57 / 77
9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ
8
しおりを挟む
あんまり好みじゃないんだけど……。
「なら、悪いが、力ずくで聞き出して良いかッ」
俺は言いながらも立ち上がり、少し不意打ちまがいに上段から振り下ろした。
「チッ!」
敵さんは、マントのようなもので防御しながらも後ろに跳んた。感触からして浅かったな。
間髪入れずスキを生じぬ二段構え。腰をひねり、軸足を回転させて更に上段からの攻撃を仕掛ける。
それも避けるかと思ったが、読まれていたようで蹴り上げてきた。見事に弾き返されるも、俺だって無様に転がってばかりはいない。
「うぉっ! ふぅ……なかなかやるね」
「動きに切れが無いな。付け焼き刃の戦い方だ」
そこまで読まれてたか……。初手を受け止めた時点で、俺が敵さんの力を殺さなかった時点でバレてたんだろうな。
「護身用でね。貴女も、躊躇わずに足を使う辺り、亜人?」
「ッ。有翼人種だ! 人間の、その傲慢さはいただけないな!」
「有翼……」
「そう、ハルピュイアだ。誇り高きディヴメアの子ら!」
うっかり亜人呼ばわりしてしまったがために、ハルピュイアさんは怒りを顕にした。
そのお陰で思わぬ情報を得られたが、まさかハァビーと同じ有翼人種だったとは。しかもハルピュイアってことは、この闇夜ではほとんどこちらのことが見えていないはず。
まぁ、とりあえず謝らないと。
「すまない。さっきのは失言だった。ハァビーと同じ有翼人種なら、本当に、できれば傷つけたくない」
「何を舐めたこと……ぅん? ハァビー?」
おや、この反応は?
「ディーラのハァビーだ。青い髪で、あー……もしかして、知り合いだったか?」
俺は訊いた。
そういえば、ハァビーの過去については何も聞いていない。そのため、どう特徴を伝えたものかと俺は悩んだ。
流石に女性の部分について大小など口にするのもなんだし、服装だって昔からあの格好なのかも知らない。無駄なことを考えている間に、仮定お知り合いさんが含み笑いを漏らす。
「く、ククククッ」
「お知り合いの方?」
「まさか、翼の片方を失ってなお生き長らえて居たか! あの賢ぶって澄ましたお利口ちゃんは!」
「あの……?」
何がおかしいのか、お知り合いさんは大声で笑い始めた。俺が訊ねても、ご本人にしかわからないことに思い更けてしまっていて話にならない。
まぁ、口調からしてあまり仲が良いとは言えなさそう。
元々、ハルピュイアはディーラを一方的に敵視している。本能の部分で馬が合わない種族なのは俺も知っているから、この時から良い予感はしていなかった。
「我ら有翼人種こそがディヴメア神に選ばれた種であることを、クソお利口ちゃんは認めなかった! そんな良い子ぶった美風をまとうような態度が気に入らなくて、私達で奪ってやったのさ!」
怒りか狂気か、感極まった様子でハルピュイアさんが暴露を始めたのである。あまり聞きたくても聞きたくなかった、ハァビーの過去を勝手にべらべらと。しかも、己の罪の告白付きで。
不思議と、俺が怒りを感じるようなことはなかった。
ただただ、あぁそうかと、そういうことがあったのかと納得した感じだ。
体から不意に力が抜けるような気がした後、ハルピュイアが動くのがわかる。俺がリアクションするよりも早く、横を通り抜けて両腕の翼を広げる。
「しまった!」
「ビーアイナ テダーエックスヤ るの!?」
うっかり敵を逃してしまったことをラフが責めてくるも、本当になぜなのか説明できない。
なんとなく、ハァビーのことが少しでも知れて安心したのかもしれない。大事な片翼を失った、最も重要な理由がわかって。
それでもボーッとしているわけにもいかず、ラフがエアールに変身して駆け出す。
「うぉっと! そんなとこ!?」
とっさにラフのシャツを掴んで無理やり乗り込んだは良いが、まさか追いかけで溜池に飛び出すとは思わなかった。さらにほぼ垂直の岸壁を駆け抜けるなど、誰が予想しただろう。
落ちたら死なないまでも怪我しそう!
「クソッ! しつこいぞ!」
追いかけてくるラフに、ハルピュイアが悪態をついた。驚きを含んでる感じ、やはり向こうにもこの行動は予想外だったみたいだ。
「タビータタ ジィユダァエックスビィシーサ テセサメナ!」
「はぁ? え、こう?」
棍の先、ハルピュイアを叩いた先っぽを舐めさせろなどという注文をラフから受けた。まさかここでハルピュイアをコピーしようっていうのか?
良くわからないが、急ぎの様子だったので俺は先端をラフの顔の前に差し出す。
それを舌でベロリと舐めると、続いて理語を唱え始める。
「ガアメ エルジー ビシーテ ジーアイワイ ダァジッピ ジーアイワイ エヌビィフ ジーエヌワイ メカダーエチ(我が目よ敵の心の臓を掴め)」
「グッ、あぁぁっー!」
シェイプシフター語で言い終わると同時に、ハルピュイアさんに変化が訪れた。
胸の体を縮めて苦しみだしたようだ。
そうだった。ラフには変身能力だけでなく、この呪術魔法もあったんだ。
「呪術魔法!? 何をしたんだ!? 殺しちゃダメだぞ!」
俺はラフの背中にみっともなくしがみつきながらも、できる限り不殺の心得だけは伝えておいた。こんな状況で甘ちゃんだと言われそうだが。
「この エヌャビーエッチマア!」
やっぱり言われた。
「なら、悪いが、力ずくで聞き出して良いかッ」
俺は言いながらも立ち上がり、少し不意打ちまがいに上段から振り下ろした。
「チッ!」
敵さんは、マントのようなもので防御しながらも後ろに跳んた。感触からして浅かったな。
間髪入れずスキを生じぬ二段構え。腰をひねり、軸足を回転させて更に上段からの攻撃を仕掛ける。
それも避けるかと思ったが、読まれていたようで蹴り上げてきた。見事に弾き返されるも、俺だって無様に転がってばかりはいない。
「うぉっ! ふぅ……なかなかやるね」
「動きに切れが無いな。付け焼き刃の戦い方だ」
そこまで読まれてたか……。初手を受け止めた時点で、俺が敵さんの力を殺さなかった時点でバレてたんだろうな。
「護身用でね。貴女も、躊躇わずに足を使う辺り、亜人?」
「ッ。有翼人種だ! 人間の、その傲慢さはいただけないな!」
「有翼……」
「そう、ハルピュイアだ。誇り高きディヴメアの子ら!」
うっかり亜人呼ばわりしてしまったがために、ハルピュイアさんは怒りを顕にした。
そのお陰で思わぬ情報を得られたが、まさかハァビーと同じ有翼人種だったとは。しかもハルピュイアってことは、この闇夜ではほとんどこちらのことが見えていないはず。
まぁ、とりあえず謝らないと。
「すまない。さっきのは失言だった。ハァビーと同じ有翼人種なら、本当に、できれば傷つけたくない」
「何を舐めたこと……ぅん? ハァビー?」
おや、この反応は?
「ディーラのハァビーだ。青い髪で、あー……もしかして、知り合いだったか?」
俺は訊いた。
そういえば、ハァビーの過去については何も聞いていない。そのため、どう特徴を伝えたものかと俺は悩んだ。
流石に女性の部分について大小など口にするのもなんだし、服装だって昔からあの格好なのかも知らない。無駄なことを考えている間に、仮定お知り合いさんが含み笑いを漏らす。
「く、ククククッ」
「お知り合いの方?」
「まさか、翼の片方を失ってなお生き長らえて居たか! あの賢ぶって澄ましたお利口ちゃんは!」
「あの……?」
何がおかしいのか、お知り合いさんは大声で笑い始めた。俺が訊ねても、ご本人にしかわからないことに思い更けてしまっていて話にならない。
まぁ、口調からしてあまり仲が良いとは言えなさそう。
元々、ハルピュイアはディーラを一方的に敵視している。本能の部分で馬が合わない種族なのは俺も知っているから、この時から良い予感はしていなかった。
「我ら有翼人種こそがディヴメア神に選ばれた種であることを、クソお利口ちゃんは認めなかった! そんな良い子ぶった美風をまとうような態度が気に入らなくて、私達で奪ってやったのさ!」
怒りか狂気か、感極まった様子でハルピュイアさんが暴露を始めたのである。あまり聞きたくても聞きたくなかった、ハァビーの過去を勝手にべらべらと。しかも、己の罪の告白付きで。
不思議と、俺が怒りを感じるようなことはなかった。
ただただ、あぁそうかと、そういうことがあったのかと納得した感じだ。
体から不意に力が抜けるような気がした後、ハルピュイアが動くのがわかる。俺がリアクションするよりも早く、横を通り抜けて両腕の翼を広げる。
「しまった!」
「ビーアイナ テダーエックスヤ るの!?」
うっかり敵を逃してしまったことをラフが責めてくるも、本当になぜなのか説明できない。
なんとなく、ハァビーのことが少しでも知れて安心したのかもしれない。大事な片翼を失った、最も重要な理由がわかって。
それでもボーッとしているわけにもいかず、ラフがエアールに変身して駆け出す。
「うぉっと! そんなとこ!?」
とっさにラフのシャツを掴んで無理やり乗り込んだは良いが、まさか追いかけで溜池に飛び出すとは思わなかった。さらにほぼ垂直の岸壁を駆け抜けるなど、誰が予想しただろう。
落ちたら死なないまでも怪我しそう!
「クソッ! しつこいぞ!」
追いかけてくるラフに、ハルピュイアが悪態をついた。驚きを含んでる感じ、やはり向こうにもこの行動は予想外だったみたいだ。
「タビータタ ジィユダァエックスビィシーサ テセサメナ!」
「はぁ? え、こう?」
棍の先、ハルピュイアを叩いた先っぽを舐めさせろなどという注文をラフから受けた。まさかここでハルピュイアをコピーしようっていうのか?
良くわからないが、急ぎの様子だったので俺は先端をラフの顔の前に差し出す。
それを舌でベロリと舐めると、続いて理語を唱え始める。
「ガアメ エルジー ビシーテ ジーアイワイ ダァジッピ ジーアイワイ エヌビィフ ジーエヌワイ メカダーエチ(我が目よ敵の心の臓を掴め)」
「グッ、あぁぁっー!」
シェイプシフター語で言い終わると同時に、ハルピュイアさんに変化が訪れた。
胸の体を縮めて苦しみだしたようだ。
そうだった。ラフには変身能力だけでなく、この呪術魔法もあったんだ。
「呪術魔法!? 何をしたんだ!? 殺しちゃダメだぞ!」
俺はラフの背中にみっともなくしがみつきながらも、できる限り不殺の心得だけは伝えておいた。こんな状況で甘ちゃんだと言われそうだが。
「この エヌャビーエッチマア!」
やっぱり言われた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる