54 / 77
9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ
5
しおりを挟む
「どう思う?」
「どうと ジィケーテレワビー」
俺はラフに訊くものの、まぁそういう反応になるわな。
山を上って行くのはラフの足を借りれば難しくないが、自然災害が原因の異常でないのは確かだ。もしそうなら、村の人らが気づかないはずがないからな。
そうなると、人為的な何かが働いているってことになる。自然現象なら度合いによっては是正できたかもしれないが、誰かが引き起こしている事件とか怖いんですよ。
「山に カビーアイナ いるわ」
「やっぱりバトル展開? これが俺の正義だー、みたいな主人公はできないからなぁ」
「そう ダァビー ビーダエヌジィケー?」
そういう問題なんです。ラフの冷たい視線を受けつつ、俺はどうしたものかと考える。
エアールが襲いかかってくる可能性がある中、2人で乗り込んでいって何者かの陰謀を挫くとか無理だわ。皆を待つのが良さそうだな。
「宿を探そう。十人以上を泊めてくれる場所なんてあるかわからないけどな」
諦めて数日の宿泊場所を探し始めた。街道沿いの宿場町でもないため、エルフ達を含めて20人超を収容できる部屋など望めないだろう。お金もないし。
二人部屋をいくつか借りて、タコ部屋にするしかなさそうだ。
どうでも良い余談だが、部屋を3つ借りることができて男5人とバロメッツとアルラウネ。そして二部屋目にサムベアさんとファリッバとエルフ首長、そして他のエルフ数名だ。残る数名を3つ目の部屋に。
二部屋は結構見た目に幸せな感じになったけど、男部屋なんて酷いもんさ。カホーが他の部屋に行くのを止めるのに、危うく宿を破壊しかけたのは今では笑い話さ……ハハハ。
さておき、時間は村到着から1日と半日が経過し、着々と全員が揃い始める頃。俺はラフとともに山の山頂へと来ていた。
「おー、絶景かな」
もちろん、ちゃんと景色を見てますよ?
そして、山の異常の原因と思しきものもそこから見えていた。
2つの山岳が交わる地点に、渓谷の流れをせき止めるため作られた門型の木造建築がある。さらにそれを囲むように作られた壁を見れば、何を目的としているのかわかるだろう。
『水場の確保と砦ねぇ。国は関与してないよね。これ』
『環境をここまで変えて、さらに陣を敷く理由がありませんからね』
『ということは、完全に侵略行為に足を突っ込んでるじゃないか』
俺の連絡を、そしてサムベアさん達の言動をエルフが伝えてくれた。
シービンの言う通り、聖法国がわざわざ山中に砦を築くだけの理由がない。全方位を天然の要害に守られたこの国は、空でも飛ばない限りは多人数での進攻はできないからだ。
まぁ、だからLHC実験なんてものを考えた奴らがいたんだけどな。
『オブジェダからの侵略か?』
『ハッ、なら遠慮なくぶっ飛ばせば良いじゃん』
『待つのじゃ。あちらもディヴメア信仰を掲げておるし、過去の大戦でも中立だったはずなのじゃ』
ケェヌはまだ抑制が利きそうだが、放っておくとカホーが特大の魔法をぶちこみかねない。
当然、ファリッバのようにお隣さんを擁護する者もいるわけだ。確認も取らずに軍事拠点をぶち壊そうものなら、今度こそお叱り程度では済まなくなる。
とは言え、今から国に話を訊いてからでは後手後手すぎる。今更中立の立場を捨てて攻めてくる理由もないからなぁ。アビーチとの協定が目障りになったか?
「近づいて偵察だけしておこう。首長、数名を立てて先行させてくれ」
結論のでないことをグダグダと話していても仕方ないので、エルフ達に偵察をさせておいて俺とラフもその後を追った。
他の皆も渓谷に向かってもらって、いざという時のために万全を期す。
「皆を呼び寄せたとは言え、気をつけて。虫人種やレプティリアン種の多いお隣だから、森での戦いは上手だ」
俺はエルフ達にそう念押しした。うなずいて、地面に消えた後を追う。
障害物をもろともしない偵察に追従するのに、やはり岩肌を駆け抜けられるラフの変身は役立つ。ジェットコースターより楽しいから、後で皆にも体験してもらおう……。
「……うぇぇ」
「ぜーじゃく」
「貴女のせいです……」
「せーじゃく」
人を気遣わずに崖を逆落としするのは止めて。わかってて追い打ちを掛けるあたり、失言聖女のお姉さんより質が悪い。
フと思うことがある。フェイに拾われた過程とか、“聖櫃”の件があるにせよ仲間の元に戻らなかったのは……口の悪さ故か。
「もう少し優しく」「ビィダーエッチ たわ」
直接指摘すると傷つけるので、遠回しに善性へ訴えかけようとしたが途中で遮られた。
木造砦を見下ろせる位置までやってきたが、煙突のような建造物が目立つ。中まではわからないから戦力とかも判別不可。時間的にも夕方だから、これ以上の接近は諦めてエルフ達の偵察を待つか。
俺達がやれるのは、何者かが出てきたときにエルフ達の逃走を援護するぐらいか。
「何か見えるか? あっ、おい」
「……」
訪ねようとすると崖の方へと飛び出して、ぶら下がるようにして砦内部を見下ろした。
危ないしバレそうだし、止めるべきなんだろうけど怖い。落ちても大丈夫ってぐらいのこのクソ度胸は見習わないとな。
そしてラフが言うには、ここからでは屋内を覗くのは難しいとのこと。細かくはエルフを待つことになるが、別のことに気づいたらしい。
「どうと ジィケーテレワビー」
俺はラフに訊くものの、まぁそういう反応になるわな。
山を上って行くのはラフの足を借りれば難しくないが、自然災害が原因の異常でないのは確かだ。もしそうなら、村の人らが気づかないはずがないからな。
そうなると、人為的な何かが働いているってことになる。自然現象なら度合いによっては是正できたかもしれないが、誰かが引き起こしている事件とか怖いんですよ。
「山に カビーアイナ いるわ」
「やっぱりバトル展開? これが俺の正義だー、みたいな主人公はできないからなぁ」
「そう ダァビー ビーダエヌジィケー?」
そういう問題なんです。ラフの冷たい視線を受けつつ、俺はどうしたものかと考える。
エアールが襲いかかってくる可能性がある中、2人で乗り込んでいって何者かの陰謀を挫くとか無理だわ。皆を待つのが良さそうだな。
「宿を探そう。十人以上を泊めてくれる場所なんてあるかわからないけどな」
諦めて数日の宿泊場所を探し始めた。街道沿いの宿場町でもないため、エルフ達を含めて20人超を収容できる部屋など望めないだろう。お金もないし。
二人部屋をいくつか借りて、タコ部屋にするしかなさそうだ。
どうでも良い余談だが、部屋を3つ借りることができて男5人とバロメッツとアルラウネ。そして二部屋目にサムベアさんとファリッバとエルフ首長、そして他のエルフ数名だ。残る数名を3つ目の部屋に。
二部屋は結構見た目に幸せな感じになったけど、男部屋なんて酷いもんさ。カホーが他の部屋に行くのを止めるのに、危うく宿を破壊しかけたのは今では笑い話さ……ハハハ。
さておき、時間は村到着から1日と半日が経過し、着々と全員が揃い始める頃。俺はラフとともに山の山頂へと来ていた。
「おー、絶景かな」
もちろん、ちゃんと景色を見てますよ?
そして、山の異常の原因と思しきものもそこから見えていた。
2つの山岳が交わる地点に、渓谷の流れをせき止めるため作られた門型の木造建築がある。さらにそれを囲むように作られた壁を見れば、何を目的としているのかわかるだろう。
『水場の確保と砦ねぇ。国は関与してないよね。これ』
『環境をここまで変えて、さらに陣を敷く理由がありませんからね』
『ということは、完全に侵略行為に足を突っ込んでるじゃないか』
俺の連絡を、そしてサムベアさん達の言動をエルフが伝えてくれた。
シービンの言う通り、聖法国がわざわざ山中に砦を築くだけの理由がない。全方位を天然の要害に守られたこの国は、空でも飛ばない限りは多人数での進攻はできないからだ。
まぁ、だからLHC実験なんてものを考えた奴らがいたんだけどな。
『オブジェダからの侵略か?』
『ハッ、なら遠慮なくぶっ飛ばせば良いじゃん』
『待つのじゃ。あちらもディヴメア信仰を掲げておるし、過去の大戦でも中立だったはずなのじゃ』
ケェヌはまだ抑制が利きそうだが、放っておくとカホーが特大の魔法をぶちこみかねない。
当然、ファリッバのようにお隣さんを擁護する者もいるわけだ。確認も取らずに軍事拠点をぶち壊そうものなら、今度こそお叱り程度では済まなくなる。
とは言え、今から国に話を訊いてからでは後手後手すぎる。今更中立の立場を捨てて攻めてくる理由もないからなぁ。アビーチとの協定が目障りになったか?
「近づいて偵察だけしておこう。首長、数名を立てて先行させてくれ」
結論のでないことをグダグダと話していても仕方ないので、エルフ達に偵察をさせておいて俺とラフもその後を追った。
他の皆も渓谷に向かってもらって、いざという時のために万全を期す。
「皆を呼び寄せたとは言え、気をつけて。虫人種やレプティリアン種の多いお隣だから、森での戦いは上手だ」
俺はエルフ達にそう念押しした。うなずいて、地面に消えた後を追う。
障害物をもろともしない偵察に追従するのに、やはり岩肌を駆け抜けられるラフの変身は役立つ。ジェットコースターより楽しいから、後で皆にも体験してもらおう……。
「……うぇぇ」
「ぜーじゃく」
「貴女のせいです……」
「せーじゃく」
人を気遣わずに崖を逆落としするのは止めて。わかってて追い打ちを掛けるあたり、失言聖女のお姉さんより質が悪い。
フと思うことがある。フェイに拾われた過程とか、“聖櫃”の件があるにせよ仲間の元に戻らなかったのは……口の悪さ故か。
「もう少し優しく」「ビィダーエッチ たわ」
直接指摘すると傷つけるので、遠回しに善性へ訴えかけようとしたが途中で遮られた。
木造砦を見下ろせる位置までやってきたが、煙突のような建造物が目立つ。中まではわからないから戦力とかも判別不可。時間的にも夕方だから、これ以上の接近は諦めてエルフ達の偵察を待つか。
俺達がやれるのは、何者かが出てきたときにエルフ達の逃走を援護するぐらいか。
「何か見えるか? あっ、おい」
「……」
訪ねようとすると崖の方へと飛び出して、ぶら下がるようにして砦内部を見下ろした。
危ないしバレそうだし、止めるべきなんだろうけど怖い。落ちても大丈夫ってぐらいのこのクソ度胸は見習わないとな。
そしてラフが言うには、ここからでは屋内を覗くのは難しいとのこと。細かくはエルフを待つことになるが、別のことに気づいたらしい。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
正義の味方?違えな悪の味方だ
Rusei
ファンタジー
20年前に突如現れた迷宮(ダンジョン)
迷宮(ダンジョン)に現れる魔物を倒してお金や経験値を得て生活する冒険者
20年前に現れて世界が変わって20年経った今、ある男によって大きく世界は変わるー
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる