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10睡目・残酷な天使のベーゼ
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「それは、適わんですな」
無慈悲! 村同士の話し合いは説明している裏で行われたのだろうが、無情にも断られてしまった。
「なぜ……?」
聞く権利ぐらいはあるだろうと、俺は苦虫を噛み潰したような顔をしているとわかりながらも顔を上げた。
「“隻翼の天使”殿が要因なことぐらいわかりますとも。ならば、これはディヴメア神様の使い同士による争いでは?」
「慧眼ですね……。村の皆さんには関係ないもっと高次元の決め事だから、手伝えないということですか?」
「えぇ、申し訳ありませんな。“隻翼の天使”殿や“荒野の賢者”殿にはお世話になっておりますが、隣人として辛くもそう決断しなければなりますまい」
村長の説明は、情を通り越したところに理知があった。恩義とかそういうことで語れないからこそ、俺もそれ以上何も言うことができなかった。
ならば、もう学園の協力を期待するか、それがダメなら2人だけでなんとかするしかない。
立ち上がり、無謀とわかりながらも俺は村を立ち去る。棍棒を強く握りしめ、悔しさを堪えつつ。
「失礼しました」
村長や村人達の見送る顔を見るのが忍びなくて、俺は頭を下げ終わると踵を返すまで目を開かなかった。
そんな背中に、呼びかける声がある。
「待ちなよ。ダイナ」
「ザエさん?」
振り返れば、拳を交わし合い友情を深めたザエさんがいた。なんだろう。村で決まったことを彼だけで覆せるとは思えないが、もしかしたら?
「死にに行くようなもんだろ。どっかに身を潜めるとか、遠くに逃げちまうとかじゃダメなのか?」
しかし、想像とは裏腹に男の言葉は重苦しかった。
それでも友情からくるものだとわかっているから、俺も否定の言葉が出てこない。俺達が逃げれば、匿ったと疑って村や学院を無差別に襲撃するかもしれない。
そういう恨み言を吐き出して立ち去れば良いんだろうか? それとも、男のプライドとか矜持だとかを謳えば良いか。
ギリリッ。
初めて、歯を噛み合わせて鳴らすなんてことをしたかもしれない。
「友達として、無駄死にさせたくはないのさ。だから」
ザエさんはそう言いながら、俺の進行方向へと進み出ていった。そして拳を構え、俺の前に立ちふさがったんだ。
俺を倒して逝けってことか。
「武器は使っても良いぜ」
「……わかった」
お言葉に甘えて棍は使わせて貰おう。ズルいとは言わせない。国のベストエイトなら武器持ちの敵との戦い方もわかっているだろうし、俺にだって引けないこともある。
俺の返事を開始の合図に、構える暇も与えずにインファイトを仕掛けてくるザエさん。
しかし、こういうときに守って反撃できるのが棒術だ。
「間合いに入り込めば封じられると?」
「チッ。動きが前とは段違いじゃないか」
「1発打たせてくれるなんていう手加減はいらないからッ」
「ぅおッ! がッ!」
拳を受け止めてからの受け流し。体勢が崩れた後に棒を短く持ち替え、顎を軽く突いてやった。
多分、ザエさんも本気で俺を止めようなんて思ってなかったんだろう。そうでなければ、こんなジャブ程度の突きを避けられないはずもなく、ましてや1発ケーオーされるなんてない。
「……負けたぜ。ダイナ」
「ありがとう。ザエさん」
俺の覚悟とか、侠気みたいなのを確かめようとしたんだろう。手助けできないことへの、僅かばかりの激励かな。
だから、俺は見送られるままにひたすら走り去っていく。数十分そこらのランニング程度なら余裕になったものだ。
ハウスツリーにたどり着き、ハァビーに村での結果を伝えようとした。が、扉をくぐった先の空気でなんとなく三者の不穏さを察した。察して貰えた。
「ふぅ……ただいま。えっと、その、サムベアさん?」
「帰ったかい。ちょっと酔いから覚めるのに時間が懸かってね」
俺がぎこちなくサムベアさんを見ると、彼女は肩をすくめながら言った。気楽に謝ってはいるが、表情は暗いままだ。ハァビーと仲直りできなかったとかそういうわけではないだろう。
ハァビーのうつむいた姿を見れば、学園を戦場にするのは断られたのだろうと直ぐにわかる。
「やっぱり、学園や生徒達を危険に晒すのは看過できないだろうね。学園長に相談するまでもなく判断はできるけど、一応、本当に一応は持ち帰ってみるよ」
期待せずに待っていてくれと、サムベアさんは背中で語って俺とすれ違った。
申し訳無さそうな声に、もう一声をお願いすることもできない。
「ダイナさんは」
「ごめん。こっちもダメだった」
「そう、です、か」
なんとなくわかっていたこととは言え、俺の答えを聞いて表情を曇らせるハァビー。
俺は窓へと近づく。
「ファリッバ、そういうことだから他の皆を連れて避難してくれ」
戸を開いて、頭上を見上げることなく伝えた。
ハァビーが既に説明しているから行動に移してくれているというのは、少しばかり早急過ぎたか。他のマユのこともあるし、まだここに残っているのは仕方ないな。
無慈悲! 村同士の話し合いは説明している裏で行われたのだろうが、無情にも断られてしまった。
「なぜ……?」
聞く権利ぐらいはあるだろうと、俺は苦虫を噛み潰したような顔をしているとわかりながらも顔を上げた。
「“隻翼の天使”殿が要因なことぐらいわかりますとも。ならば、これはディヴメア神様の使い同士による争いでは?」
「慧眼ですね……。村の皆さんには関係ないもっと高次元の決め事だから、手伝えないということですか?」
「えぇ、申し訳ありませんな。“隻翼の天使”殿や“荒野の賢者”殿にはお世話になっておりますが、隣人として辛くもそう決断しなければなりますまい」
村長の説明は、情を通り越したところに理知があった。恩義とかそういうことで語れないからこそ、俺もそれ以上何も言うことができなかった。
ならば、もう学園の協力を期待するか、それがダメなら2人だけでなんとかするしかない。
立ち上がり、無謀とわかりながらも俺は村を立ち去る。棍棒を強く握りしめ、悔しさを堪えつつ。
「失礼しました」
村長や村人達の見送る顔を見るのが忍びなくて、俺は頭を下げ終わると踵を返すまで目を開かなかった。
そんな背中に、呼びかける声がある。
「待ちなよ。ダイナ」
「ザエさん?」
振り返れば、拳を交わし合い友情を深めたザエさんがいた。なんだろう。村で決まったことを彼だけで覆せるとは思えないが、もしかしたら?
「死にに行くようなもんだろ。どっかに身を潜めるとか、遠くに逃げちまうとかじゃダメなのか?」
しかし、想像とは裏腹に男の言葉は重苦しかった。
それでも友情からくるものだとわかっているから、俺も否定の言葉が出てこない。俺達が逃げれば、匿ったと疑って村や学院を無差別に襲撃するかもしれない。
そういう恨み言を吐き出して立ち去れば良いんだろうか? それとも、男のプライドとか矜持だとかを謳えば良いか。
ギリリッ。
初めて、歯を噛み合わせて鳴らすなんてことをしたかもしれない。
「友達として、無駄死にさせたくはないのさ。だから」
ザエさんはそう言いながら、俺の進行方向へと進み出ていった。そして拳を構え、俺の前に立ちふさがったんだ。
俺を倒して逝けってことか。
「武器は使っても良いぜ」
「……わかった」
お言葉に甘えて棍は使わせて貰おう。ズルいとは言わせない。国のベストエイトなら武器持ちの敵との戦い方もわかっているだろうし、俺にだって引けないこともある。
俺の返事を開始の合図に、構える暇も与えずにインファイトを仕掛けてくるザエさん。
しかし、こういうときに守って反撃できるのが棒術だ。
「間合いに入り込めば封じられると?」
「チッ。動きが前とは段違いじゃないか」
「1発打たせてくれるなんていう手加減はいらないからッ」
「ぅおッ! がッ!」
拳を受け止めてからの受け流し。体勢が崩れた後に棒を短く持ち替え、顎を軽く突いてやった。
多分、ザエさんも本気で俺を止めようなんて思ってなかったんだろう。そうでなければ、こんなジャブ程度の突きを避けられないはずもなく、ましてや1発ケーオーされるなんてない。
「……負けたぜ。ダイナ」
「ありがとう。ザエさん」
俺の覚悟とか、侠気みたいなのを確かめようとしたんだろう。手助けできないことへの、僅かばかりの激励かな。
だから、俺は見送られるままにひたすら走り去っていく。数十分そこらのランニング程度なら余裕になったものだ。
ハウスツリーにたどり着き、ハァビーに村での結果を伝えようとした。が、扉をくぐった先の空気でなんとなく三者の不穏さを察した。察して貰えた。
「ふぅ……ただいま。えっと、その、サムベアさん?」
「帰ったかい。ちょっと酔いから覚めるのに時間が懸かってね」
俺がぎこちなくサムベアさんを見ると、彼女は肩をすくめながら言った。気楽に謝ってはいるが、表情は暗いままだ。ハァビーと仲直りできなかったとかそういうわけではないだろう。
ハァビーのうつむいた姿を見れば、学園を戦場にするのは断られたのだろうと直ぐにわかる。
「やっぱり、学園や生徒達を危険に晒すのは看過できないだろうね。学園長に相談するまでもなく判断はできるけど、一応、本当に一応は持ち帰ってみるよ」
期待せずに待っていてくれと、サムベアさんは背中で語って俺とすれ違った。
申し訳無さそうな声に、もう一声をお願いすることもできない。
「ダイナさんは」
「ごめん。こっちもダメだった」
「そう、です、か」
なんとなくわかっていたこととは言え、俺の答えを聞いて表情を曇らせるハァビー。
俺は窓へと近づく。
「ファリッバ、そういうことだから他の皆を連れて避難してくれ」
戸を開いて、頭上を見上げることなく伝えた。
ハァビーが既に説明しているから行動に移してくれているというのは、少しばかり早急過ぎたか。他のマユのこともあるし、まだここに残っているのは仕方ないな。
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