59 / 77
9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ
10
しおりを挟む
「おーい!」
「ダイナせんせー?」
「居たら返事をしてくださーい!」
サムベアさん達だ。完全に撤退したかと思ったが、エルフ達の連絡を受けて駆けつけてくれたのだろう。
「っ……呼んでくるわ」
ラフは、救助が来たことで何かを思ったか、俺の治療をせずに離れていった。
「打ち身ぐらいはできたかもしれないけど、問題ないない」
フェイに怒られるといけないっていうのもあったし、助かる見込みという打算があっての行動だ。ちょっとまだ背中が痛いが、帰ってからアルラウネにちょびっと葉っぱを分けてもらうことにする。
ラフがサムベアさん達を連れてくるころにはハルピュイアさんも飛び立っていて、皆が知るのはハルピュイア軍団による進攻の可能性だけだ。
「大丈夫ですか?」
「はい、肩を貸すよ」
「あたたっ。もう少し優しく」
シービンとシジットに支えられて、俺と他面々は山を下りるのだった。
ふもとに到着した頃には草木も眠る丑三つ時。ちょっとした調査のつもりが、大仕事になってしまった気がする。サムベアさんは、国に連絡を取り付けるためまた出張の日々だろうし。
さておき、時間も時間のため、アルラウネも静かに眠っているという始末だ。
「はぁ。見てるだけで心は癒やされる」
水気を含んだ布を巻きつけて寝息を立てるアルラウネと、ベッドを占領して逆さ大の字になったバロメッツを見て、俺は背中の痛みを忘れようとするのだった。
大丈夫かと思っていたし、手足の末梢に異常がある感じもなかったため油断していた。打ち身によるダメージが予想外に苛み始めたのである。
「っっ……」
意外と痛いのだが、表面への怪我で良かった。これなら、明日にでもアルラウネの体液を少し貰うか、ラフに治療してもらえる。
内臓だと外科手術も相まって時間がかかっただろうし、その施術のできる人物とはなかなか出会えないから幸いだ。話によると学園長が技術を持っていて、サムベアさんも師事して貰っているとか。
とはいえどうしようもないし、今夜は痛みに耐えながら硬い床で眠ることになるな……。
起き上がるのも少し辛くて、明かりのランプを消すのをためらう。まだ夜ふかししてる生徒達が、消灯してバロメッツ達を部屋に戻してくれることだろう。
「ランプ……っ痛い。ぅん?」
寝返りも打てない状態でバロメッツマントにくるまっていると、宿泊部屋の扉を叩く音がした。
「ビーエフタワ」
どうぞと声をかけるよりも早く、ラフの言葉がすり抜けてきた。まるで、まだ俺が起きていることを見越していたような感じだ。外から明かりが見えるのを見たのだろうか。
宿泊中は、たまにエルフ首長やバロメッツ、またはアルラウネが布団に潜り込んでくることもあった。今日は、もしかしてラフが勝ち取ったとか?
いや、そもそもなぜラフが?
「……どうぞ。開いてる」
俺は逡巡を置いてから、ラフを招き入れた。扉を開けてやれないことを内心で謝る。
「カナセ まだ ダァケータビー?」
「まぁ、その……少しだけな」
背中の様子を改めて確認されて、俺は少し強がった。ハァビーに言おうものなら直ぐに看破されて、無茶をしないよう釘を差されるところである。
まぁ、首だけを入り口に向けていることから、ラフも容態について察しはついているだろう。
小さくため息を付いたのがわかる。
「……ケダァケェジーア に ビーエムナ ビーサナ」
「はーい」
仰向けになるようラフに言われて俺は、親に命じられた子供のように従った。
無駄に抵抗すれば何を言われるかわかったもんじゃないからな。
などと大人しく振る舞っていると、マントを腰の少し下までめくって肌着の中は見ずに手を触れていく。触診というより、ただ俺が痛みを訴えるところを探しているのだ。
あたたっ……。言葉は信用できないってことか。
「ッ、ッ。ぅにゅ!」
「ここね。ネダァジェー は……ダァティダァジィダブリュビィピィビーダ そう」
痛いところを探られる度に、おかしな声が漏れ出してしまう。
それよりも異常だったのは、俺の口から発された驚きだろう。
「ビーサナエヌメジィオー」
「へ?」
普段なら「男が泣きわめくな。みっともない」とでも叱咤しそうなものを、ラフは患部から手を離して謝ったのだ。
「あ、いや……問題ないから、続けて?」
ランプだけが見守る薄闇の中では、流石に怪我の容態までは目視できない。そこまで痛むものとはラフも思っておらず、強く抑えすぎたのだろう。
俺は治療の先を促した。
いつもはやや冷徹な態度のラフに、こう殊勝な態度に出られるとこちらも困ってしまう。
「バビルド エルジー」
再び、ひんやりとした手が服の下に差し込まれた。小さな口から理語が漏れると同時に、癒やしの光が患部を照らし痛みを消し去ってくれた。
「ダイナせんせー?」
「居たら返事をしてくださーい!」
サムベアさん達だ。完全に撤退したかと思ったが、エルフ達の連絡を受けて駆けつけてくれたのだろう。
「っ……呼んでくるわ」
ラフは、救助が来たことで何かを思ったか、俺の治療をせずに離れていった。
「打ち身ぐらいはできたかもしれないけど、問題ないない」
フェイに怒られるといけないっていうのもあったし、助かる見込みという打算があっての行動だ。ちょっとまだ背中が痛いが、帰ってからアルラウネにちょびっと葉っぱを分けてもらうことにする。
ラフがサムベアさん達を連れてくるころにはハルピュイアさんも飛び立っていて、皆が知るのはハルピュイア軍団による進攻の可能性だけだ。
「大丈夫ですか?」
「はい、肩を貸すよ」
「あたたっ。もう少し優しく」
シービンとシジットに支えられて、俺と他面々は山を下りるのだった。
ふもとに到着した頃には草木も眠る丑三つ時。ちょっとした調査のつもりが、大仕事になってしまった気がする。サムベアさんは、国に連絡を取り付けるためまた出張の日々だろうし。
さておき、時間も時間のため、アルラウネも静かに眠っているという始末だ。
「はぁ。見てるだけで心は癒やされる」
水気を含んだ布を巻きつけて寝息を立てるアルラウネと、ベッドを占領して逆さ大の字になったバロメッツを見て、俺は背中の痛みを忘れようとするのだった。
大丈夫かと思っていたし、手足の末梢に異常がある感じもなかったため油断していた。打ち身によるダメージが予想外に苛み始めたのである。
「っっ……」
意外と痛いのだが、表面への怪我で良かった。これなら、明日にでもアルラウネの体液を少し貰うか、ラフに治療してもらえる。
内臓だと外科手術も相まって時間がかかっただろうし、その施術のできる人物とはなかなか出会えないから幸いだ。話によると学園長が技術を持っていて、サムベアさんも師事して貰っているとか。
とはいえどうしようもないし、今夜は痛みに耐えながら硬い床で眠ることになるな……。
起き上がるのも少し辛くて、明かりのランプを消すのをためらう。まだ夜ふかししてる生徒達が、消灯してバロメッツ達を部屋に戻してくれることだろう。
「ランプ……っ痛い。ぅん?」
寝返りも打てない状態でバロメッツマントにくるまっていると、宿泊部屋の扉を叩く音がした。
「ビーエフタワ」
どうぞと声をかけるよりも早く、ラフの言葉がすり抜けてきた。まるで、まだ俺が起きていることを見越していたような感じだ。外から明かりが見えるのを見たのだろうか。
宿泊中は、たまにエルフ首長やバロメッツ、またはアルラウネが布団に潜り込んでくることもあった。今日は、もしかしてラフが勝ち取ったとか?
いや、そもそもなぜラフが?
「……どうぞ。開いてる」
俺は逡巡を置いてから、ラフを招き入れた。扉を開けてやれないことを内心で謝る。
「カナセ まだ ダァケータビー?」
「まぁ、その……少しだけな」
背中の様子を改めて確認されて、俺は少し強がった。ハァビーに言おうものなら直ぐに看破されて、無茶をしないよう釘を差されるところである。
まぁ、首だけを入り口に向けていることから、ラフも容態について察しはついているだろう。
小さくため息を付いたのがわかる。
「……ケダァケェジーア に ビーエムナ ビーサナ」
「はーい」
仰向けになるようラフに言われて俺は、親に命じられた子供のように従った。
無駄に抵抗すれば何を言われるかわかったもんじゃないからな。
などと大人しく振る舞っていると、マントを腰の少し下までめくって肌着の中は見ずに手を触れていく。触診というより、ただ俺が痛みを訴えるところを探しているのだ。
あたたっ……。言葉は信用できないってことか。
「ッ、ッ。ぅにゅ!」
「ここね。ネダァジェー は……ダァティダァジィダブリュビィピィビーダ そう」
痛いところを探られる度に、おかしな声が漏れ出してしまう。
それよりも異常だったのは、俺の口から発された驚きだろう。
「ビーサナエヌメジィオー」
「へ?」
普段なら「男が泣きわめくな。みっともない」とでも叱咤しそうなものを、ラフは患部から手を離して謝ったのだ。
「あ、いや……問題ないから、続けて?」
ランプだけが見守る薄闇の中では、流石に怪我の容態までは目視できない。そこまで痛むものとはラフも思っておらず、強く抑えすぎたのだろう。
俺は治療の先を促した。
いつもはやや冷徹な態度のラフに、こう殊勝な態度に出られるとこちらも困ってしまう。
「バビルド エルジー」
再び、ひんやりとした手が服の下に差し込まれた。小さな口から理語が漏れると同時に、癒やしの光が患部を照らし痛みを消し去ってくれた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる