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8睡目・God knows・・・?
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俺とハァビーなんかは、エアールを刺激しないようにお互い同士で手で口を塞ぎ合っている。シェイプシフターにとっては、この程度のことなんでもない生活だったんだろうな。
「むぐ」
「む、ぐぐっ」
「おっと、ごめん」
「いえ、こちらこそ忘れていました」
「よし、作戦通りに行くぞ。あまり目立たないようにな」
「はい……気をつけて」
何とか落ち着いた俺は、巨大牛……シカっぽい牛の前を横切るように彼女らから離れた。
ハァビーはシェイプシフターを連れて、雄牛から離れるように移動する。
「ハハッ……こりゃヤベェ」
毛皮に隠れていてもわかる筋肉の形に、俺は一種の劣等感さえ覚えた。
獣臭さって奴を通り越して、野生の匂いがグッと周囲を満たす。オーラって代物が見えるとしたら、きっとエアールから立ち上る白い何かなんだろう。
ヤバい。
「落ち着け。作戦は簡単」
語彙力皆無の嫌な感想しか出てこないものの、やることは覚えている。
ここへ来るまでに決めた作戦で、俺が動きを止めたところでハァビーが風の刃で首をバッサリだ。その動きを止めるって作業ができるか怪しいけどな。後、可能な限り1発で当ててくれることをLet's pray!
とりあえず、エアールが俺に向かってくるようにしないと。
棍を構えると同時にエアールも動き出す。
「きたッ!」
弓なりになった角をこちらに向けて、首から尻尾までを水平に構えた突進だ。加速する距離はないというのに、それは俺を軽々とブッ飛ばすぐらいの威力に思えた。
小型の装甲車が木々を押し倒して進んでくるようなもの。しかし、俺は棍でそれを受け止める。
「グッ、あぁぁぁぁぁッ!」
当然、踏ん張りきれずに突き飛ばされた。
バロメッツマントがなければ正直、樹木に背中をぶつけた瞬間に身動きが取れなくなっていただろうな……。
横薙ぎの角をギリギリで回避。俺の胴体ぐらいの樹を半分ぐらいまで抉った。ひぇぇぇ~ッ!
「……!」
ハァビーが息を飲む様子がわかるほどだ。
手を出したいだろうが、ここでエアールの意識が彼女に向かってはいけない。だから彼女は、グッと自らの手を抑え込む。
「こっちだ!」
体勢を整えてはいないものの、鹿牛を彼女らの方に行かせないよう棍を振りながら距離をとった。
正面からぶつかって駄目なら、勢いが落ちるまで走ってもらおうじゃないか。
俺は、再び突進の体勢になったエアールから、木々をぬって逃げる。逃げるッ。逃げる!
「うぉぉぉぉぉッ! こえぇッ!」
足元の悪い道を、装甲車に追われる気持ちなんて誰にもわかるまい。
それでも、少しずつ距離が開いてきているから樹に突撃させるのは正解だな。後は、太い目の幹に突き刺さるよう調整する!
エアールはドンッとめり込み、俺はギリギリのところで前に転がってひかれるを回避した。
「ふ、ふひぃ! ハァビー、急いでくれ!」
少しみっともないが、それでも動きを止めたんだから立派な働きだ。ハァビーが追いついてくるのを待つ間、引っこ抜かれないようにしたいが……近づくのも怖いんです。はい。
走り出されても止められるよう、棍を縦に構えて踏ん張る準備をしておく。
「今いきまダイナさん!? 離れてください!」
「え?」
近づいてきたハァビーの言葉で、俺はエアールをじっと見た。
角を引っこ抜こうともがいているように見えるが、足の踏み込み方に何か規則があるのがわかる。まるでお相撲さんが四股を踏むような荒々しさがある中に、タップダンスを奏でているようにも思えるリズム感。
立ち上るオーラの総量が変わったようにさえ感じたのは、気の所為じゃないはず。
「あっ……」「ブモォォォォォォォォォォォォッ!!!」
これが、話しに聞いていた5倍シジットだ。気づいたときには遅く、大地を割らんばかりの咆哮が拭き上げた。
俺が危険を理解して離れるよりも早く、ハァビーが先に動く。
「コグヒブラ ワイヘ フィリュダフォ キャペ エレジー!(こちらへ収束する風よ!)」
風を放つのではなく、彼女自身へと集める。しかし、5倍シジット並の馬力を持った怪物を止めるには至らなかった。
幹にヒビが入ったかと思った瞬間、巨体が俺の眼の前に迫った。それを受け止めてなお、折れることのない青鋼の棍を流石だと思った。
そのまま押し出されるようにして雑木林の外へ。一度、スピードが落ちたことで俺の体は草の海を転がっていく。何度も体を打ち付けたことで、意識が少し朦朧とし始める。
「ィナさん……!」
ハァビーの悲鳴が遠くに聞こえた。
いや、多分、エアールが再び足踏みを始めたから、その音でかき消されたんだ。さっきの勢いで、ひかれでもしたら、まず俺の体は無事じゃ済まない……。
「グッ! ハァビッ、その子……フェイに会わせ!」
せめてもの願いをハァビーに託した。流石に、今回はもう無理だわ。
諦めすぎて苦笑いさえ漏れるぐらいの勢いで、エアールは踏みつけを実行する。目を閉じるも、いつまで経っても痛みが襲ってこない。
「……?」
ソッと目を開けば、そこには前足を高々と上げてもがいている雄牛の姿があった。姿は凛々しいが顔には困惑が浮かんでいるように見えた。
「むぐ」
「む、ぐぐっ」
「おっと、ごめん」
「いえ、こちらこそ忘れていました」
「よし、作戦通りに行くぞ。あまり目立たないようにな」
「はい……気をつけて」
何とか落ち着いた俺は、巨大牛……シカっぽい牛の前を横切るように彼女らから離れた。
ハァビーはシェイプシフターを連れて、雄牛から離れるように移動する。
「ハハッ……こりゃヤベェ」
毛皮に隠れていてもわかる筋肉の形に、俺は一種の劣等感さえ覚えた。
獣臭さって奴を通り越して、野生の匂いがグッと周囲を満たす。オーラって代物が見えるとしたら、きっとエアールから立ち上る白い何かなんだろう。
ヤバい。
「落ち着け。作戦は簡単」
語彙力皆無の嫌な感想しか出てこないものの、やることは覚えている。
ここへ来るまでに決めた作戦で、俺が動きを止めたところでハァビーが風の刃で首をバッサリだ。その動きを止めるって作業ができるか怪しいけどな。後、可能な限り1発で当ててくれることをLet's pray!
とりあえず、エアールが俺に向かってくるようにしないと。
棍を構えると同時にエアールも動き出す。
「きたッ!」
弓なりになった角をこちらに向けて、首から尻尾までを水平に構えた突進だ。加速する距離はないというのに、それは俺を軽々とブッ飛ばすぐらいの威力に思えた。
小型の装甲車が木々を押し倒して進んでくるようなもの。しかし、俺は棍でそれを受け止める。
「グッ、あぁぁぁぁぁッ!」
当然、踏ん張りきれずに突き飛ばされた。
バロメッツマントがなければ正直、樹木に背中をぶつけた瞬間に身動きが取れなくなっていただろうな……。
横薙ぎの角をギリギリで回避。俺の胴体ぐらいの樹を半分ぐらいまで抉った。ひぇぇぇ~ッ!
「……!」
ハァビーが息を飲む様子がわかるほどだ。
手を出したいだろうが、ここでエアールの意識が彼女に向かってはいけない。だから彼女は、グッと自らの手を抑え込む。
「こっちだ!」
体勢を整えてはいないものの、鹿牛を彼女らの方に行かせないよう棍を振りながら距離をとった。
正面からぶつかって駄目なら、勢いが落ちるまで走ってもらおうじゃないか。
俺は、再び突進の体勢になったエアールから、木々をぬって逃げる。逃げるッ。逃げる!
「うぉぉぉぉぉッ! こえぇッ!」
足元の悪い道を、装甲車に追われる気持ちなんて誰にもわかるまい。
それでも、少しずつ距離が開いてきているから樹に突撃させるのは正解だな。後は、太い目の幹に突き刺さるよう調整する!
エアールはドンッとめり込み、俺はギリギリのところで前に転がってひかれるを回避した。
「ふ、ふひぃ! ハァビー、急いでくれ!」
少しみっともないが、それでも動きを止めたんだから立派な働きだ。ハァビーが追いついてくるのを待つ間、引っこ抜かれないようにしたいが……近づくのも怖いんです。はい。
走り出されても止められるよう、棍を縦に構えて踏ん張る準備をしておく。
「今いきまダイナさん!? 離れてください!」
「え?」
近づいてきたハァビーの言葉で、俺はエアールをじっと見た。
角を引っこ抜こうともがいているように見えるが、足の踏み込み方に何か規則があるのがわかる。まるでお相撲さんが四股を踏むような荒々しさがある中に、タップダンスを奏でているようにも思えるリズム感。
立ち上るオーラの総量が変わったようにさえ感じたのは、気の所為じゃないはず。
「あっ……」「ブモォォォォォォォォォォォォッ!!!」
これが、話しに聞いていた5倍シジットだ。気づいたときには遅く、大地を割らんばかりの咆哮が拭き上げた。
俺が危険を理解して離れるよりも早く、ハァビーが先に動く。
「コグヒブラ ワイヘ フィリュダフォ キャペ エレジー!(こちらへ収束する風よ!)」
風を放つのではなく、彼女自身へと集める。しかし、5倍シジット並の馬力を持った怪物を止めるには至らなかった。
幹にヒビが入ったかと思った瞬間、巨体が俺の眼の前に迫った。それを受け止めてなお、折れることのない青鋼の棍を流石だと思った。
そのまま押し出されるようにして雑木林の外へ。一度、スピードが落ちたことで俺の体は草の海を転がっていく。何度も体を打ち付けたことで、意識が少し朦朧とし始める。
「ィナさん……!」
ハァビーの悲鳴が遠くに聞こえた。
いや、多分、エアールが再び足踏みを始めたから、その音でかき消されたんだ。さっきの勢いで、ひかれでもしたら、まず俺の体は無事じゃ済まない……。
「グッ! ハァビッ、その子……フェイに会わせ!」
せめてもの願いをハァビーに託した。流石に、今回はもう無理だわ。
諦めすぎて苦笑いさえ漏れるぐらいの勢いで、エアールは踏みつけを実行する。目を閉じるも、いつまで経っても痛みが襲ってこない。
「……?」
ソッと目を開けば、そこには前足を高々と上げてもがいている雄牛の姿があった。姿は凛々しいが顔には困惑が浮かんでいるように見えた。
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