絶滅危惧種の子なら隣で寝てるけど? ~異世界で保護飼育は難しい~

AAKI

文字の大きさ
上 下
38 / 77
8睡目・God knows・・・?

3

しおりを挟む
「何か衣装のようなものは売っていませんか? 連れが敬虔な信者なんですが、なにぶん衣服には無頓着なもので」

「……そのようですね。少しお待ち下さい」

 修道女さんも、俺の言葉を聞いていろいろと察してくれたようだ。修道女さんはそそくさと教会の横手から屋内に消えて、数分後には同じ場所から出てくる。

 同時に礼拝堂の方からハァビーも姿を表して、俺の視線を追うようにして修道女さんが衣装を手渡してくれた。ハァビーの機嫌を察してか、修道女さんは聡明にも俺のフォローを入れてくれる。

「寄付の代わり程度のものですが、記念としてこちらをお持ちください。お連れの方からです」

「え? お祭か何かの衣装、ですね……?」

 修道女さんはハァビーの問いに頷くと、微笑みと会釈をして作業に戻っていった。

 少し戸惑った様子のハァビーだったが、直ぐに俺のところまで歩いてくる。うつむいてしまっているのは、照れた顔を見られるのが嫌なんだろうな。

「あ、あの……ありがとう、ございます」

「良いよ。ただ、もう少し警戒心を持ってくれないと、その……なんか悔しいからさ」

「ッ!」

 ハァビーのお礼に対する返答は、文字通り他の奴らに可愛い彼女を見せてやるのが悔しいって意味だ。うん、俺もすっごく照れくさいセリフだと思うんだ。

 ハァビーは手渡された衣装を、照れ隠しのために大慌てて身につける。それは少しだけ羽根の飾りこそ付いているものの、白や緑色で抑えているちょっと地味な感じのもの。法衣と呼べるかもしれない単衣で、背中に翼を素通しできるだけのスリットがついている。

 有翼人種の扮装に対して着付けるものなのだろう。

「さ、さぁ、行こうか!」

 俺も照れ隠しに声を絞り出すと、運搬車に乗り込んで町の通りを走り始めた。

 背中に向けられているであろう修道女さん達の、微笑ましいとばかりの視線がわかってしまう。

 急ぎその場を離れた俺達は、教会のある通りから東へ。さらに北東に巨大なピラミッド状の建物を眺められる、目抜き通りに立った市場で野菜を売って数万セブを稼いだ。

「サムベアさんが支払ってくれた給与2人分も合わせて……路銀を差し引き7万か」

「種子は4万ほどで足りますから大丈夫です。では、そのままそちらの道を抜けて右に」

 ハァビーの案内に従い、市場の道からは外れた北東の路地裏の道を進んだ。

「えーと、かなりのウッ……少しばかり不衛生な裏通りですけど?」

 鼻に刺さるドブ臭さに呻きながらも、俺は薄汚れた広い目の道についてハァビーに聞いた。

 スラムとかオットーなんて呼ばれそうなところで、建物の入り口くらい掃き掃除されているにしても薄汚れた感じや異臭が辛い。路上に座り込んでる露店の店員も身綺麗にしているけど、俺達を見る目は猜疑か卑猥に濁っている。ここに肌を晒したハァビーを連れてこなくて良かったと思う!

「ここは首都の闇市です」

「闇市……ブラックマーケットか。それって、ヤバいんじゃない?」

「下手なものを変えば捕まりますが、目的の種子などは国の許可証もありますから別に違法な取引ではありません」

「?」

 ハァビーの解説に小首を捻ってしまった。

 俺の知っているブラックマーケットと言うものは、戦後に一時期だけできた違法な品を売る場所だ。国が売買を定めている品を扱っているとか、後は悪い薬とかのはず。

「戦後の名残があるだけの、ちょっとした隠れた市場ってことか?」

「作られた経緯はその通りです。ただ、ダイナさんの知っている概念とは少し外れているのではないでしょうか」

「と申しますと?」

「表の市で売買すると確実に品薄になるような、稀少な物品も扱われています。紹介のあった特定の客にしか売りたくないなどもあります」

 確認し突き詰め、説明を聞いて漸く合点がいった。

「一見さんお断りとか、会員限定って話か」

 後は、深層ウェブが全部違法な物を扱ってるわけじゃなくて、ちゃんとダークウェブという底があるようなもの。

「一見さん? まぁ、会員限定というのが一番近いです」

「うん。それなら一日の長があるハァビーに任せるよ」

「任せてくださいッ。では、こちらです」

 答え合わせが終わって、俺はハァビーの後をついてバラック簡易造りの建物に挟まれた一本道を進んだ。その中の1つ、木戸を前に立ち止まると彼女は振り返った。

「言った通り、限定的なグループですので、皆さん見知らぬ人物を警戒されます」

「あぁ、そうだったな。えーと、ここで待ってた方が良い?」

「はい。申し訳ありませんが、私もあまり見られたいものではありませんので……」

「?」

 ハァビーの何やら含みのある言葉に、俺はいろいろと思考をめぐらした。交渉に関してのことのようだが?

 詳しく尋ねる前に、ハァビーは少し顔を赤くして「良いから待っていてください」と遮って扉を潜った。多分、彼女らしからぬ狡猾なネゴシエートを見られたくないのかもしれない。

 俺は言われた通り、外で待つことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

男娼館ハルピュイアの若き主人は、大陸最強の女魔道士

クナリ
ファンタジー
地球で高校生だった江藤瑠璃は、異世界であるベルリ大陸へ転移する。 その後の修業を経て大陸最強クラスの魔道士となった瑠璃は、ルリエル・エルトロンドと名乗り、すっかりベルリでの生活になじんでいた。 そんなルリエルが営んでいるのが、男娼館「ハルピュイア」である。 女性の地位がおしなべて低いベルリ大陸において、女性を癒し、励ますために作ったこの男娼館は、勤めている男子が六人と少ないものの、その良質なサービスで大人気となった。 ルリエルにはもう一つの顔があり、それは夜な夜な出没する近隣のならず者を魔法で排除する、治安安定化と個人的な趣味を兼ねた義賊のようなものだった。 特に、なにかしらの悩みを抱えていることが多いハルピュイアのお客の女性には、肩入れしてしまうのが常である。 ルリエルを信頼する六人の男子は、それを知った上で毎日の女性奉仕に精を出している。 元北国の騎士団長、キーランド。 元素手格闘(パンクラティオン)の王者だった、筋骨たくましいダンテ。 草花に詳しく、内気ながら人好きのするトリスタン。 美少女と見まがうばかりの金髪の美形、カルス、などなど。 彼らと共に目の前の女性たちのために尽くそうとするルリエルだったが、彼女の持つ力ゆえに、時には大陸の人類全体の敵である「六つの悪魔」を相手取ることもある。 大陸人類最強クラスの者に与えられる称号である「七つの封印」の一人であるルリエルは、今日も彼女なりに、精一杯生きている。

処理中です...