幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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レイド・ダンジョン編

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 少しばかり私が迷子になってしまったわけだけど、少ししてグレイザさんに見つけて貰った。

「ハァ、ハァ……。たす、かった……」

 色々と駆け回った後で、無事に合流することが出来て安堵する。

 べ、別に、心細かったわけじゃないし! 最悪、"クランチャット・インク"で場所を伝えれば良かったわけだからね!

 強がってみたところで、次に飛び出してくるであろう「本当に、何をやってるんだ」ぐらいのセリフを覚悟する。

「問題なさそうでよかった」

「は?」

 しかし、飛び出してきたセリフは意外なものだった。私はまたしても拍子抜けしてしまった。

 当然、グレイザさんは訝しげな表情をする。

「なんだ……?」

「いえ、こういうとき貴方の方が、気をつけろって目尻を上げて怒るところかと。角だして鬼の形相で、ほら」

「ほら、じゃねぇっ。お前なぁ、俺を何だと思ってるんだ?」

 質問に答えるも、なんだかお気に召さない様子だ。

 何って聞かれても……。もしかして、思いの外評価が低いことを気にしているの?

「えーと、ブラックな会社の御曹司プリンス?」

 もっと良さそうな名称を考えたところで、思いついたのはグレイザさんの異名だ。ちょっと上手くない? ねぇ、上手いでしょ?

 これならグレイザさんも満足してくださると思って、少しばかりドヤってみた。

 しかし、これもお気に召さなかったらしい。

「あのなぁぁぁぁ!」

 私の両頬が抓まれ、モッチモチと両側に引き逃された。

フワワッうわわっナヒッ何ッ? ホホハヒギレフ頬がちぎれる!」

「俺を不当に貶めるのはこの口かぁッ?」

 私の珠のような顔になんてことしてくれるの!

 いえ、私が悪かったです。ごめんなさい……。

「ゴ、ゴヘンッテごめんって!」

「ったく。はぁ……」

 私も素直に謝って、なんとか許してもらおうとした。グレイザさんも言うほど怒っていないようで、頬から手を離してくれた。

 小さなため息だが、とても悲しそうな響きがあった。

 うッ、流石に傷つけたかしら?

 流石の私も言い過ぎたと反省した。

「お前からは目が離せそうにないな……」

「あ、あれは事故でっ……あぁ、もう良いです!」

 これ以上は喧嘩しても始まらないため、私は引き下がることにした。こういうのは大人な対応をした方が勝ちなのよ。

 なんだか、冷ややかな視線がある気がするけど気にせいよね?

「とりあえず、ゆっくりもしていられないから冒険者の店に行くぞ」

「あ、そうでしたね」

 グレイザさんも口論は止め、要件を終わらせにいくため移動を始めた。

 どう言い繕ったところで、私もAGIは1しかなくて遅いのだ。もたもたしていてもセルシュさん達を待たせてしまうことになる。

 さっさと必要な手続きを終わらせるべく冒険者の店へとやってくる。

「ふーん、ここはなんとなく雰囲気が違うんですね」

 その間も私は、グレイザさんの側について周囲に気を配っておいた。

 口にした通り、冒険者の店と言っても町や村によって違いが出てくるのよ。まぁ、大抵は古臭い木造の酒場みたいな感じね。なんというか、中世中後期の宿屋とかにありそうな芸のないアレ。

 建造物の見た目で優劣をつけるつもりはないけれど、色々と趣向は凝らして良いと思うの。

「大抵はイメージの伝わりやすさを重視するからな」

 グレイザさんの言った通り、既存のファンタジーゲームに似通うのは仕方ない話。

 ここのように、アクアリウムを模した作りにするなんてそうそうないわよね。ブロックの波止場の下を空洞にして、お店を地下に置くなんてとんでもない建築だわ。

 ガラス張りの壁も、良い素材を使ってるようね。

「うん? 今、"マーメイド"が泳いでいった気がしたんだが?」

 私の見ていなかったところで、グレイザさんが何かを目撃したらしい。モンスターが人間を見てて襲ってこないなんて馬鹿なことがあるわけない。

 良くて"召喚術者サモナー・メイジ"が呼び出した魔物ぐらいね。

「どうしたんです? 何もいないじゃないですか」

「では、これで手続き終了ですね。ご健闘を祈っております」

 ほら、受付の人も何ら反応しない。

「いやいや! あんたも絶対見ただろ!? ってNPCかよ!」

 自分の味方がいなくて、グレイザさんは悔しいみたい。NPCは流石に、常識外の反応はしてくれないものね。

 とりあえず、依頼の内容や受注者のサイン、他注意事項が書かれたA4用紙を授受し合ったのでオッケー。ソロで活動しているプレイヤーを覗けば、続々と依頼を受けて店を出ていく。急がないと。

「さぁ、出遅れないように」

 ハプニングはあれどもこうして無事に用事を終えたのだから、グレイザさんを急かして港へと向かった。

 まだ納得していない様子だったけど、切り替えが早いのはもしかしたら似た者同士なのかも。

 街への入り口から伸びた大通りから、冒険者の店少し手前で三叉路となる。『山』型の道の北――西を向いて移動しているので右の一辺――を進む。

 まだまだ見るべき観光地があるのだろうけど、今は余所見はしていられない。

「みんなー!」

「あ、きたぞ」

「おーい」

「こっちよー!」

 私が呼びかければ、声に気づいて初心者で後輩の3人が気づいてくれた。上手く船を借りられたようね。
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