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9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ
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「シジット、聞いてくださいな」
「……」
「もし私に何かあれば、次に守らなければならないのは“聖櫃”を背負ったラフですのよ。いえ、そもそも、妹にこそ騎士を就けなければなりませんわ」
「……」
正論を言われてグウノネも出ないシジット。
今はフェイが聖女であると周囲に信じられているからこそ、シジットは彼女の騎士をしていられるのだ。
「例え偽りとは言え、何者かに“聖櫃”を破壊されるということがあってはなりませんのよ。多少劣るにせよ私と似通った程度の聖法魔法を使える妹を失うわけにもいきませんわ」
「フェイと同程度っていうのは初耳だが? さておき、俺にラフを譲るっていうのは……保険かぁ~」
フェイの説明を聞いて、俺は答えと一緒にため息が出た。フェイに続いてラフが視線を逸らせたので確信する。
俺ならラフを命がけで守るという確証があって、ならばシジットが間に合うまでの予備役として使っても良いでしょうと言っているわけ。
えぇ、えぇ、自分の買ったものを大事にするタイプですよ!
「こぉの悪女どもめ……。はぁ~……シジットは、それで良いのか?」
呆れながらも訊ねた。
「それがフェイの望みなら、僕は構わないよ」
シジットが答え、聞くやいなやフェイは跪き腕を横に伸ばした。ディヴメア神様へのお祈りの際、「我が腕を止まり木としてください」と表現する所作らしい。
次にシジットが伸ばされた細腕に面して跪いて、その手の甲に口づけした。
「懐かしいね」
「懐かしいですわね」
騎士と聖女が微笑みあった。
まんまと利用される形になったが、文句を言うのも野暮に思えた。フェイとシジットが2人の世界に浸っている間、俺達は手持ち無沙汰だった。
そこへ、ハウスツリーの外に居たファリッバがスーッと糸で下りてきて、窓を叩いた。
「申し訳ないのじゃ。ダイナ殿」
「大丈夫だ。今終わったところだから」
重要な話は片付いた。困り顔のファリッバを見るに、ハウスツリーを覆い尽くしている青鋼蚕のことでは無いだろう。
「客人なのじゃ。エルフのようじゃが、族長殿とは別のようでの」
「別グループの?」
「この辺りのエルフは学園の畑か学生のはずよ? 北は開発が進んでいるから、残る三方のどれかってことね」
話を聞いていたサムベアさんも参加して、分布状況を説明してくれた。
「うむ。今の所、族長殿に出てもらって通訳を頼んでおるのじゃが、西から“荒野の賢者”ダイナ殿の噂を聞きつけてやってきたらしいのぅ」
ホウレンソウありがとう。
しかし、なんでそんなところまで俺の異名が轟いてるんだ? 国の西端ってシビービ山脈とエフピダカ山脈があって、その向こうにオブジェダ国だっけ?
あ、小難しいことは覚えなくて良いよ。
俺は疑問に思いながらも外で待つエルフ達のところへ向かう。たどり着くと、他所のエルフと思しき子が膝をついて首長達に囲まれているのが見える。
「警備ご苦労様。それで、どういう話?」
労い、エルフ達の警備が上手く動いていることに関心した。この間も、学園に近づいただけでケェヌが飛び出してきたアレだ。
「ふむふむ。あ、流石に西の端っこまでは届いてないのね」
エフル首長が、いつものように絵を描いて説明してくれた。読み取るに、最初は首長のグループに助けを求めてやってきたらしく、首都から少し離れた位置で地脈ネットワークに引っかかったみたい。エアールを退治した件のことね。
で、他所エルフさんが言うには、その山地の地脈がおかしくなったから脱出してきたということらしい。
「エルフが逃げ出してくるぐらい山が変わったら、それこそもっと騒ぎにならないか?」
もともと平地だった学園地上が野菜畑になるのと違うのだ。俺が疑問に思うのも当然。
「思っていたんですが、エアエムダアールはなぜ首都の方に居たのでしょう?」
ハァビーがここで問題を重ねてきた。
エルフが逃げ出してくる山と、エアールが逃げ出してくる山……その心は?
「何らかの理由で環境が壊されているのは確かだな」
「山の伐採などに合わせてエアエムダアールが減少したから、地脈を整えられずに更にエルフの居場所を奪う形になったか」
あれやこれやと考えている間に、サムベアさんが的確な意見を口にした。
「なるほど」
「それは、結構な事件なのではないでしょうか? けれど……」
「あぁ、山1つ分ともなると俺達の出番じゃないし、何よりも時間がなぁ」
希少種であるエルフを守ること自体は国の方針ではあるが、俺達が任されているのは希少生産種の保護・飼育だ。そのため、この1件に関わる義務はない。
さらに先の首都行きで時間を使っている分、学園の畑を優先したいとも思っている。
それを知っていて、今の会話を聞いていたエルフ首長がここで動いた。他所エルフに対して向き直った時点で、俺は何をするのかを察する。
「……」
「もし私に何かあれば、次に守らなければならないのは“聖櫃”を背負ったラフですのよ。いえ、そもそも、妹にこそ騎士を就けなければなりませんわ」
「……」
正論を言われてグウノネも出ないシジット。
今はフェイが聖女であると周囲に信じられているからこそ、シジットは彼女の騎士をしていられるのだ。
「例え偽りとは言え、何者かに“聖櫃”を破壊されるということがあってはなりませんのよ。多少劣るにせよ私と似通った程度の聖法魔法を使える妹を失うわけにもいきませんわ」
「フェイと同程度っていうのは初耳だが? さておき、俺にラフを譲るっていうのは……保険かぁ~」
フェイの説明を聞いて、俺は答えと一緒にため息が出た。フェイに続いてラフが視線を逸らせたので確信する。
俺ならラフを命がけで守るという確証があって、ならばシジットが間に合うまでの予備役として使っても良いでしょうと言っているわけ。
えぇ、えぇ、自分の買ったものを大事にするタイプですよ!
「こぉの悪女どもめ……。はぁ~……シジットは、それで良いのか?」
呆れながらも訊ねた。
「それがフェイの望みなら、僕は構わないよ」
シジットが答え、聞くやいなやフェイは跪き腕を横に伸ばした。ディヴメア神様へのお祈りの際、「我が腕を止まり木としてください」と表現する所作らしい。
次にシジットが伸ばされた細腕に面して跪いて、その手の甲に口づけした。
「懐かしいね」
「懐かしいですわね」
騎士と聖女が微笑みあった。
まんまと利用される形になったが、文句を言うのも野暮に思えた。フェイとシジットが2人の世界に浸っている間、俺達は手持ち無沙汰だった。
そこへ、ハウスツリーの外に居たファリッバがスーッと糸で下りてきて、窓を叩いた。
「申し訳ないのじゃ。ダイナ殿」
「大丈夫だ。今終わったところだから」
重要な話は片付いた。困り顔のファリッバを見るに、ハウスツリーを覆い尽くしている青鋼蚕のことでは無いだろう。
「客人なのじゃ。エルフのようじゃが、族長殿とは別のようでの」
「別グループの?」
「この辺りのエルフは学園の畑か学生のはずよ? 北は開発が進んでいるから、残る三方のどれかってことね」
話を聞いていたサムベアさんも参加して、分布状況を説明してくれた。
「うむ。今の所、族長殿に出てもらって通訳を頼んでおるのじゃが、西から“荒野の賢者”ダイナ殿の噂を聞きつけてやってきたらしいのぅ」
ホウレンソウありがとう。
しかし、なんでそんなところまで俺の異名が轟いてるんだ? 国の西端ってシビービ山脈とエフピダカ山脈があって、その向こうにオブジェダ国だっけ?
あ、小難しいことは覚えなくて良いよ。
俺は疑問に思いながらも外で待つエルフ達のところへ向かう。たどり着くと、他所のエルフと思しき子が膝をついて首長達に囲まれているのが見える。
「警備ご苦労様。それで、どういう話?」
労い、エルフ達の警備が上手く動いていることに関心した。この間も、学園に近づいただけでケェヌが飛び出してきたアレだ。
「ふむふむ。あ、流石に西の端っこまでは届いてないのね」
エフル首長が、いつものように絵を描いて説明してくれた。読み取るに、最初は首長のグループに助けを求めてやってきたらしく、首都から少し離れた位置で地脈ネットワークに引っかかったみたい。エアールを退治した件のことね。
で、他所エルフさんが言うには、その山地の地脈がおかしくなったから脱出してきたということらしい。
「エルフが逃げ出してくるぐらい山が変わったら、それこそもっと騒ぎにならないか?」
もともと平地だった学園地上が野菜畑になるのと違うのだ。俺が疑問に思うのも当然。
「思っていたんですが、エアエムダアールはなぜ首都の方に居たのでしょう?」
ハァビーがここで問題を重ねてきた。
エルフが逃げ出してくる山と、エアールが逃げ出してくる山……その心は?
「何らかの理由で環境が壊されているのは確かだな」
「山の伐採などに合わせてエアエムダアールが減少したから、地脈を整えられずに更にエルフの居場所を奪う形になったか」
あれやこれやと考えている間に、サムベアさんが的確な意見を口にした。
「なるほど」
「それは、結構な事件なのではないでしょうか? けれど……」
「あぁ、山1つ分ともなると俺達の出番じゃないし、何よりも時間がなぁ」
希少種であるエルフを守ること自体は国の方針ではあるが、俺達が任されているのは希少生産種の保護・飼育だ。そのため、この1件に関わる義務はない。
さらに先の首都行きで時間を使っている分、学園の畑を優先したいとも思っている。
それを知っていて、今の会話を聞いていたエルフ首長がここで動いた。他所エルフに対して向き直った時点で、俺は何をするのかを察する。
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