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10睡目・残酷な天使のベーゼ
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「僕達以外の生徒は避難しています」
「だから、学園関係者はいつものメンバーだけってことだな」
「後、ダイナ先生は勘違いしてるよ」
「私達は皆、ダイナ先生やハァビー先生、他の仲間達を助けたくて来ているだけですわ」
「守るもののない騎士に価値なし」
通りがかりに、生徒達は口々に言って行く。
俺の右隣にハァビーが寄り添い、左隣にファリッバが立ち、足にバロメッツとアルラウネが抱きつき、後ろからエルフ首長が腕を回して、ラフがマントをちょこっと掴む。
「す……いや、ありがとう。皆」
俺はお礼を言った。
最初は少し手伝う程度の気持ちだったが、いつの間にか大きなつながりができてしまっていた。感謝してもし足りないぐらいの。言葉が広まるにつれて気持ちが通じなくなったかもしれないけれど、わからないからこそ通じつものがあるのだと思う。
空気とか察しろとかいう押し付けがましいものじゃなくて。まぁ、上手く言えないけどそういうのが。
「さぁ、こっちはハァビー先生の家や村に行かないようにする看板くらいにしておきましょう」
「そうだな。墨はないから泥で良いか?」
「カホー、それはちょっとみっともなくない?」
「先生達を傷つけようとしたのですから、少しぐらい泥を塗ったって構わないですわ」
「早く終わらせて飯にしよう」
俺がしんみりしている間にも、生徒達は壁もとい看板作りに精を出していた。
もはや自由工作の時間だよ! もう少し感動に浸らしてくれ!
「フェイも相変わらずか! さりげなく爆弾発言するんじゃぁないッ!」
「もうケェヌさんについてはツッコミ不要ですね」
「不要にしてはいかんと思うのじゃが……」
「毒されてるなぁ。バロメッツ達もこんなお父さんお母さんを見習っちゃダメだぞ」
ファリッバに呆れられるぐらいに、もうこの5人については慣れっこになったなぁ。
それはさておき、何をおっしゃっているんですか。サムベアさん?
「さ、ささサムベアさん!」「お父さんお母さんって!?」
俺達は慌てて否定しようとするが、バロメッツとアルラウネの視線が突き刺さる。
「ぅ……そんな目で」「お、お父さんお母さんで良い、かな?」
私達の父母じゃないのって目で見られたら、笑顔のように思えて目に当たる部分に水分が溜まっているのがわかったら、否定できないじゃない。
エルフ達なんて、首長との婚約も決まっているからって私達の親だとばかりにバロメッツ側だし。色々と背負っちゃったんだな……。
「ふぅ。なんとも重い責任だな」
「でも、とても嬉しい責任です」
青くて芳しい髪が、ふわりと俺の肩に乗った。
俺はぼやくもハァビーの言う通り、ただ背負わされるものじゃないから頑張れるのだ。戦えるのだ。
どんなに残酷への誓いだとしても。今はその頭に交わすだけだが、許して欲しい。
「先生達も遊んでないで手伝ってくださいよ」
「おっと。悪い、悪い」
邪魔をするのにバツが悪そうな表情のシービンに呼びかけられて、俺達は慌てて作業に戻った。
大きな看板を掲げ、泥で『←西へどうぞ』と案内しておく。俺達は全員で学園へと向かい地下へと潜るのだった。
外の納屋は解放して書き置きを残すことで、栽培途中の冬野菜をダメにしないようお願いしておいた。春野菜については少し遅れそうだが……少しで済めばいいなぁ。
「食料は十分か? ケェヌは食料庫に立ち入り禁止な」
「……」
悲しそうな顔してもダメです。
『こちら、ベッドや毛布も相当数を確保できました』
体育館的な場所からハァビーの連絡が、エルフを通してやってきた。
学生のほとんどはそうだが、学園住まいの生徒達から毛布などをお借りすることになったのである。なぜって言われれば、怪我をさせたハルピュイアさん達を治療するためだ。
「お疲れ様。そっちはフェイとバロメッツ、アルラウネの4人で大丈夫か?」
『問題ないと思いますが、どれほど負傷者が来るかでしょう』
「最悪、ラフも応援に向かわせるよ」
『ありがとうございます。ハルピュイアの皆を過剰に傷つけないのは良いのですが、ダイナさん達も無理のないように』
「了解」
通信を終えた。
代わりにケェヌからの疑問が飛んでくる。
「なぜ敵に容赦する?」
ごもっともな意見だと思う。
「法国民を利する希少種を無闇に殺傷してはならず、また保護と生育に務めなければならない。ただし、法国民を害する個体についてはその限りではない」
唐突にケェヌが小難しいことを言い始めた。
希少生産種の繁栄に関わる条文だが、その意味はわざわざ言わなくてもわかると思う。が、まぁ、わかりやすくすれば希少生産種を殺しちゃダメだし育てることに尽力しなければいけないよ。でも、希少生産種が僕らを傷つけようとするなら防衛してもいいよ。ってこと。
もちろん、この防衛に殺傷が含まれるかというと疑問だ。
ケェヌからすれば、仲間を守るのに最も手っ取り早い方法は、彼自身が敵と認識するハルピュイアを一山いくらで切り捨てることである。エアールのときもそうだし、辟易していてもおかしくないだろう。
「善性を気取っているのか?」
グサリと突き刺さる一言が彼の言葉から飛び出した。『善人』とか『偽善』じゃなく、『善性』という言い回しが効く。
「だから、学園関係者はいつものメンバーだけってことだな」
「後、ダイナ先生は勘違いしてるよ」
「私達は皆、ダイナ先生やハァビー先生、他の仲間達を助けたくて来ているだけですわ」
「守るもののない騎士に価値なし」
通りがかりに、生徒達は口々に言って行く。
俺の右隣にハァビーが寄り添い、左隣にファリッバが立ち、足にバロメッツとアルラウネが抱きつき、後ろからエルフ首長が腕を回して、ラフがマントをちょこっと掴む。
「す……いや、ありがとう。皆」
俺はお礼を言った。
最初は少し手伝う程度の気持ちだったが、いつの間にか大きなつながりができてしまっていた。感謝してもし足りないぐらいの。言葉が広まるにつれて気持ちが通じなくなったかもしれないけれど、わからないからこそ通じつものがあるのだと思う。
空気とか察しろとかいう押し付けがましいものじゃなくて。まぁ、上手く言えないけどそういうのが。
「さぁ、こっちはハァビー先生の家や村に行かないようにする看板くらいにしておきましょう」
「そうだな。墨はないから泥で良いか?」
「カホー、それはちょっとみっともなくない?」
「先生達を傷つけようとしたのですから、少しぐらい泥を塗ったって構わないですわ」
「早く終わらせて飯にしよう」
俺がしんみりしている間にも、生徒達は壁もとい看板作りに精を出していた。
もはや自由工作の時間だよ! もう少し感動に浸らしてくれ!
「フェイも相変わらずか! さりげなく爆弾発言するんじゃぁないッ!」
「もうケェヌさんについてはツッコミ不要ですね」
「不要にしてはいかんと思うのじゃが……」
「毒されてるなぁ。バロメッツ達もこんなお父さんお母さんを見習っちゃダメだぞ」
ファリッバに呆れられるぐらいに、もうこの5人については慣れっこになったなぁ。
それはさておき、何をおっしゃっているんですか。サムベアさん?
「さ、ささサムベアさん!」「お父さんお母さんって!?」
俺達は慌てて否定しようとするが、バロメッツとアルラウネの視線が突き刺さる。
「ぅ……そんな目で」「お、お父さんお母さんで良い、かな?」
私達の父母じゃないのって目で見られたら、笑顔のように思えて目に当たる部分に水分が溜まっているのがわかったら、否定できないじゃない。
エルフ達なんて、首長との婚約も決まっているからって私達の親だとばかりにバロメッツ側だし。色々と背負っちゃったんだな……。
「ふぅ。なんとも重い責任だな」
「でも、とても嬉しい責任です」
青くて芳しい髪が、ふわりと俺の肩に乗った。
俺はぼやくもハァビーの言う通り、ただ背負わされるものじゃないから頑張れるのだ。戦えるのだ。
どんなに残酷への誓いだとしても。今はその頭に交わすだけだが、許して欲しい。
「先生達も遊んでないで手伝ってくださいよ」
「おっと。悪い、悪い」
邪魔をするのにバツが悪そうな表情のシービンに呼びかけられて、俺達は慌てて作業に戻った。
大きな看板を掲げ、泥で『←西へどうぞ』と案内しておく。俺達は全員で学園へと向かい地下へと潜るのだった。
外の納屋は解放して書き置きを残すことで、栽培途中の冬野菜をダメにしないようお願いしておいた。春野菜については少し遅れそうだが……少しで済めばいいなぁ。
「食料は十分か? ケェヌは食料庫に立ち入り禁止な」
「……」
悲しそうな顔してもダメです。
『こちら、ベッドや毛布も相当数を確保できました』
体育館的な場所からハァビーの連絡が、エルフを通してやってきた。
学生のほとんどはそうだが、学園住まいの生徒達から毛布などをお借りすることになったのである。なぜって言われれば、怪我をさせたハルピュイアさん達を治療するためだ。
「お疲れ様。そっちはフェイとバロメッツ、アルラウネの4人で大丈夫か?」
『問題ないと思いますが、どれほど負傷者が来るかでしょう』
「最悪、ラフも応援に向かわせるよ」
『ありがとうございます。ハルピュイアの皆を過剰に傷つけないのは良いのですが、ダイナさん達も無理のないように』
「了解」
通信を終えた。
代わりにケェヌからの疑問が飛んでくる。
「なぜ敵に容赦する?」
ごもっともな意見だと思う。
「法国民を利する希少種を無闇に殺傷してはならず、また保護と生育に務めなければならない。ただし、法国民を害する個体についてはその限りではない」
唐突にケェヌが小難しいことを言い始めた。
希少生産種の繁栄に関わる条文だが、その意味はわざわざ言わなくてもわかると思う。が、まぁ、わかりやすくすれば希少生産種を殺しちゃダメだし育てることに尽力しなければいけないよ。でも、希少生産種が僕らを傷つけようとするなら防衛してもいいよ。ってこと。
もちろん、この防衛に殺傷が含まれるかというと疑問だ。
ケェヌからすれば、仲間を守るのに最も手っ取り早い方法は、彼自身が敵と認識するハルピュイアを一山いくらで切り捨てることである。エアールのときもそうだし、辟易していてもおかしくないだろう。
「善性を気取っているのか?」
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