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初心者イベント編
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グレイザさんよりも頭半分ほど低いが、少し天然パーマの入った金髪と細く切れ長の碧眼をした少年。
「セルシュ、どうした?」
グレイザさんも弟の名前を呼んで問う。
そこに含まれるニュアンスは、どうしてこんなところまで、という具合かしら。
「どうしたもこうしたも、お兄さんが! 輸送隊が襲われてるって、"クランチャット"を貰った直ぐに飛び出していったからじゃないか!」
セルシュさんは純白の手甲ついた両腕を振り上げ、飄々とした態度のお兄さんに不満をぶつけた。私達がいなければ、一発ぐらい殴っていそうな勢いだわ。
それなりに心配している様子から、特別に仲が悪いというわけではない。とは思うのだけれど。
「襲撃の位置や状況から考えて、居ても立ってもいられなくなってな。大事な荷を台無しにされても困るだろうが」
グレイザさんが変わらない様子で答えた。
その点、私もちょっとビックリしてるわ。いくらサブマスターのセルシュさんがいるからといって、クランマスターが救援に駆けつけてくるとは思わないじゃない。
駆けつけてくれたこと自体は嬉しいのだけれど、人員を気にしたのではなく荷物が大事だったからというのはモヤモヤとする。
「……はぁ。まぁ、後で話そう。皆も、お疲れ様」
文句を言っても通用しないことは既にわかっているのか、虚しいことはやめてグレイザさんに変わり皆を労うセルシュ。
「いえ、こちらこそすみませんでした。私達だけで対処できる確信があれば良かったのですが」
私も、助けを求めたという点では片棒を担いでいるため、一応は謝っておいた。あまり過ぎればまたグレイザさんに怒られるので、セルシュさんが大丈夫だよと手を振るのを見て引き下がった。
悪徳ニヒルなお兄さんに比べて、弟さんは笑うと愛嬌がある。『BUGUウサギ』という作品のキャラクターみたいで癒やされるわ。グレイザさんみたいなカッコいいキャラもいるんだけどね。
「私達も力不足ですみません。って、メリーさんはまーた何か浸ってる……」
ハッ! いかん、また後輩達に引かれる。
「その分、仕事を全うして欲しい。まだ物資を金庫本部へ持っていかなければならないはずだよね?」
「そうですね。では、私達はこれにてこれらを本部へ輸送しますので」
セルシュの言う通り、私達の仕事は荷物をクラン金庫の本部へと持っていくまでは責務だ。
馬車を引いて門をくぐった。そこからはグレイザさん達とは別れ、さっきまでの4人でスナンドニー首都"アキュイロ”の南東へと向かう。
クランマスターとサブマスターはこれから、北東の元老議場――国会議事堂みたいなもの――でお説教会が始まるんでしょう。
「いやぁ、それにしてもメリーさんは愛されてますね」
「は?」
「え?」
「え?」
グレイザさんのことを哀れんでいると、銃手の子がいきなりおかしなことを言い出した。おかしすぎて、唐突過ぎて、変な声しかでなかったわ。
「キミは、何に言ってるんです?」
「いえ、ですから"クランマスター"や"サブマスター"に大事にされてるわよねって……?」
なんだ。そんなことかー。
「アハハハ、そういう意味ですか。特異な感情でもあるってことかと思いましたよ」
私は苦笑交じりに否定した。ただまぁ、クランメンバーとして重用されているという意味でなら、確かに私は大切にされているわ。贔屓にされているというべきかしら?
私の持つ特別な魔法スキルだけが目的だもの。それがなければ、世界一と謳われるクランのメンバーではいられないでしょうね。
内心、自分でも呆れてしまう。
「別の街で見せた通り、アレがなかったらただの"知力"と"魔対"をカンストさせただけの寄生"マジックユーザー"よ」
初心者である3人に専門用語を並べるとわからなくなりそうだけれど、そのような感じで説明するしかなかった。
私のステータスを見ればわかる通り、魔法攻撃力と魔法対抗力に関する数値だけ上限に振ってある。このせいで、ソロで活動することができないことからチームなどに頼らざるを得ないわけ。
「あぁ、【暗号施錠】でしたか?」
今度は馬車の荷台に乗っている拳闘士が尋ねるように言った。
そうよ。私は答える意図で首を縦に振る。
宝箱型のものには例外なく錠が付けられており、まるで光のアート映像を貼り付けたかのような『0000』が並んでいる。ワイプすれば感覚で、それらが0~9の数字を揃えるダイヤル錠だとわかると思う。
「破壊もできず、【解錠】とかでも数字がわからないと開けない。確かに、この仕事とは相性が良いですね」
「ですよね。私も、最初は警備輸送業務なんて"NPC"……あー、ノンプレイヤーキャラクターでも良いと思ってました。護衛さえつければ、人力で賄う必要があるのかって」
続く拳闘士の言葉に、私は素直な感想を述べた。
専門用語を省略しすぎると混乱すると思って言い直したけど、それほど初心者でもなかったか?
「あぁ、そういう理由でしたか」
納得してくれたようだ。
ゲームで遊ぶプレイヤーが、NPCに任せておけば良い業務をわざわざやる必要はない。そう思っていた時期が私にもありました。
『ソウル・カンパニー』のメンバーや、周辺の6都市の同盟クランから預かった貴重な金品アイテムを預かる上で、リスク管理は必要なことだったのよ。
NPCだと、まとめて運ぶと損失は大きくなるし補償も利かない。小分けにすればお金がかかる。
「まぁ、それだとデメリットが勝ってしまうんですよね」
「あー、小難しい話は苦手なんですけど?」
おう、戦士が黙っていたのはそういうこと。
「フフフッ。グレイザさんが、それだけ優れた都市の運営をしているということですよ。戦士さん」
端的に答えておいた。
「セルシュ、どうした?」
グレイザさんも弟の名前を呼んで問う。
そこに含まれるニュアンスは、どうしてこんなところまで、という具合かしら。
「どうしたもこうしたも、お兄さんが! 輸送隊が襲われてるって、"クランチャット"を貰った直ぐに飛び出していったからじゃないか!」
セルシュさんは純白の手甲ついた両腕を振り上げ、飄々とした態度のお兄さんに不満をぶつけた。私達がいなければ、一発ぐらい殴っていそうな勢いだわ。
それなりに心配している様子から、特別に仲が悪いというわけではない。とは思うのだけれど。
「襲撃の位置や状況から考えて、居ても立ってもいられなくなってな。大事な荷を台無しにされても困るだろうが」
グレイザさんが変わらない様子で答えた。
その点、私もちょっとビックリしてるわ。いくらサブマスターのセルシュさんがいるからといって、クランマスターが救援に駆けつけてくるとは思わないじゃない。
駆けつけてくれたこと自体は嬉しいのだけれど、人員を気にしたのではなく荷物が大事だったからというのはモヤモヤとする。
「……はぁ。まぁ、後で話そう。皆も、お疲れ様」
文句を言っても通用しないことは既にわかっているのか、虚しいことはやめてグレイザさんに変わり皆を労うセルシュ。
「いえ、こちらこそすみませんでした。私達だけで対処できる確信があれば良かったのですが」
私も、助けを求めたという点では片棒を担いでいるため、一応は謝っておいた。あまり過ぎればまたグレイザさんに怒られるので、セルシュさんが大丈夫だよと手を振るのを見て引き下がった。
悪徳ニヒルなお兄さんに比べて、弟さんは笑うと愛嬌がある。『BUGUウサギ』という作品のキャラクターみたいで癒やされるわ。グレイザさんみたいなカッコいいキャラもいるんだけどね。
「私達も力不足ですみません。って、メリーさんはまーた何か浸ってる……」
ハッ! いかん、また後輩達に引かれる。
「その分、仕事を全うして欲しい。まだ物資を金庫本部へ持っていかなければならないはずだよね?」
「そうですね。では、私達はこれにてこれらを本部へ輸送しますので」
セルシュの言う通り、私達の仕事は荷物をクラン金庫の本部へと持っていくまでは責務だ。
馬車を引いて門をくぐった。そこからはグレイザさん達とは別れ、さっきまでの4人でスナンドニー首都"アキュイロ”の南東へと向かう。
クランマスターとサブマスターはこれから、北東の元老議場――国会議事堂みたいなもの――でお説教会が始まるんでしょう。
「いやぁ、それにしてもメリーさんは愛されてますね」
「は?」
「え?」
「え?」
グレイザさんのことを哀れんでいると、銃手の子がいきなりおかしなことを言い出した。おかしすぎて、唐突過ぎて、変な声しかでなかったわ。
「キミは、何に言ってるんです?」
「いえ、ですから"クランマスター"や"サブマスター"に大事にされてるわよねって……?」
なんだ。そんなことかー。
「アハハハ、そういう意味ですか。特異な感情でもあるってことかと思いましたよ」
私は苦笑交じりに否定した。ただまぁ、クランメンバーとして重用されているという意味でなら、確かに私は大切にされているわ。贔屓にされているというべきかしら?
私の持つ特別な魔法スキルだけが目的だもの。それがなければ、世界一と謳われるクランのメンバーではいられないでしょうね。
内心、自分でも呆れてしまう。
「別の街で見せた通り、アレがなかったらただの"知力"と"魔対"をカンストさせただけの寄生"マジックユーザー"よ」
初心者である3人に専門用語を並べるとわからなくなりそうだけれど、そのような感じで説明するしかなかった。
私のステータスを見ればわかる通り、魔法攻撃力と魔法対抗力に関する数値だけ上限に振ってある。このせいで、ソロで活動することができないことからチームなどに頼らざるを得ないわけ。
「あぁ、【暗号施錠】でしたか?」
今度は馬車の荷台に乗っている拳闘士が尋ねるように言った。
そうよ。私は答える意図で首を縦に振る。
宝箱型のものには例外なく錠が付けられており、まるで光のアート映像を貼り付けたかのような『0000』が並んでいる。ワイプすれば感覚で、それらが0~9の数字を揃えるダイヤル錠だとわかると思う。
「破壊もできず、【解錠】とかでも数字がわからないと開けない。確かに、この仕事とは相性が良いですね」
「ですよね。私も、最初は警備輸送業務なんて"NPC"……あー、ノンプレイヤーキャラクターでも良いと思ってました。護衛さえつければ、人力で賄う必要があるのかって」
続く拳闘士の言葉に、私は素直な感想を述べた。
専門用語を省略しすぎると混乱すると思って言い直したけど、それほど初心者でもなかったか?
「あぁ、そういう理由でしたか」
納得してくれたようだ。
ゲームで遊ぶプレイヤーが、NPCに任せておけば良い業務をわざわざやる必要はない。そう思っていた時期が私にもありました。
『ソウル・カンパニー』のメンバーや、周辺の6都市の同盟クランから預かった貴重な金品アイテムを預かる上で、リスク管理は必要なことだったのよ。
NPCだと、まとめて運ぶと損失は大きくなるし補償も利かない。小分けにすればお金がかかる。
「まぁ、それだとデメリットが勝ってしまうんですよね」
「あー、小難しい話は苦手なんですけど?」
おう、戦士が黙っていたのはそういうこと。
「フフフッ。グレイザさんが、それだけ優れた都市の運営をしているということですよ。戦士さん」
端的に答えておいた。
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