絶滅危惧種の子なら隣で寝てるけど? ~異世界で保護飼育は難しい~

AAKI

文字の大きさ
上 下
58 / 77
9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ

9

しおりを挟む
「ごめん!」

「……」

 とりあえず謝っておいた。へエヌジー世界に来てから、最初なんて野ウサギを捌くのもためらってたんやぞ!

 しかし、ほとんど意味のない謝罪に対しラフが笑ったような気がする。

 そして、先ほどまで苦しみながら墜落していたハルピュイアさんが翼を広げ直す。

「はぁ……はぁ……。クソッ。恩を売ったなどと思うな!」

 あくまで俺達を敵とみなしている様子だ。

 まぁそれは良い。どうせ止めないとダメなのは確かなのだから、ただ殺さずにそうしたというだけでだな。

「今ので追いついた!」

「ジーエムビーエッチジー!」

「はい?」

 体勢を立て直したハルピュイアさんを、もう少しで捕まえられるところだ。が、俺の考えとは裏腹に、ラフが暴挙に出てくださいました。

 ダンッと岸壁から跳躍して、ハルピュイアさんを蹴り落としにかかったのだ。嘘やろ?

「ゴフッ!?」

 これにはハルピュイアさんもたまらずダウン!

 錐揉みして砦の足場を支えている土台を支えている柱にぶつかっていく。そのおかげか、滑り落ちていって着水のダメージは相当弱まったようだ。いや、山岳生物に蹴られて無事な人とかそうそういないぞ。

 多分、ギリギリのところで翼の方で防御したんだろう。

 そんなことを心配している間に、俺達も落下を続けていた。水場の柱はまだ佇んでいるらしく、ほぼなんの成果も上げられずこれでは悲しくなってくる……。

「テダーエックスヤ ビーナ」

「やったかやってないかじゃなくて! なあ! さっきので飛べるようになってないのか!?」

「あんな ビーエムダーエフカ ダァピィビィシー じゃ 無理」

 冷静に分析している場合じゃないでしょ。

 俺が大慌てで訊くも、あっさりと否定されてしまった。一滴にもならない体液では大した変身はできず、両手にちょっと羽毛を生やせただけだ。

 俺達は5メートルぐらいの高さから落ちているわけだが、今から足を下に向けるような器用なことはできない。頭を守ろうと思えば背中からになる。

 ならばやるべきことは1つ。

 この高さなら死ぬほどの衝撃はないにしても、最悪を回避することだ。

 この間0.5秒。

「もしもの時は頼んだ」「なっ? 私が!」

 そうラフに伝えると、俺は小さな体を無理やり抱え込み落下方向へ。要するに、ラフのクッションになれる体勢だ。

 ラフさえ無事なら瀕死レベルのダメージからでも回復できるはずだからである。しかし、もしラフのダメージが予想外で、自分だけしか治癒できない場合もある。

 それを指摘しようとする前に、俺達は水面へと激突した。

 薄れゆく意識の中で……ってぇぇぇぇッ! バロメッツマントも合わさって、気絶できないから背中への衝撃がめっちゃ辛い!

「がぼばばッ! いったぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁいっ!」

「プハッ。ばか?」

 魂の叫びみたいな苦悶に対し、ラフは当然のように雑言を放ってきた。覚えたての罵りである。

 酷いとは思うが、そう言われても仕方ない。無駄死にではないが無駄身代わりだしな。

 それでも、何とか俺やハルピュイアさんを岸まで連れて泳いでくれる優しい子だ。

「ジーエフビー ない と あれ」

「うん? あ、これは……」

 着水の衝撃で聞こえなかったが、どうやらギリギリで水場の柱を壊すことに成功していたらしい。

 倒壊すれば足場部分まで崩れ、落水の波に巻き込まれて溺れる可能性だってある。今は、とりあえずこの場を逃れることに専念した。

 何とか無事に岸へとたどり着き、水が襲ってこないところまでたどり着く。堰自体が破壊されなかったのは良かった。溜め込んだ水がダッケジー村へ流れ込んだら一大事だ。

 砦はいらないまでも、この水場自体は村にとっても役立つから壊れるのはもったいない。

「一旦は、これで解決か。ハルピュイアさん達のことは……まぁ、国に伝えないとダメか」

「そうね。ジィピーエアビイエムジーエッチ」

 そうだな。とりあえず、ハルピュイアさん達が逃げ出してるから、気絶してる子にも起こして立ち去ってもらおう。

 ラフと俺の考えが一致しているかわからないが、起こす必要があるのは確かだ。

「グッ……うぅ……。ゴホッ! こほっ、こほっ。はぁ、はぁ……」

 飲み込んでいた水を吐き出し、何とか目を覚ました。完全に無事というわけではないだろうが、飛び立てれば良いんだけど。

「大丈夫か? お仲間さんは撤退を開始したぞ」

「翼の骨が少し……」

 俺が訊くと、ハルピュイアさんは羽根の腕を少し動かして答えた。やはり、ラフの蹄を受け止めてダメージを負っているらしい。

 俺はラフを見る。

「私がやるの? はぁ~」

 すると、「何百本とある骨の内1本が折れたからなによ」とばかりに見つめ返してきた。それでも、優しいラフはハルピュイアさんに治癒の聖法魔法を唱えてくれた。

「助けたと思うな……」

 それでもハルピュイアさんの態度は硬化したままだ。

 そうやってしばらく淡い光で翼を治療したら、今度は俺の方を向くラフ。ハルピュイアさんに対しては、さっさと行ってしまえとばかりに手で追い払う。

「ダイナ も セビィケー なさい」

 俺の傷の様子を気にかけてくれたらしい。

 頼んでも良いかなと思ったのも束の間、俺達を呼ぶ声がする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...