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レイド・ダンジョン編
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一度出遅れれば、前を行くチームがミスしない限りは追い抜けなくなる可能性があるわけね。
完全に倒せないヴァンパイアというモンスターだからこそ成立したレイドダンジョンを、競争という形で運用するには上手いやり方である。
「まぁ、今までよりはマシなやり方ですね。一匹を休みなく入れ替わり立ち代わりいたぶるとか、どうなのかと考えていましたし?」
「おい、まるで俺達が非人道的みたいに言うんじゃねぇ……」
「当然、あんなの全員が共犯ですよ!」
「モンスター相手だから不可抗力だ! 不可抗力!」
「そんなこと言って、一体何回ヴァンパイアロードを倒したのッ?」
「それはお前が言って良いことじゃねぇよ! ヴァンパイアが言うことだからな!?」
大企業の管理者とは思えない程度にわかっていらっしゃるようだ。
しかし、本当に私達ってことごとく反りが合わないわ。
周りからも、仲の悪さをクスクスと笑われてしまう。グレイザさんも顔を赤くして手を振る。
「全く……やめやめッ。さぁ、急いで"ネプトノス”へ」
ため息一つとそれだけの叱咤で場を収め、皆を首都南西の都市へと進むよう促した。
行く先はスナンドニーの港湾交易都市であり、国外に出ていくならちょうど良い場所である。本当ならここアキュイロの"冒険者の店"で仕事を請け負うのだけど、リスポーン地点が遠くなってしまうので避けるのだろう。
今回は自由国"ロムフィード"ではなく共和国"プリキュバー"だからね。
「他の人達は、各々の国で依頼を受注して合流ですか」
チーム全体を見渡し、24人もいなさそうなため私は聞いた。
「そうだ。共和国と王国は別に受けないと駄目らしいぞ。多分、共和国の冒険者の店が混んで騒ぎにならないようって配慮だろ」
「なるほど」
こういう細かいところに気遣いするから、このゲームは人気が高いのだ。
ゲーム運営の頑張りはさて置き、私達は交易都市へとやってきた。移動? いや、10人を超える団体様に手を出す輩はそうそういないし、そこらのボス級モンスターでも敵うわけもなく何事もなく到着よ。
南北にある要塞都市に継ぐ大きな壁を越えて、風に運ばれてくる潮の香りを胸いっぱいに吸い込む。磯か魚かの生臭さに顔をしかめつつ、多くの人々で賑わう街を進む。
「セルシュ、港で話を付けておいてくれ。俺達は依頼の受注をしてくる」
「わかったよ」
装甲任せで"AGI"に振っていないセルシュさんが港へ。グレイザさんが冒険者の店へと向かうことになった。
「待って、俺達って?」
依頼なんて1人いれば十分なのに、まるで複数人で行くかのようなことをおっしゃった。当然のように嫌な予感がして、私は意義を申し立てた。
グレイザさんは彼自分を指差し、続けて私を指差す。
私も指し返して、次に自分へと指先を向ける。
グレイザさんはうなずく。
私笑う。
嫌ぁ!
「そんなに嫌がらなくても良いだろう……」
「なんて一緒に行かないと駄目なんです!? 1人でお遣いぐらいできるでしょう!? 子供じゃないんですから!」
「ちげーよ! いざってこともあるんだから1人なんて危ないだろうが。それに、前に言ってただろ」
何をッ? あ……。
ちょっと前に、仕事の調子を聞かれて答えたことがあった。それを思い出す。
『ネプトノスには何度か行ってますけど、観光はしたことないですね。まぁ、どの街もですけど』
そういえばそんなことを言った。
「ネプトノスの構想と建造指揮をしたのが兄でね」「セルシュ」
へぇ。
「っと、行ってくるよ」
セルシュさんがフォローめいたことをするも、お兄さんに睨まれてそそくさと退散していった。
「あぁ、そーういうことですか。自慢がしたかったわけですね」
逆転。グレイザさんの考えを看破して、私の方が有利になった。この機にちょっとからかってやろっと。
「あーあーっ、それで良いよ。ったく」
負けを認めて、先に歩いて行ってしまった。その後を、私はニヤニヤと笑いながら着いていく。
男が子供みたいに自分の作ったものを見せびらかしたいのは、まぁなんとなくわかるというもの。こういう男の子男の子したところは、やっぱり憎めないのよね。
「あっちは海鮮市場になっているから見ものだぞ。む、あの仕入れは危なっかしいな」
私が考えながら歩いていると、グレイザさんはあそこはどうだ、ここのなんだ、と話していった。なんだかお上りさんみたいになっているわ。
中央までくると、釣り上げた大物の競りが独占法だのなんだの呟きながら向かおうとする。
「あんまりうろちょろすると迷子になりますよ~」
「そこまで間抜けじゃねぇさ。お前とは違うからな」
「そんなこと言ってー。私だって子供では……なんだか、人が集まって?」
市場に出品する漁師も増え、競りに注目が集まってきたせいか混み合ってくる。気がつけばいつの間にか人集りに囲まれていた。
そんなタイミングでグレイザさんが市場を牛耳る親元に介入していくものだから、騒ぎは一気に可燃して爆発する。
「散れッ! 誰か衛兵を! 元首権限にて捕縛する!」
こうなったら、人の流れは恐慌により外へと流出する。当然、私は人波に逆らうことなどできず飲まれるのだ。
「イヤァャァァァァァァァッ――!」
聞き取ってもらえる私の悲鳴が無情に響いた。
完全に倒せないヴァンパイアというモンスターだからこそ成立したレイドダンジョンを、競争という形で運用するには上手いやり方である。
「まぁ、今までよりはマシなやり方ですね。一匹を休みなく入れ替わり立ち代わりいたぶるとか、どうなのかと考えていましたし?」
「おい、まるで俺達が非人道的みたいに言うんじゃねぇ……」
「当然、あんなの全員が共犯ですよ!」
「モンスター相手だから不可抗力だ! 不可抗力!」
「そんなこと言って、一体何回ヴァンパイアロードを倒したのッ?」
「それはお前が言って良いことじゃねぇよ! ヴァンパイアが言うことだからな!?」
大企業の管理者とは思えない程度にわかっていらっしゃるようだ。
しかし、本当に私達ってことごとく反りが合わないわ。
周りからも、仲の悪さをクスクスと笑われてしまう。グレイザさんも顔を赤くして手を振る。
「全く……やめやめッ。さぁ、急いで"ネプトノス”へ」
ため息一つとそれだけの叱咤で場を収め、皆を首都南西の都市へと進むよう促した。
行く先はスナンドニーの港湾交易都市であり、国外に出ていくならちょうど良い場所である。本当ならここアキュイロの"冒険者の店"で仕事を請け負うのだけど、リスポーン地点が遠くなってしまうので避けるのだろう。
今回は自由国"ロムフィード"ではなく共和国"プリキュバー"だからね。
「他の人達は、各々の国で依頼を受注して合流ですか」
チーム全体を見渡し、24人もいなさそうなため私は聞いた。
「そうだ。共和国と王国は別に受けないと駄目らしいぞ。多分、共和国の冒険者の店が混んで騒ぎにならないようって配慮だろ」
「なるほど」
こういう細かいところに気遣いするから、このゲームは人気が高いのだ。
ゲーム運営の頑張りはさて置き、私達は交易都市へとやってきた。移動? いや、10人を超える団体様に手を出す輩はそうそういないし、そこらのボス級モンスターでも敵うわけもなく何事もなく到着よ。
南北にある要塞都市に継ぐ大きな壁を越えて、風に運ばれてくる潮の香りを胸いっぱいに吸い込む。磯か魚かの生臭さに顔をしかめつつ、多くの人々で賑わう街を進む。
「セルシュ、港で話を付けておいてくれ。俺達は依頼の受注をしてくる」
「わかったよ」
装甲任せで"AGI"に振っていないセルシュさんが港へ。グレイザさんが冒険者の店へと向かうことになった。
「待って、俺達って?」
依頼なんて1人いれば十分なのに、まるで複数人で行くかのようなことをおっしゃった。当然のように嫌な予感がして、私は意義を申し立てた。
グレイザさんは彼自分を指差し、続けて私を指差す。
私も指し返して、次に自分へと指先を向ける。
グレイザさんはうなずく。
私笑う。
嫌ぁ!
「そんなに嫌がらなくても良いだろう……」
「なんて一緒に行かないと駄目なんです!? 1人でお遣いぐらいできるでしょう!? 子供じゃないんですから!」
「ちげーよ! いざってこともあるんだから1人なんて危ないだろうが。それに、前に言ってただろ」
何をッ? あ……。
ちょっと前に、仕事の調子を聞かれて答えたことがあった。それを思い出す。
『ネプトノスには何度か行ってますけど、観光はしたことないですね。まぁ、どの街もですけど』
そういえばそんなことを言った。
「ネプトノスの構想と建造指揮をしたのが兄でね」「セルシュ」
へぇ。
「っと、行ってくるよ」
セルシュさんがフォローめいたことをするも、お兄さんに睨まれてそそくさと退散していった。
「あぁ、そーういうことですか。自慢がしたかったわけですね」
逆転。グレイザさんの考えを看破して、私の方が有利になった。この機にちょっとからかってやろっと。
「あーあーっ、それで良いよ。ったく」
負けを認めて、先に歩いて行ってしまった。その後を、私はニヤニヤと笑いながら着いていく。
男が子供みたいに自分の作ったものを見せびらかしたいのは、まぁなんとなくわかるというもの。こういう男の子男の子したところは、やっぱり憎めないのよね。
「あっちは海鮮市場になっているから見ものだぞ。む、あの仕入れは危なっかしいな」
私が考えながら歩いていると、グレイザさんはあそこはどうだ、ここのなんだ、と話していった。なんだかお上りさんみたいになっているわ。
中央までくると、釣り上げた大物の競りが独占法だのなんだの呟きながら向かおうとする。
「あんまりうろちょろすると迷子になりますよ~」
「そこまで間抜けじゃねぇさ。お前とは違うからな」
「そんなこと言ってー。私だって子供では……なんだか、人が集まって?」
市場に出品する漁師も増え、競りに注目が集まってきたせいか混み合ってくる。気がつけばいつの間にか人集りに囲まれていた。
そんなタイミングでグレイザさんが市場を牛耳る親元に介入していくものだから、騒ぎは一気に可燃して爆発する。
「散れッ! 誰か衛兵を! 元首権限にて捕縛する!」
こうなったら、人の流れは恐慌により外へと流出する。当然、私は人波に逆らうことなどできず飲まれるのだ。
「イヤァャァァァァァァァッ――!」
聞き取ってもらえる私の悲鳴が無情に響いた。
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