幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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レイド・ダンジョン編

2-14

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 フィールドの最大敵数を考えすぎていたせいか、これで一線が終わったと思っていた。

 私は意識さえしていなかったけど、初心者3人など完全に油断している。

「これ、全然開かないわ」

 一番の指示役である銃手が、石棺に気を取られてこれだ。

 まず、隅の壁に背中を預けていた私が天井の様子に気づく。

「ん?」

「お前達!」

 続いてグレイザさんが動いた。明かりの届かない頭上の闇が動いたことで、まだ敵が残っていると理解して。

 ただ伝えるだけで済んだのならよかったけど、そいつ相手には無理だった。

「ガッ!」

 振り下ろされた盾を連ねたかのような尻尾の先の針が、グレイザさんの鎧の縫い目を抜けて突き刺さった。

 背中を貫かれながらも3人をかばえたことを得とみるか、隊長が行動不能になったことを不幸とみるか。流石に私もジッとはしていられず、石棺の向こうへと吹き飛ばされたグレイザさんに駆け寄る。

「マスター!」「くそッ!」「これは……!」

 3人の声は聞こえるが、そこまでだった。

 尻尾で上手く天井にぶら下がった漆黒が、その巨大なハサミで仲間を一掃した。断末魔の声を上げる暇もないほど、素早く腰あたりから真っ二つにしてしまった。

「あっ、あぁっ……どう、したら……」

 私はその様子を目の当たりにして、まともに声を出すことも考えることもできなかった。

 駆け寄ったのが間違いだったか、床に降りてきた平たくも床面積の半分を占める怪物に逃げ場を奪われた。体が硬直して動けない私は、視線だけを彷徨わせてまとまらない思考を行う。

「に、逃げろ……」

 グレイザさんはそう指示するけど、だから動けないんだって!

 立ち上がれないけど顔色自体は変化がないし、ダメージもあるけど毒ではなく麻痺のようね。それがわかったところで、私のやれることなんてほとんどないのだけど。

 逃げるには私だと隙が大きすぎるし、回復するにも微々たる量でどうにかなるとも限らない。麻痺さえ治せばグレイザさんが戦えるかしら?

「早く、セルシュの……」

 ところに行けって言いたいんでしょうけど、石棺の陰から出れば即座に攻撃の的よ……。

「大人しく出てくるが良い。苦しまずに介錯してやろうぞ」

 ヌシであろうサソリが、キチキチとハサミを擦り鳴らした。

 今、まだ攻撃を仕掛けてこないのは、背中を向けている箱があるからみたい。だからといっていつまでも隠れていられるわけではなく、節足が床を叩いて近づいてくる。

 どうする!? どうするよ! 私!?

「治療は、自分でお願いします……」

 私は小さくそう伝えて、魔法を唱える。

「……?」

「【抗異常体アンチ・ディスオーダー】!」

 何事かと首を傾げた――たくてもできないみたいだけど――グレイザさんを治療し、石棺の向こうへと転がるように出ていった。

「メリー! 待っ!」「【嵐舞】!」

 呼び止める声を振り切って、私は体勢を整えるより早く攻撃を繰り出した。

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 グレイザさんの「クソッ」という悪態を、連射されるカマイタチやヌシサソリの苦悶がかき消す。胸部のところに見えた黄色の珠玉オーブが、弱点だと思ったら大当たり。

 当然、やられっぱなしになるモンスターではない。

「ちょこざいな!」

「【高質防壁ハイ・バリア】!」

 繰り出されたハサミの攻撃を魔法の壁で受け止め、砕ける前に床を転がって逃げ延びた。

「【嵐舞】!」

 私は立ち上がるのも忘れて、再び風の斬撃を見舞った。立っているよりも、地面に面した珠玉を狙いやすいからだ。

 風属性も弱点なのか、さっきのはそれなりに手応えがあった。はずなのに、なぜかヌシサソリの周囲に治癒のエフェクトが浮かび上がるではないか。

「うそッ! キャァァァァァァッ!」

 驚く暇もなく、振り抜かれた尻尾が私を吹き飛ばした。

 体を強いめに押され、ジェットコースターに乗っているような感覚に見舞われた後、床にゆっくりと着地して転がった。

「くッ……。どうして……?」

 私は追撃がくる前に立ち上がるものの、HPが少なくなった危機感で焦って状況を整理できない。

 さっきまで黄色だった玉が緑色になっているのと関係があるのかしら?

 いえ、まず回復か、それとも逃げるか。次、一発でも喰らえばネプトノスにリスポーンすることになる。

 ここで倒れるのはどうしようもないこととして、せめてもう少しだけ時間を稼がなくちゃ……。

「無駄な足掻きよ! ここで倒れるが良い!」

 飛んだ私を追ってサソリが吠えた。

 怖い。けど、今はそれ以上にただで負けてやる方が怖い。

 虫嫌いなんて、都会での生活じゃ気にするほどのことでもなかったから治そうとも思わなかった。それが今、乗り越えなくちゃって思うのはなんでかしら。

「やめろ……! 逃げ」

「誰も神に祈らない 貴方は神を信じない 私は神など知らない」

 思考でグレイザさんの言葉を無視して、呪文の詠唱を続ける私。

 仲間のためって言い訳すればいくらでも思い浮かぶけれど、多分理由は一つなんでしょうね。

「神は誰も救わない 神は貴方を助けない 神は私を生かさない」

 これを放った後は、MPもなくなってほとんど何も出来なくなる。それでも、少しでもつなぐことが出来たなら。

「【神――】」

 価値はある!
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