絶滅危惧種の子なら隣で寝てるけど? ~異世界で保護飼育は難しい~

AAKI

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9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ

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「おーい!」

「ダイナせんせー?」

「居たら返事をしてくださーい!」

 サムベアさん達だ。完全に撤退したかと思ったが、エルフ達の連絡を受けて駆けつけてくれたのだろう。

「っ……呼んでくるわ」

 ラフは、救助が来たことで何かを思ったか、俺の治療をせずに離れていった。

「打ち身ぐらいはできたかもしれないけど、問題ないない」

 フェイに怒られるといけないっていうのもあったし、助かる見込みという打算があっての行動だ。ちょっとまだ背中が痛いが、帰ってからアルラウネにちょびっと葉っぱを分けてもらうことにする。

 ラフがサムベアさん達を連れてくるころにはハルピュイアさんも飛び立っていて、皆が知るのはハルピュイア軍団による進攻の可能性だけだ。

「大丈夫ですか?」

「はい、肩を貸すよ」

「あたたっ。もう少し優しく」

 シービンとシジットに支えられて、俺と他面々は山を下りるのだった。

 ふもとに到着した頃には草木も眠る丑三つ時。ちょっとした調査のつもりが、大仕事になってしまった気がする。サムベアさんは、国に連絡を取り付けるためまた出張の日々だろうし。

 さておき、時間も時間のため、アルラウネも静かに眠っているという始末だ。

「はぁ。見てるだけで心は癒やされる」

 水気を含んだ布を巻きつけて寝息を立てるアルラウネと、ベッドを占領して逆さ大の字になったバロメッツを見て、俺は背中の痛みを忘れようとするのだった。

 大丈夫かと思っていたし、手足の末梢まっしょうに異常がある感じもなかったため油断していた。打ち身によるダメージが予想外に苛み始めたのである。

「っっ……」

 意外と痛いのだが、表面への怪我で良かった。これなら、明日にでもアルラウネの体液を少し貰うか、ラフに治療してもらえる。

 内臓だと外科手術も相まって時間がかかっただろうし、その施術のできる人物とはなかなか出会えないから幸いだ。話によると学園長が技術を持っていて、サムベアさんも師事して貰っているとか。

 とはいえどうしようもないし、今夜は痛みに耐えながら硬い床で眠ることになるな……。

 起き上がるのも少し辛くて、明かりのランプを消すのをためらう。まだ夜ふかししてる生徒達が、消灯してバロメッツ達を部屋に戻してくれることだろう。

「ランプ……っ痛い。ぅん?」

 寝返りも打てない状態でバロメッツマントにくるまっていると、宿泊部屋の扉を叩く音がした。

「ビーエフタワ」

 どうぞと声をかけるよりも早く、ラフの言葉がすり抜けてきた。まるで、まだ俺が起きていることを見越していたような感じだ。外から明かりが見えるのを見たのだろうか。

 宿泊中は、たまにエルフ首長やバロメッツ、またはアルラウネが布団に潜り込んでくることもあった。今日は、もしかしてラフが勝ち取ったとか?

 いや、そもそもなぜラフが?

「……どうぞ。開いてる」

 俺は逡巡を置いてから、ラフを招き入れた。扉を開けてやれないことを内心で謝る。

「カナセ まだ ダァケータビー?」

「まぁ、その……少しだけな」

 背中の様子を改めて確認されて、俺は少し強がった。ハァビーに言おうものなら直ぐに看破されて、無茶をしないよう釘を差されるところである。

 まぁ、首だけを入り口に向けていることから、ラフも容態について察しはついているだろう。

 小さくため息を付いたのがわかる。

「……ケダァケェジーア に ビーエムナ ビーサナ」

「はーい」

 仰向けになるようラフに言われて俺は、親に命じられた子供のように従った。

 無駄に抵抗すれば何を言われるかわかったもんじゃないからな。

 などと大人しく振る舞っていると、マントを腰の少し下までめくって肌着の中は見ずに手を触れていく。触診というより、ただ俺が痛みを訴えるところを探しているのだ。

 あたたっ……。言葉は信用できないってことか。

「ッ、ッ。ぅにゅ!」

「ここね。ネダァジェー は……ダァティダァジィダブリュビィピィビーダ そう」

 痛いところを探られる度に、おかしな声が漏れ出してしまう。

 それよりも異常だったのは、俺の口から発された驚きだろう。

「ビーサナエヌメジィオー」

「へ?」

 普段なら「男が泣きわめくな。みっともない」とでも叱咤しそうなものを、ラフは患部から手を離して謝ったのだ。

「あ、いや……問題ないから、続けて?」

 ランプだけが見守る薄闇の中では、流石に怪我の容態までは目視できない。そこまで痛むものとはラフも思っておらず、強く抑えすぎたのだろう。

 俺は治療の先を促した。

 いつもはやや冷徹な態度のラフに、こう殊勝な態度に出られるとこちらも困ってしまう。

「バビルド エルジー」

 再び、ひんやりとした手が服の下に差し込まれた。小さな口から理語が漏れると同時に、癒やしの光が患部を照らし痛みを消し去ってくれた。
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