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レイド・ダンジョン編
2-13
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「ッ!」
私の体がビクッと震えた。
それ以上先は聞きたくないと、頭が拒む。余計に足が固まって動けなくなりそうだけど、それでも引っ張る力の方が強い。耳を塞ぐこともできない私へ言葉は容赦なく伝わる。
「――俺だけを見てろ」
「へ?」
グレイザさんの唐突なセリフに、変な声しか出てこなかった。
えーと、あぁ、そう。黒い鎧だけ見て目隠ししておけば虫とか見なくて良いってことですね。わかります。
「動きは俺が伝える。問題ないだろ?」
続く言葉で、やっぱり私の考えが正しいのだとわかった。
そのやり取りを見ていた銃手が、前を走りながらもやらしい笑顔を浮かべる。
違う! これはコンビネーションって奴なの!
「フフフッ。お熱いことで」
「この状況で随分と余裕があるみたいだし、あれを止めてこい」
グレイザさんがすかさずからかいを止めた。
「ハハハッ、御冗談」
「ゴールが見えてきたぞ」
「気を引き締めて!」
銃手がお断りを入れ、続けて戦士と拳闘士が状況を伝えてくれた。
「うお」「ぉぉ」「ぉぉ」「ぉぉ」「ぉッ」「!!」
私達は悲鳴めいた気合を上げながら、前に見えてきた開けた部屋へと飛び込んだ。
戦士達3人は右へ。私はグレイザさんに抱きとめられるように左に滑り込んだ。
転がっていった土球は部屋の奥で壁にぶつかり崩れる、音がした。モッサリというよりかはドグシャッて感じだから、ぶつかっていたら結構やばかったかな。
「メリー! 真後ろに攻撃!」
安心ばかりしていられず、グレイザさんの指示が飛んだ。私は、即座に腕を向けて魔法を解き放つ。
「【氷結雨】!」
他に敵がいる場合に備えて、氷で足止めできる方法を取った。
続けざまに、他の3人が攻撃する音が聞こえた。
やはり、周りに何体かいる様子。
「一気呵成に叩き伏せろ! 【物力陣形】!」
更にグレイザさんの指揮が重なり、前衛の戦闘能力が飛躍的に伸びた。
「2時方向! 範囲で制圧!」
「はい! 【火炎槍】!」
止まらない指示に、私は慌てて炎の槍を選択して放った。が、どうやらこれは判断ミスだったみたい。
炸裂してクソ虫を弾き飛ばしたまでは良かったものの、舌打ちと妙なこわばりが伝わってくる。
「こいつら……"炎耐性"持ちか。"吸収性能"までなくてよかったが」
そうぼやいた通り、フンコロガシ達には炎系魔法のダメージが通っていない様子だ。弱点もあれば耐性もあるのは当たり前ね。
それでも衝撃でフンコロガシ達が下がったおかげで、攻撃の隙が出来たのは確かだと思う。
土球を転がしてくるより早く、拳闘士が懐の駆け込んだ。転がってくる分は戦士が受け止め、銃手も銃撃により大きさを削っていく。
「そっち行った!」
私からでは誰だかはわからないものの、その声で塊がこちらへ向かっているのを把握した。
グレイザさんの体勢からそれを回避することはできそうにない。が、私を抱きかかえたまま身を翻し1つ目を避ける。
続けざまに、向かってくるもう一球を重の連続の斬撃で切り飛ばして難を逃れた。
「目が回りました……」
「踊りの一つもできないと困るぜ」
頭が振り回されたことに文句を言うも、簡単に受け流されてしまった。会話のAGIに振りすぎよ。
まぁ、踊りが必要な人生を歩むことは無いと思うわ。
「奴らが動けない今のうちだ! 3時方向!」
「【嵐舞】!」
飛ぶ指示に従って、私は真空の刃を放った。
無数に放たれる三日月型の弾は、近づいてくる何かを十字に裂きながら吹き飛ばした。いや、吹き飛ばしながら切り刻んだのか。
どちらでも良いようなことを考える。その間に、グレイザさんはゆっくりとターンしていき、続く私の魔法が鎖を形成する。
暴風の鉄鎖が敵を薙ぎ払う。
「とどめッ」
「おう!」「おー!」
もうこの組み合わせしかないとばかりに、銃手の合図に従って横合いから戦士、拳闘士が盾と拳で押し込んでいった。
【嵐舞】とブルドーザーみたいな3人の攻撃に挟まれ、程なくしてモンスター達が活動する気配がなくなった。
耳元でボソリとつぶやかれるフラグ。
「終わったか?」
「もう、大丈夫でしょう?」
「おっと、悪い」
グレイザさんが周囲を確認して、私も恐る恐る黒い鎧を突き放した。
冷静になったところで、今までせき止めていた感情がブワッと襲いかかってきた。砂漠にいたときよりも顔が熱くなり、不快ではない汗がにじみ出てくる。張り裂けんばかりに動悸は激しくて、血が沸騰して全身から吹き出しそうだ。
この気持ち、記憶にあるのだけれど気のせいよね?
「……」
「道は、俺達がきたのと平行に一つ。セルシュの方と合流するんだろうが、遅いな……」
私がボーッとしている間に、グレイザさんは状況の確認を終えていた。
大きめの部屋で、中央に石棺らしきものがある。あの乱戦の中で傷一つ付かなかったことを考えると、これが何か意味あるものだと考えられる。
「こちら残敵みあたらない」
「同じくだね」
「やぁ、随分と盛大にやったな」
いつもの3人も安全確保を終えた。
はずだった。
私の体がビクッと震えた。
それ以上先は聞きたくないと、頭が拒む。余計に足が固まって動けなくなりそうだけど、それでも引っ張る力の方が強い。耳を塞ぐこともできない私へ言葉は容赦なく伝わる。
「――俺だけを見てろ」
「へ?」
グレイザさんの唐突なセリフに、変な声しか出てこなかった。
えーと、あぁ、そう。黒い鎧だけ見て目隠ししておけば虫とか見なくて良いってことですね。わかります。
「動きは俺が伝える。問題ないだろ?」
続く言葉で、やっぱり私の考えが正しいのだとわかった。
そのやり取りを見ていた銃手が、前を走りながらもやらしい笑顔を浮かべる。
違う! これはコンビネーションって奴なの!
「フフフッ。お熱いことで」
「この状況で随分と余裕があるみたいだし、あれを止めてこい」
グレイザさんがすかさずからかいを止めた。
「ハハハッ、御冗談」
「ゴールが見えてきたぞ」
「気を引き締めて!」
銃手がお断りを入れ、続けて戦士と拳闘士が状況を伝えてくれた。
「うお」「ぉぉ」「ぉぉ」「ぉぉ」「ぉッ」「!!」
私達は悲鳴めいた気合を上げながら、前に見えてきた開けた部屋へと飛び込んだ。
戦士達3人は右へ。私はグレイザさんに抱きとめられるように左に滑り込んだ。
転がっていった土球は部屋の奥で壁にぶつかり崩れる、音がした。モッサリというよりかはドグシャッて感じだから、ぶつかっていたら結構やばかったかな。
「メリー! 真後ろに攻撃!」
安心ばかりしていられず、グレイザさんの指示が飛んだ。私は、即座に腕を向けて魔法を解き放つ。
「【氷結雨】!」
他に敵がいる場合に備えて、氷で足止めできる方法を取った。
続けざまに、他の3人が攻撃する音が聞こえた。
やはり、周りに何体かいる様子。
「一気呵成に叩き伏せろ! 【物力陣形】!」
更にグレイザさんの指揮が重なり、前衛の戦闘能力が飛躍的に伸びた。
「2時方向! 範囲で制圧!」
「はい! 【火炎槍】!」
止まらない指示に、私は慌てて炎の槍を選択して放った。が、どうやらこれは判断ミスだったみたい。
炸裂してクソ虫を弾き飛ばしたまでは良かったものの、舌打ちと妙なこわばりが伝わってくる。
「こいつら……"炎耐性"持ちか。"吸収性能"までなくてよかったが」
そうぼやいた通り、フンコロガシ達には炎系魔法のダメージが通っていない様子だ。弱点もあれば耐性もあるのは当たり前ね。
それでも衝撃でフンコロガシ達が下がったおかげで、攻撃の隙が出来たのは確かだと思う。
土球を転がしてくるより早く、拳闘士が懐の駆け込んだ。転がってくる分は戦士が受け止め、銃手も銃撃により大きさを削っていく。
「そっち行った!」
私からでは誰だかはわからないものの、その声で塊がこちらへ向かっているのを把握した。
グレイザさんの体勢からそれを回避することはできそうにない。が、私を抱きかかえたまま身を翻し1つ目を避ける。
続けざまに、向かってくるもう一球を重の連続の斬撃で切り飛ばして難を逃れた。
「目が回りました……」
「踊りの一つもできないと困るぜ」
頭が振り回されたことに文句を言うも、簡単に受け流されてしまった。会話のAGIに振りすぎよ。
まぁ、踊りが必要な人生を歩むことは無いと思うわ。
「奴らが動けない今のうちだ! 3時方向!」
「【嵐舞】!」
飛ぶ指示に従って、私は真空の刃を放った。
無数に放たれる三日月型の弾は、近づいてくる何かを十字に裂きながら吹き飛ばした。いや、吹き飛ばしながら切り刻んだのか。
どちらでも良いようなことを考える。その間に、グレイザさんはゆっくりとターンしていき、続く私の魔法が鎖を形成する。
暴風の鉄鎖が敵を薙ぎ払う。
「とどめッ」
「おう!」「おー!」
もうこの組み合わせしかないとばかりに、銃手の合図に従って横合いから戦士、拳闘士が盾と拳で押し込んでいった。
【嵐舞】とブルドーザーみたいな3人の攻撃に挟まれ、程なくしてモンスター達が活動する気配がなくなった。
耳元でボソリとつぶやかれるフラグ。
「終わったか?」
「もう、大丈夫でしょう?」
「おっと、悪い」
グレイザさんが周囲を確認して、私も恐る恐る黒い鎧を突き放した。
冷静になったところで、今までせき止めていた感情がブワッと襲いかかってきた。砂漠にいたときよりも顔が熱くなり、不快ではない汗がにじみ出てくる。張り裂けんばかりに動悸は激しくて、血が沸騰して全身から吹き出しそうだ。
この気持ち、記憶にあるのだけれど気のせいよね?
「……」
「道は、俺達がきたのと平行に一つ。セルシュの方と合流するんだろうが、遅いな……」
私がボーッとしている間に、グレイザさんは状況の確認を終えていた。
大きめの部屋で、中央に石棺らしきものがある。あの乱戦の中で傷一つ付かなかったことを考えると、これが何か意味あるものだと考えられる。
「こちら残敵みあたらない」
「同じくだね」
「やぁ、随分と盛大にやったな」
いつもの3人も安全確保を終えた。
はずだった。
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