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レイド・ダンジョン編
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たどり着いたのは、元老議場である。会議場のすり鉢状に椅子が並んだ方には、既に何人かのクランメンバーが集まっていた。
見知ったメンバーや、その知り合いに挨拶をしながら人集りの前方へと進む。
「来たか。お前で最後だな」
すると、早速掛かった声はそれだ。グレイザさんとセルシュさんが、メモ用紙を手に佇んでいるのが見えた。
げっ、最後になったことを文句言われてしまう……。ちゃんと名簿まで用意して面々を出迎えてくれている辺り、準備がよろしいと言いますか。
「それでは、ただいまより新しく実装された"レイドダンジョン”へと挑む!」
「お?」
警戒していたのに、反して皆への鼓舞をし始めるものだから私はつい拍子抜けしてしまった。
久しぶりに多人数で挑むダンジョンだから、グレイザさんもワクワクドキドキなんでしょうね。子供みたいなところがあるのは、まぁね?
「どうした? 何か忘れ物なら、依頼を受注する前にしておけよ」
「いえ、なんでもないです。準備も大丈夫なので、行きましょう」
やぶ蛇にならないよう誤魔化しつつ、私は集団の後ろをついていった。
なのに、なぜかグレイザさんは先頭をセルシュさんに任せて後ろにやってくる。ホントなぜに?
「クランマスターが、前に行かないと駄目では……?」
流石に側にクランマスターにいられると緊張してしまうので、さり気なく離れていただけるよう言った。
「前はセルシュとMJに任せてある。後ろのカバーと、指示はリーダーの役目だろうが」
「そりゃぁ……えー」
私が拒絶しているのを知ってか、二の句が告げない程度に理由付けを用意してきやがった。
将軍が前に出ていくなんてそうそうあることじゃないし、軍師も兼ねるなら後ろから指示を飛ばすのもわかる。適材適所を考えれば、切り込み隊長のセルシュさんと得手不得手がはっきりしたMJさんを、臨機応変に動かす方が良いのも自明だわ。
けれど、それでは私の胃が持たないの!
「そんな万年胃痛に悩まされている中間管理職みてぇな顔をするんじゃねぇよ」
無茶を言わないでもらえると助かる。
第一、私の立場は本当に中間管理職だからね。
「皆には頑張ってもらわないといけないからな」
最善を尽くし、皆を鼓舞するのは当たり前だとリーダーらしいことを言った。えぇ、えぇ、以前のBUGUウサギイベントでもそうでしたが、都市の元首としてもよくやってくれていますとも。
基本、その頑張りが私に降り掛かってきている気がするのは気のせいですか?
イベントのアイテムは辛うじてコンプリートできたけど、貯金していたお金をかなり使ったわ。ゲーム内通貨だから貯めようと思えば難しくないけれど、この先も良いアイテムなどに必要かもしれない。
今回も、果たしてどこで損を被るかしら。
「はぁ……わかりました。けど、暑苦しいので離れてください」
「ふん」
傍らにいられては冷や汗さえ出てくるので、私は突き放してしまった。
傷ついただろうか?
「今回を逃すと、次に大勢が集められるのが5日後になるんでな。ちょっとばかし、俺も浮き立っているのかもな」
むぅ……。グレイザさん、こういうなんだかんだで自分の在り方をさらけ出すところは嫌いになれないのよね。
喧嘩みたいになっていたから余計に。
「昨日まで取っていたアンケートはそういうことでしたか」
適当に話をあわせて、事務的に振る舞っているように見せた。なぜか、周りの視線が奇異なものを見るそれになっているからだ。
私は経理担当なのでそこに乗っかる必要はないのかもだけど、放っておくと何も解決しない気がする。
それは、グレイザさんのセリフにも現れている。
「あぁ。今回で24人だからな。次回になると21人でMJもいないから、もっと厳しくなるぞ」
「十分いけそうな人数ですけど、何か懸案事項でも?」
「ダンジョンの説明を読んでこなかったのか?」
質問に質問で返されると困るが、どうやら私の見ていないところに原因があるらしかった。
「えぇっと、急いで帰ってきましたから。ストーリー紹介ぐらいしか……あ、化粧も落としてない」
だから皆が私の顔を見てくるのか!
「はっきり言うとそれは関係ない」
何よ。逃げ場ぐらい残しておきなさいよ!
まぁ、良いわ……。
「以前は、"レイド・ボス"の城が世界各所に登場して多くのチームがこぞって財宝を求めたという。そんな話ですよね」
前のダンジョンでは、"ヴァンパイアロード"のいる城に乗り込んでフルボッコにするって感じだったっけ。実装から一ヶ月は、クリアするごとに一つずつ"ユニーク・アイテム"を手に入れることができる。
そんな感じだから、今回も似たようなスタイルだと考えている。なんか、ボッコボッコにやられて財宝を奪われるって可哀想よね。
「確かに、流れは大凡考えている通りだ」
「今回は確か、共和国に謎の障壁が現れて困っているから攻略してくれという話でしたよね。"フィールド・ボス"を含むレイド・ボスを4体倒して」
「今度のは一つの土地をめぐる戦いだ。しかも、一緒に入ったチームが全滅しない限りはリスポーンした仲間は再入場できない」
注意事項を聞いて、何が問題なのか理解した。
見知ったメンバーや、その知り合いに挨拶をしながら人集りの前方へと進む。
「来たか。お前で最後だな」
すると、早速掛かった声はそれだ。グレイザさんとセルシュさんが、メモ用紙を手に佇んでいるのが見えた。
げっ、最後になったことを文句言われてしまう……。ちゃんと名簿まで用意して面々を出迎えてくれている辺り、準備がよろしいと言いますか。
「それでは、ただいまより新しく実装された"レイドダンジョン”へと挑む!」
「お?」
警戒していたのに、反して皆への鼓舞をし始めるものだから私はつい拍子抜けしてしまった。
久しぶりに多人数で挑むダンジョンだから、グレイザさんもワクワクドキドキなんでしょうね。子供みたいなところがあるのは、まぁね?
「どうした? 何か忘れ物なら、依頼を受注する前にしておけよ」
「いえ、なんでもないです。準備も大丈夫なので、行きましょう」
やぶ蛇にならないよう誤魔化しつつ、私は集団の後ろをついていった。
なのに、なぜかグレイザさんは先頭をセルシュさんに任せて後ろにやってくる。ホントなぜに?
「クランマスターが、前に行かないと駄目では……?」
流石に側にクランマスターにいられると緊張してしまうので、さり気なく離れていただけるよう言った。
「前はセルシュとMJに任せてある。後ろのカバーと、指示はリーダーの役目だろうが」
「そりゃぁ……えー」
私が拒絶しているのを知ってか、二の句が告げない程度に理由付けを用意してきやがった。
将軍が前に出ていくなんてそうそうあることじゃないし、軍師も兼ねるなら後ろから指示を飛ばすのもわかる。適材適所を考えれば、切り込み隊長のセルシュさんと得手不得手がはっきりしたMJさんを、臨機応変に動かす方が良いのも自明だわ。
けれど、それでは私の胃が持たないの!
「そんな万年胃痛に悩まされている中間管理職みてぇな顔をするんじゃねぇよ」
無茶を言わないでもらえると助かる。
第一、私の立場は本当に中間管理職だからね。
「皆には頑張ってもらわないといけないからな」
最善を尽くし、皆を鼓舞するのは当たり前だとリーダーらしいことを言った。えぇ、えぇ、以前のBUGUウサギイベントでもそうでしたが、都市の元首としてもよくやってくれていますとも。
基本、その頑張りが私に降り掛かってきている気がするのは気のせいですか?
イベントのアイテムは辛うじてコンプリートできたけど、貯金していたお金をかなり使ったわ。ゲーム内通貨だから貯めようと思えば難しくないけれど、この先も良いアイテムなどに必要かもしれない。
今回も、果たしてどこで損を被るかしら。
「はぁ……わかりました。けど、暑苦しいので離れてください」
「ふん」
傍らにいられては冷や汗さえ出てくるので、私は突き放してしまった。
傷ついただろうか?
「今回を逃すと、次に大勢が集められるのが5日後になるんでな。ちょっとばかし、俺も浮き立っているのかもな」
むぅ……。グレイザさん、こういうなんだかんだで自分の在り方をさらけ出すところは嫌いになれないのよね。
喧嘩みたいになっていたから余計に。
「昨日まで取っていたアンケートはそういうことでしたか」
適当に話をあわせて、事務的に振る舞っているように見せた。なぜか、周りの視線が奇異なものを見るそれになっているからだ。
私は経理担当なのでそこに乗っかる必要はないのかもだけど、放っておくと何も解決しない気がする。
それは、グレイザさんのセリフにも現れている。
「あぁ。今回で24人だからな。次回になると21人でMJもいないから、もっと厳しくなるぞ」
「十分いけそうな人数ですけど、何か懸案事項でも?」
「ダンジョンの説明を読んでこなかったのか?」
質問に質問で返されると困るが、どうやら私の見ていないところに原因があるらしかった。
「えぇっと、急いで帰ってきましたから。ストーリー紹介ぐらいしか……あ、化粧も落としてない」
だから皆が私の顔を見てくるのか!
「はっきり言うとそれは関係ない」
何よ。逃げ場ぐらい残しておきなさいよ!
まぁ、良いわ……。
「以前は、"レイド・ボス"の城が世界各所に登場して多くのチームがこぞって財宝を求めたという。そんな話ですよね」
前のダンジョンでは、"ヴァンパイアロード"のいる城に乗り込んでフルボッコにするって感じだったっけ。実装から一ヶ月は、クリアするごとに一つずつ"ユニーク・アイテム"を手に入れることができる。
そんな感じだから、今回も似たようなスタイルだと考えている。なんか、ボッコボッコにやられて財宝を奪われるって可哀想よね。
「確かに、流れは大凡考えている通りだ」
「今回は確か、共和国に謎の障壁が現れて困っているから攻略してくれという話でしたよね。"フィールド・ボス"を含むレイド・ボスを4体倒して」
「今度のは一つの土地をめぐる戦いだ。しかも、一緒に入ったチームが全滅しない限りはリスポーンした仲間は再入場できない」
注意事項を聞いて、何が問題なのか理解した。
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