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初心者イベント編
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なにせ、皆にイベントであることを含めて、愛するBUGUウサギの話を汚そうとするのは業腹だからである。
その上で、なぜMJさんが同行したのか理解できた。後ろの3人にはわからないだろうけれど。
「……」
「大丈夫でございますとも。私がついてきたのは念の為ですので」
私が怒りを押し殺す程度に緊張を浮かべたのを読み取って、MJさんは直ぐにフォローしてくれた。ただ、その言い様に引っかかるものを感じたのは間違いないはずよ。
念の為というのはわかるものの、なぜMJさんなのか。それこそグレイザさんでも良い話でしょう? 戦士と"神官"と軍の指揮官をまとめたようなジョブの将軍神官だから、人数を多く運用する方につくと思うの。
「目星が、ついてる……」
「フフッ。ご明察。グレイザ様ならびにセルシュ様は、この一件について主犯を探っています」
「クランマスターとサブマスがでないといけないようなことってことですか……?」
私の呟きを聞き取り、MJさんは手の甲と手のひらを打ち合わせた。正解だけれど、2人とも邪魔者の尻尾を掴んだかどうかと言ったところなのね。
あまり聞きたくはないのだけれど、どうせ逃げられないなら情報はあるに越したことないわ。
「スナンドニー資源都市"ブルツムス"を管理する同盟クランの『トロッキー・ファミリー』はご存知ですか?」
「あー、東の都市なのに西部劇崩れてて鉱山労働者ってイメージの人らですよね?」
「割と下に見ていらっしゃる感じですが、概ね私も似たようなイメージで見ております。加えるなら、品位のないならず者どもでございましょうか」
MJさんも結構だよね。いつもの笑顔に見えるけど、冷笑にさえ感じられた。
まぁ、今までの発言で想像できる通りかしら。東に広がる山脈の鉱山で、"玉鋼石"や"オリハルコン"などを掘り出しているプレイヤー集団よ。同盟を結ぶ程度には実力を認めている。
「話は戻りまして、そのクランの一員が離脱し作った別のグループが妨害しているようなのです。まだ確証ではないので、今回は話のラインをつなぐための話し合いですが」
話は続くけれど、直接は関係ないということのよう。それでも、ほぼ確証には近づいているって感じかしら。
MJさんとしては、我らがクランの名誉を傷つけるような隙を与えるなんて、とでも言いたいのでしょう。
「……ブルツムスの方にはグレイザさんとセルシュさんが行っていると。それなら、まぁ」
深く触れるべきではないと考え、私は話を逸らすことにした。
グレイザさんは言わずもがな、セルシュさんも劣ってはいない。レベルや経験日数は同程度だし、同様にユニーク・ジョブの"自動銃騎"の持ち主でもある。
「そうでございましょう。双璧をなす『ブラック・プリンス』と『ホワイト・デューク』に敵うものなし。私がこちらに当てられた理由もわかるというものでございます」
随分な褒めようだわ。
そりゃ、確かに、白の公爵セルシュは軽戦車のようなもの。優れた将軍が、結構な火力とそこそこの装甲とわりかし早い軽戦車を率いて戦うとか並大抵の相手なら逃げる。
そんなのに対抗しようなんて、王国か帝国か自由国か共和国のいずれかの国家だけよ。
「改めて考えてみると、うちのクランってわりかしとんでもないですよね」
「今更な感想ではありませんか? お二方をどう評価してらっしゃったのか」
なんとなくぼやいた言葉程度に、そんな悲しい顔をしないで欲しかった。
第一、この評価にはMJさんも含まれているんですよ?
「MJさんも大概じ」「っと、どうやらお客様のようです」
気づけば石と砂の香りがし始めた山岳の荒野に差し掛かった頃。言いかけた私の言葉を遮り、MJさんは手綱を引いて馬車を止めた。
一目ではわからないものの、止まって目を凝らしてみれば確かに岩陰から影がちらほらと覗いていた。よく見つけたわよね……。
さて、モンスターの襲撃など前例の通り珍しいことでもない。都市から離れれば離れるほど、それは顕著である。
「けへっ。命が惜しけりゃ荷を置いていきなぁ」
そう月並な脅し文句を言って、隠れていたのがバレたことを棚上げした奴らが出てきた。
山岳地帯へと入る一本道に、10人くらい陣取ってこちらの通行を邪魔する。その姿は鉢巻やバンダナといったものを身につけ、ゴツさこそあっても精悍さのない男臭いのが並んでいる。
「けへ……。ハムスターくんなら可愛い鳴き声なのですが……」
「ハムスターと同列に扱うんじゃねぇよ!」
困ったように返したMJさんの言葉に、山賊であろう奴の1人が声を荒げた。
装備に統一感がないのに質が良く、さらに素早く方向のズレた返しをする。これは、NPCやモンスターに当てはまらない特徴ね。
「こいつらが……?」
「でございましょう」
先程までの会話につなげて聞けば、MJさんも肯定してヒラリと御者台から飛び降りた。
私も飛び降りて、初めてこの一帯がプレイヤーキル可能エリアだと知る。
「ご丁寧にこんなところに陣取って」
「ここは俺達『ゴールドラッシャー』の縄張りだぁ! 大人しくしておくんだぜぇ!」
降りる姿や私のぼやきを無条件降伏と受け取ったのか、近づいてきながら威嚇するのみだ。
その上で、なぜMJさんが同行したのか理解できた。後ろの3人にはわからないだろうけれど。
「……」
「大丈夫でございますとも。私がついてきたのは念の為ですので」
私が怒りを押し殺す程度に緊張を浮かべたのを読み取って、MJさんは直ぐにフォローしてくれた。ただ、その言い様に引っかかるものを感じたのは間違いないはずよ。
念の為というのはわかるものの、なぜMJさんなのか。それこそグレイザさんでも良い話でしょう? 戦士と"神官"と軍の指揮官をまとめたようなジョブの将軍神官だから、人数を多く運用する方につくと思うの。
「目星が、ついてる……」
「フフッ。ご明察。グレイザ様ならびにセルシュ様は、この一件について主犯を探っています」
「クランマスターとサブマスがでないといけないようなことってことですか……?」
私の呟きを聞き取り、MJさんは手の甲と手のひらを打ち合わせた。正解だけれど、2人とも邪魔者の尻尾を掴んだかどうかと言ったところなのね。
あまり聞きたくはないのだけれど、どうせ逃げられないなら情報はあるに越したことないわ。
「スナンドニー資源都市"ブルツムス"を管理する同盟クランの『トロッキー・ファミリー』はご存知ですか?」
「あー、東の都市なのに西部劇崩れてて鉱山労働者ってイメージの人らですよね?」
「割と下に見ていらっしゃる感じですが、概ね私も似たようなイメージで見ております。加えるなら、品位のないならず者どもでございましょうか」
MJさんも結構だよね。いつもの笑顔に見えるけど、冷笑にさえ感じられた。
まぁ、今までの発言で想像できる通りかしら。東に広がる山脈の鉱山で、"玉鋼石"や"オリハルコン"などを掘り出しているプレイヤー集団よ。同盟を結ぶ程度には実力を認めている。
「話は戻りまして、そのクランの一員が離脱し作った別のグループが妨害しているようなのです。まだ確証ではないので、今回は話のラインをつなぐための話し合いですが」
話は続くけれど、直接は関係ないということのよう。それでも、ほぼ確証には近づいているって感じかしら。
MJさんとしては、我らがクランの名誉を傷つけるような隙を与えるなんて、とでも言いたいのでしょう。
「……ブルツムスの方にはグレイザさんとセルシュさんが行っていると。それなら、まぁ」
深く触れるべきではないと考え、私は話を逸らすことにした。
グレイザさんは言わずもがな、セルシュさんも劣ってはいない。レベルや経験日数は同程度だし、同様にユニーク・ジョブの"自動銃騎"の持ち主でもある。
「そうでございましょう。双璧をなす『ブラック・プリンス』と『ホワイト・デューク』に敵うものなし。私がこちらに当てられた理由もわかるというものでございます」
随分な褒めようだわ。
そりゃ、確かに、白の公爵セルシュは軽戦車のようなもの。優れた将軍が、結構な火力とそこそこの装甲とわりかし早い軽戦車を率いて戦うとか並大抵の相手なら逃げる。
そんなのに対抗しようなんて、王国か帝国か自由国か共和国のいずれかの国家だけよ。
「改めて考えてみると、うちのクランってわりかしとんでもないですよね」
「今更な感想ではありませんか? お二方をどう評価してらっしゃったのか」
なんとなくぼやいた言葉程度に、そんな悲しい顔をしないで欲しかった。
第一、この評価にはMJさんも含まれているんですよ?
「MJさんも大概じ」「っと、どうやらお客様のようです」
気づけば石と砂の香りがし始めた山岳の荒野に差し掛かった頃。言いかけた私の言葉を遮り、MJさんは手綱を引いて馬車を止めた。
一目ではわからないものの、止まって目を凝らしてみれば確かに岩陰から影がちらほらと覗いていた。よく見つけたわよね……。
さて、モンスターの襲撃など前例の通り珍しいことでもない。都市から離れれば離れるほど、それは顕著である。
「けへっ。命が惜しけりゃ荷を置いていきなぁ」
そう月並な脅し文句を言って、隠れていたのがバレたことを棚上げした奴らが出てきた。
山岳地帯へと入る一本道に、10人くらい陣取ってこちらの通行を邪魔する。その姿は鉢巻やバンダナといったものを身につけ、ゴツさこそあっても精悍さのない男臭いのが並んでいる。
「けへ……。ハムスターくんなら可愛い鳴き声なのですが……」
「ハムスターと同列に扱うんじゃねぇよ!」
困ったように返したMJさんの言葉に、山賊であろう奴の1人が声を荒げた。
装備に統一感がないのに質が良く、さらに素早く方向のズレた返しをする。これは、NPCやモンスターに当てはまらない特徴ね。
「こいつらが……?」
「でございましょう」
先程までの会話につなげて聞けば、MJさんも肯定してヒラリと御者台から飛び降りた。
私も飛び降りて、初めてこの一帯がプレイヤーキル可能エリアだと知る。
「ご丁寧にこんなところに陣取って」
「ここは俺達『ゴールドラッシャー』の縄張りだぁ! 大人しくしておくんだぜぇ!」
降りる姿や私のぼやきを無条件降伏と受け取ったのか、近づいてきながら威嚇するのみだ。
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