5 / 31
初心者イベント編
1-4
しおりを挟む
トップが優秀というのは逆に言うと、私というプレイヤーでなくても良いということになる。そう、もっと有能な人で良い……。
「今度のイベントか実装ダンジョンで【暗号施錠】の"秘伝書"が手に入るようになったら、私はお払い箱ですね」
「え……」「っ……」「と……」
口から思わず突いて出た不安に、馬車内の空気が固まってしまった。
こっちも思わずやっちゃった! 初心者で新人の後輩に気を使わせるなんで先輩失格だわ……。
「えーと! もっと気楽に名前を呼んでくれても良いんだからね!」
「そ、そうだよ! 先輩なんですから!」
「もしかして、覚えられなかったかぁ……?」
3人して話題を逸らそうと必死になった。
ごめん。貴方達の名前については、わざと呼ばなかったのよ。
だってねぇ? 戦士が、エクスカリバーは俺の嫁。拳闘士が、シャイニングフィンガー。銃手が、ガバエイム。ってどうなのよ。
多人数参加型ゲームというスタイル上、確かに名前が被らないよう奇抜にするのはわかる。けど、改めてそれを言葉にするのは憚られるというもの。
「そのー、まぁ、遠慮させていただくわ……。ありがとう。戦士さんも拳闘士さん、それに銃手さんも」
丁重に"ジョブ"名で呼ぶことにした。
最悪、愛称でも考えるわ。戦士のお相撲レスラーな体格は、流石に世のペンドラゴンのファンに失礼だわ。つーか戦士、その名前でBUGUウサギ知らないとかないわー。
拳闘士はシャイニンフィンガーじゃなくてキレイな禿頭の間違いでは?
ガンマン風な2丁拳銃スタイルの銃手が、"器用"無振りなんて可能性は考えたくない。
「有能なんだろうけどね……」
「何か言ったかしら?」
「え? い、いえ、何でもないですよ?」
「そうですか」
ホッ。小さく呟いただけのつもりだけど、危うく銃手の耳に聞こえるところだったわ。
さて、気を取り直して仕事、仕事ッ。
そうしているうちに私達はクラン金庫へとたどり着く。
クランのシンボルである太陽を模した大時計を携えた塔がそびえ、その下にレンガ造りの銀行部分が付属する建物だ。中に入ればNPCの銀行員とクランメンバーの警備が立ち、装飾華やかな彫刻のアーチが並ぶ。
こんなにシックでレトロな雰囲気なのに、中ではお金とかを電子決算するからなんともはや。ゲーム故しかたないか。
荷物を確認して金庫へと運ぶだけの簡単な仕事なので、多く語ることはないわね。賊の襲撃されないよう、1人ぐらいカバーに立たせておくとか物陰に潜んでいないか見に行くぐらいかしら。
「はい、では確かに受け取りました」
「こちらもお届けしました」
授受の書類を交わしてサインをし終えれば、これで概ねの作業は終了よ。金庫側の業務については、こっちに応援に呼ばれた時にでも説明しましょうか。
「終わりですか?」
「えぇ、ありがとう。後は、好きなようにゲームを楽しんできてください」
拳闘士の言葉に答え、私はまた馬車に乗った。
続いて戦士が問いかけてくる。
「メリーさんはどうするんだい?」
「後は、グレイザさん達に報告するだけだから良いですよ」
これにも端的な返事をした。
私がちゃんと、報連相するようグレイザさんから仰せつかっているからである。横暴だ。パワハラよ。
「わざわざごめんね。じゃ、また今度!」
銃手の言葉を最後に、私達は手を振り別れを告げた。
この警備輸送業務はクランメンバー30人で6つの都市を曜日割で分担しているから、次はそれほどかからずにやってくるでしょうね。私がログインできない日は、グレイザさんかセルシュさんのどっちかが輸送班の班長を務めることになっている。
だから、この報告は班長役から班長役への申し送りね。
その横暴班長様が待つ元老議場へ行くため、金庫のある区画から出て大通りを北へ向かう。交差する東西の目抜き通りには入らず、北の端から馬車がギリギリ通れるだけの路地を進む。
「警備の為とは言え面倒よねぇ」
都市防衛の機構に独り言で文句など漏らしつつ、馬車をぶつけてはいけない電撃イライラボーを楽しんだ。
細い道をなんとか3度ほど曲がったところで、街中に佇む石柱の建築物へとたどり着く。入り組んだ路地の中にパルテノン神殿みたいな建物を作れるのは、ひとえにゲームだからかしら。
ドーリス式とイオニア式の融合した幾何学模様のエンタシスが存在感を放っている。
「えーと、執務室の方よね?」
中央の議場にいるとは思えなかったので、神殿の一角にある書斎兼執務室へと足を向けた。
石造りの壁に付いたやや作りの良い扉をノックすれば、中から返ってくるのは予定とは違う別人の声。
「どうぞお入りください」
男性的だが柔らかな声音である。力強くも慇懃な口調は、油断ならない相手だということを知らせていた。
私は軽く喉を鳴らした後、要件を伝えながら入室する。
「業務連絡に参りました」
扉を開けばグレイザさんとセルシュさんの姿があって、入り口の直ぐ横に別の人物が控えていた。兄は執務机の向こうで高級そうな椅子に鎮座し、弟は秘書の如く横に佇む。3人目は燕尾服に身を包み、セミロングの青髪を後頭部で一本に束ねた姿だ。
「今度のイベントか実装ダンジョンで【暗号施錠】の"秘伝書"が手に入るようになったら、私はお払い箱ですね」
「え……」「っ……」「と……」
口から思わず突いて出た不安に、馬車内の空気が固まってしまった。
こっちも思わずやっちゃった! 初心者で新人の後輩に気を使わせるなんで先輩失格だわ……。
「えーと! もっと気楽に名前を呼んでくれても良いんだからね!」
「そ、そうだよ! 先輩なんですから!」
「もしかして、覚えられなかったかぁ……?」
3人して話題を逸らそうと必死になった。
ごめん。貴方達の名前については、わざと呼ばなかったのよ。
だってねぇ? 戦士が、エクスカリバーは俺の嫁。拳闘士が、シャイニングフィンガー。銃手が、ガバエイム。ってどうなのよ。
多人数参加型ゲームというスタイル上、確かに名前が被らないよう奇抜にするのはわかる。けど、改めてそれを言葉にするのは憚られるというもの。
「そのー、まぁ、遠慮させていただくわ……。ありがとう。戦士さんも拳闘士さん、それに銃手さんも」
丁重に"ジョブ"名で呼ぶことにした。
最悪、愛称でも考えるわ。戦士のお相撲レスラーな体格は、流石に世のペンドラゴンのファンに失礼だわ。つーか戦士、その名前でBUGUウサギ知らないとかないわー。
拳闘士はシャイニンフィンガーじゃなくてキレイな禿頭の間違いでは?
ガンマン風な2丁拳銃スタイルの銃手が、"器用"無振りなんて可能性は考えたくない。
「有能なんだろうけどね……」
「何か言ったかしら?」
「え? い、いえ、何でもないですよ?」
「そうですか」
ホッ。小さく呟いただけのつもりだけど、危うく銃手の耳に聞こえるところだったわ。
さて、気を取り直して仕事、仕事ッ。
そうしているうちに私達はクラン金庫へとたどり着く。
クランのシンボルである太陽を模した大時計を携えた塔がそびえ、その下にレンガ造りの銀行部分が付属する建物だ。中に入ればNPCの銀行員とクランメンバーの警備が立ち、装飾華やかな彫刻のアーチが並ぶ。
こんなにシックでレトロな雰囲気なのに、中ではお金とかを電子決算するからなんともはや。ゲーム故しかたないか。
荷物を確認して金庫へと運ぶだけの簡単な仕事なので、多く語ることはないわね。賊の襲撃されないよう、1人ぐらいカバーに立たせておくとか物陰に潜んでいないか見に行くぐらいかしら。
「はい、では確かに受け取りました」
「こちらもお届けしました」
授受の書類を交わしてサインをし終えれば、これで概ねの作業は終了よ。金庫側の業務については、こっちに応援に呼ばれた時にでも説明しましょうか。
「終わりですか?」
「えぇ、ありがとう。後は、好きなようにゲームを楽しんできてください」
拳闘士の言葉に答え、私はまた馬車に乗った。
続いて戦士が問いかけてくる。
「メリーさんはどうするんだい?」
「後は、グレイザさん達に報告するだけだから良いですよ」
これにも端的な返事をした。
私がちゃんと、報連相するようグレイザさんから仰せつかっているからである。横暴だ。パワハラよ。
「わざわざごめんね。じゃ、また今度!」
銃手の言葉を最後に、私達は手を振り別れを告げた。
この警備輸送業務はクランメンバー30人で6つの都市を曜日割で分担しているから、次はそれほどかからずにやってくるでしょうね。私がログインできない日は、グレイザさんかセルシュさんのどっちかが輸送班の班長を務めることになっている。
だから、この報告は班長役から班長役への申し送りね。
その横暴班長様が待つ元老議場へ行くため、金庫のある区画から出て大通りを北へ向かう。交差する東西の目抜き通りには入らず、北の端から馬車がギリギリ通れるだけの路地を進む。
「警備の為とは言え面倒よねぇ」
都市防衛の機構に独り言で文句など漏らしつつ、馬車をぶつけてはいけない電撃イライラボーを楽しんだ。
細い道をなんとか3度ほど曲がったところで、街中に佇む石柱の建築物へとたどり着く。入り組んだ路地の中にパルテノン神殿みたいな建物を作れるのは、ひとえにゲームだからかしら。
ドーリス式とイオニア式の融合した幾何学模様のエンタシスが存在感を放っている。
「えーと、執務室の方よね?」
中央の議場にいるとは思えなかったので、神殿の一角にある書斎兼執務室へと足を向けた。
石造りの壁に付いたやや作りの良い扉をノックすれば、中から返ってくるのは予定とは違う別人の声。
「どうぞお入りください」
男性的だが柔らかな声音である。力強くも慇懃な口調は、油断ならない相手だということを知らせていた。
私は軽く喉を鳴らした後、要件を伝えながら入室する。
「業務連絡に参りました」
扉を開けばグレイザさんとセルシュさんの姿があって、入り口の直ぐ横に別の人物が控えていた。兄は執務机の向こうで高級そうな椅子に鎮座し、弟は秘書の如く横に佇む。3人目は燕尾服に身を包み、セミロングの青髪を後頭部で一本に束ねた姿だ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる