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レイド・ダンジョン編
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「わかりました。急いで戻ってくるので、それまで持たせてください」
先の偵察をして、人手が必要そうなら上まで戻らなければならない。私はそう言うと、海底へと潜っていった。
それに合わせてセルシュさんも海底へと近づいていく。貝達もまた、下手に浮いているより地面の方が良いのか私達を追って着陸する。
良かった。これを待っていたのよ。
私は足場に手を触れて力ある言葉を解き放つ。
「【石走狗】!」
地面が犬を模した彫像へと隆起して、その複数が正面の貝殻を弾き飛ばしていった。
「キャァッ!」
ダメージこそ大したことないけど、上手く通路は作れたわ。ただ一つ誤算があったとすれば、動いた力の流れで変な水流が生まれたのかそちらへ体が吸い込まれたことね。
私はまだ、魔法の移動したエネルギーの反作用でその場に踏みとどまれた。けれど、フェーリーは一番軽いせいで引っ張られ、海溝に向かって緩い坂を下っていく。
「クッ! やばっ! フェーリー!」
「メリー!」
私は慌てて飛び出した。それを追ってセルシュさんが動く。
私はなんとかフェーリーの手を掴んだものの、飛び過ぎた体は水流の余力に押されややコースを逸れる。坂を滑り降りていくセルシュさんを、落下しながら眺めるという不思議な状況だ。
そのまま私達は光の届かない水底へと沈む。行き先が今の所そこしかないのなら、虎穴に入らずばなんとやら!
いえ、フェーリーが若干の恐怖状態で暴れそうになるため、私がなんとか抑え込もうとしてひたすら潜っていってしまっているのだ。
「大丈夫ですからねー。けど、どこまで……」
「油断しないように。明かりの準備をしておこう」
「はい」
フェーリーを抱きかかえ、なだめつつ闇の向こうを覗こうとした。
無駄だとわかったところでセルシュさんも声を掛けてくれ、私もアイテム画面から"ライティング・スティック”を取り出して周囲を照らした。
アイドルの応援に使えそうな棒状の懐中電灯でなんとか情報を得ようとするも、流石に数メートルそこらではほとんどなんにも見えない。
「見えなゴッ!?」
セルシュさんがぼやきかけたところで、何かが闇の中から彼をさらっていった。
ライティング・スティックの明かりだけがその場に残され、静かに海底へと向かって落ちていく。
「セルシュさん!? なななっ、なにが……!?」
私は戸惑いを浮かべるものの、フェーリーがいるため下手に動くこともできなかった。さらにその何かが生み出した水流が、まともな体の制御を奪い取った。
錐揉みして海底へと引きずりこまれながらも、周りの気配を読み取ろうとする。
金属同士のぶつかる音と銃声が響いた。
「セルシュさん!」
まだ無事だということがわかって、私は体勢を取り戻したところで音の出先を探した。
今度は射撃の砲火が見え、居場所はなんとか把握できた。しかし、それだけで今は何もできない。
見えない状況で魔法を放ったら、セルシュさんにも当たる可能性がある。仲間にダメージを与えることこそないけど、先程のことを考えれば衝撃でどこまで飛んでいくかわかったものではないわ。
「……」
それ以上に、私は一瞬だけ見えたモノのせいで動けなくなっていた。
セルシュさんを捕まえていたのは大きなハサミ。青黒と濁った白の斑模様をした外殻は、見た目以上に気持ち悪さを与えた。
私が呆然となっていると、誰かの声が聞こえる。
「メリーさん! ねぇ!」
「ハッ! フェーリー……?」
呼び声になんとか意識を覚醒させた。
もし暗闇でなければ、私の精神はまた持たず慌てて魔法を放っていたことだろう。目が慣れてなんとかシルエット――大きな塊が動いているぐらい――を把握できるようになったけれども、なんとか理性は保てている。
魔物の形状を理解出来ているなら、後はセルシュさんが囚われていないであろう位置を狙うだけ。
「【水魔笛】!」
こちらを狙われていないのを良いことに、いつもの杖である"理の杖"を取り出し攻撃に転じた。
魔法スキルの歪みが以前の風のように飛び、巨大なモンスターの足であろう部分にぶつかった。瞬間、水圧の衝撃が連続で収束してくる。
「うわわわわッ! 痛いじゃないか!」
「ごめ。って、ヌシの声?」
いきなり、そこそこの年のように思える子供みたいな喋り方をする誰かが喚いた。
思わず謝りかけたわ。
先の偵察をして、人手が必要そうなら上まで戻らなければならない。私はそう言うと、海底へと潜っていった。
それに合わせてセルシュさんも海底へと近づいていく。貝達もまた、下手に浮いているより地面の方が良いのか私達を追って着陸する。
良かった。これを待っていたのよ。
私は足場に手を触れて力ある言葉を解き放つ。
「【石走狗】!」
地面が犬を模した彫像へと隆起して、その複数が正面の貝殻を弾き飛ばしていった。
「キャァッ!」
ダメージこそ大したことないけど、上手く通路は作れたわ。ただ一つ誤算があったとすれば、動いた力の流れで変な水流が生まれたのかそちらへ体が吸い込まれたことね。
私はまだ、魔法の移動したエネルギーの反作用でその場に踏みとどまれた。けれど、フェーリーは一番軽いせいで引っ張られ、海溝に向かって緩い坂を下っていく。
「クッ! やばっ! フェーリー!」
「メリー!」
私は慌てて飛び出した。それを追ってセルシュさんが動く。
私はなんとかフェーリーの手を掴んだものの、飛び過ぎた体は水流の余力に押されややコースを逸れる。坂を滑り降りていくセルシュさんを、落下しながら眺めるという不思議な状況だ。
そのまま私達は光の届かない水底へと沈む。行き先が今の所そこしかないのなら、虎穴に入らずばなんとやら!
いえ、フェーリーが若干の恐怖状態で暴れそうになるため、私がなんとか抑え込もうとしてひたすら潜っていってしまっているのだ。
「大丈夫ですからねー。けど、どこまで……」
「油断しないように。明かりの準備をしておこう」
「はい」
フェーリーを抱きかかえ、なだめつつ闇の向こうを覗こうとした。
無駄だとわかったところでセルシュさんも声を掛けてくれ、私もアイテム画面から"ライティング・スティック”を取り出して周囲を照らした。
アイドルの応援に使えそうな棒状の懐中電灯でなんとか情報を得ようとするも、流石に数メートルそこらではほとんどなんにも見えない。
「見えなゴッ!?」
セルシュさんがぼやきかけたところで、何かが闇の中から彼をさらっていった。
ライティング・スティックの明かりだけがその場に残され、静かに海底へと向かって落ちていく。
「セルシュさん!? なななっ、なにが……!?」
私は戸惑いを浮かべるものの、フェーリーがいるため下手に動くこともできなかった。さらにその何かが生み出した水流が、まともな体の制御を奪い取った。
錐揉みして海底へと引きずりこまれながらも、周りの気配を読み取ろうとする。
金属同士のぶつかる音と銃声が響いた。
「セルシュさん!」
まだ無事だということがわかって、私は体勢を取り戻したところで音の出先を探した。
今度は射撃の砲火が見え、居場所はなんとか把握できた。しかし、それだけで今は何もできない。
見えない状況で魔法を放ったら、セルシュさんにも当たる可能性がある。仲間にダメージを与えることこそないけど、先程のことを考えれば衝撃でどこまで飛んでいくかわかったものではないわ。
「……」
それ以上に、私は一瞬だけ見えたモノのせいで動けなくなっていた。
セルシュさんを捕まえていたのは大きなハサミ。青黒と濁った白の斑模様をした外殻は、見た目以上に気持ち悪さを与えた。
私が呆然となっていると、誰かの声が聞こえる。
「メリーさん! ねぇ!」
「ハッ! フェーリー……?」
呼び声になんとか意識を覚醒させた。
もし暗闇でなければ、私の精神はまた持たず慌てて魔法を放っていたことだろう。目が慣れてなんとかシルエット――大きな塊が動いているぐらい――を把握できるようになったけれども、なんとか理性は保てている。
魔物の形状を理解出来ているなら、後はセルシュさんが囚われていないであろう位置を狙うだけ。
「【水魔笛】!」
こちらを狙われていないのを良いことに、いつもの杖である"理の杖"を取り出し攻撃に転じた。
魔法スキルの歪みが以前の風のように飛び、巨大なモンスターの足であろう部分にぶつかった。瞬間、水圧の衝撃が連続で収束してくる。
「うわわわわッ! 痛いじゃないか!」
「ごめ。って、ヌシの声?」
いきなり、そこそこの年のように思える子供みたいな喋り方をする誰かが喚いた。
思わず謝りかけたわ。
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