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9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ
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「あーあーあーッ! 首長さん!」
慌てて、拒否する前に静止した。
せっかく頼って来てくれたのに追い返すのは気が引けるし、見捨てたのでは目覚めが悪い。
「えーと、状況だけでも調べて、国に書簡を出すとかぐらいできるからさ?」
何もできないよりも、少しでも手を差し伸べたいと。
エルフ首長は何も言わず、ただ微笑みを浮かべて他所エルフを立ち上がらせた。
さてさて、調査などと言ったが何の目処も立ってないんだよなぁ。調査範囲だってどこからどこまでかもわかってないのに、1人で行ったところで何日かかることやら。
などと考えていると、サムベアさんが俺の肩を抱いてくる。
「どーせお人好し先行で答えただけなんでしょう?」
「サムベアさん……。えぇ、まぁ……」
見透かされてました。
そこでサムベアさんから提案された意外な作戦とは!?
「こうなったら、人海戦術しかないだろ?」
「作戦とも言えない手じゃないですか」
「悪かったねッ。ま、でも、今は拙速を重んじるってところでしょうが」
「ハハハッ、そうですね」
俺が言い出したのだから、案を出してくれるだけでもありがたいのだ。それに、今の俺では多少の人力で身を護ることができないとわかっていた。
ここでまたサムベアさんと別れて行動して、棒術の訓練を受けられないのは困るわけで。
「客人を休ませてあげてくれ。ハァビー、家に戻ったら地図を頼む」
「わかりました」
俺は指示を出していく。生徒達にも説明して、手を貸して貰う必要があった。
まぁ、それ自体は断るほど彼らも非情ではない。
問題はもっと戦略的な部分、地図で北西の山脈までどれぐらいかかるかだとか、どこをキャンプ地とするとかだ。
すみません。他にも問題はあります……。
「えー、満場一致……バロメッツやアルラウネの賛成も得られた。ハァビーとフェイ、連絡担当のエルフを残して、他面々で北西山脈の調査をすることが決定したわけだが」
そう、俺が宣言した通り3名を残していくことになった。フェイは国からの沙汰が決まっていないため、勝手に出歩かせるわけにはいかないからである。ハァビーは畑の統括や、いざという時の防波堤。
さて、お気づきの通り、非戦闘員も非戦闘員なバロメッツやアルラウネが残留組に入っていない。この旅に同行したいと訴えたのだ。
またしても家に取り残されて留守番ともなれば怒って当然だろう。当然、山のふもとにある村にとどまることだけは何とか約束させたが。
「可能な限り調査時間を短縮するために、次のような班分けを行いました」
ハァビーが地図と用紙を広げてプレゼンを開始した。
他所エルフさんからの情報を元に、可能な限り地脈の異常が発生している地点も絞っていた。仕事早すぎぃ!
「まさか1時間もかからずに……。頭が下がるねぇ」
「留守番なので、これぐらいはできないと申し訳が立ちませんので」
俺が感心して言うと、ハァビーはちょっと頑張ってみましたとドヤ顔しちゃった。可愛いので許す。
「それで、まず俺とラフが先行して現地の調査か。移動時間4日を1日にできるのは助かるもんな」
長距離走で言えば、ケェヌの俊足よりも、シジットの怪力運送よりも役に立つ。俺の胃が死ぬけど。
あ、ハァビーさん、静かに胃腸用の薬草を用意するの止めて……。
次に早いグループはというとシジット組である。
「僕がシービンとサムベア先生を運搬車で運べば良いのか」
「車輪を補強した方が良さそうですね。サムベア先生、手伝ってください」
「はいよッ」
3人は2日分の旅程を見越して準備を開始した。
さてさて、後に残るはケェヌとカホー、ファリッバ。どうしてもケェヌが2人を抱えて走るという都合上、どんなに俊足を誇ろうとケェヌに分がない。それでもシジット組に遅れること半日程度なのだから恐ろしい。
そしてそして、その差を埋めるために考えられたのが、調査する地点を山頂、中腹、ふもとの3ヶ所にする作戦だ。
俺とラフでは戦力的な問題があるかも知れない。不安な点はそれだけか?
「いざと言うとき、俺じゃラフを守りきれないかも……」
「エルフさん達との連携を密に、カバーするしかありません。しかし、エアールは山頂から遠ざかっているので、そっちに限っては大丈夫でしょう」
「逃がすだけなら何とかできるさ。助かったよ」
「あ、はいッ」
ハァビーも僅かな綻びには気づいているらしい。とは言え、向こうで何が起こっているのか、全てを想定できるだけの材料がないのも確かだ。そんな中で最善を尽くしたハァビーを褒めこそすれ責めるわけがない。
それに、調査ぐらいならラフでどうにもできないことが起きるとは思えない。ついつい口から出た杞憂というやつだ。
さて、俺もこれ以上は迂闊なことも言えないので準備に取り掛かる。が、聡いハァビーのことである。直ぐに俺のミスに気づく。
「ダイナ、さん? 何か間違えていませんか?」
「さーて! 準備、準備!」
「あくまで全員の生存率を考慮した分別なんですからねッ?」
ハァビーから逃げるようにして家を飛び出した。
慌てて、拒否する前に静止した。
せっかく頼って来てくれたのに追い返すのは気が引けるし、見捨てたのでは目覚めが悪い。
「えーと、状況だけでも調べて、国に書簡を出すとかぐらいできるからさ?」
何もできないよりも、少しでも手を差し伸べたいと。
エルフ首長は何も言わず、ただ微笑みを浮かべて他所エルフを立ち上がらせた。
さてさて、調査などと言ったが何の目処も立ってないんだよなぁ。調査範囲だってどこからどこまでかもわかってないのに、1人で行ったところで何日かかることやら。
などと考えていると、サムベアさんが俺の肩を抱いてくる。
「どーせお人好し先行で答えただけなんでしょう?」
「サムベアさん……。えぇ、まぁ……」
見透かされてました。
そこでサムベアさんから提案された意外な作戦とは!?
「こうなったら、人海戦術しかないだろ?」
「作戦とも言えない手じゃないですか」
「悪かったねッ。ま、でも、今は拙速を重んじるってところでしょうが」
「ハハハッ、そうですね」
俺が言い出したのだから、案を出してくれるだけでもありがたいのだ。それに、今の俺では多少の人力で身を護ることができないとわかっていた。
ここでまたサムベアさんと別れて行動して、棒術の訓練を受けられないのは困るわけで。
「客人を休ませてあげてくれ。ハァビー、家に戻ったら地図を頼む」
「わかりました」
俺は指示を出していく。生徒達にも説明して、手を貸して貰う必要があった。
まぁ、それ自体は断るほど彼らも非情ではない。
問題はもっと戦略的な部分、地図で北西の山脈までどれぐらいかかるかだとか、どこをキャンプ地とするとかだ。
すみません。他にも問題はあります……。
「えー、満場一致……バロメッツやアルラウネの賛成も得られた。ハァビーとフェイ、連絡担当のエルフを残して、他面々で北西山脈の調査をすることが決定したわけだが」
そう、俺が宣言した通り3名を残していくことになった。フェイは国からの沙汰が決まっていないため、勝手に出歩かせるわけにはいかないからである。ハァビーは畑の統括や、いざという時の防波堤。
さて、お気づきの通り、非戦闘員も非戦闘員なバロメッツやアルラウネが残留組に入っていない。この旅に同行したいと訴えたのだ。
またしても家に取り残されて留守番ともなれば怒って当然だろう。当然、山のふもとにある村にとどまることだけは何とか約束させたが。
「可能な限り調査時間を短縮するために、次のような班分けを行いました」
ハァビーが地図と用紙を広げてプレゼンを開始した。
他所エルフさんからの情報を元に、可能な限り地脈の異常が発生している地点も絞っていた。仕事早すぎぃ!
「まさか1時間もかからずに……。頭が下がるねぇ」
「留守番なので、これぐらいはできないと申し訳が立ちませんので」
俺が感心して言うと、ハァビーはちょっと頑張ってみましたとドヤ顔しちゃった。可愛いので許す。
「それで、まず俺とラフが先行して現地の調査か。移動時間4日を1日にできるのは助かるもんな」
長距離走で言えば、ケェヌの俊足よりも、シジットの怪力運送よりも役に立つ。俺の胃が死ぬけど。
あ、ハァビーさん、静かに胃腸用の薬草を用意するの止めて……。
次に早いグループはというとシジット組である。
「僕がシービンとサムベア先生を運搬車で運べば良いのか」
「車輪を補強した方が良さそうですね。サムベア先生、手伝ってください」
「はいよッ」
3人は2日分の旅程を見越して準備を開始した。
さてさて、後に残るはケェヌとカホー、ファリッバ。どうしてもケェヌが2人を抱えて走るという都合上、どんなに俊足を誇ろうとケェヌに分がない。それでもシジット組に遅れること半日程度なのだから恐ろしい。
そしてそして、その差を埋めるために考えられたのが、調査する地点を山頂、中腹、ふもとの3ヶ所にする作戦だ。
俺とラフでは戦力的な問題があるかも知れない。不安な点はそれだけか?
「いざと言うとき、俺じゃラフを守りきれないかも……」
「エルフさん達との連携を密に、カバーするしかありません。しかし、エアールは山頂から遠ざかっているので、そっちに限っては大丈夫でしょう」
「逃がすだけなら何とかできるさ。助かったよ」
「あ、はいッ」
ハァビーも僅かな綻びには気づいているらしい。とは言え、向こうで何が起こっているのか、全てを想定できるだけの材料がないのも確かだ。そんな中で最善を尽くしたハァビーを褒めこそすれ責めるわけがない。
それに、調査ぐらいならラフでどうにもできないことが起きるとは思えない。ついつい口から出た杞憂というやつだ。
さて、俺もこれ以上は迂闊なことも言えないので準備に取り掛かる。が、聡いハァビーのことである。直ぐに俺のミスに気づく。
「ダイナ、さん? 何か間違えていませんか?」
「さーて! 準備、準備!」
「あくまで全員の生存率を考慮した分別なんですからねッ?」
ハァビーから逃げるようにして家を飛び出した。
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