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第6話
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「えっと……」
「健康への影響、通信インフラ、法律、多数の問題が絡んでくるから難しいわ」
「なるほど、意外とつながっているんですね」
キミィは、ヒロインの説明に頷き返した。彼女の博識さに感心しつつ、なんとなく心境を理解できるような気がした。
寂しかったのだろう。
「さて、そろそろメンテナンスも終わる頃ね。ファミリアに私も含まれているはずだから、その時詳しく話してあげる」
「はい。なんだか場当たり的になりましたけど、これからよろしくおねがいします」
あしらうように言ったヒロインへ、キミィは苦笑を浮かべて立場を改めた。
「あら、殊勝な心がけね。よろしくしてあげるわ」
そういう彼女の横顔は、少しだけ笑っていたような気がした。
そのあと直ぐに、彼女の顔を隠すかのように空間がキミィとの間に壁を作っていった。一瞬のスペクタクル。ヒロインに収束したところで、剥がれたブロックの向こうに倉庫の姿が現れる。
さっきまでのことが夢のようで、不安になり小さな声で話しかけてみた。
「……ヒロインさん?」
「何よ?」
少し不機嫌そうな声が倉庫に反響したが、居るようで安心した。
「いえ、なんでもありません。傍にいないもので」
「普通にいるわよ」
「へ? って、本当にいた!?」
言われてみて振り返れば、ヒロインはそこに佇んでいた。思わず驚いてしまった。
「この状態で話す時は、姿を見せないと駄目なのよ。一緒に出ていくわけもいかないから、ここを出たら人目のない場所へ行きなさい」
これ以上は本当に怒りを買いかねないので、キミィは首を縦に何度も振りながら倉庫を出ようとした。その背中に一声掛けてまた姿を消す。
「そしたら戦闘ユニットの編成を説明するわ」
「……」
キミィは頷くだけに止めて倉庫を飛び出すと、マスターや三人組とは関わらないように階段を駆け上がりカクテルバーの扉を潜った。
薄暗い世界に光が差込み視界が広がった。けれど、華やかな町並みや雑踏の影はない。崩落したコンクリートのビルに瓦礫、黒い壁面に緑の蔦植物が生えていて栄える荒廃した世界。
「うーん、あそこかな」
キミィは適当な廃ビルの影に身を潜めて、ユニット・ウィンドウを開いてヒロインが控え組に入っていることを確認する。
本当に、あの美少女の姿で加入していた。
「じゃあ、始めようかしら」
「はい」
「まず、人形遣いと私を入れ替えて、他に『ガード』の高い前衛を白黒の魔法使いの代わりにしなさい」
姿を現すと同時に、ユニットの編成について指図してきた。大人しく従って、前衛キャラとしてドMクルセイダーに入れ替えた。
「進化していてスキルも星付きで、『ユニット・アノマラス』がガードに関係しないのはこれぐらいのものですか」
「そうね。後は、クエスト・ポイントと依頼の受注料さえたっぷりあればレッサードラゴンに挑めるわ」
「これで、どうやって最初の難関をクリアするつもりです?」
キミィはどんな策があるのかを訊ねてみた。
ヒロインは自分のファミリアとしての能力を開示して、他のユニットの能力で有効な手段を説明していった。
それが睡眠の状態異常からの一撃必殺型スキルの発動を待つという、運任せの策である。
「――っと言うわけよ」
「……なるほど。クズ運のボクにそれをやれと?」
「ま、気力が持つ限りやり続ければなんとかなるわよ」
「一体、何回やることになるんでしょう……」
長い戦いになることを悟ってげんなりするのだった。
「暗闇妖怪のスキル発動後、混乱して仲間を攻撃する前に倒れるとベターね」
「酷い作戦ですけどね。彼女達だって、何も感じないわけじゃないんでしょう?」
これまでも言葉を交わせたことを考えれば、モンスターと戦うために呼び出されたシステム状のキャラクター達にも、AIが導入されているはずだ。キミィは少なくともそう思って、ヒロインに確認してみた。
彼女は、正解と言わんばかりに肩をすくめ横目で彼を見る。けれど、それは僅かな嘲りを含んだ仕草でもあった。
「運営の企み通り、ゲームにほだされてるわね」
「はぁ? 二次元のキャラクターと冒険ができるっていう触れ込みこそDGCの醍醐味だと思ったんですが」
ヒロインはやれやれと首を横に振り、キミィに振り向いたかと思えば指を突き出した。
指を突きつけられて彼は顔を引くも、何を言わんとするのか言葉を待つ。
「それこそ、人気の出る要素を切り売りしてたんじゃいつかは枯渇するわ」
「なるほど。でも、また新しい要素が生まれるという可能性は? 現に、VRという手段で人気を博しているわけですし」
キミィが珍しくヒロインの言葉に反論してみるも、やはり彼女のほうが賢かった。
「技術はいつかは停滞する。仮に停滞しないようバランス良く金のなる木の枝を、幹を、切り売りできたとしても、今度はガチャによってプレイヤーの懐が枯れるわ」
新しい技術をゲームに転用するために、お祭事にお金を出さなければならない。それを補填するためには、ガチャというギャンブルで絞り出さなければならない。
やっていることは堂々巡り。
「健康への影響、通信インフラ、法律、多数の問題が絡んでくるから難しいわ」
「なるほど、意外とつながっているんですね」
キミィは、ヒロインの説明に頷き返した。彼女の博識さに感心しつつ、なんとなく心境を理解できるような気がした。
寂しかったのだろう。
「さて、そろそろメンテナンスも終わる頃ね。ファミリアに私も含まれているはずだから、その時詳しく話してあげる」
「はい。なんだか場当たり的になりましたけど、これからよろしくおねがいします」
あしらうように言ったヒロインへ、キミィは苦笑を浮かべて立場を改めた。
「あら、殊勝な心がけね。よろしくしてあげるわ」
そういう彼女の横顔は、少しだけ笑っていたような気がした。
そのあと直ぐに、彼女の顔を隠すかのように空間がキミィとの間に壁を作っていった。一瞬のスペクタクル。ヒロインに収束したところで、剥がれたブロックの向こうに倉庫の姿が現れる。
さっきまでのことが夢のようで、不安になり小さな声で話しかけてみた。
「……ヒロインさん?」
「何よ?」
少し不機嫌そうな声が倉庫に反響したが、居るようで安心した。
「いえ、なんでもありません。傍にいないもので」
「普通にいるわよ」
「へ? って、本当にいた!?」
言われてみて振り返れば、ヒロインはそこに佇んでいた。思わず驚いてしまった。
「この状態で話す時は、姿を見せないと駄目なのよ。一緒に出ていくわけもいかないから、ここを出たら人目のない場所へ行きなさい」
これ以上は本当に怒りを買いかねないので、キミィは首を縦に何度も振りながら倉庫を出ようとした。その背中に一声掛けてまた姿を消す。
「そしたら戦闘ユニットの編成を説明するわ」
「……」
キミィは頷くだけに止めて倉庫を飛び出すと、マスターや三人組とは関わらないように階段を駆け上がりカクテルバーの扉を潜った。
薄暗い世界に光が差込み視界が広がった。けれど、華やかな町並みや雑踏の影はない。崩落したコンクリートのビルに瓦礫、黒い壁面に緑の蔦植物が生えていて栄える荒廃した世界。
「うーん、あそこかな」
キミィは適当な廃ビルの影に身を潜めて、ユニット・ウィンドウを開いてヒロインが控え組に入っていることを確認する。
本当に、あの美少女の姿で加入していた。
「じゃあ、始めようかしら」
「はい」
「まず、人形遣いと私を入れ替えて、他に『ガード』の高い前衛を白黒の魔法使いの代わりにしなさい」
姿を現すと同時に、ユニットの編成について指図してきた。大人しく従って、前衛キャラとしてドMクルセイダーに入れ替えた。
「進化していてスキルも星付きで、『ユニット・アノマラス』がガードに関係しないのはこれぐらいのものですか」
「そうね。後は、クエスト・ポイントと依頼の受注料さえたっぷりあればレッサードラゴンに挑めるわ」
「これで、どうやって最初の難関をクリアするつもりです?」
キミィはどんな策があるのかを訊ねてみた。
ヒロインは自分のファミリアとしての能力を開示して、他のユニットの能力で有効な手段を説明していった。
それが睡眠の状態異常からの一撃必殺型スキルの発動を待つという、運任せの策である。
「――っと言うわけよ」
「……なるほど。クズ運のボクにそれをやれと?」
「ま、気力が持つ限りやり続ければなんとかなるわよ」
「一体、何回やることになるんでしょう……」
長い戦いになることを悟ってげんなりするのだった。
「暗闇妖怪のスキル発動後、混乱して仲間を攻撃する前に倒れるとベターね」
「酷い作戦ですけどね。彼女達だって、何も感じないわけじゃないんでしょう?」
これまでも言葉を交わせたことを考えれば、モンスターと戦うために呼び出されたシステム状のキャラクター達にも、AIが導入されているはずだ。キミィは少なくともそう思って、ヒロインに確認してみた。
彼女は、正解と言わんばかりに肩をすくめ横目で彼を見る。けれど、それは僅かな嘲りを含んだ仕草でもあった。
「運営の企み通り、ゲームにほだされてるわね」
「はぁ? 二次元のキャラクターと冒険ができるっていう触れ込みこそDGCの醍醐味だと思ったんですが」
ヒロインはやれやれと首を横に振り、キミィに振り向いたかと思えば指を突き出した。
指を突きつけられて彼は顔を引くも、何を言わんとするのか言葉を待つ。
「それこそ、人気の出る要素を切り売りしてたんじゃいつかは枯渇するわ」
「なるほど。でも、また新しい要素が生まれるという可能性は? 現に、VRという手段で人気を博しているわけですし」
キミィが珍しくヒロインの言葉に反論してみるも、やはり彼女のほうが賢かった。
「技術はいつかは停滞する。仮に停滞しないようバランス良く金のなる木の枝を、幹を、切り売りできたとしても、今度はガチャによってプレイヤーの懐が枯れるわ」
新しい技術をゲームに転用するために、お祭事にお金を出さなければならない。それを補填するためには、ガチャというギャンブルで絞り出さなければならない。
やっていることは堂々巡り。
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