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レイド・ダンジョン編

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「だ、出して! 開けてぇ~!!」

 ヌシはドンドンと中から扉を叩くものの、私の魔法によって上書きされた壁は微動だにしなかった。

 解錠の魔法などは持っていないことを確認すると、セルシュさんの治療にかかった。

「【小活性ミニ・キュア】! 【小活性】! 小――」

 50ポイントもあるかぐらいっていう微々たる回復量だから、何度か掛けてやっとこさね。これでINT255の回復量なんだぜ。信じられるかよ。

 そうしている間にも、他のパーティーの姿も見え始めた。

 ポウポウとちらほら見える明かりはまるでウミホタルのよう。

 いえ、ホタルというと私にとってはキレイなものではないのだけど。それでも、なんだか、他に人の姿が見えると安心できた。それも束の間、ヌシの家までたどり着いたプレイヤー達から罵声が飛ぶ。

「おいっ、コラァッ! この鍵はなんだ!」

「解錠の魔法だけじゃ開かないとか、どういうこったい!」

「堂々と戦え! 卑怯者!」

 好き勝手言ってくれるけど、これも魔法使いの戦い方よ! そりゃ、一匹が倒れるまで次のヌシが出てこないから、困るというのもわかる。

 私が口答えしても理解を示しても、何が変わるというわけではないから無視をする。

「おぃ! ヒッ、あんたは……」

 立ち去る背中に声をかけようとしたプレイヤーを、セルシュさんが睨みつけた。

 決して強面ではないにも関わらず怯えさせる辺り、その尊名は轟いているらしい。

 PKエリアではないため、私達はそれ以上関わることなく上へと上がっていく。他のパーティーにいるフェーリーと違う色のヒマリヤン族から彼女を引き剥がして。

「ほら、フェーリー。2Pカラーと言い争っていても仕方ないでしょ」

「あの子が自分こそわてしだつ言い張るのぢす……」

 どちらも自分が本物だと言って譲らない。なるほど、同じNPCを連れていかないといけない場合あるあるね。

 こうして私達は、無事陸へと上がって皆と合流した。後ろを守ってくれていた3人も、生き残って戻ってきてくれていたわ。

「セルシュ……。何事もなくて良かった」

 グレイザさんは、弟の安否だけを心配した。いつものことだからなんとも思わないけどッ。

「皆のおかげだよ。3人も、メリーも、いてくれたから無事戻ってこれたんだよ」

「そうか。そうだな」

 セルシュさんのセリフで、お兄さんもその通りだと認めた。浜側に残ったパーティーメンバーの様相を見れば、そう思わざるを得ないでしょうね。

 何せ、10人以上いた仲間は今や――戻ってきた私達も含めて――10人きっかりになっていた。

 私達の視線に気づいたグレイザさんも、少しばかり無力さを噛み締めている様子。

「MJの奴は、『最後までご同行できず申し訳ありません。準備出来ておりませんゆえ、皆様どうか早々に出迎えさせぬようお願いします』だとさ」

「まるで今生の別れみたいですね……」

 散り際が用意に想像できてしまった。対プレイヤー特化の鬼刃では、流石にレイドダンジョンは辛かったみたい。

 セルシュさんは、決してグレイザさんのせいではないと慰める。

「ついつい、ヌシを相手にしてしまって遅くなった僕らがいけないんだ。ごめん」

 謝罪も述べた。

「過ぎたことを悔やんでも仕方ありませんよ! えーと、ほら!」

 暗い雰囲気になってしまいそうになったのを、私は食い止めようとした。そのタイミングで、ちょうど次のフィールドへと移動する手段が現れ始めた。

 海の潮がドンドン引いていき、エンジェルロードの如く道が出来る。

 私達が呆然としているのに誰も渡り始めないあたり、他のパーティーからはそれが見えないらしい。

「そうだね。ここで立ち止まったら、散っていった皆に申し訳が立たない」

「あぁ」「うん」「はい!」「よーし!」

 セルシュさんの言葉を合図に、『ソウル・カンパニー』の面々は自らを鼓舞して先へと進んだ。

 しかし、私達を待ち受けていたのは残酷な現実だった。

「あ、あづい……」

 誰かが言葉少なにぼやいた。

 その中途半端な言葉通り、酷い熱が私達を襲っている。照りつける太陽も、それを反射する砂の大地も、容赦なくパーティーを苛むのだ。

「はぁ、はぁ、喉が」

「ふぅふぅ、乾いたわ……」

 戦士や銃手も、同じように苦悶を漏らした。もう流す汗もないようで、声にも吐息にも潤いがない。

 喋れるだけまだマシね。

 私なんてVITが少ないせいで、歩くのも辛いぐらいになっている。

 それでもなんとか砂丘を踏みしめるも、体を支えきれずに倒れるのは2度目か3度目になる。いや、2度で済んだ。

「……」

「頑張れ。フェーリー、後どれぐらいでお前の山に着く?」

 崩れ落ちそうになる私を支え、グレイザさんがフェーリーに問いかけた。

 心臓がバクバクと脈打っているのは、暑さでおかしくなったからに違いないわ。だって、フェーリーに案内されて数時間。

 体感にして10分といった具合だけれど、そろそろ目的地へついても良いころだと思う。

「こんなに歩いてはずないのぢすが」

 フェーリーは答えるも、どうやら予定を越えて歩いているらしかった。
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