幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

文字の大きさ
上 下
28 / 31
レイド・ダンジョン編

2-13

しおりを挟む
「ッ!」

 私の体がビクッと震えた。

 それ以上先は聞きたくないと、頭が拒む。余計に足が固まって動けなくなりそうだけど、それでも引っ張る力の方が強い。耳を塞ぐこともできない私へ言葉は容赦なく伝わる。

「――俺だけを見てろ」

「へ?」

 グレイザさんの唐突なセリフに、変な声しか出てこなかった。

 えーと、あぁ、そう。黒い鎧だけ見て目隠ししておけば虫とか見なくて良いってことですね。わかります。

「動きは俺が伝える。問題ないだろ?」

 続く言葉で、やっぱり私の考えが正しいのだとわかった。

 そのやり取りを見ていた銃手が、前を走りながらもやらしい笑顔を浮かべる。

 違う! これはコンビネーションって奴なの!

「フフフッ。お熱いことで」

「この状況で随分と余裕があるみたいだし、あれを止めてこい」

 グレイザさんがすかさずからかいを止めた。

「ハハハッ、御冗談」

「ゴールが見えてきたぞ」

「気を引き締めて!」

 銃手がお断りを入れ、続けて戦士と拳闘士が状況を伝えてくれた。

「うお」「ぉぉ」「ぉぉ」「ぉぉ」「ぉッ」「!!」

 私達は悲鳴めいた気合を上げながら、前に見えてきた開けた部屋へと飛び込んだ。

 戦士達3人は右へ。私はグレイザさんに抱きとめられるように左に滑り込んだ。

 転がっていった土球は部屋の奥で壁にぶつかり崩れる、音がした。モッサリというよりかはドグシャッて感じだから、ぶつかっていたら結構やばかったかな。

「メリー! 真後ろに攻撃!」

 安心ばかりしていられず、グレイザさんの指示が飛んだ。私は、即座に腕を向けて魔法を解き放つ。

「【氷結雨フリーズ・スコール】!」

 他に敵がいる場合に備えて、氷で足止めできる方法を取った。

 続けざまに、他の3人が攻撃する音が聞こえた。

 やはり、周りに何体かいる様子。

一気呵成いっきかせいに叩き伏せろ! 【物力陣形アタック・フォーム】!」

 更にグレイザさんの指揮が重なり、前衛の戦闘能力が飛躍的に伸びた。

「2時方向! 範囲で制圧!」

「はい! 【火炎槍】!」

 止まらない指示に、私は慌てて炎の槍を選択して放った。が、どうやらこれは判断ミスだったみたい。

 炸裂してクソ虫を弾き飛ばしたまでは良かったものの、舌打ちと妙なこわばりが伝わってくる。

「こいつら……"炎耐性"持ちか。"吸収性能"までなくてよかったが」

 そうぼやいた通り、フンコロガシ達には炎系魔法のダメージが通っていない様子だ。弱点もあれば耐性もあるのは当たり前ね。

 それでも衝撃でフンコロガシ達が下がったおかげで、攻撃の隙が出来たのは確かだと思う。

 土球を転がしてくるより早く、拳闘士が懐の駆け込んだ。転がってくる分は戦士が受け止め、銃手も銃撃により大きさを削っていく。

「そっち行った!」

 私からでは誰だかはわからないものの、その声で塊がこちらへ向かっているのを把握した。

 グレイザさんの体勢からそれを回避することはできそうにない。が、私を抱きかかえたまま身を翻し1つ目を避ける。

 続けざまに、向かってくるもう一球をかさねの連続の斬撃で切り飛ばして難を逃れた。

「目が回りました……」

「踊りの一つもできないと困るぜ」

 頭が振り回されたことに文句を言うも、簡単に受け流されてしまった。会話のAGI敏捷に振りすぎよ。

 まぁ、踊りが必要な人生を歩むことは無いと思うわ。

「奴らが動けない今のうちだ! 3時方向!」

「【嵐舞エアロ・クロス】!」

 飛ぶ指示に従って、私は真空の刃を放った。

 無数に放たれる三日月型の弾は、近づいてくる何かを十字に裂きながら吹き飛ばした。いや、吹き飛ばしながら切り刻んだのか。

 どちらでも良いようなことを考える。その間に、グレイザさんはゆっくりとターンしていき、続く私の魔法が鎖を形成する。

 暴風の鉄鎖が敵を薙ぎ払う。

「とどめッ」

「おう!」「おー!」

 もうこの組み合わせしかないとばかりに、銃手の合図に従って横合いから戦士、拳闘士が盾と拳で押し込んでいった。

 【嵐舞】とブルドーザーみたいな3人の攻撃に挟まれ、程なくしてモンスター達が活動する気配がなくなった。

 耳元でボソリとつぶやかれるフラグ。

「終わったか?」

「もう、大丈夫でしょう?」

「おっと、悪い」

 グレイザさんが周囲を確認して、私も恐る恐る黒い鎧を突き放した。

 冷静になったところで、今までせき止めていた感情がブワッと襲いかかってきた。砂漠にいたときよりも顔が熱くなり、不快ではない汗がにじみ出てくる。張り裂けんばかりに動悸は激しくて、血が沸騰して全身から吹き出しそうだ。

 この気持ち、記憶にあるのだけれど気のせいよね?

「……」

「道は、俺達がきたのと平行に一つ。セルシュの方と合流するんだろうが、遅いな……」

 私がボーッとしている間に、グレイザさんは状況の確認を終えていた。

 大きめの部屋で、中央に石棺らしきものがある。あの乱戦の中で傷一つ付かなかったことを考えると、これが何か意味あるものだと考えられる。

「こちら残敵みあたらない」

「同じくだね」

「やぁ、随分と盛大にやったな」

 いつもの3人も安全確保を終えた。

 はずだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

処理中です...