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9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ

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 あんまり好みじゃないんだけど……。

「なら、悪いが、力ずくで聞き出して良いかッ」

 俺は言いながらも立ち上がり、少し不意打ちまがいに上段から振り下ろした。

「チッ!」

 敵さんは、マントのようなもので防御しながらも後ろに跳んた。感触からして浅かったな。

 間髪入れずスキを生じぬ二段構え。腰をひねり、軸足を回転させて更に上段からの攻撃を仕掛ける。

 それも避けるかと思ったが、読まれていたようで蹴り上げてきた。見事に弾き返されるも、俺だって無様に転がってばかりはいない。

「うぉっ! ふぅ……なかなかやるね」

「動きに切れが無いな。付け焼き刃の戦い方だ」

 そこまで読まれてたか……。初手を受け止めた時点で、俺が敵さんの力を殺さなかった時点でバレてたんだろうな。

「護身用でね。貴女も、躊躇わずに足を使う辺り、亜人?」

「ッ。有翼人種だ! 人間の、その傲慢さはいただけないな!」

「有翼……」

「そう、ハルピュイアだ。誇り高きディヴメアの子ら!」

 うっかり亜人呼ばわりしてしまったがために、ハルピュイアさんは怒りを顕にした。

 そのお陰で思わぬ情報を得られたが、まさかハァビーと同じ有翼人種だったとは。しかもハルピュイアってことは、この闇夜ではほとんどこちらのことが見えていないはず。

 まぁ、とりあえず謝らないと。

「すまない。さっきのは失言だった。ハァビーと同じ有翼人種なら、本当に、できれば傷つけたくない」

「何を舐めたこと……ぅん? ハァビー?」

 おや、この反応は?

「ディーラのハァビーだ。青い髪で、あー……もしかして、知り合いだったか?」

 俺は訊いた。

 そういえば、ハァビーの過去については何も聞いていない。そのため、どう特徴を伝えたものかと俺は悩んだ。

 流石に女性の部分について大小など口にするのもなんだし、服装だって昔からあの格好なのかも知らない。無駄なことを考えている間に、仮定お知り合いさんが含み笑いを漏らす。

「く、ククククッ」

「お知り合いの方?」

「まさか、翼の片方を失ってなお生き長らえて居たか! あの賢ぶって澄ましたお利口ちゃんは!」

「あの……?」

 何がおかしいのか、お知り合いさんは大声で笑い始めた。俺が訊ねても、ご本人にしかわからないことに思い更けてしまっていて話にならない。

 まぁ、口調からしてあまり仲が良いとは言えなさそう。

 元々、ハルピュイアはディーラを一方的に敵視している。本能の部分で馬が合わない種族なのは俺も知っているから、この時から良い予感はしていなかった。

「我ら有翼人種こそがディヴメア神に選ばれた種であることを、クソお利口ちゃんは認めなかった! そんな良い子ぶった美風をまとうような態度が気に入らなくて、私達で奪ってやったのさ!」

 怒りか狂気か、感極まった様子でハルピュイアさんが暴露を始めたのである。あまり聞きたくても聞きたくなかった、ハァビーの過去を勝手にべらべらと。しかも、己の罪の告白付きで。

 不思議と、俺が怒りを感じるようなことはなかった。

 ただただ、あぁそうかと、そういうことがあったのかと納得した感じだ。

 体から不意に力が抜けるような気がした後、ハルピュイアが動くのがわかる。俺がリアクションするよりも早く、横を通り抜けて両腕の翼を広げる。

「しまった!」

「ビーアイナ テダーエックスヤ るの!?」

 うっかり敵を逃してしまったことをラフが責めてくるも、本当になぜなのか説明できない。

 なんとなく、ハァビーのことが少しでも知れて安心したのかもしれない。大事な片翼を失った、最も重要な理由がわかって。

 それでもボーッとしているわけにもいかず、ラフがエアールに変身して駆け出す。

「うぉっと! そんなとこ!?」

 とっさにラフのシャツを掴んで無理やり乗り込んだは良いが、まさか追いかけで溜池に飛び出すとは思わなかった。さらにほぼ垂直の岸壁を駆け抜けるなど、誰が予想しただろう。

 落ちたら死なないまでも怪我しそう!

「クソッ! しつこいぞ!」

 追いかけてくるラフに、ハルピュイアが悪態をついた。驚きを含んでる感じ、やはり向こうにもこの行動は予想外だったみたいだ。

「タビータタ ジィユダァエックスビィシーサ テセサメナ!」

「はぁ? え、こう?」

 棍の先、ハルピュイアを叩いた先っぽを舐めさせろなどという注文をラフから受けた。まさかここでハルピュイアをコピーしようっていうのか?

 良くわからないが、急ぎの様子だったので俺は先端をラフの顔の前に差し出す。

 それを舌でベロリと舐めると、続いて理語を唱え始める。

「ガアメ エルジー ビシーテ ジーアイワイ ダァジッピ ジーアイワイ エヌビィフ ジーエヌワイ メカダーエチ(我が目よ敵の心の臓を掴め)」

「グッ、あぁぁっー!」

 シェイプシフター語で言い終わると同時に、ハルピュイアさんに変化が訪れた。

 胸の体を縮めて苦しみだしたようだ。

 そうだった。ラフには変身能力だけでなく、この呪術魔法もあったんだ。

「呪術魔法!? 何をしたんだ!? 殺しちゃダメだぞ!」

 俺はラフの背中にみっともなくしがみつきながらも、できる限り不殺の心得だけは伝えておいた。こんな状況で甘ちゃんだと言われそうだが。

「この エヌャビーエッチマア!」

 やっぱり言われた。
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