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第8話

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 ヒロインの提案によって、キミィとガリッドはプレイヤーPバーサスvプレイヤーPをすることになった。

「ルールはシンプルにチームデスマッチ方式ぃ。メタ読み回避のため、見せ合いの後にファミリア1体の交換制。1準備は良いかぁ?」

 戦場となる廃市街地の中央に立ったベアーターが、キミィとガリッドに対して訊いた。

 互いに声の聞こえる範囲ではあるが、緊張のためかキミィは頷くだけ。

「おう、良いぜ。さっきのお嬢さんがいないのは、ボロクソにやられるのを見せたくないからか?」

「クフフッ、ちげぇねぇ!」

「ギャハハハッ! 後で慰めて貰えよな!」

 対してガリッドは、挑発的な言葉をぶつけた。ベアーターやディパーが煽るように笑った。

 そんな言葉に苛立ちを覚える余裕などキミィにはなく、ただただ戦術のシュミレーションに思考を費やす。

 当のヒロインに至っては、彼らの前に居るというのに気づかれていない。模倣のスキルによって、姿まで入れ替えて見せているからである。くだらない雑言にため息をつく。

「はぁ」

「ま、キミィなんかからは離れちまうがな!」

 開始の合図と同時に発したガリッドのセリフを、ヒロインは理解したようでげんなりと言った顔をした。女が強い男に惚れるという点は否定しないが、客観性に欠いた実力の誇示は滑稽だ。

「……うわぁ……」

 ヒロインは露骨に嫌悪を顕にした。

「来ました!」

 文句の1つも言う暇さえなく、キミィの言葉でファミリア達が散った。敵、ガリッドのファミリアが突貫してきた場合の作戦を展開。

 大鎌使いの魔法少女と、ヒロイン扮する金色の殺し屋少女は、廃ビルの間へと駆け込んでいく。白黒の魔法使いと人形遣いがその上空へ、女神官は物陰に隠れて回復担当として待機だ。

 予定通り敵ファミリアが殺到してくる。

「とあるの作品で固めてボーナスもあるし、高レアリティばっかりだけど、それにかまけすぎだわ」

 ヒロインは敵戦力を分析し、決して驕らず油断せず行動する。

 先立って突っ込んでくる薄幸系青年は、スキルやアノマラスを一時的に無効化できる。先手で突っ込んでくることが予想できるスキルを持っているので、そこを人形遣いのスキル【身代わり人形】で相殺する。

『なっ!? 偽物!?』

『バレバレね』

 青年が驚愕の声を上げるも、当然とばかりに人形遣いがフリルの衣服を揺らした。スキルが早い段階で発動したのも幸運だろう。

「パーティーから作戦が読めるのよ」

 スキルの強力さを除いてはガードが低い目の青年を、ヒロインは容赦なくトランスフォームした金髪の刃で撃破。ポージングの模倣も様になっている気がするのは、キミィの気の所為だろうか。

「引き撃ちする相手には、警戒して当たれるようテクニカルなキャラを持ってくることね」

 キミィに対するであろうアドバイスも忘れない。

 しかし、相手の策を潰したとは言え、コスト70近い面子は単体でも強烈な戦闘能力を持つ。続いて、雪崩かと見紛う多量の瓦礫を頭上から降らす、白髪の青年が魔法少女とヒロインを一掃しにかかる。

 防御型のスキルでも持たない限りは受け止めることもできず、2体は回避を余儀なくされた。

 細い道を、後へ、後へと追い詰められていく。

 瓦礫が弾ける。地面が抉れる。

 散らばるコンクリートの飛礫だけで、2体の衣装が弾けかけるほどだ。しかし、やられっぱなしでもない。

「受け止めグッ! たぁ!」

 金髪を盾にトランスフォームさせて、ギリギリといった様子で石の固まりと競り合った。魔法少女が影から飛び出て反撃を加えるものの、白髪の青年はパッシブで防御型のスキルを発動しているのか、傷つかない。

『効かねぇなぁ!』

 通常の攻撃ではなくスキルの発動、【悪徳なる手助け】のアノマラスがあった場合、勝ち目は薄くなる。ヒロインから伝えられていた作戦に、キミィは焦りを覚え始める。

「……ッ」

「落ち着きなさい。貴方のは、悪運よ」

 指示を出すのにも言い淀むキミィを、ヒロインがセリフを投げかけなだめた。

 暴力的な重圧を受けて、少女の足が地面に沈む。

 そのピンチを救ったのは、上空に待機していた白黒の魔法使いだ。箒の上にまたがり、不敵な笑みを浮かべて手のひらを眼下に向けている。
『恋の超火力だゼ!』

『だからぁむ――!?』

 全てを言い切るようも早く、包み込むような直線のレーザーが青年を蒸発させた。

 同時にヒロインの髪も消失させるも、まだ防御力と生命力を表すガード値が残っている。戦闘続行だ。

 当然だが、常時パッシブで【ベクトル反射】スキルを発動しているファミリアがやられたことに、ガリッドが抗議の声を上げないわけがない。

「待ちやがれ! 何が起こったんだ!?」
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