絶滅危惧種の子なら隣で寝てるけど? ~異世界で保護飼育は難しい~

AAKI

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8睡目・God knows・・・?

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「何か衣装のようなものは売っていませんか? 連れが敬虔な信者なんですが、なにぶん衣服には無頓着なもので」

「……そのようですね。少しお待ち下さい」

 修道女さんも、俺の言葉を聞いていろいろと察してくれたようだ。修道女さんはそそくさと教会の横手から屋内に消えて、数分後には同じ場所から出てくる。

 同時に礼拝堂の方からハァビーも姿を表して、俺の視線を追うようにして修道女さんが衣装を手渡してくれた。ハァビーの機嫌を察してか、修道女さんは聡明にも俺のフォローを入れてくれる。

「寄付の代わり程度のものですが、記念としてこちらをお持ちください。お連れの方からです」

「え? お祭か何かの衣装、ですね……?」

 修道女さんはハァビーの問いに頷くと、微笑みと会釈をして作業に戻っていった。

 少し戸惑った様子のハァビーだったが、直ぐに俺のところまで歩いてくる。うつむいてしまっているのは、照れた顔を見られるのが嫌なんだろうな。

「あ、あの……ありがとう、ございます」

「良いよ。ただ、もう少し警戒心を持ってくれないと、その……なんか悔しいからさ」

「ッ!」

 ハァビーのお礼に対する返答は、文字通り他の奴らに可愛い彼女を見せてやるのが悔しいって意味だ。うん、俺もすっごく照れくさいセリフだと思うんだ。

 ハァビーは手渡された衣装を、照れ隠しのために大慌てて身につける。それは少しだけ羽根の飾りこそ付いているものの、白や緑色で抑えているちょっと地味な感じのもの。法衣と呼べるかもしれない単衣で、背中に翼を素通しできるだけのスリットがついている。

 有翼人種の扮装に対して着付けるものなのだろう。

「さ、さぁ、行こうか!」

 俺も照れ隠しに声を絞り出すと、運搬車に乗り込んで町の通りを走り始めた。

 背中に向けられているであろう修道女さん達の、微笑ましいとばかりの視線がわかってしまう。

 急ぎその場を離れた俺達は、教会のある通りから東へ。さらに北東に巨大なピラミッド状の建物を眺められる、目抜き通りに立った市場で野菜を売って数万セブを稼いだ。

「サムベアさんが支払ってくれた給与2人分も合わせて……路銀を差し引き7万か」

「種子は4万ほどで足りますから大丈夫です。では、そのままそちらの道を抜けて右に」

 ハァビーの案内に従い、市場の道からは外れた北東の路地裏の道を進んだ。

「えーと、かなりのウッ……少しばかり不衛生な裏通りですけど?」

 鼻に刺さるドブ臭さに呻きながらも、俺は薄汚れた広い目の道についてハァビーに聞いた。

 スラムとかオットーなんて呼ばれそうなところで、建物の入り口くらい掃き掃除されているにしても薄汚れた感じや異臭が辛い。路上に座り込んでる露店の店員も身綺麗にしているけど、俺達を見る目は猜疑か卑猥に濁っている。ここに肌を晒したハァビーを連れてこなくて良かったと思う!

「ここは首都の闇市です」

「闇市……ブラックマーケットか。それって、ヤバいんじゃない?」

「下手なものを変えば捕まりますが、目的の種子などは国の許可証もありますから別に違法な取引ではありません」

「?」

 ハァビーの解説に小首を捻ってしまった。

 俺の知っているブラックマーケットと言うものは、戦後に一時期だけできた違法な品を売る場所だ。国が売買を定めている品を扱っているとか、後は悪い薬とかのはず。

「戦後の名残があるだけの、ちょっとした隠れた市場ってことか?」

「作られた経緯はその通りです。ただ、ダイナさんの知っている概念とは少し外れているのではないでしょうか」

「と申しますと?」

「表の市で売買すると確実に品薄になるような、稀少な物品も扱われています。紹介のあった特定の客にしか売りたくないなどもあります」

 確認し突き詰め、説明を聞いて漸く合点がいった。

「一見さんお断りとか、会員限定って話か」

 後は、深層ウェブが全部違法な物を扱ってるわけじゃなくて、ちゃんとダークウェブという底があるようなもの。

「一見さん? まぁ、会員限定というのが一番近いです」

「うん。それなら一日の長があるハァビーに任せるよ」

「任せてくださいッ。では、こちらです」

 答え合わせが終わって、俺はハァビーの後をついてバラック簡易造りの建物に挟まれた一本道を進んだ。その中の1つ、木戸を前に立ち止まると彼女は振り返った。

「言った通り、限定的なグループですので、皆さん見知らぬ人物を警戒されます」

「あぁ、そうだったな。えーと、ここで待ってた方が良い?」

「はい。申し訳ありませんが、私もあまり見られたいものではありませんので……」

「?」

 ハァビーの何やら含みのある言葉に、俺はいろいろと思考をめぐらした。交渉に関してのことのようだが?

 詳しく尋ねる前に、ハァビーは少し顔を赤くして「良いから待っていてください」と遮って扉を潜った。多分、彼女らしからぬ狡猾なネゴシエートを見られたくないのかもしれない。

 俺は言われた通り、外で待つことにした。
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