幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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レイド・ダンジョン編

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 呪文を唱える必要もなく、その素早い長体を捉えるために直ぐ魔法を解き放つ。

「【神裂ゴッド・ソー】!」

 前に突き出した手の少し前方から、光り輝く白色の魔法が伸びた。

「それは、まずい!」

 それの危険性を理解しているグレイザさんは慌てて、射線を変えるため飛びかかった。

「多少の魔法など! ともども食らっ」

 ギュゥゥゥゥンッとかなりの轟音をかき鳴らす閃光は、噛みつきにかかったジャングル・イーターの頭部を消し去る。いくらか残った肉片は黒く焼け、湯気と臭気を撒き散らして地面に飛び散った。

 私の体が倒れるのに合わせて魔法の射線が上へ向き、木々を薙ぎ払った。光線は宙の力場にぶつかって消えた。

 INT255で得られた神さえも切り裂くと言われる最強の魔法でも、流石にイベント範囲を超えることはできなかったらしい。

 そんなこともありつつ、時間は私の意識が戻ってきたタイミングへ。"ドロップアイテム”はあったものの、大したものではないので割愛。

「――とまぁ、そういうことがあったわけだ」

 グレイザさんを含む、仲間達の説明がだいたい終わった。

 ここで、ちょうど別働隊のセルシュさん達も騒ぎを聞きつけて合流してくる。

「お兄さん! 今のは!?」

「あぁ、問題ない。こいつが、いきなり切れて魔法をぶちかましただけだ」

 慌てて駆け寄ってくる弟さんに、グレイザさんは端的な答えを返した。怒っているようにも聞こえるけど、私が悪いのかしら……。

 セルシュさんが少し思案する間に、グレイザさんは構わずに続ける。

「まさか、自分を見失うほどとは……。危うく、チームが瓦解するところだったぜ」

「そ、そんなこと言っても、虫は本当に駄目なんですって……! さっきまでの記憶さえないぐらいに……」

 もう帰りたいと、私は目で訴えた。

 それでも、皆に迷惑を掛けるし、無意識にだって魔法ぐらいなら使える。もはやこのまま進みたいのかもわからない。セルシュさんのチームからいなくなった人達みたいに、モンスターにターゲティングされてデスルー……外にリスポーンして終わるのが最善かしら。

 ワガママを言っているとは知りつつも、駄目な物は駄目なのだと伝える。

「そんなに嫌なら――」

 グレイザさんが言いかけたところで、私はハッとした。

 やっぱり、怒らせてしまったかも……。嫌われてしまっただろうか?

 後任が見つかる前に警送の仕事から解雇されたら、私はどうしたら良いのか。今から訂正?

 いやいやいやいやッ! どっちも嫌!

「――お兄さん、あまり無茶はさせないようにね。誰しも得手不得手があるんだから」

 二律背反の通達を前にして慌てた私に、セルシュさんは助け舟を出してくれた。

「……まぁ、善処する」

 自覚はあるのか、弟にまで注意されては無理も言えない様子。グレイザさんは言葉を飲み込んで、助けたNPCの対応に向かった。

 一安心できたもののもう後がないといったところね。

「すみません。セルシュさん」

 とりあえずはセルシュさんに若干の感謝を伝えた。

 するとにっこり笑って返してくれる。

「良いんだよ。メリーさんも、どうか不器用な兄を許して欲しい」

 まぁ、どちらが悪いってわけでもないから。

 しかし、あれで不器用って信じられないわ。人使いのバランスが悪いという意味かもね。

 私みたいな有能でない部下まで使い潰そうとすれば、そりゃどこかにほころびが出るというもの。きっと、セルシュさんもそういったグレイザさんの態度に辟易していたんでしょう。

「苦労なさっているんですね。仲の良いご兄弟だと思っていましたけど、外聞を維持するのも大変そうで」

 私は苦笑して労った後、話を切り上げてNPCのいる方へと向かう。

「どちらかと言うと呆れ、うぅん、嫉妬かな」

 そのようなセルシュさんの呟きが妙に耳に残った。

 なんとなく触れてはならない気がして、振り返りはせずに進む。

「うわー、マジで他種族だぜ」「羽があるってことは妖精に近いのかな?」「ねぇ、なんていう種族なの?」「ここへきた目的を答えろ」

 NPCの周りに出来た人集りへとくると、まるで転校生を質問攻めにしているあの様相があった。

 1人、それは尋問のような気がしなくはないが、聞く必要のあることなので黙っておく。

「わてし、山の隠れ里に住む者。どうか、わてしの里を救っつくでさい」

 話を聞いていくと、どうやら訛りがあるみたい。違った。

 彼女の名前はフェーリー。"ヒマリヤン”族という種で、キラヴェア山の他に様々な高地に住まう。

 今回の騒ぎは、山で眠っていたヌシの目覚めが原因らしい。それに呼応した各地のヌシ達もまた、山の支配者の咆哮により苛立ってしまっているのだとか。

「まさか、この力場って……」

 話を聞いていって、私は見当違いの想定にたどり着いた。咆哮だけで最強の魔法を防げるヌシ達って、どんだけ~!

「古っ」

 というジョークと心を読んだツッコミはさておき、私達はその山のヌシとやらを倒さなければならないらしい。多分、それだって巨大な虫なんでしょうけど……気が滅入るわぁ。
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