幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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レイド・ダンジョン編

2-9

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 否定できましたか……?

 まぁ、そういうのは慣れてますし、大賢者ってだいたいそういう役回りですからね。私がもっと回復魔法が強かったり、幅広い"強化バフ"や敵への"弱化デバフ"ができるなら、良かったんでしょうけど。

 クランから放逐されるぐらいなら、かぐや姫並の無茶振りをされている方がマシかもしれないわ。

「なんだかんだで私も毒されてるんでしょうね……ごーろく、しちはち」

「ハハハッ。異父兄弟だからって甲斐性を空回りさせているというか」

「そうですか。では準備も良いので急いで偵察に行きましょう」

 私は準備運動を終わらせて、話題を変えようとした。

 さり気なく重たい家庭事情を混ぜ込むの止めません?

「じゃあ、先行するよ!」

 セルシュさんはそう言って崖へと駆け出し、西洋の法衣を模した純白の装甲を宙になびかせたかと思うと水に踊らせた。

 崖の上からの見事な飛び込みに、感心よりもおかしなことを思いついてしまう。多分、脳みそにこびりついた湿気た海苔みたいな気持ちを洗い流したかったんでしょうね。

「先行して潜行する」

 私はボソッと呟いた。

 出来心だったのだ。ついつい、本当になんとなくである。

「うわぁ……」

「審議拒否だ」

「ギルティ!」

「ちょッ、押さなガボッ!」

 つまらないオヤジギャグで拳闘士は呆れ、戦士は首を横に振り、銃手から有罪判決が出た。浜辺から押されて海へと連れ込まれたと思ったら、深みが直ぐそこにあって私の体は沈んだ。

「すぅー! はぁぁぁ~……」

 圧倒的な海の香りを鼻腔から吸い込み、口からブクブクと吐いて呼吸を整えた。

「ちょっと、いきなり止めてくださいよッ」

 水辺で質の悪いおふざけは駄目なんだと怒ったわ。

 背中を押した銃手は、悪びれない様子で「ごめん、ごめん」と返した。

「危うく水の中で溺れるかと思いました……! 私は哺乳類。ノー魚類ですッ」

「それ普通だよ。今が特別なの」

 クッ。ああ言えばこう言う。

「ささ、早く行かないとサブマスに置いていかれるよ」

 拳闘士もフェーリーを連れた状態で海に潜ってきて、私をなだめながら先に進んだ。戦士と挟み込むような立ち位置で、私が少し前、さらにちょっと前に銃手が並ぶ。

 セルシュさんとは距離があるため、口論もしていられず慌てて追いかける。

「しかし、本当に見えないですね」

 急ぎつつも周りに気を配ることは忘れず、実に虫どもの姿がないことに安堵した。

「そういうけど、フェーリーは大丈夫なの?」

 セルシュさんに尋ねられた。

 文脈から、フェーリーを虫として見ないのかってことよね? えー、羽はあるし、目は円な複眼だし、触覚も生えているわね。

「四本の手足なのでセーフです」

「うわぁ基準ガバガバ……」

 私が即答すると、すぐさまそんなことをセルシュさんに言われた。純粋に衝撃を受けてる。

 更に、フェーリーを除いた他の3人も続く。

「ガバガバじゃね?」

 戦士による認識の確認。

「多分ガバガバだよね?」

 拳闘士は価値観の再確認を行った。

「ガバガバね!」

 銃手は断言した。

 なによー、皆して私の考え方が悪いみたいに……。

「わてし、何か悪いこつしましてか? メリーさん、ごめんなさい」

 シクシクと心の中で泣いていると、フェーリーだけが何も悪くないのに謝ってくれた。

 ほら、見た目なんて問題にならないぐらい良い子でしょ?

「なんでもないですよ。さぁ、進みましょう」

「そうぢすか?」

 気を取り直して海中散歩を楽しむことにした。

 そこからまた少し泳いでいったところで、流れが変わった。流石に敵も黙って接近を許してくれなかったみたい。

 海藻や砂を巻き上げて、一抱えほどはある二枚貝が飛び出してきたのだ。

「やっぱり出てきたか」

「まぁ、簡単に進ませてはくれませんよね」

 セルシュさんが身構え、私も銃手と背中合わせになった。

 機雷のように周囲を取り囲んでいるのは、厚い貝殻を持つオオシャコガイってやつ。水を吐き出して吹き上がっている器用さとか、身ではなく舌を出しているのはモンスターとしてのアレンジね。

「貝は大丈夫なんだね」

「えー、まぁ、虫偏がつくわけでもないですし?」

「え……?」

 セルシュさんはなんかおかしな顔したけど、虫っぽくないのは確かじゃない。えーえー、どうせ私の基準はガバガバですよー!

 と、喚いていても仕方ないのでどうしたものかしら。

「うらぁ!」

「おっと!」

 まず、後方で戦士と拳闘士が開戦した。デカイ図体を戦鎚で叩くと、酷く重たい金属音だけが海中に広がった。拳闘士はロケットアタックを仕掛けてくるシャコガイを回避。

 すかさず銃手が二丁拳銃で射撃していく。

「ありゃ?」

 が、呆けた声を出す程度に直ぐ浮き上がってきた。

 しかしここまでで、3人はモンスターの性質を理解した様子である。

「こいつら、硬いだけで後は大したことねぇな」

「上手く中を攻撃できれば大丈夫だよ」

「ここは私達に任せて先を見てきてよ」

 3人で引き受けてくれるとのことだが、銃手などは気を使ったつもりなのかしら。それなりにレベルアップは出来たと思うけれど、大丈夫か心配だわ。

 それでも話している時間が惜しいので、私達は前に浮遊しているシャコガイを蹴散らして進むことにした。
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