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10睡目・残酷な天使のベーゼ
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面倒なので、山で戦った方をハルさん、逆賊呼ばわりした方をピユさん。最後の1人をイアさんとしよう。
「亡命のつもりかしらないが、こんなところに隠れ住み何を企むか? 反抗組織を決起しているのではあるまい?」
ピユさんが更に、根拠もないことを言ってくる。
それをハルさんがいさめるように手を差し出す。
「まぁ、待て。私達の転移手段に大いに役立ってくれたのだ。過去については問わず、この愚かな国の者共と一緒に神罰を受けてもらおう。だが、先の、そちらの男達がやった襲撃の件は看過できない」
言ってることはあんまり好転していないが、大体の事情はわかってきた。
基底世界側にハァビーの羽根が入り込んだのは、ハルピュイア達が実験か何かをしたせいらしい。今回の侵犯行為も宗教戦争が理由だ。人間なんかにディヴメア神様を信仰されたくないとおっしゃっているのだ。で、さらに俺のやったことと同罪としてハァビーを裁くとも言う。
「どうしても退いてくれないんだな?」
「当たり前だ!」「共に倒れろ!」
俺の願いは聞き入れられず、ピユさんとイアさんが翼を広げ襲いかかってきた。当然、先の俺の能力を見て正面から肉薄してくるほど抜けた相手ではなかった。
左右に展開して樹木を盾に、そして目隠しにして魔法を展開したようだ。
う、腕が燃えてる!
「クッ!」
振り下ろされたピユさんの拳を棍で受け止めた。
そのスキに、もう一方からイアさんが一閃の電撃を放ってくる。
回避不可能。ならばと、俺はピユさんの腕を横に捌いて棒で払う。
直撃すれば痺れて気絶で済まないような閃光だが、ピユさんは咄嗟に炎の腕をぶつけた。
赤と青が混じり合う。耳をつんざくような爆音より速く、俺はピユさんを引っ張って爆炎から逃れる。
「……気絶してるか」
並大抵の肉体では爆発の衝撃から逃げきれなかったのか、軽度の火傷と意識不明のダメージを受けていた様子。
そちらばかり気にしていられず、激音を引き裂く甲高い悲鳴に振り向くこととなる。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
「ハァァァァァビーィィイィィィッッッ!!!」
川から伸びた氷の鎖に巨大な刃を着けた振り子が、切っ先に白光を讃えハァビーの頭上に生み出されていた。ハルさんが、俺の目を盗んで直接攻めに行ったのだ。
いくら身体能力が向上しようとも、戦闘経験の少なさから出たサビである。1対3に挑んだのが間違いだった。
ダメだ! 間に合わない!
「余所見しているでないわ!」
「シクショー!!!」
後ろにはピユさんが控えていて、雷の球を放とうとしている。背中を向ければ俺の背骨が焼けて、避ければハァビーに放たれる。バロメッツマントでどれぐらい防げるのかもわからず、身動きできなくなればどちらにせよハァビーを助けられない。
俺まで倒れることをハァビーは望むだろうか。
決意したばかりで、二律背反の犠牲に動けないでいた。自分を呪う。
「恨んでくれて構わないよ」
振り下ろされるハルさんの手に従って、氷の処刑具が鎖をかき鳴らしてハァビーに向かった。
しかし、ハァビーがいつまでも悲鳴だけ上げているわけがないのだ。両手を突き上げ、風の塊で上告を望む。
「キャペ エレジー!」
が、質量が違いすぎた。
ハァビーの生み出した風など、氾濫ギリギリの川を元の数位まで戻すほどの氷塊にはマッチの炎のようなもの。
「くうぅぅ……ッ。キャペ……あッ」
「使わない片翼などもはや、持っていても無駄だろうに!」
もう一度風を巻き起こそうとするもほぼ意味をなさない。残された翼の魔力をすべて使えば直撃を避けるぐらいはできるかもしれないが、ハァビーにそれは使えなかった。
俺を基底世界へ戻すために必要な魔力だから。
「もう、良い」「さよならだぁ!」
羽根に溜められた魔力を使ってくれと叫ぼうとするも、ピユさんが雷の魔法を放ってきた。
「チィッ!」
バチチチチンッ。
となんとか電撃を霧散させるも、振り返ったときには既に氷の刃は地面を叩き割っていた。当然、ハァビーを巻き込んでだ。
「……」「……」「……」「……」
俺を含め、ハルピュイアさん達は唖然とした。
俺が絶望から言葉を失うならわかるが、なぜ彼女らまでと思うだろう。しかし、俺にはその原因が見えていた。
黒い人影が飛び込んでいったのが。
そして、氷の巨刃は鉄の小刃の前に折れた。
「大丈夫か?」
「……」
氷の塊を引き裂いて黒衣の騎士とお姫様の姿が現れた。
安否を気遣うケェヌの言葉にハァビーはうなずくことしかできない。
ケェヌは酔っ払いの相手よりマシだと思ったのか、お湯を置き去りにして俺に付いてきてくれたのだ。いや、少しぐらい食べてきた可能性はある。
「やるつもりか?」
ハァビーの無事を確認して、ケェヌは一度は収めた武器の鯉口を切る。ハルピュイアさん達を切るかどうかを問いかけたのだ。
当然、俺は首を横に振る。
「いや、そんなことをしても解決しない。帰って貰ってくれ」
「わかった」
俺とケェヌは武器を構え直し、3人のハルピュイアさん達にお暇を突きつけようとする。
先の瞬間移動めいた動きと冗談じみた剣技に、3人もとんでもない救援がやってきたことを悟ったことだろう。現に、タジタジといった様子だ。ピユさんは意識を失っているが。
「亡命のつもりかしらないが、こんなところに隠れ住み何を企むか? 反抗組織を決起しているのではあるまい?」
ピユさんが更に、根拠もないことを言ってくる。
それをハルさんがいさめるように手を差し出す。
「まぁ、待て。私達の転移手段に大いに役立ってくれたのだ。過去については問わず、この愚かな国の者共と一緒に神罰を受けてもらおう。だが、先の、そちらの男達がやった襲撃の件は看過できない」
言ってることはあんまり好転していないが、大体の事情はわかってきた。
基底世界側にハァビーの羽根が入り込んだのは、ハルピュイア達が実験か何かをしたせいらしい。今回の侵犯行為も宗教戦争が理由だ。人間なんかにディヴメア神様を信仰されたくないとおっしゃっているのだ。で、さらに俺のやったことと同罪としてハァビーを裁くとも言う。
「どうしても退いてくれないんだな?」
「当たり前だ!」「共に倒れろ!」
俺の願いは聞き入れられず、ピユさんとイアさんが翼を広げ襲いかかってきた。当然、先の俺の能力を見て正面から肉薄してくるほど抜けた相手ではなかった。
左右に展開して樹木を盾に、そして目隠しにして魔法を展開したようだ。
う、腕が燃えてる!
「クッ!」
振り下ろされたピユさんの拳を棍で受け止めた。
そのスキに、もう一方からイアさんが一閃の電撃を放ってくる。
回避不可能。ならばと、俺はピユさんの腕を横に捌いて棒で払う。
直撃すれば痺れて気絶で済まないような閃光だが、ピユさんは咄嗟に炎の腕をぶつけた。
赤と青が混じり合う。耳をつんざくような爆音より速く、俺はピユさんを引っ張って爆炎から逃れる。
「……気絶してるか」
並大抵の肉体では爆発の衝撃から逃げきれなかったのか、軽度の火傷と意識不明のダメージを受けていた様子。
そちらばかり気にしていられず、激音を引き裂く甲高い悲鳴に振り向くこととなる。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
「ハァァァァァビーィィイィィィッッッ!!!」
川から伸びた氷の鎖に巨大な刃を着けた振り子が、切っ先に白光を讃えハァビーの頭上に生み出されていた。ハルさんが、俺の目を盗んで直接攻めに行ったのだ。
いくら身体能力が向上しようとも、戦闘経験の少なさから出たサビである。1対3に挑んだのが間違いだった。
ダメだ! 間に合わない!
「余所見しているでないわ!」
「シクショー!!!」
後ろにはピユさんが控えていて、雷の球を放とうとしている。背中を向ければ俺の背骨が焼けて、避ければハァビーに放たれる。バロメッツマントでどれぐらい防げるのかもわからず、身動きできなくなればどちらにせよハァビーを助けられない。
俺まで倒れることをハァビーは望むだろうか。
決意したばかりで、二律背反の犠牲に動けないでいた。自分を呪う。
「恨んでくれて構わないよ」
振り下ろされるハルさんの手に従って、氷の処刑具が鎖をかき鳴らしてハァビーに向かった。
しかし、ハァビーがいつまでも悲鳴だけ上げているわけがないのだ。両手を突き上げ、風の塊で上告を望む。
「キャペ エレジー!」
が、質量が違いすぎた。
ハァビーの生み出した風など、氾濫ギリギリの川を元の数位まで戻すほどの氷塊にはマッチの炎のようなもの。
「くうぅぅ……ッ。キャペ……あッ」
「使わない片翼などもはや、持っていても無駄だろうに!」
もう一度風を巻き起こそうとするもほぼ意味をなさない。残された翼の魔力をすべて使えば直撃を避けるぐらいはできるかもしれないが、ハァビーにそれは使えなかった。
俺を基底世界へ戻すために必要な魔力だから。
「もう、良い」「さよならだぁ!」
羽根に溜められた魔力を使ってくれと叫ぼうとするも、ピユさんが雷の魔法を放ってきた。
「チィッ!」
バチチチチンッ。
となんとか電撃を霧散させるも、振り返ったときには既に氷の刃は地面を叩き割っていた。当然、ハァビーを巻き込んでだ。
「……」「……」「……」「……」
俺を含め、ハルピュイアさん達は唖然とした。
俺が絶望から言葉を失うならわかるが、なぜ彼女らまでと思うだろう。しかし、俺にはその原因が見えていた。
黒い人影が飛び込んでいったのが。
そして、氷の巨刃は鉄の小刃の前に折れた。
「大丈夫か?」
「……」
氷の塊を引き裂いて黒衣の騎士とお姫様の姿が現れた。
安否を気遣うケェヌの言葉にハァビーはうなずくことしかできない。
ケェヌは酔っ払いの相手よりマシだと思ったのか、お湯を置き去りにして俺に付いてきてくれたのだ。いや、少しぐらい食べてきた可能性はある。
「やるつもりか?」
ハァビーの無事を確認して、ケェヌは一度は収めた武器の鯉口を切る。ハルピュイアさん達を切るかどうかを問いかけたのだ。
当然、俺は首を横に振る。
「いや、そんなことをしても解決しない。帰って貰ってくれ」
「わかった」
俺とケェヌは武器を構え直し、3人のハルピュイアさん達にお暇を突きつけようとする。
先の瞬間移動めいた動きと冗談じみた剣技に、3人もとんでもない救援がやってきたことを悟ったことだろう。現に、タジタジといった様子だ。ピユさんは意識を失っているが。
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