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8睡目・God knows・・・?

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『安心して。今は何もしないわ。逃げられても困るもの』

 シェイプシフターの言葉を、フェイはスムーズに翻訳してくれた。

 もしかしてというほどでもないが、彼女はシェイプシフターとしばしの交流があったらしい。まぁ、聖女の選定の儀式に替え玉として出てもらう程度の仲なのは確かだ。

「……ビーエムタゲビーアイ ナエヌ ワイテ」

 この十年近く、フェイは自らの過ちに苛まれてきたことだろう。だから、もう目を背けないと固く誓っているように見えた。

『それは良かった。なら、もう休みなさい』「わかりましたわ。その……ラフ」

 シェイプシフターのそれは少し冷たい感じの言い方になっているが、口元の僅かな動きが俺には見えた。笑った? 今の名前か?

 フェイには伝わらなさいから不安げになっているものの、彼女は誰かの名前を呼んだ。

 シェイプシフターはそれに反応を示さず、側にあった樹木の下に座り込む。争うつもりがないことだけわかったので、俺は一旦は安堵してフェイに話しかける。

「2人の関係はわからんけど、とりあえず復讐って様子はないんだし……休め。今夜は、俺も見張っとくから」

「はい」

 迂闊に安心安全などとは言えないから、シェイプシフターも休ませる目的で見張りを変わった。

 フェイもそれで少しは気が休まったのか、それとも最初からシェイプシフターを信じていたのか、数十分もすれば眠りに着いてしまった。

 俺が見張る中、シェイプシフターも目を閉じるが完全に寝ている感じはみられない。俺はどうせ、空腹がかなり限界で寝られないまま朝を迎えるのだった。

 首都までの道のりはここ数日と同じなので、到着した頃には某メロスさんよろしく疲労を背負って防壁を潜る。既に日の暮れた時間で、朝昼よりも兵士の人数が増えている。

「えっと、大丈夫ですか?」

 何日か前、検問をしていた男の兵士が訊いてきた。俺はせめて水だけでもと息絶え絶えに要求する。

「み、みず……」

「は、はいッ」

 俺は兵士が渡してくれた水差しを受け取り、フェイの手続きが終わるまで待つことにする。

「えぇッ、まさか、こちらの方は聖女様!?」

「大きな声で言わないでくださいませ」

 どうやら、この若い男性兵士は始めて出会う聖女に舞い上がってしまった様子。

「失礼しました! 何年か前ですが、選定の儀を」「こちらで大丈夫ですわね?」

 あまり思い出して欲しくない思い出を遮って、フェイは書類を提出して踵を返した。

「少し急いで下りまして、人と待ち合わせをしておりますのよ」

「あ、これは、お時間を取らせてしまって申し訳ありません」

 最後に、ちゃんと簡素な反応に対するフォローを入れておくあたりは、一部の才能を除いて世渡りはできるんだよなぁ。

 立ち上がって、ハァビーの待つ裏通りの店へ向かうことにする。が、男の兵士が書類を確認する声が聞こえてくる。

「ラフ? 妹、さん?」

「ッ! さぁ、行こうか。フェイ、ラフ! 何年ぶりかの再会だからな!」

「あぁぁぁッ! そうですわねぇ!」

 やっぱり今日も地雷を踏んでたよ! ちくしょー!

 何とか誤魔化しつつ、俺達は大慌てて検問を通り抜けて行った。

「……」

「ナ、ナエヌダーエフ メ デワイ ビーナビィケー デワイ ビーサダダァシー ビーエフマ……」

 シェイプシフターの三白眼が、「まだその地雷を踏む才能を直してなかったのか」と言っているのがわかった。フェイも責められているのを理解しながらも、仕方ないだろうと返した。

「はぁ~、全く。しかし、嫌な性質まで移らなくてよかったな」

『本当だわ』「先生! ラフまで!」

 フェイの抗議の声は無視された。

 そうこうして俺達は件の店まで赴き、何日かぶりにハァビーと再会することになる。入店と同時に、椅子から立ち上がった彼女が駆け寄ってくる。

「ダイナさん!」

「うぉッ! ハァビー、さん?」

 抱きつかんばかりの勢いなので、俺も少し戸惑ってしまった。

「よかった……無事で……」

 ハァビーはとても安堵している様子なので、なんとしたものかと悩んだ。悩んで数秒、俺は彼女の頭を撫でてやることにした。

 乗馬と呼べない移動をしている時はあまり気にならなかっただろうが……気にする余裕もなかったが、ここ数日は水浴びも出来てないから。抱きしめたところで、ロマンのかけらもない状態なんだよなぁ。

 皆さん、なんで残念そうに舌打ちしてらっしゃるんでしょうね?

「ハハハッ。嬢ちゃんはね、この2日ぐらい、ずっとあんたを心配しながらここに通ってたんだよ」

 サル顔のおばさんが教えてくれた。

 かなり心配させてしまったみたいだ。ぅぅ~ん、どうすれば良いやら。

「あー、うん。久しぶりにハァビーの作ったご飯が食べたいかな?」

「へ?」

「は」「ぁ~……」「ぁ~~」「クカカッ。」

 気の利いたセリフなど思いつかず、空腹がそんなくだらないセリフを言わせた。当然、ハァビーは間の抜けた返事しか返せず、他の皆はため息をついていた。

 フェイとラフなんて息の合い具合抜群じゃん。ため息なだけに。

 犬耳のおじさんはただの出歯亀じゃん。おばさんは水タバコ混ぜないで。

「フフッ。わかりました。すみませんが、ちょっとお台所を借りて大丈夫ですか?」

「構わないよ。もう店じまいだからね」

 それでもハァビーだ。サルのおばさんに断って、調理場へと入っていった。

 その間にも客足は去っていき、ぼんやりと光るランプだけが俺達の周りに浮かんでいた。犬耳おじさんもサルおばさんも、俺達を残して別の部屋でお酒をあおりに行っている。これで秘密の話をしても大丈夫と。

「もぎゅ、もぎゅ、ごっくん」

「ばりっ、ばりっ、ごくりん」

 焼いて簡単に調味料をふりかけただけのエアール肉を俺が、その隣で生の骨を食べ終わったのがラフだ。更に隣に座っているのがフェイ。

 お腹が満たされたところで、漸く話を始めることができる。

「ごちそうさま」

「どういたしまして」

「……」

 俺の糧への感謝や手を合わせる仕草に、ラフは首を傾げている。ハァビーはカウンターの向こうで微笑んだ。
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