ちくしょう! ちくしょー!」
ガリッドはやられっぱなしで頭に血が上っているようだ。この状況さえも、ヒロインが仕向けた策の1つだが。
「程よくぷっつんしてるわね。大技、もう1発いける?」
『問題ないゼ!』
ヒロインが白黒の魔法使いに確認した。
「そ。じゃあ、準備が出来たら飛び出すわ」
スキルの発動が可能とみるや、次の作戦の指示をヒロインが出した。
それがどういう意味を持つのか、これから彼女が何をするつもりなのか。
「向こうの大技に合わせてぶっ放して」
『まったく、重荷なんだゼ』
『壁は私が作るわ』
『わかりました。貴女の分まで、私が切り開きます』
『一応、髪の毛は直しておきますね……』
魔法使いが帽子を目深に被って、口元を吊り上げた。人形遣いは持てる全ての人形を取り出し、仲間の身代わりの準備をする。魔法少女は大鎌を構えた。女神官とて、無駄だとわかりながらも何かしようとして破損した髪に治療魔法を唱えた。
大きな光が瞬いた瞬間、五体が同時に飛び出す。
瓦礫ごと貫くことを想定した超電磁砲の煌めきを、小型の八卦炉から放たれる魔法が押し留めた。
『愛のフルパワーだ、ぜぇぇぇぇぇぇぇぇッ!』
『こぉのおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
互いの全力同士がぶつかりあり、中央でゲームセンターのコインが弾け飛んだ。
その閃光の中をかいくぐり、爆風をもろともせずに突っ込んでいく3体の人影。大技をぶつけた白黒の魔法使いは体力が尽きたようにへたっている。
『なっ!? クソッ、もういっぱはぁぁぁッッ?』
「大技連発なんてやらないで頂戴!」
電撃少女の跳ね上げたコインを青白いエネルギーが包み込んだというのに、ヒロインは金髪を刃にトランスフォームして肉迫を続けた。電撃少女にとっては、この状況で突っ込んでくる敵などほぼ見たことはないだろう。
もろともの自滅覚悟の突貫だと気づくのに時間はかからず、しかして今更スキルの使用を止めることはできない。
だから、このまま互いに道連れ。
「ッ!」
3度目の破壊が起こったのを見て、キミィは下唇を噛んだ。
ファミリアは決して死亡しないが、やはり意思ある者の消滅を見るのは作戦を知っていたとしても躊躇う。だが、ヒロインのおかげで敵前衛と中衛までを倒せた。
後衛に位置するファミリアは基本的にガードが低いか、キミィのファミリアから逃げ出せるだけの速度を持たない。
決着がつくのは時間の問題というだけで、数分後には呆然と佇むガリッドがいた。
「……」
「終わり、ですね」
キミィはガリッドを見つめて言った。終了の合図はまだ出ていないが、ガリッドのファミリアはゼロ。
「馬鹿な……。そんな、馬鹿な……」
敗者は、ただただ現実を認めようとせず呟くばかりだ。キミィは言葉を掛けることがただの追い打ちだと思って、黙ってその場を離れようとした。
そこへヒロインが戻ってくる。
「あ……大丈夫?」
キミィは彼女の安否を、不要だとはわかりつつも確認した。
「大丈夫よ」
もちろんだとばかりに答える彼女の言葉は、無機質ながら何故か弾んで聞こえた。
キミィが首を傾げている間に、彼女はガリッドへと近づいて腕を組んだままに見下ろした。
そして言う。
「今回は、デートのお誘いを見送らせて貰うわ」
ヒロインは金髪と赤いドレスを翻して、振り返るとキミィの横を通り過ぎて行った。
それを追いかけて彼は問う。
「どこへ?」
「はぁ? 依頼を受けに行くんでしょう?」
「あー……やっぱりやります?」
当然だと言わんばかりの返答に、彼は改めて訊き直した。9割は諦めつつも、無駄だとわかっていることを一縷の望みに託してみたのだ。
こうしてまたガリッドのような犠牲者を増やすかもしれないと考えると、キミィの甘々な心が痛む。
けれどヒロインは無情にも答える。
「勝手に終わらせないでッ。私達の戦いはこれからよ!」
「何も起こってないわ。そう、何も起こってないが起こったのよ」
「なんのことだ……?」
ヒロインは答えた。けれど、ガリッドがそれを理解することなどない。
キミィは彼女のスキルを確認していたので、それが【正直者殺しの模倣犯】だとわかっていた。相手に任意のスキルを付与することができる。そして、既に倒れているとは言えこの場には不幸体質の青年が居た。
キミィのことではない。
まさか、不幸体質により一時的スキルが発動しないようになるなどとは思わなだろう。
「来ます! 回避を!」
戦場が硬直したかに思えた瞬間、魔法少女がヒロイン達に叫んだ。敵前衛が居なくなった今、畳み掛けたいところだがヒロイン達は物陰へと身を隠した。
ガリッドのファミリアで、電撃使いの少女が中距離からの攻撃を開始したのだ。単純な放電攻撃なのが救いか。
『まったく。手を焼かせるんじゃないわよ』
ファミリアの声はAIによって喋っているものだが、仲間へのダメージに対して怒りを滲ませていた。やはり、作り物とは言え感情めいたものがあるのだろう。少なくともキミィはそう感じた。
電撃が消え去った後、ガリッドのファミリア達は体勢を建て直している。
「畜生! ちくしょう! ちくしょー!」
ガリッドはやられっぱなしで頭に血が上っているようだ。この状況さえも、ヒロインが仕向けた策の1つだが。
「程よくぷっつんしてるわね。大技、もう1発いける?」
『問題ないゼ!』
ヒロインが白黒の魔法使いに確認した。
「そ。じゃあ、準備が出来たら飛び出すわ」
スキルの発動が可能とみるや、次の作戦の指示をヒロインが出した。
それがどういう意味を持つのか、これから彼女が何をするつもりなのか。
「向こうの大技に合わせてぶっ放して」
『まったく、重荷なんだゼ』
『壁は私が作るわ』
『わかりました。貴女の分まで、私が切り開きます』
『一応、髪の毛は直しておきますね……』
魔法使いが帽子を目深に被って、口元を吊り上げた。人形遣いは持てる全ての人形を取り出し、仲間の身代わりの準備をする。魔法少女は大鎌を構えた。女神官とて、無駄だとわかりながらも何かしようとして破損した髪に治療魔法を唱えた。
大きな光が瞬いた瞬間、五体が同時に飛び出す。
瓦礫ごと貫くことを想定した超電磁砲の煌めきを、小型の八卦炉から放たれる魔法が押し留めた。
『愛のフルパワーだ、ぜぇぇぇぇぇぇぇぇッ!』
『こぉのおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
互いの全力同士がぶつかりあり、中央でゲームセンターのコインが弾け飛んだ。
その閃光の中をかいくぐり、爆風をもろともせずに突っ込んでいく3体の人影。大技をぶつけた白黒の魔法使いは体力が尽きたようにへたっている。
『なっ!? クソッ、もういっぱはぁぁぁッッ?』
「大技連発なんてやらないで頂戴!」
電撃少女の跳ね上げたコインを青白いエネルギーが包み込んだというのに、ヒロインは金髪を刃にトランスフォームして肉迫を続けた。電撃少女にとっては、この状況で突っ込んでくる敵などほぼ見たことはないだろう。
もろともの自滅覚悟の突貫だと気づくのに時間はかからず、しかして今更スキルの使用を止めることはできない。
だから、このまま互いに道連れ。
「ッ!」
3度目の破壊が起こったのを見て、キミィは下唇を噛んだ。
ファミリアは決して死亡しないが、やはり意思ある者の消滅を見るのは作戦を知っていたとしても躊躇う。だが、ヒロインのおかげで敵前衛と中衛までを倒せた。
後衛に位置するファミリアは基本的にガードが低いか、キミィのファミリアから逃げ出せるだけの速度を持たない。
決着がつくのは時間の問題というだけで、数分後には呆然と佇むガリッドがいた。
「……」
「終わり、ですね」
キミィはガリッドを見つめて言った。終了の合図はまだ出ていないが、ガリッドのファミリアはゼロ。
「馬鹿な……。そんな、馬鹿な……」
敗者は、ただただ現実を認めようとせず呟くばかりだ。キミィは言葉を掛けることがただの追い打ちだと思って、黙ってその場を離れようとした。
そこへヒロインが戻ってくる。
「あ……大丈夫?」
キミィは彼女の安否を、不要だとはわかりつつも確認した。
「大丈夫よ」
もちろんだとばかりに答える彼女の言葉は、無機質ながら何故か弾んで聞こえた。
キミィが首を傾げている間に、彼女はガリッドへと近づいて腕を組んだままに見下ろした。
そして言う。
「今回は、デートのお誘いを見送らせて貰うわ」
ヒロインは金髪と赤いドレスを翻して、振り返るとキミィの横を通り過ぎて行った。
それを追いかけて彼は問う。
「どこへ?」
「はぁ? 依頼を受けに行くんでしょう?」
「あー……やっぱりやります?」
当然だと言わんばかりの返答に、彼は改めて訊き直した。9割は諦めつつも、無駄だとわかっていることを一縷の望みに託してみたのだ。
こうしてまたガリッドのような犠牲者を増やすかもしれないと考えると、キミィの甘々な心が痛む。
けれどヒロインは無情にも答える。
「勝手に終わらせないでッ。私達の戦いはこれからよ!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる