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第2話

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 その先は普通の倉庫みたいな部屋になっていた。ただ、中央に鎮座する円筒形の機械を見る限りは普通ではない。

「……」

 決心して足を踏み出そうとした。その時である。

「止めとけ、キミィ」

 お酒をあおっていた男達が、小馬鹿にするような笑みを浮かべて言った。決意に水を差すための言葉を、このタイミングで言うつもりだ。

 男達3人の内の1人は、大柄で厳つい顔をしている。2人目は小柄だが、まるでハイエナのように痩せこけた面が不気味だ。3人目は長駆痩身、幽鬼の如き垂れた目鼻や口は夜にこそ真価を発揮する。

「『魔貨まか』をドブに捨てるだけだ」

 そう大きな体を揺すって、いつもキミィを馬鹿にするガリッドは笑った。

「そだ、そだ。キミィはとことんツキがない」

 続いてハイエナ男のディパーが、わかりきったことを指摘してきた。自覚があるだけにからかいの材料にされると、カチンッと来てしまうものだ。

 それでも、ケンカをしても分が悪い。あまり気の強い方ではないキミィには反論もできない。無視して先に進もうものなら、また後でどんな因縁を付けられるか。

「ハハッ……今回こそ、大丈夫ですよ」

 キミィは苦笑いを浮かべて、いつものように甘受するしかなかった。

 けれど、ディパーの言う通り、思い返してみれば本当に運に恵まれていない。ゲームでのイベント期間中は、大抵がバイトのシフトが急に変更されてヘルプに入らざるを得なかったり、終わって遅くお店に向かっても満員だったりした。何とかカプセル型の機械――『アナザーエッグ』――が空いた後も、疲労によるコンディション不良を理由にログインを拒否されたのは一度や二度ではない。

 それがなくとも、日を跨ぐシフト予定を入れられたことによりログインできず、連続ログインボーナスを逃すなどした。

「『金貨』に換金して、俺達からアイテムを買えよぉ。その方が有意義ってもんだぁ」

「まぁまぁ、私らがとやかく言えることじゃありませんよ。ベアーターさん」

 幽鬼みたいな男の言う通りかもとキミィは思いかけたが、そこの割って入る者がいた。

「マスター……」

「キミィ、健闘を祈っているよ」

「はいッ!」

 ベアーターと呼んだ幽霊男と他の2人を視線で制止して、バーのマスタはキミィを送り出してくれた。失われかけていた覚悟が戻ってきて、男達がまた何かを言う前に召喚機のある部屋へと飛び込んだ。

 小さな舌打ちだけ聞こえてきたが、ここまで来てしまえばもう邪魔は入らない。

 扉が絞まると無簡素だった倉庫は、不思議な空間に変わった。全てが淡い紫色で、天井や床、壁が様々な形状のブロックに分解されて組み替えられる。なのにキミィが落ちたりすることもない。

「さて、今日まで溜めておいた魔貨50枚を」

 アイテム・ウィンドウから、黒いモヤを立ち上らせる3センチ径の赤い硬貨を取り出した。召喚機を扱うための専用の硬貨で、先程から言っている通り魔貨と言う。

 召喚機と呼ばれた円筒形の機械の下部に、自動販売機の硬貨投入口みたいなものがある。黄色い受け皿のあるタイプだ。そこに50枚の魔貨を流し入れれば、機器の円筒中央に5回と表示される。

 ログインボーナスやゲーム運営会社の不備で支払われるお詫びの金貨、いわゆる詫び金を貯めに貯めた結果である。10金貨で1魔貨。さらに10魔貨で1回、召喚機ことガチャを回すことができる。

 緊張した面持ちで見つめていると、空中に『召喚を開始しますか? はい/いいえ』とコマンドが現れる。が、さらにキミィを襲う不幸が。

『緊急メンテナンスを開始します。ご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません』

「え? うそっ? どうしよう……」

 機械音声でアナウンスが聞こえてくるのだから、いわゆる課金ガチャ初心者のキミィは焦った。焦ること焦ること、このまま召喚を開始しても良いのかどうか悩んだ。

 そうしている間に、ゲームのメンテナンスが始まってしまう。

『メンテナンス中です』

「えっ、え? あぁぁぁッ!」

 強制的にログアウトさせられたとしても、多分だが魔貨は戻ってくるだろう。いや、もしかしたら。などと考えてみたが、一向に追い出される気配はなかった。

 いつもであれば、メンテナンス時間になると強制ログアウトされるのにである。

「……?」

 小首を傾げて正面の召喚機を見てみるが、先程の数字は消えていた。起動している様子もない。

 まさか。最悪のパターンを想像したキミィの耳に、ゲームのシステムのアナウンスとは違う声が聞こえてくる。
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