幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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初心者イベント編

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 トップが優秀というのは逆に言うと、私というプレイヤーでなくても良いということになる。そう、もっと有能な人で良い……。

「今度のイベントか実装ダンジョンで【暗号施錠】の"秘伝書"が手に入るようになったら、私はお払い箱ですね」

「え……」「っ……」「と……」

 口から思わず突いて出た不安に、馬車内の空気が固まってしまった。

 こっちも思わずやっちゃった! 初心者で新人の後輩に気を使わせるなんで先輩失格だわ……。

「えーと! もっと気楽に名前を呼んでくれても良いんだからね!」

「そ、そうだよ! 先輩なんですから!」

「もしかして、覚えられなかったかぁ……?」

 3人して話題を逸らそうと必死になった。

 ごめん。貴方達の名前については、わざと呼ばなかったのよ。

 だってねぇ? 戦士が、エクスカリバーは俺の嫁。拳闘士が、シャイニングフィンガー。銃手が、ガバエイム。ってどうなのよ。

 多人数参加型ゲームというスタイル上、確かに名前が被らないよう奇抜にするのはわかる。けど、改めてそれを言葉にするのは憚られるというもの。

「そのー、まぁ、遠慮させていただくわ……。ありがとう。戦士さんも拳闘士さん、それに銃手さんも」

 丁重に"ジョブ"名で呼ぶことにした。

 最悪、愛称でも考えるわ。戦士のお相撲レスラーな体格は、流石に世のペンドラゴンのファンに失礼だわ。つーか戦士、その名前でBUGUウサギ知らないとかないわー。

 拳闘士はシャイニンフィンガーじゃなくてキレイな禿頭シャイニングヘッドの間違いでは?

 ガンマン風な2丁拳銃スタイルの銃手が、"器用DEX"無振りなんて可能性は考えたくない。

「有能なんだろうけどね……」

「何か言ったかしら?」

「え? い、いえ、何でもないですよ?」

「そうですか」

 ホッ。小さく呟いただけのつもりだけど、危うく銃手の耳に聞こえるところだったわ。

 さて、気を取り直して仕事、仕事ッ。

 そうしているうちに私達はクラン金庫へとたどり着く。

 クランのシンボルである太陽を模した大時計を携えた塔がそびえ、その下にレンガ造りの銀行部分が付属する建物だ。中に入ればNPCの銀行員とクランメンバーの警備が立ち、装飾華やかな彫刻のアーチが並ぶ。

 こんなにシックでレトロな雰囲気なのに、中ではお金とかを電子決算するからなんともはや。ゲーム故しかたないか。

 荷物を確認して金庫へと運ぶだけの簡単な仕事なので、多く語ることはないわね。賊の襲撃されないよう、1人ぐらいカバーに立たせておくとか物陰に潜んでいないか見に行くぐらいかしら。

「はい、では確かに受け取りました」

「こちらもお届けしました」

 授受の書類を交わしてサインをし終えれば、これで概ねの作業は終了よ。金庫側の業務については、こっちに応援に呼ばれた時にでも説明しましょうか。

「終わりですか?」

「えぇ、ありがとう。後は、好きなようにゲームを楽しんできてください」

 拳闘士の言葉に答え、私はまた馬車に乗った。

 続いて戦士が問いかけてくる。

「メリーさんはどうするんだい?」

「後は、グレイザさん達に報告するだけだから良いですよ」

 これにも端的な返事をした。

 私がちゃんと、報連相するようグレイザさんから仰せつかっているからである。横暴だ。パワハラよ。

「わざわざごめんね。じゃ、また今度!」

 銃手の言葉を最後に、私達は手を振り別れを告げた。

 この警備輸送業務はクランメンバー30人で6つの都市を曜日割で分担しているから、次はそれほどかからずにやってくるでしょうね。私がログインできない日は、グレイザさんかセルシュさんのどっちかが輸送班の班長を務めることになっている。

 だから、この報告は班長役から班長役への申し送りね。

 その横暴班長様が待つ元老議場へ行くため、金庫のある区画から出て大通りを北へ向かう。交差する東西の目抜き通りには入らず、北の端から馬車がギリギリ通れるだけの路地を進む。

「警備の為とは言え面倒よねぇ」

 都市防衛の機構に独り言で文句など漏らしつつ、馬車をぶつけてはいけない電撃イライラボーを楽しんだ。

 細い道をなんとか3度ほど曲がったところで、街中に佇む石柱の建築物へとたどり着く。入り組んだ路地の中にパルテノン神殿みたいな建物を作れるのは、ひとえにゲームだからかしら。

 ドーリス式とイオニア式の融合した幾何学模様のエンタシスが存在感を放っている。

「えーと、執務室の方よね?」

 中央の議場にいるとは思えなかったので、神殿の一角にある書斎兼執務室へと足を向けた。

 石造りの壁に付いたやや作りの良い扉をノックすれば、中から返ってくるのは予定とは違う別人の声。

「どうぞお入りください」

 男性的だが柔らかな声音である。力強くも慇懃いんぎんな口調は、油断ならない相手だということを知らせていた。

 私は軽く喉を鳴らした後、要件を伝えながら入室する。

「業務連絡に参りました」

 扉を開けばグレイザさんとセルシュさんの姿があって、入り口の直ぐ横に別の人物が控えていた。兄は執務机の向こうで高級そうな椅子に鎮座し、弟は秘書の如く横に佇む。3人目は燕尾服に身を包み、セミロングの青髪を後頭部で一本に束ねた姿だ。
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