上 下
14 / 31
初心者イベント編

1-13

しおりを挟む
 山賊まがいの行為をするこいつらを許せないのは確かだけれど、だからといって反撃のタイミングを間違えたら駄目。幸い、荷車の方の3人はまだ隠れてくれている。

 既にMJさんがしてるだろうけど、周囲をさり気なく見渡して敵の様子を伺う。

 岩場の上に5人ばかし"弓兵”と魔法職が並んでいて、2メートルほど前方に3人の下っ端山賊がいる。前に2人、後ろに1人という展開して囲むのが容易な陣形ね。その更に後方にボスと思しい大柄な男と、側仕えの回復役であろう奴が控える。

「よく見ると悪くねぇ顔じゃんか」

「……」

 そういう卑猥なことはできないゲームだけど、演技のつもりらしいセリフが非常に気持ち悪かった。

「やですわ。お姉さん嬉しゅうございますのッ」

 MJさんはそれでも嬉しいみたい。

 その猫なで声に、山賊達は少し疑問に思ったみたい。

「あ? そっちのポンチョのは、女かと思ったけど男なのか……?」

「可愛ければ男とか女とか関係はございませんとも」

「うっせー! 気持ち悪いだろぉが!」

 山賊達の個人的感想です。私個人は、女装男子、両性、ありだと思います。

「ちょっと、こいつのステータスを見ろ!」

 何を躍起になったのか、"魔道術者ソーサリー・メイジ"にMJさんステータスを暴くよう命令した。

 いや、私も気にはなっていたけどね。

「私に聞かせて 貴方があるべき姿を 私に教えて 貴方の持つべき力を ここにいる全ての者と その真実を共有しましょう」

 敵さんの魔法使い――マジックユーザー系ジョブの総称――が呪文を唱え始めた。

 先制して魔法を放つことは出来たかもしれないけれど、MJさんの性別とかは気になっていたし、彼に任せることをにする。

「【能力走査パワー・ディレクト】!」

 魔法使いが魔法を放つと、三角形の光が伸びてきた。

 光線が私達の体を舐め回すように前後左右に走った後、インターフェイスのスフィアが出てくる。普段と違うのは、ステータス画面に固定されていることと、それが外側に表示されているってこと。

「チッ。やっぱり男じゃねぇか。まぁ、警戒するほどの強さじゃねぇな」

 そうなるとステータスは山賊さん達に見えて、当然ながらMJさんの性別もバレてしまう。

 が、後半の発言から私は確信した。性別がどちらかではなく、調べるだけ無駄だという事実にね。

「もう、ご満足でしょうか?」

 MJさんはそう言いながら、右半分しかない鷹の半面を顔に降ろした。

 瞬間、リーダー各らしい男の大きな体が震える。

「おいッ、気をつけろ!」

 部下達に忠告しようとして、彼らも振り向いた。

「その仮面は、『カンパニーの番鳥』の!」「へ?」「あ?」「おい?」

 リーダーの言葉が終わらないうちに、MJさんが腕を一振りした。なぜか両翼の2人がリーダーの方へ倒れたのを見て、もう1人も傍らの仲間に声を掛けた。

 遅かった。もはや、今から注意したところで手遅れだったのよ。

 敵を前に余所見をすべきではない。

「ヒッ! や、やられてやがる!? てめぇら、何をしガッ!?」

 私達へ振り返ろうとした雑魚1名は、腹パンを食らって倒れた。

 MJさんが距離を詰めていたのだ。

 拳を引くと、そこには指先に装着された鋭く尖った鉤爪のようなもの。ポンチョのどこからか隠していた刺突爪スティレットクロウを取り出し、一撃で倒したのである。

 先に倒れた男達へも、懐の小型ナイフを投げつけたに過ぎたい。

「な、何をしてる! 撃てぇ!!」

 山賊のリーダーが慌てて合図を送り、構えられていた矢やクロスボウのボルトが放たれる。

「【高質防壁】!」

 私も取り急ぎ周囲に魔法の壁を張った。

 しかし、やはり咄嗟に展開した魔法スキルでは多くの攻撃は受け止めきれない。

「クッ!」

 ギシィッとドーム状の壁が軋んだ後、やじりに貫かれたところから砕けて落ちていった。

「【火炎矢ファイア・アロー】!」「【氷結雨フリーズ・スコール】!」「【暗黒散弾ダークス・ショット】!」

 そのゴミを隠滅させるかのように、魔法の嵐が吹き荒れた。

 それぞれ違うジョブの魔法スキルは容赦なくMJさんへと殺到した。

 えぇッ、私よりそっちを狙うのは当然ですよね!

「ッ……MJさん!」

 爆裂は止み、漂っていた蒸気とおぞましいオーラが晴れる前に安否を確認した。

 まだ視界は塞がれていて返事もないため、私も行動に出ることにする。まずは馬車を覆うように魔法防壁を展開し、続いてこう言い含めておく。

 ここまで馬車に子守っていたことを考えれば、指示がないうちは動かないだろうけど。

「どこかに伏兵がいるかも。お金守っていてちょうだい!」

「お、おう」「大丈夫です?」「頑張るわ……」

 見える範囲に出ている敵は、リーダーを除いてそれほどではないはず。だから、他の伏兵もそれほどではないと考えた。

 こちらは任せ、MJさんが無事であることを祈りながらたたか……ウッ。

 私は、改めて煙幕の向こうを注視してからドン引きした。

 何せ、MJさんは無事でこそ・・あった。あくまで、倒れてリスポーン復帰していないだけという状況と言い換えるべきか。

「な、なんで生きてやがる!」

 大人の都合で死なないので、敵神官のセリフはやや意味が違うが概ね言いたい気持ちはわかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

最弱賢者の転生者 ~四度目の人生で最強になりました~

木嶋隆太
ファンタジー
生まれ持った職業によって優劣が決まる世界で、ロワールは僧侶という下級職として生まれた。下級職だったため、あっさりと死んでしまったロワールだったが、彼は転生した。――最強と呼ばれる『賢者』として。転生した世界はロワールの時代よりも遥かに魔法のレベルが落ちた世界であり、『賢者』は最弱の職業として知られていた。見下され、バカにされるロワールだったが、彼は世界の常識を破壊するように大活躍し、成り上がっていく。※こちらの作品は、「カクヨム」、「小説家になろう」にも投稿しています。

呪われ姫の絶唱

朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。 伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。 『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。 ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。 なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。 そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。 自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...